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「放置しないで!」健康診断で「脂肪肝」と言われた方へ〜専門医が教える見過ごせない肝臓からのSOS

  • 執筆者の写真: くりた内科・内視鏡クリニック
    くりた内科・内視鏡クリニック
  • 9月11日
  • 読了時間: 10分
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あなたの肝臓は「フォアグラ」になっていませんか?

健康診断の結果を見て、「肝臓の数値が少し高めですね」「腹部エコーで脂肪肝の疑いがあります」と言われ、特に自覚症状もないため「大したことないだろう」と放置していませんか。近年、日本における脂肪肝の有病率は驚くべきペースで増加しています。日本消化器病学会および日本肝臓病学会が発表した「NAFLD/NASH診療ガイドライン2020」によれば、男性では約3人に1人、女性でも5〜6人に1人が脂肪肝を指摘されており、これはもはや「国民病」と呼べるほど身近な健康問題です。

しかし、多くの人がその潜在的なリスクを過小評価しています。肝臓に脂肪が蓄積した状態は、まるで高級食材の「フォアグラ」のように見えますが、それは決して喜ばしい状態ではありません。肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、かなりのダメージを負ってもなかなか症状が現れません。したがって、健康診断で何らかの異常を指摘された時点で、それは肝臓からの重要なSOS信号と捉えるべきです。

このブログ記事では、脂肪肝がなぜ危険なのか、放置してはいけない本当の理由、そして腹部超音波検査で指摘された方が「次に何をすべきか」について、最新のエビデンスに基づき専門医の視点から分かりやすく解説します。


「脂肪肝」とは?二つの顔を持つ沈黙の病

脂肪肝の定義と診断基準

脂肪肝とは、その名の通り、肝臓に過剰な脂肪が蓄積した状態を指します。医学的には、肝臓全体の重量の5%以上が脂肪になった場合、あるいは肝細胞の30%以上に脂肪が蓄積した場合に脂肪肝と診断されます。

診断には、血液検査で肝機能の指標(AST、ALTなど)を調べたり、腹部超音波検査やCTスキャンといった画像診断が用いられます。ここで一つ、重要な点があります。脂肪肝の医学的定義は「肝臓の脂肪が5%以上」であるのに対し、腹部超音波検査で「脂肪肝」と診断されるには、通常、肝臓内に20%以上の脂肪沈着が必要とされています。この数値の乖離は、多くの初期段階の脂肪肝が、超音波検査では見過ごされる可能性があることを示唆しています。実際に、肝機能の血液検査でASTやALTの値が上昇しているにもかかわらず、超音波検査では「異常なし」と判断されるケースがあるのはこのためです。この事実は、「超音波で異常がなかったから安心」という安易な自己判断が危険であることを物語っています。肝臓の専門医は、画像診断だけでなく、血液検査や患者様の生活習慣など多角的な情報を基に、より慎重な診断を行います。


脂肪肝の二つの主なタイプ

脂肪肝は、その原因によって大きく二つのタイプに分けられます。

アルコール性脂肪肝

長期間にわたる過剰なアルコール摂取が原因で引き起こされる脂肪肝です。肝臓はアルコールを分解・解毒する重要な役割を担っていますが、過剰なアルコールは肝臓に大きな負担をかけ、働きに異常をきたし、脂肪の蓄積を招きます。一般的に、男性では1日のエタノール摂取量が60g以上、女性では20g以上が目安とされています。アルコールが原因で肝臓に炎症が起こった状態を「アルコール性脂肪性肝炎(ASH)」と呼び、放置すると肝硬変の前段階へと進行する可能性があります。


非アルコール性脂肪性肝疾患(MASLD)

アルコール摂取量が少ない、あるいは飲酒習慣がほとんどないにもかかわらず発症する脂肪肝です。その主な原因は、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧、運動不足といったメタボリックシンドロームです。これらの生活習慣病がインスリンの働きを低下させ、肝臓に脂肪がたまりやすい状態を作り出します。

非アルコール性脂肪性肝疾患は、さらに以下の二つに分類されます。

  • 単純性脂肪肝(MASL): 肝臓に脂肪は蓄積しているものの、炎症や肝細胞の損傷が見られない比較的軽度の状態です。

  • 非アルコール性脂肪肝炎(MASH): 単なる脂肪の蓄積に加え、肝細胞に炎症や損傷が起きている状態です。この状態を放置すると、肝硬変や肝がんへと進行するリスクが飛躍的に高まります。

