top of page
くりた内科・内視鏡クリニック

Information

お知らせ・院長ブログ

ピロリ菌は家族にうつる?感染経路と検査・除菌のタイミングを専門医が解説

1 日前
読了時間: 12分

健診の胃部エックス線や胃カメラで「ピロリ菌感染の疑いあり」と言われたとき、多くの方が最初に気にするのは、実は自分の胃の状態そのものではありません。「配偶者や子どもにうつしてしまったのではないか」「一緒に暮らしている家族にも検査を勧めるべきか」という点です。家族のことが心配になり、肝心の自分の検査や除菌治療を後回しにしてしまう。そういう方について、外来でご相談を受けることがあります。


結論から言うと、ピロリ菌の感染様式は、多くの方が想像している「風邪のように大人同士でうつる」ものとはかなり違います。この記事では、ピロリ菌がどのように感染するのか、大人になってから配偶者や周囲の人にうつす・うつされる心配はどの程度あるのか、そして指摘を受けた今、何から始めればよいのかを、実際の研究データをもとに整理します。



ピロリ菌とはどんな菌か

ピロリ菌(Helicobacter pylori)は、胃の粘膜にすみつく細菌です。胃の中は強い酸性環境のため、通常の細菌は生きられませんが、ピロリ菌はウレアーゼという酵素で周囲の尿素を分解してアンモニアを作り出し、自分の周りだけ酸を中和して生き延びます。感染が続くと胃の粘膜に慢性的な炎症(慢性胃炎)が起こり、これが長年続くことで胃潰瘍・十二指腸潰瘍、萎縮性胃炎、そして胃がんのリスクを高めることが分かっています。だからこそ「指摘されたら早めに調べて、必要なら除菌する」ことが勧められているわけですが、その前提として「そもそもどこから感染するのか」を正しく知っておくことが、不安を必要以上に大きくしないために役立ちます。



感染経路はどうなっている?主な感染時期は乳幼児期

現在の疫学研究で共通して示されているのは、ピロリ菌への感染の大部分が乳幼児期に成立しているという点です。ドイツで行われた出生コホート研究では、4歳時点の子どもの感染に関わる要因を多変量解析で調べたところ、母親・父親・きょうだいの感染はいずれも単独では子どもの感染と強く関連していましたが、母親の感染状況で調整すると、父親やきょうだいの影響は弱まり、母親の感染だけが独立した強い危険因子として残りました(オッズ比13.0、95%信頼区間3.0-55.2)[1]。


日本国内の調査でも、母親が抗体陽性だった子どもは陽性率45.0%(27/60)だったのに対し、母親が陰性だった子どもは10.0%(2/20)にとどまり、年長のきょうだいが陽性だった子どもでも55.0%(22/40)対23.5%(20/85)と同様の差が確認されています[2]。日本人の小児患者とその家族を対象に菌株を遺伝子タイピングで解析した研究チームは、母から子への感染が家族内感染の中心的なパターンであることを報告しています[3](このチームによる続報は、後述の配偶者間感染の項で触れます)。また、祖母と同居していた子どもで感染との関連が指摘された農村部の町の調査もあり、同居する年長世代の家族員も感染に関わっている可能性が報告されています[4]。


つまり、ピロリ菌は「大人になってから日常生活の中で新たにもらう」よりも、「乳幼児期に、家庭内の身近な大人(特に母親)から受け取る」ことで感染が成立するケースが中心だと考えられています。今40〜60代の方がピロリ菌陽性であるとすれば、その多くは今の生活習慣ではなく、数十年前の子ども時代の家庭環境に由来している可能性が高いということです。


