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お知らせ・院長ブログ

肝臓疾患:沈黙の臓器の SOS を見逃さないでください

  • 執筆者の写真: くりた内科・内視鏡クリニック
    くりた内科・内視鏡クリニック
  • 11月9日
  • 読了時間: 12分
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肝機能に異常がある・肝臓の数値が高いと言われたら…


沈黙の臓器が示す唯一の SOS



この沈黙を破り、深刻な事態になる前に早期に介入するための、最も重要で客観的なシグナルこそが、定期的な健康診断や人間ドックで指摘される血液検査の異常値です。肝臓病の早期発見・早期治療の鍵は、症状が出る前にこの数値の変化を捉え、専門的な評価を受けることにあります 。



専門医からの警告:ALT 30 U/L の重要性


くりた内科・内視鏡クリニックでは、最新の医学的知見に基づいた診療基準を採用しています。従来の血液検査の基準値は「病気ではない状態」を示すものとして設定されていましたが、近年の研究により、従来の基準値内であっても肝臓の異常が潜んでいるリスクが指摘されています。


この点に関して、日本肝臓学会が 2023 年に発表した「奈良宣言 2023」は、予防医学的な観点から非常に重要です。この宣言では、ALT(アラニン・アミノトランスフェラーゼ、旧称 GPT)値が 30 U/L を超えている方は、肝臓に脂肪肝や慢性肝炎が隠れている可能性があるため、かかりつけ医などの医療機関を受診するよう強く呼びかけています 。


従来の人間ドック基準では、ALT は 43 IU/L 以下(施設によっては 30 U/L 以下)が正常とされていましたが、当クリニックではこの 30 U/L という閾値を重視しています 。これは、たとえ自覚症状が全くなくても、このレベルの異常が将来的な肝疾患の予後を左右する可能性があるという最新のエビデンスに基づいています。この基準を明確に提示し、早期受診を促すことは、患者様の長期的な肝臓の健康を守る上で極めて重要であると考えています。




このようなお悩み・症状はありませんか?


健康診断で肝機能異常を指摘された方々、あるいはご自身の生活習慣に不安を抱えている方々が、受診の必要性を判断するための具体的なお悩みやリスク要因を提示します。



自覚症状に乏しい肝臓の SOS


肝臓の病態が軽い時期、例えばアルコール性脂肪肝や初期の代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)の段階では、特異的な症状はほとんどありません。しかし、以下のような非特異的な症状は、肝機能の異常が始まったサインである可能性があります。


  • 慢性的な全身倦怠感や疲労感

    理由もなく体がだるい、寝ても疲れが取れない 。


  •  消化器系の不調

    胃腸の調子が優れない、食欲がない、右の肋骨の下あたりが張る、または重い感じがする 。


これらの症状が続く場合、進行期に至る前の肝機能の SOS である可能性があります。病態が進行し肝硬変に達すると、これらの症状に加え、黄疸、腹水、全身の浮腫(むくみ)、手のひらの紅斑(手掌紅斑)、あるいは意識障害(肝性脳症)などが認められるようになります 。



健康診断の結果で指摘された異常値


肝臓の異常を最も客観的に示すのは、以下の血液検査結果です。


  • トランスアミナーゼの高値

    AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTP のいずれか、または複数が基準値を超えて高い 。特に ALT が 30 U/L を超えている場合は要注意です 。


  •  血小板数の減少

    血液中の血小板は通常、止血作用を持ちますが、肝臓の線維化が進み肝硬変に近づくと、血小板の破壊が増えるなどの理由でその数が減少します。血小板数が 10 万/μL 以下である場合、高度な肝線維化や肝硬変の可能性が高くなります 。



生活習慣上のリスク要因


血液検査値に異常がなくても、以下の生活習慣上のリスクを持つ方は、肝疾患が進行している可能性があります。


  •  日常的な多量飲酒習慣

    特に 1 日に純エタノール換算で 40g(女性やアルコールに弱い方)から 60g(男性)以上の飲酒を常習的に行っている方 。


  • メタボリックシンドロームの合併

    肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症(高コレステロール血症や高トリグリセリド血症)の診断を受けている方は、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)や代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)を発症するリスクが極めて高いとされています。