なお、2024年8月には、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)がMASLD(Metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)がMASH(Metabolic dysfunction-associated steatohepatitis)に名称変更されるなど、世界の学会で活発な議論がなされています。これは、脂肪肝が単なる飲酒や肥満だけでなく、全身の代謝機能の異常と深く関連しているという最新の知見に基づいています。



なぜ脂肪肝を放置してはいけないのか?〜見えない肝臓の異変〜

「たかが脂肪肝」は危険な勘違い

脂肪肝は初期段階ではほとんど自覚症状がないため、健康診断で指摘されても「たいしたことない」と放置されがちです。しかし、肝臓は「沈黙の臓器」であり、症状が現れる頃には病気がかなり進行していることが少なくありません。

脂肪肝を放置することは、自覚症状がなくても進行性の病態を招く危険性があります。単純な脂肪肝の段階であっても、そのうちの約10%から20%の人が肝炎や肝硬変へ進行するという報告もあります。


進行のメカニズムと深刻な転帰

特に、MASH(非アルコール性脂肪肝炎)に進行した場合、その危険性は劇的に高まります。MASHの有病率は一般的に3〜5%とされています。MASHからの肝がん発生率は、単純な脂肪肝(MASLD)と比較して顕著に高く、その発生率は年間5.29人/1000人と報告されており、これは単純なMASLDの年間0.44人/1000人の約12倍に相当します。

従来の一般的な認識では、肝がんは肝硬変に進行した後に発症するケースが多いとされていました。しかし、最新の研究では、MASHに関しては肝硬変に至る前の段階でも肝がんを発症する例が多数報告されています。これは、MASHの病態が複雑で、肥満や糖尿病、さらには腸内細菌叢の変化などが、直接的な発がんリスクを高めている可能性を示唆するものです。この事実は、単なる脂肪の蓄積だけでなく、その背後にある炎症や線維化の有無を評価することが、いかに重要であるかを強調しています。

肝臓の線維化が進行し、肝硬変にまで至ると、その状態を元に戻すことは非常に困難になります。肝硬変になると、年間数%の確率で肝がんが発生すると言われており、さらに肝不全による予後不良のリスクも高まります。


肝臓以外の健康リスク

脂肪肝は、単に肝臓だけの問題ではありません。それは、全身のメタボリックシンドロームという「氷山の一角」にすぎません。脂肪肝の存在は、高中性脂肪血症、糖尿病、高血圧、動脈硬化のリスクを高め、心筋梗塞や脳卒中といった心血管疾患につながることも報告されています。実際、脂肪肝の患者様の死因は、肝疾患そのものよりも、心血管疾患や肝臓外の悪性腫瘍が多いというデータも存在します。



腹部超音波検査で「脂肪肝」と言われたら、まず何をすべきか?

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腹部超音波検査の診断の意味を正しく理解する

腹部超音波検査は、安全性が高く、被ばくの心配もなく、脂肪肝を発見するための優れたスクリーニングツールです。超音波検査では、健康な肝臓は黒っぽく写りますが、肝臓に脂肪が蓄積すると、その超音波の反射率が高まり、白っぽく明るく見えます。したがって、腹部超音波検査で「脂肪肝」と診断されたということは、すでに肝臓内にかなりの脂肪(20%以上)が蓄積している可能性が高いことを意味します。


放置せずに専門医に相談すべき理由

腹部超音波検査は脂肪の蓄積を捉えることに優れていますが、肝臓の「炎症」や「線維化(肝臓の硬さ)」を正確に評価することには限界があります。肝臓がどの程度硬くなっているかという「線維化」の進行度を把握することは、将来的な肝硬変や肝がんのリスクを判断する上で非常に重要です。

肝硬変や肝がんのリスクは、単純な脂肪の量よりも、この線維化の進行度と強く相関していることが分かっています。

したがって、腹部超音波検査で脂肪肝を指摘された方は、「これは単純な脂肪肝なのか、それとも将来的に危険な状態へと進行する可能性のあるMASHなのか」をさらに詳しく調べる必要があります。専門医は、血液検査から算出されるFIB-4 Indexなどの非侵襲的な指標や、必要に応じて連携病院での肝硬度測定検査(フィブロスキャンなど)を検討し、この重要な判断を正確に行うことができます。


改善への具体的な第一歩

脂肪肝の治療は、まず何よりも生活習慣の改善が基本となります。

  • 食事

    極端な食事制限ではなく、1日の総摂取カロリーを適切に保ち、バランスの取れた食事を心がけることが重要です。特に、糖質や脂質の過剰摂取を避け、良質なタンパク質を十分に摂ることが推奨されます。

