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非アルコール性脂肪肝についてどんな病気? -飲酒はしないのに健診で脂肪肝の指摘のあった方へ-

  • 執筆者の写真: くりた内科・内視鏡クリニック
    くりた内科・内視鏡クリニック
  • 6 日前
  • 読了時間: 19分
おなかを抑える女性


日本における脂肪肝の驚くべき現状と警告


肝臓はしばしば「沈黙の臓器」と呼ばれます。その機能の多くを失うまで、痛みや自覚症状を発することがほとんどないためです。この沈黙の裏で、現代日本において急速に拡大し、国民病となりつつあるのが「脂肪肝」です。


かつて非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と呼ばれていたこの病態は、現在、日本国民の約30%に認められると指摘されています。さらに、この有病率は増加の一途をたどり、このままの傾向が続けば、2040年には日本の人口の約半数が脂肪肝患者となることが予測されています。この驚異的な予測は、脂肪肝が単なる「太り過ぎのサイン」ではなく、将来的な肝臓病、心血管疾患(CVD)、慢性腎臓病(CKD)といった慢性疾患の爆発的な増加、ひいては医療経済全体に深刻な影響を及ぼすハイリスクな全身疾患であることを示しています。



疾患概念のパラダイムシフト:NAFLDからMASLDへ


2023年、脂肪肝に対する国際的な診断基準と呼称が大きく見直されました。従来の「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」という名称は、病名に含まれる「脂肪性」や「アルコール性」といった用語が患者に対するスティグマ(烙印)となりうるという観点から、また病態の核心が「代謝異常」にあることをより明確に強調するために変更されました。


新しい呼称は「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(Metabolic Dysfunction Associated Steatotic Liver Disease: MASLD)」です。この変更は、脂肪肝をアルコール摂取量だけで区分する旧来の考え方から脱却し、肥満や糖尿病、高血圧、脂質異常症といった代謝異常が病態形成の根幹であることを明確にする、重要なパラダイムシフトです。新しいMASLDの診断基準が代謝合併症の有無を中心としたものになったのは、この代謝異常が肝癌のみならず心血管疾患発症のリスクを増大させるという臨床的意義に基づいています。



MASLD/MASHの基礎知識と進行のメカニズム


MASLDの定義と診断基準


MASLDは、飲酒量が基準内(1日あたりのエタノール摂取量が男性で30g以下、女性で20g以下)であることを前提とし、肝臓に脂肪が蓄積していることに加え、以下の代謝リスクのうち少なくとも1つを合併している場合に診断されます。


  1. 過体重または肥満(BMI 25以上)、またはウエスト周囲長超過) 

  2. 2型糖尿病または耐糖能障害 

  3. 高血圧 

  4. 脂質異常症(高中性脂肪血症、低HDLコレステロール血症) 


MASLDは、肥満患者の59%、高度肥満患者の81.3%に合併しており、また糖尿病患者の72.8%にNAFLD(旧称)が合併しているという事実から、MASLDが代謝異常の「肝臓における表現型」であると認識されています。



進行型脂肪肝炎MASHの脅威


MASLDの状態は、肝臓に過剰な脂肪が蓄積した「単純性脂肪肝」であることが多いですが、このうち約2割の患者様は、肝臓に炎症と肝細胞の風船様膨化(バルーニング)を伴う「代謝機能障害関連脂肪肝炎(Metabolic Dysfunction Associated Steatohepatitis: MASH)」へと進行します。


このMASHという病態が極めて危険である理由は、炎症が肝臓の組織を硬くする「線維化」を引き起こし、やがて肝硬変、そして肝細胞癌へと進展する最もリスクの高いプロセスだからです。肝臓の線維化は原則として不可逆的な損傷であり、MASHを単なる脂肪肝の延長線上にある病気と軽視するのではなく、進行性かつ致死的な疾患として早期に捉え直すことが、患者様の生命予後を改善するために最も重要となります。