当クリニックで診療できる主な肝疾患とその進行:線維化の危険性


肝臓病は、単一の疾患ではなく、脂肪の蓄積から炎症、そして線維化を経て、最終的な肝硬変に至る連続的な病態として理解されます。この病態の進行を正確に把握し、特に線維化の段階を食い止めることが、予後改善のための最重要課題となります。



代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(Metabolic Dysfunction Associated Steatotic Liver Disease: MASLD)


MASLD は、従来の非アルコール性脂肪肝(NAFLD)から名称が変更された疾患で、アルコール摂取以外の原因(主に肥満、糖尿病などの代謝異常)で肝臓の細胞内に過剰に脂肪が蓄積した状態を指します。これは、主に過食、運動不足、肥満、糖尿病などの生活習慣病と密接に関連しています。MASLD 自体は比較的予後の良い病態とされてきましたが、放置すると次に述べる炎症性病態である MASH へと進行する可能性があります。治療の基本は、食事制限と運動を中心とした生活習慣の改善であり、これにより肝臓内の脂肪を減少させることが期待されます。



代謝機能障害関連脂肪肝炎(Metabolic Dysfunction Associated Steatohepatitis: MASH)


MASH は、MASLD から進行し、単なる脂肪の蓄積に留まらず、肝細胞の破壊を伴う「炎症」と、修復プロセスの中で生じる「線維化」が発生している状態です。従来の名称は NASH(非アルコール性脂肪肝炎)でしたが、代謝機能障害との関連性がより明確になったことから、MASH へと変更されました。この線維化こそが MASH の最も危険な特徴です。MASLD が良性の脂肪肝であるのに対し、MASH は肝硬変や肝がんへと進行するリスクが非常に高い、慢性的な肝炎です。


エビデンスに基づき、MASH/MASLD(旧 NASH/NAFLD)の予後を規定する最も重要な病理学的所見は肝線維化の程度であることが確立されています 。肝線維化が進行すると、全死亡率および肝疾患関連死亡率のいずれもが強く上昇することが示されています 。したがって、MASH 診療の核心は、線維化の存在を早期に発見し、その進行度を正確に評価し、進行を抑えるための治療介入を行うことにあります。



アルコール性脂肪肝


アルコール性脂肪肝は、長期間にわたる過剰な飲酒が原因で肝臓に脂肪が沈着した状態です。アルコールは肝臓で分解される過程で中性脂肪の合成を促進し、その分解を抑制するため、脂肪が蓄積します。過剰な飲酒の目安として、一般的に 1 日に純エタノール換算で 60g 以上(日本酒なら約 3 合、ビールなら大瓶約 3 本、焼酎なら約 2 合)を常習的に摂取することが基準とされています 。ただし、女性や遺伝的にアルコール分解能力が低い方では、1 日 40g 程度でもアルコール性肝障害を発症するリスクがあることが指摘されています 。この段階で断酒をすれば、脂肪肝は速やかに改善する可能性が高いです。



アルコール性肝障害(Alcoholic Liver Disease: ALD)


ALD は、アルコール性脂肪肝だけでなく、アルコール性肝炎、線維症、そしてアルコール性肝硬変を含む、アルコールが原因で引き起こされる広範な肝疾患の総称です。急性アルコール性肝炎として発症した場合、飲酒を止めても肝機能の改善が見られず、腎不全や肝性脳症などの重篤な合併症を引き起こし、短期間で命に関わる状態に陥ることもあります 。


ALD の正確な診断には、以下の 3 つの条件を満たすことが必要です 。


  1. 肝機能異常が認められること。

  2. 過剰な飲酒歴が確認できること(患者様本人の申告だけでなく、客観的な評価として家族や第三者からの聴取も重要となります) 。

  3. B 型肝炎や C 型肝炎、自己免疫性肝炎など、アルコール以外の原因による肝障害が除外されること 。


アルコール性肝障害の治療は、病型や重症度にかかわらず、**断酒(アルコール摂取の完全停止)**に尽きます。断酒が継続できれば、肝機能の改善が期待できます 。



肝硬変(Liver Cirrhosis)


肝硬変は、慢性肝疾患が進行した結果、肝臓の構造が広範囲にわたり破壊され、硬い線維組織が異常に増殖し(線維化)、肝細胞が再生しようとして結節(再生結節)を形成した、基本的に不可逆的な病態です 。