これは、乳幼児が家族と非常に近い距離で過ごす場面が、ひと昔前の子育てには今より多くあったことに加え、衛生環境全般の改善が今ほど進んでいなかったことと関係していると考えられます。日本国内では、こうした衛生環境の改善にともなってピロリ菌の感染率そのものが世代を追って大きく下がってきたことも報告されています[5]。胃酸の分泌が未発達な乳幼児期は口に入った菌が定着しやすく、この時期の家庭内での近い接触が感染成立の主な窓口になっていたと理解されています。一方、免疫や胃酸の分泌がある程度整った大人の胃は菌が新たに定着しにくい環境になっていると考えられており、これが「大人になってからの新規感染は、子どもの頃の感染に比べて起こりにくい」と考えられている理由のひとつです。



「配偶者にうつしてしまうのでは」という不安をどう考えるか

とはいえ、「大人同士では絶対にうつらない」と言い切れるかというと、そこは正確ではありません。日本人のお子さん35例とその家族を対象に、菌株の遺伝子型を詳しく比較した研究では、お子さんの菌株と母親の菌株が一致した例が25例(60.0%)ともっとも多く見られました。一方、お子さんの菌株が父親・母親の双方と一致した例も9例(25.7%)あり、著者らはこれを配偶者間でも一定の感染が起こりうることを示す所見として、配偶者間感染も日本の家庭の4分の1程度で起こっていると報告しています[6]。この研究は、前の見出しで触れた家族内感染の研究チームによる続報にあたります。


一方で、日本国内の別の調査では、同居する夫婦間の血清陽性率に統計的に有意な関連は見られなかったとの報告もあります[2]。配偶者間感染がどの程度の頻度で起こるかは調査によって幅があり、「必ずうつる」でも「まったくうつらない」でもない、というのが現時点でのデータの実際のところです。


ここで大切なのは、この事実をどう受け止めるかです。配偶者間感染がまったくのゼロではないと分かったからといって、日常的なキスや食器の共有を極端に避けたり、家族との接触を制限したりする必要はありません。むしろ実務的な対応としては、「自分が陽性だと分かったら、同居する配偶者にも検査を勧める」ことのほうが理にかなっています。もし配偶者もすでに感染していれば、どちらか一方だけを治療しても再度感染源になり得るため、家族単位で状況を把握しておくことは、不安を減らすうえでも合理的な一歩です。



なぜ上の世代は感染率が高く、子どもの世代は低いのか

「自分が陽性なら、子どもにもうつしているのでは」という心配についても、世代ごとのデータが参考になります。日本人約17万人分のデータをもとにしたメタ解析による推定では、出生年ごとのピロリ菌感染率は、1960年生まれで49.1%(95%信頼区間49.0-49.2%)、1970年生まれで34.9%(95%信頼区間34.0-35.8%)、1980年生まれで24.6%(95%信頼区間23.5-25.8%)、1990年生まれで15.6%(95%信頼区間14.0-17.3%)、2000年生まれでは6.6%(95%信頼区間4.8-8.9%)と、世代を追うごとに低下しています[5]。これは、上下水道をはじめとする衛生環境が急速に改善したことで、乳幼児期に感染する機会そのものが世代を追うごとに大きく減っているためと考えられています。


つまり、1970年代より前に生まれた方の感染率が高いのは、今のご家庭の衛生状態が原因ではなく、生まれ育った時代の環境要因が大きいということです。同時に、1990年代以降に生まれた世代は感染率そのものが以前よりずっと低い環境で育っています。だからといって親から子への感染経路が完全にゼロになったわけではありませんが、「自分が保菌者だから子どもも必ず感染している」と決めつける必要はなく、心配であれば子どもの検査を検討すればよい、という程度に捉えるのが現実的です。