病態の核心:インスリン抵抗性と「悪循環」


MASLD/MASHの病態を深く理解する鍵は、「インスリン抵抗性」と「高インスリン血症」です。これらは、エネルギー過剰な食生活や運動不足によって引き起こされます。


インスリン抵抗性とは、インスリンの働きが悪くなる状態を指します。通常、インスリンは脂肪組織からの遊離脂肪酸の放出を抑制しますが、抵抗性が生じるとこの作用が減弱します。結果として、末梢の脂肪組織から大量の遊離脂肪酸が血中に過剰放出され、これが肝臓へと流れ込み、肝臓に蓄積する脂肪の大半を形成します。


さらに問題なのは、肝臓内でのインスリンの作用にも「選択的インスリン抵抗性(インスリン・パラドックス)」が生じることです。肝臓における糖新生の抑制作用は減弱するため、高血糖を招きますが、一方で脂肪酸合成経路はインスリン作用の影響を受けにくく、むしろ高インスリン血症の影響を受けて脂肪酸合成が亢進します。この二重のメカニズムによって、肝臓は脂肪の「貯蔵庫」と化し、インスリン抵抗性がさらに悪化するという負のスパイラルに陥ってしまうのです。


この病態の核心を理解することで、MASLDの治療は単なる体重やカロリーの制限に留まらず、「インスリン抵抗性を改善する」ことを最重要目標とする必要性が明確になります。



日本人が知るべき非肥満型MASLDのリスク


欧米では肥満を伴うMASLDが多い一方、日本やアジア諸国では、BMI 25未満の「非肥満型MASLD」が多数存在します。この非肥満型の患者様であっても、内臓脂肪の蓄積や、筋力・筋量が低いサルコペニアを合併していることが少なくありません。サルコペニアは、MASLDの発症や線維化進展を促進する独立した危険因子です。


非肥満型MASLDの患者様は、単純な減量を追求すると、かえって筋肉量が減少し、サルコペニアや虚弱(フレイル)を助長する危険性があります。また、日本人の非肥満型患者は、コレステロール摂取量が多い、魚・魚加工食品の摂取が少ないといった、特定の食習慣の特徴が指摘されており、単にカロリーを減らすだけでは病態が改善しない可能性もあります。


このため、日本におけるMASLD患者の管理においては、欧米式の単純な減量指導だけでなく、体組成(脂肪と筋肉のバランス)を改善するための栄養・運動指導(ハイブリッド戦略)がより重要となります。



MASLD/MASHの診断 — 確実な第一歩


MASLD/MASHの診断は、単に肝臓に脂肪があることを確認するだけでなく、その病態が進行性の肝炎(MASH)や線維化に進展しているハイリスク群を正確に見つけ出すことが目的となります。



診断の目標とゴールドスタンダード


MASLDの病態は、脂肪化、炎症、そして線維化の3つの要素で構成されており、これらの進行度を評価することが治療方針の決定において極めて重要です。


  • 肝生検(ゴールドスタンダード): 肝生検は、肝臓の組織を採取し、脂肪化、炎症(肝細胞の風船様膨化など、MASHの指標)、線維化のすべてを詳細に評価できるため、従来の診断におけるゴールドスタンダードとされてきました。しかし、肝生検は侵襲的であり、コストや合併症のリスク、さらに組織の不均一性によるサンプリングエラーの可能性があるため、日常診療で繰り返し行うことは困難です。

  • 非侵襲的検査(NITs)の必要性: このため、現在では、患者様の負担が少なく、繰り返し実施可能な非侵襲的検査(NITs: Non-invasive Tests)が診断と経過観察の主流となっています。



診断の2ステップ・アプローチ


日本のガイドラインや国際的な推奨においても、線維化進展例を効率よく拾い上げるために、血液検査と画像検査を組み合わせた「2ステップ診断アルゴリズム」が推奨されています。


ステップ1:血液検査によるリスク層別化まず、MASLD患者の全例に対し、日常的な血液検査結果(年齢、AST、ALT、血小板数)から算出されるFIB-4 Indexなどのスコアリングシステムを用いて、肝線維化の進行リスクを層別化します。