  • 運動

    運動は、内臓脂肪を減らし、インスリン抵抗性(インスリンの効きが悪くなる状態)を改善する効果があります。エビデンスに基づく目標としては、週に合計150分以上の中強度の有酸素運動(速歩、ジョギングなど)が推奨されています。また、筋力トレーニングもインスリン抵抗性の改善に有効であることが報告されています。

  • 体重管理

    体重の減少は、肝臓の脂肪を減らし、炎症を改善する上で最も効果的な方法です。多くの研究で、7%の体重減少でMASHが改善し、10%の体重減少で肝臓の線維化も改善することが報告されています。体重超過がない方でも、3〜5%の減量が推奨される場合があります。



Table 1: 脂肪肝改善のための「目標ガイドライン」

改善項目

目標数値・行動

備考

体重減少

7〜10%の減量

5%の減少でも肝機能改善効果あり

運動

週150分以上の有酸素運動

1日30分の速歩を週5回など

筋力トレーニング

週2回以上の実施

インスリン抵抗性の改善に有効

食事

総カロリー摂取量の適正化

糖質・脂質の過剰摂取を控える

飲酒

アルコール制限または禁酒

肝臓の状態悪化を避けるため



くりた内科・内視鏡クリニックがあなたの「脂肪肝」と向き合う理由

専門医による多角的なアプローチ

健康診断で「脂肪肝」を指摘された患者様に対して、当院は単なる「経過観察」で終わらせることはありません。くりた内科・内視鏡クリニックは、内科診療に加え、特に消化器内科と肝臓内科の専門医が在籍していることが大きな強みです。

専門医の視点から、以下のような多角的なアプローチで患者様の脂肪肝と向き合います。

  1. 詳細な評価:血液検査で肝機能、脂質、血糖値などを再評価し、FIB-4 Indexなどの非侵襲的な指標を用いて肝臓の線維化の程度を推定します。これにより、単純な脂肪肝か、より注意を要するMASHの可能性があるかを判断します。

  2. 正確な診断:当院では腹部超音波検査を専門医が行うことで、脂肪肝の程度を正確に診断します。当院が導入している最新の超音波診断装置は、従来の画像による診断に加え、「ATI(Attenuation Imaging)」という機能を備えています。この機能により、これまで目視での判断に頼っていた脂肪肝の程度を、数値データとして客観的かつ定量的に評価することが可能となりました。これにより、ご自身の肝臓の状態をより具体的に把握でき、治療による改善状況を経時的に追跡することも容易になります。

  3. 個別化された治療計画:患者様の病態(単純性脂肪肝かMASHか)や、合併している生活習慣病(糖尿病、脂質異常症など)に応じて、食事・運動療法を中心に、一人ひとりに合った治療計画を提案します。

  4. 薬物療法の検討:日本国内では脂肪肝に特化した保険適用薬はありませんが、合併症である糖尿病や脂質異常症に対する薬物療法が、結果的に肝機能の改善に有効であることが報告されており、必要に応じて検討します。

  5. 適切なフォローアップ:肝臓の線維化が疑われる場合など、進行リスクが高い方に対しては、定期的な検査とモニタリングを推奨し、状態を継続的に管理します。



Table 2: 脂肪肝の状態別フォローアップの目安

診断された状態

推奨されるフォローアップ

根拠・目的

単純性脂肪肝 または軽度の線維化

2年に1回

肝病態のモニタリング

肝線維化が疑われる場合

1年に1回

進行性MASHの可能性を考慮

肝硬変に至った場合

半年に1回

肝不全や肝がんのリスクが高い


当院で対応が難しい場合は、近隣の大学病院や総合病院と円滑に連携し、患者様にとって最適な治療を受けられるようサポートする体制を整えています。



あなたの大切な肝臓を守るために

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脂肪肝は、放置すれば肝硬変や肝がん、さらには心血管疾患へとつながる可能性を秘めた、決して見過ごしてはいけない病気です。しかし、その一方で、脂肪肝の段階であれば、適切な治療と生活習慣の改善によって、十分に改善が見込める病気でもあります。

「健康診断で脂肪肝を指摘されたけれど、どうすればいいか分からない」「肝臓のことが心配」という方は、手遅れになる前に、ぜひ一度ご相談ください。私たちは、皆様の肝臓の健康を全力でサポートいたします。


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