除菌したあと、また家族から「うつされる」心配はあるか

除菌治療を終えた後の再感染についても、世界規模のデータがあります。53,934人年分・132件の研究をまとめたメタ解析では、世界全体でのピロリ菌の年間再発率(再感染と再燃を合わせたもの)は4.3%(95%信頼区間4-5%)でした。この数値は国の衛生状態と強く関連しており、HDIが非常に高い国々では年間再発率3.1%(95%信頼区間2〜4%)と報告されています[7]。日本もHDIが非常に高い国に分類されることから、除菌成功後に短期間で再感染する方は多くないと考えられます(この論文は日本単独のデータを示したものではありません)。除菌後も、医師の判断による間隔で定期的な内視鏡フォローが勧められますが、これは再感染そのものよりも、感染していた期間に生じた萎縮性胃炎などの変化が完全には元に戻らないためで、この点は除菌後の注意点として別記事でも詳しく取り上げています。



よくある受診パターン

外来でご相談を受けることがあるのは、次のようなケースです(特定の方の実例ではなく、複数のケースをもとにした一般的なパターンです)。


一つは、健診の胃部エックス線で「ピロリ菌感染の疑い」と指摘されたものの、症状が何もないために「そのうち」と数年間放置してしまうケースです。自覚症状がないことと、胃の中で炎症が進んでいないことは別問題であり、気づいたときには萎縮性胃炎がかなり進行していることもあります。


もう一つは、健診結果を見た配偶者が先に不安になり、うつるのを心配して受診を勧め、それがきっかけで来院されるケースです。この場合、来院された方自身よりも、家族の側が正しい情報を求めて相談に来られることも少なくありません。どちらのパターンでも、まず必要なのは「感染しているかどうか」と「胃の状態がどうなっているか」を分けて確認することです。



検査と除菌の流れ——何をすればよいか

ピロリ菌感染の有無を調べる方法には、血液や尿による抗体検査、呼気を使う検査、便を用いる抗原検査などがあり、胃カメラを使わずに調べることも可能です。感染が確認された場合の除菌治療は、2種類の抗菌薬と胃酸を抑える薬を1週間内服する形が基本で、1回目の治療で除菌できる方が多くみられますが、うまくいかない場合は薬を変えて2回目の治療を行うのが一般的な流れです。ただし保険診療で行う場合は、次にご説明する条件(胃カメラの実施が前提となることなど)があります。


保険診療でピロリ菌の検査・除菌を行うには、胃カメラの実施が前提となるなど一定の条件があります。条件の詳細はその方の健診結果や既往によって異なるため、確実なところは診察の際にご説明します。「うつすかもしれないから」という不安だけで足踏みするより、まずは胃の状態を確認し、必要な検査の順番を相談することが、結果的にいちばん早い解決につながります。



くりた内科・内視鏡クリニックでの検査について

当院では、胃カメラによる胃の状態の確認とあわせて、ピロリ菌の検査・除菌治療にも対応しています。鎮静剤を使用した胃カメラも選択でき、経鼻・経口いずれの内視鏡にも対応しているため、「検査自体がつらそうで足が向かない」という方にも相談していただきやすい体制を整えています。ご家族の感染が気になる場合、配偶者の方の検査タイミングについては診察の中でご相談いただけます。お子さまについては、かかりつけの小児科へご相談ください。



よくある質問

Q. パートナーが陽性でした。自分も必ず感染していますか?

必ずしもそうとは限りません。長年同居していても感染していない方もいます。心配であれば、ご自身も検査を受けて状態を確認するのが確実です。


Q. 除菌が終わったら、もう検査は受けなくていいですか?

除菌の成功を確認する検査(除菌判定)は治療後にあらためて必要です。また、除菌前にすでに胃粘膜の萎縮が進んでいた場合は、除菌後も定期的な内視鏡でのフォローが勧められます。