ステップ2:画像診断による精密検査FIB-4 Indexで線維化のリスクが否定できない(カットオフ値以上)と判断された場合、超音波エラストグラフィ(SWEなど)や肝脂肪化定量(ATI、CAPなど)、MRIエラストグラフィ(MRE)などの高度な画像診断に進み、線維化の程度や脂肪化の定量的な評価を行います。


この段階的なアプローチにより、線維化が進展し、肝癌や肝硬変のリスクが高い「at-risk MASH」の患者様を、不必要な肝生検を避けて効率的に特定することが可能になります。



MASLDが引き起こす「肝内外」の深刻な合併症


肝臓内部の進行:Burned-out NASHと肝癌リスク


MASHが進行し、線維化が高度になると、最終的に肝硬変に至ります。肝硬変に達すると、肝細胞が脂肪を蓄積する能力を失い、超音波検査や画像診断で脂肪肝の所見が目立たなくなる現象が発生します。これを「Burned-out NASH」と呼びます。


脂肪肝の所見が消えたからといって安心はできません。この段階は線維化がF4(肝硬変)に達しており、肝細胞癌(HCC)の発生リスクが非常に高くなります。MASH由来の肝硬変患者の肝細胞癌発生率は、年間約3〜4%と報告されており、これはC型肝炎由来の肝硬変に匹敵する極めて高い水準です。特に糖尿病は肝発癌の確固たる危険因子であり、メタ解析では肝発癌リスクを2.0倍に上昇させることが示されています。



肝臓だけの問題ではない:全身に及ぶMASLDの危険性


MASLDは、肝臓病としての側面以上に、全身の代謝異常から生じる多臓器疾患として捉える必要があります。虚血性心疾患、脳梗塞、他臓器癌、慢性腎臓病(CKD)といった肝臓外の合併症は、肝関連死と並び、MASLD患者の主要な死因であることが明らかになっています。



心臓・血管のハイリスク:線維化が鍵を握る心血管イベント(MACE)


MASLDは、高血圧や糖尿病などの既知のリスク因子とは独立して、動脈硬化性疾患(頸動脈の内膜中膜複合体厚(IMT)の肥厚、冠動脈石灰化)の発症・進展を促進する独立したリスク因子です。


この動脈硬化リスクは、肝病態の進行、特に線維化の程度と密接に連動しています。生検で診断されたMASLD患者の検討では、線維化の指標であるFIB-4 Indexと頸動脈IMTは正の相関を示し、組織学的に高度線維化(F2以上)がみられる群では、IMTが有意に高値でした。線維化が進んだMASH患者は、単純性脂肪肝患者や健常人と比較して、心・脳血管疾患による死亡(MACE)のリスクが有意に高まります。


この事実は、肝線維化の評価は、肝臓の未来のためだけでなく、患者様の心臓発作や脳卒中のリスクを評価する上で極めて重要な指標となることを意味します。肝臓の状態が、全身の動脈硬化の深刻さを反映しているのです。



腎臓や他臓器癌のリスク増大


MASLDは、慢性腎臓病(CKD)発症の独立したリスクでもあります。特にMASH群では、他の代謝リスクを調整した後でもeGFR(腎機能指標)の低下やCKDの有病率が高いことが報告されています。MASHの組織像の重症度が、インスリン抵抗性や炎症性サイトカインの増加を介して、腎臓における微小血管障害を惹起し、腎機能の低下に直接関与する可能性が示唆されています。


また、MASLD患者は癌全体の罹患率が高く、特に糖尿病を合併している場合はリスクが顕著に高まります。MASLDに共通する高インスリン血症や炎症性サイトカインの増加が、細胞増殖シグナルを介して発癌を促進するため、肝細胞癌のほかに、膵癌、腎臓癌、大腸癌、食道癌など広範な悪性腫瘍のリスクが上昇します。


MASLDは、これらの主要な合併症以外にも、サルコペニア、認知症、大うつ病性障害、睡眠障害など、生活の質(QOL)に影響を及ぼす広範な肝外合併症との関連が指摘されています。

以下に、MASLDと主要な肝外合併症の関係をまとめます。


Table 1:MASLD/MASHにおける肝外合併症リスクと影響

主要合併症

MASLDとの関連性

進展した肝病態(MASH/線維化)の影響

臨床上の留意点

心血管疾患(CVD)

独立した動脈硬化・MACEリスク 

高度線維化(F2以上)でリスクが有意に増大 

循環器専門医との連携、スクリーニング必須 

慢性腎臓病(CKD)

インスリン抵抗性、炎症により発症リスク増大 

MASH群でeGFRの低下、CKD合併率が高い 

腎機能に十分注意し、SGLT2阻害薬など適応を検討 

他臓器癌

糖尿病合併時、癌全体の罹患率が顕著に高い 

膵癌、大腸癌、腎臓癌、食道癌などのリスク上昇 

癌スクリーニングの積極的な実施 

サルコペニア/フレイル

非肥満型MASLD患者に高率 

代謝悪化、運動器障害のリスク 

運動・栄養療法における体組成改善を重視 



あなたの肝臓を非侵襲的に「視る」 — くりた内科・内視鏡クリニックの専門診断体制


MASLD/MASH診療の鍵は、肝硬変や肝癌に至る前に、線維化が進展しているハイリスク群をいかに正確かつ早期に拾い上げるかにあります。くりた内科・内視鏡クリニックでは、この課題に対し、血液検査と最新鋭の超音波技術を組み合わせた、非侵襲的な専門診断体制を提供しています。



早期発見の第一歩:血液検査(FIB-4 index)による線維化リスクの評価


肝線維化の進行リスクを評価する最も簡便で汎用性の高い一次スクリーニングツールが、血液検査結果から算出されるFIB-4 Indexです。これは年齢、AST、ALT、血小板数という日常的なデータで算出でき、進展した線維化の有無を評価する第一段階として、日本の診療ガイドラインでも推奨されています。

特に日本では非肥満型MASLDの有病率が高いため、合併症の有無にかかわらず、基本的にMASLD患者様の全例に対してFIB-4 Indexでの評価を行うべきとされています。

FIB-4 Indexによるリスク評価に基づき、精密検査や専門医への紹介の必要性が決まります。


Table2:MASLDの肝線維化進展リスク評価と受診基準(FIB-4 Indexに基づく)

FIB-4 Index値

線維化リスクの評価

推奨される対応

1.3未満

進展した線維化を否定

年1回の再評価、生活習慣改善の継続 

1.3~2.67 (65歳以上は2.0以上)

線維化の進行を否定できない

超音波エラストグラフィ等の精密検査を検討(専門医受診検討) 

2.67以上 (65歳未満)

肝線維化が進展している可能性が高い

専門医への迅速な紹介、精密評価(MREや肝生検の検討) 

FIB-4 Indexが1.3を超えた場合、線維化が進んでいる可能性が否定できないため、さらなる非侵襲的な画像検査に進むことが必須となります。



【当院の専門診断】 Canon Aplio Meによる脂肪肝の「数値化」技術(ATI)の優位性


くりた内科・内視鏡クリニックでは、線維化リスクが高い患者様や、肝脂肪の正確な定量化を希望される患者様に対し、先進の超音波診断装置Canon Aplio Meを導入し、精密検査を実施しています。


※当院におけるエコーについてのページはこちら


従来の脂肪肝の診断は、超音波のBモード画像上で肝臓と腎臓のコントラスト(肝腎コントラスト)を目視で比較する、主観的かつ定性的な評価が一般的でした。しかし、Canon Aplio Meに搭載されているATI (Attenuation Imaging:減衰イメージング)機能は、この診断の常識を大きく変えます。


ATI機能は、日常診療で使用可能なBモード超音波を使ったアプリケーションであり、超音波が肝臓内を通過する際に、脂肪沈着によって超音波がどれだけ減衰するかを測定し、その減衰速度を客観的な数値(dB/cm/MHz)としてリアルタイムで可視化します。これは脂肪沈着による減衰を間接的に評価する手法です。