Q. 子どもにも検査を受けさせるべきですか?

年齢や家族内の感染状況によって考え方が変わります。お子さまについては、かかりつけの小児科へご相談ください。


Q. キスや食器の共有をやめたほうがいいですか?

極端に避ける必要はありません。それよりも、気になる場合はご家族で検査を受けて感染の有無を確認するほうが、不安の解消につながります。


Q. 健診で「要精密検査」と出ましたが、症状が何もありません。それでも受診すべきですか?

症状の有無と胃の中の炎症の程度は必ずしも一致しません。無症状のまま萎縮性胃炎が進んでいることもあるため、指摘を受けた時点で一度検査を受けることをお勧めします。



ピロリ菌についてさらに詳しく知りたい方へ

除菌治療を終えた方が次に気をつけたいポイントは、次の記事で詳しく解説しています。


除菌によって胃がんのリスクがどう変わり、何が変わらないのかについては、次の記事もあわせてご覧ください。


ピロリ菌の検査方法や除菌治療の詳細は、当院のピロリ菌ページもご参照ください。



まとめ

ピロリ菌への感染は、その大半が乳幼児期に、家庭内の身近な大人から受け取る形で成立しています。大人になってからの配偶者間感染もゼロではなく一定数報告されており、気になる場合はご家族での検査確認をおすすめします。ただし、これは日常生活を極端に制限する根拠にはなりません。今40〜60代でピロリ菌が陽性であることの多くは、今の生活習慣ではなく、数十年前の環境に由来しています。不安を理由に検査や除菌を先延ばしにするより、まず自分の胃の状態を確認し、気になる家族がいれば検査を勧める、という順番で進めるのが現実的な向き合い方です。気になる点があれば、次の受診で一緒に確認してみませんか。



この記事を書いた医師・お問い合わせ先

栗田 亮(くりた あきら)/くりた内科・内視鏡クリニック 院長

日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医・指導医

くりた内科・内視鏡クリニック

〒600-8383 京都府京都市下京区綾大宮町62 シェルブリュー四条大宮1階

阪急大宮駅 徒歩2分

電話 075-334-6007

診療時間 月火水金 9:00〜12:00 / 16:00〜18:00、土 9:00〜12:00、木・日・祝 休診



引用文献リスト

1. Weyermann M, Rothenbacher D, Brenner H. Acquisition of Helicobacter pylori infection in early childhood: independent contributions of infected mothers, fathers, and siblings. Am J Gastroenterol. 2009;104(1):182-9.

2. Miyaji H, Azuma T, Ito S, Abe Y, Gejyo F, Hashimoto N, et al. Helicobacter pylori infection occurs via close contact with infected individuals in early childhood. J Gastroenterol Hepatol. 2000;15(3):257-62.

3. Konno M, Yokota S, Suga T, Takahashi M, Sato K, Fujii N. Predominance of mother-to-child transmission of Helicobacter pylori infection detected by random amplified polymorphic DNA fingerprinting analysis in Japanese families. Pediatr Infect Dis J. 2008;27(11):999-1003.

4. Urita Y, Watanabe T, Kawagoe N, Takemoto I, Tanaka H, Kijima S, et al. Role of infected grandmothers in transmission of Helicobacter pylori to children in a Japanese rural town. J Paediatr Child Health. 2013;49(5):394-8.

5. Wang C, Nishiyama T, Kikuchi S, Inoue M, Sawada N, Tsugane S, et al. Changing trends in the prevalence of H. pylori infection in Japan (1908-2003): a systematic review and meta-regression analysis of 170,752 individuals. Sci Rep. 2017;7(1):15491.

6. Yokota S, Konno M, Fujiwara S, Toita N, Takahashi M, Yamamoto S, et al. Intrafamilial, Preferentially Mother-to-Child and Intraspousal, Helicobacter pylori Infection in Japan Determined by Mutilocus Sequence Typing and Random Amplified Polymorphic DNA Fingerprinting. Helicobacter. 2015;20(5):334-42.

7. Hu Y, Wan JH, Li XY, Zhu Y, Graham DY, Lu NH. Systematic review with meta-analysis: the global recurrence rate of Helicobacter pylori. Aliment Pharmacol Ther. 2017;46(9):773-779.



 
 

【ご予約・お問い合わせ】

◎ お電話でのご予約 075-334-6007

休診のお知らせを LINE でお届けしています

お知らせ最新記事

bottom of page