ATI測定の臨床的価値と治療の「見える化」

ATI測定は、肝脂肪化の程度(S1、S2、S3グレード)を客観的な数値に基づいて正確に診断できます。病理学的所見をゴールドスタンダードとした脂肪化診断能については、非侵襲的肝脂肪定量法のゴールドスタンダードであるMRI-PDFFに次ぐ高い診断能を有していることが報告されています。

この定量的な評価能力は、MASLDの治療において以下の点で圧倒的な優位性を発揮します。


  1. 高精度な脂肪量評価: 肝脂肪化の程度(S1、S2、S3グレード)を客観的な数値に基づいて正確に診断できます。

  2. 治療効果の定量化(見える化): 生活習慣改善や薬物療法を開始した後、体重や血液検査値の変動だけでなく、肝臓内の脂肪量(ATI値)が実際にどれだけ減っているかを正確に定量的に追跡評価できます。例えば、治療開始時にATI値が0.91 dB/cm/MHzであった場合、、数ヶ月後に0.75 dB/cm/MHzまで低下したといった具体的な改善を患者様ご自身が数値で確認でき、これが治療継続の大きなモチベーションに繋がります。

  3. 非侵襲性と簡便性: 肝生検のような侵襲的な処置や、MRIのような高コストな検査を行うことなく、日常診療の中で迅速かつ繰り返し測定が可能です。


脂肪肝のエコー画像:腎臓に比べ肝臓のエコー輝度が高い(肝腎コントラスト陽性)
脂肪肝のエコー画像:腎臓に比べ肝臓のエコー輝度が高い(肝腎コントラスト陽性)
      ATI測定(測定値 1.03 dB/cm/MHz)
ATI測定(測定値 1.03 dB/cm/MHz)

MASLD/MASHを克服するための治療の柱 — 生活習慣の「科学」


現在のところ、日本においてMASLD/MASHに対して保険適用を持つ治療薬は存在しません。したがって、MASLD/MASH治療の基本であり、最も強力な治療法は、一貫して生活習慣の改善(栄養・運動療法)による体重減量とインスリン抵抗性の改善です。


治療目標の明確化:体重減少と肝臓組織改善の具体的目標値


MASLD治療において、どの程度の体重減少を目指すべきかについては、多くの臨床研究に基づき、具体的な目標値が設定されています。


Table3:生活習慣改善による体重減少目標と期待される効果

目標体重減少率

期待される治療効果(エビデンスに基づく)

全体重の5%以上

QOL(生活の質)の改善 

全体重の7%以上

NASH(肝炎)の組織学的改善 

全体重の10%以上

肝線維化の改善 

特に、進行した肝炎(MASH)の組織学的改善や線維化の改善といった決定的な治療効果を得るためには、7%以上、理想的には10%以上の体重減少を目指すことが必要です。


非肥満型MASLDの患者様においては、目標減量率は3〜5%と低く設定されることが多いですが、減量によるサルコペニア(筋肉量低下)を回避するため、体脂肪率や筋肉量を詳細にモニタリングし、体組成の改善に重点を置いた個別化された指導が求められます。


食事療法の「質」を追求する:最新エビデンスに基づく栄養指導


食事療法は、単にカロリーを制限するだけでなく、何を食べるかという「質」が極めて重要です。MASLDの病態の核心であるインスリン抵抗性を改善するため、以下の点が強く推奨されます。


最重要項目:果糖と砂糖の制限

清涼飲料水、加工食品、お菓子などに含まれる添加糖や果糖の過剰摂取は、インスリン抵抗性を誘発し、肝臓における新規脂肪酸合成を強く促進します。砂糖入りの飲み物を避けることが、MASLD改善のための最重要項目の一つです。


食事の質とパターン

  • エネルギー比率: 炭水化物50〜60%、脂質20〜25%を基準とします。極端な長期的な糖質制限や高タンパク食は、総死亡率や心血管リスクの上昇との関連が報告されているため、慎重に適用する必要があります。

  • 理想的な食事: 多品目(豆類、穀類、きのこ類、魚介類、海藻類、果物、オリーブオイルに含まれるn-3脂肪酸)で構成され、赤身肉や加工肉が過剰でない日本食や地中海食が推奨されます。

  • 食習慣の改善: 早食い、朝食抜き、夜間の間食、頻回な食習慣(6食以上)は全てMASLD発症のリスクとなります。特に、十分な咀嚼はグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の分泌を促し、食欲を抑制し過食を予防する効果が期待されます。



運動療法の科学:有酸素運動とレジスタンス運動の「ハイブリッド戦略」


運動療法は、体重減少を伴わなくとも、単独でMASLD患者の肝機能と肝脂肪化を改善させることが示されています。


  • 運動量の目安: 中等度(3〜6メッツ程度)の有酸素運動を150〜300分/週、または高強度の運動(75〜150分/週)を週3〜4回、30〜60分間継続することが推奨されます。

  • レジスタンス運動の重要性: 筋力や筋肉量を効果的に改善するレジスタンス運動(筋力トレーニング)は、有酸素運動と比較してエネルギー消費量は低いものの、全身の脂肪燃焼能力を高め、肝脂肪化を改善する効果が報告されています。

  • ハイブリッド戦略の優位性: 脂肪燃焼と筋力増強を両立させる有酸素運動とレジスタンス運動の併用(ハイブリッド戦略)が、体脂肪量低下、歩行速度向上、そして肝線維化の危険因子であるインスリン抵抗性の改善に最も効果的であることが示されています。


肥満や心肺機能低下で有酸素運動が難しい患者様、あるいはサルコペニアを合併する非肥満患者様にとって、レジスタンス運動は特に重要な治療の柱となります。くりた内科・内視鏡クリニックでは、患者様の肝病態、運動能力、ライフスタイルに応じて、管理栄養士や理学療法士といったエキスパートとの連携を視野に入れ、最適なハイブリッド運動プログラムの個別目標設定を重視した継続的な支援体制を構築しています。



最新の薬物療法と次世代の治療展望


生活習慣の改善が基本である一方で、線維化が進展したMASH患者様や、代謝異常のコントロールが困難な患者様には、薬物療法が検討されます。MASHは多因子性の複雑な病態であり、単一の薬剤ではなく、複数の経路に作用する薬剤や併用療法が主流になることが予測されています。



インスリン抵抗性改善薬の役割


MASLDの病態の中心がインスリン抵抗性と高インスリン血症であるため、既存の糖尿病治療薬や脂質異常症治療薬の中でも、これらの病態を改善し、肝組織に良い影響を与える薬剤が優先して選択されます。


  • GLP-1受容体作動薬(セマグルチドなど)とGIP/GLP-1受容体作動薬(チルゼパチド):強力な体重減少効果に加え、MASHの組織学的消失や肝線維化の改善において有意な有効性が示されており、最も有望な次世代治療薬として国際的な第III相試験が進行中です。

  • SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン、ダパグリフロジンなど):インスリン非依存性に血糖を低下させ、体重・内臓脂肪を減少させます。特に、糖尿病、心不全、慢性腎臓病(CKD)に対する臓器保護作用が確立しており、これらの合併症を持つMASLD患者様のベース治療として非常に有用です。

  • ピオグリタゾン(チアゾリジン誘導体):組織学的肝炎改善効果が確立している数少ない薬剤であり、インスリン抵抗性の改善を介してMASLDを改善させます。体重増加などの副作用に注意しつつ、適応が検討されます。


高インスリン血症を助長する可能性のある薬剤(一部のインスリンやインスリン分泌促進薬)の適用は、MASLDの病態を悪化させないよう、より慎重に検討されるべきです。



世界初のMASH治療薬Resmetiromと新薬開発の最前線


MASHに対する治療薬開発は急速に進展しています。


  • レスメチロン(THR-β 作動薬):肝細胞に高発現する甲状腺ホルモン受容体-β を特異的に活性化し、脂肪代謝を促進することで、肝脂肪の減少、MASHの解消、線維化の有意な改善を示しました。2024年3月、米国食品医薬品局(FDA)によりMASH治療薬として世界で初めて承認され、今後の日本への導入が期待されています。

  • その他の開発中の新薬:脂肪酸合成を制御するACC阻害薬やSCD1阻害薬、線維化経路を標的とするPan-PPAR作動薬(ラニフィブラノール)、そして代謝改善効果を持つFGFアナログ(Efruxifermin)など、多様な作用機序を持つ薬剤が、MASHの複雑な病態を標的として臨床試験の最終段階にあります。



腸肝相関を標的とした新しいアプローチ


近年、MASHの炎症・線維化の増悪には、腸内細菌叢の乱れ(Dysbiosis)と、それに伴う腸管バリア機能の破綻により、腸管由来の病原体関連分子パターン(エンドトキシンなど)が肝臓へ流入する腸肝相関(Gut-Liver Axis)が深く関わっていることが明らかになっています。


この炎症経路を標的とする治療として、腸内環境を整えるプロバイオティクスや、腸管透過性の亢進を改善する作用を持つ薬剤(例:ルビプロストン)が、MASHの改善効果を示す可能性が臨床試験で示唆されており、新規治療の選択肢として注目されています。


MASHの病態は、遺伝的要因、代謝異常、炎症、腸内環境など多因子性が極めて高いため、将来的には、これらの異なる経路を標的とする複数の薬剤を組み合わせた併用療法や、患者様の病態を精密に解析した上でのテーラーメイド医療が主流になると予測されます。



早期受診が未来を変える — くりた内科・内視鏡クリニックからのメッセージ


MASLD/MASHは、単なる肝臓の脂肪蓄積ではなく、肝癌や肝硬変だけでなく、心臓病、腎臓病、他臓器癌といった全身性の重篤な合併症を引き起こす、生命予後に関わる進行性の病態です。症状がないまま線維化が進展し、気づいたときには手遅れになるリスクがあります。



くりた内科・内視鏡クリニックの強み


当院では、MASLD/MASHの早期診断と個別化された治療管理を徹底するため、専門的な診断体制を確立しています。


  1. 定量的な診断: 最新鋭のCanon Aplio Me超音波診断装置によるATI(Attenuation Imaging)測定を導入しています。これにより、あなたの肝臓の脂肪沈着を、従来の主観的な判断ではなく、客観的な数値(dB/cm/MHz)で正確に定量化できます。この数値こそが、生活習慣改善や薬物療法による脂肪減少効果を「見える化」し、治療継続の確かな動機づけとなります。

  2. 包括的なリスク管理: FIB-4 Indexをはじめとする血液検査と超音波エラストグラフィ(SWEなど)を用いて、肝線維化のリスクを徹底的にスクリーニングします。これにより、肝臓だけでなく、心血管疾患やCKDといった全身のリスクを総合的に評価した上で、治療戦略を策定します。

  3. 内科専門医による指導: 最新の医学的エビデンスと薬物療法の動向に基づき、患者様のインスリン抵抗性や代謝異常(糖尿病、高血圧、脂質異常症)に最適な、科学的な根拠に基づいた生活習慣指導と、新薬を見据えた薬物療法の提案が可能です。


健康診断で肝機能異常(AST/ALTの上昇)や脂肪肝を指摘された方、あるいは2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、高度肥満といった代謝異常をお持ちの方は、肝臓に線維化が進行しているハイリスク群である可能性があります。

症状がないからといって放置することは、全身の血管や臓器に深刻なダメージを与え続けることを意味します。


「数値で見て、数値で治す」— あなたの肝臓の正確な現状を把握し、心臓、腎臓、そして未来の健康を守るための第一歩を、くりた内科・内視鏡クリニックで今すぐ踏み出しましょう。


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