肝硬変が進行すると、肝臓の本来持つ解毒作用やタンパク合成能力が大きく低下します。全身倦怠感、女性化乳房、手掌紅斑などが現れ 、さらに病態が進行すると、腹水や浮腫、黄疸、消化管出血(食道・胃静脈瘤破裂)、そして肝性脳症(意識レベルの低下や認知機能の異常)といった重篤な合併症を引き起こします 。肝硬変は初期には無症状であることが多いため、定期的な健康診断と超音波検査による早期のスクリーニングと進行度の確認が極めて重要となります 。




当クリニックで施行可能な検査:正確な診断のための非侵襲的アプローチ


くりた内科・内視鏡クリニックでは、肝臓の機能異常だけでなく、予後を左右する最も重要な因子である「線維化のリスクと進行度」を評価するため、血液検査と腹部超音波検査を組み合わせて、多角的に診断を行います。これにより、患者様に負担の少ない非侵襲的な方法で、肝臓の健康状態を正確に把握します。


血液検査:肝細胞の破壊と機能、線維化の数値化


肝機能の基礎評価(AST, ALT, γ-GTP)

これらのトランスアミナーゼは、肝細胞の破壊や胆汁の流れの異常を示す基本的な指標です。


  •  ALT (GPT)

    主に肝細胞内に多く存在し、肝細胞が破壊されると血液中に漏れ出し高値を示します。ALT が高値である場合、肝炎や脂肪肝の可能性が高いと判断されます 。先述の通り、当クリニックでは日本肝臓学会の提言に基づき、ALT 30 U/L 超を早期受診の目安として推奨しています 。


  •  AST (GOT)

    ALT と同様に肝細胞の破壊を示しますが、心臓や筋肉にも存在するため、ALT と合わせて評価されます 。 


  • γ-GTP

    肝臓や胆管に多く存在する酵素で、アルコール摂取過多や脂肪肝、または胆汁の流れが滞る(胆汁うっ滞)ことで高値となります 。



肝線維化マーカーによる進行リスク評価

肝臓の硬さ、すなわち線維化の進行度は、肝疾患の予後を決定づける最重要因子です 。当クリニックでは、非侵襲的に線維化の進行度を推定するため、以下の血液マーカーを測定し、進行リスクを詳細に評価します。


  •  血小板数 (Plt)

    肝線維化が進み門脈圧が上昇すると、脾臓が腫大し、血小板の破壊が増えるなどの理由で数が減少します。血小板数が 10万/μL 以下は、進行した線維化や肝硬変の可能性を示す重要なサインとなります 。


  •  コラーゲン代謝マーカー

    ヒアルロン酸、IV 型コラーゲン 7S、タイプIII プロコラーゲン-N-ペプチド(P-III-P)などがこれにあたります。これらは線維組織を構成するコラーゲンの生成や分解の活動性を反映しており、これらの値が高い場合は、肝臓内で線維化が活発に進行していることを示します。特にヒアルロン酸は、肝疾患や肝硬変で分解されにくくなるため、線維化の指標として用いられます 。


以下の表に、主要な肝機能マーカーとその臨床的意義をまとめます。


Table 1: 主要な肝機能マーカー(トランスアミナーゼ)とその臨床的意義

検査値名

役割

くりた内科が推奨する受診基準(ALT)

高値で疑われる主な疾患

AST(GOT)

肝細胞の破壊、心臓などにも存在

38 IU/L 超(基準範囲は 8~38 IU/L)

肝炎、脂肪肝、心筋梗塞など

ALT(GPT)

主に肝細胞の破壊を反映

30 IU/L 超 (奈良宣言 2023 による)

肝炎、脂肪肝(MASLD/MASH)


γ-GTP

肝臓・胆管の酵素

男性 86 U/L 超、女性48 U/L 超

アルコール性肝障害、脂肪肝、胆道系疾患


非侵襲的な肝線維化リスク評価:FIB-4 Index


FIB-4 Index は、肝線維化のリスクを迅速かつ定量的に評価するための非常に有用なスコアリングシステムです。これは、特別な検査機器を必要とせず、日常の血液検査で得られる 4 つのデータ(年齢、AST、ALT、血小板数)を計算式に代入するだけで算出できます 。


このスコアリングシステムを導入することで、特に MASH が疑われる患者様において、肝硬変への進行リスクを初期段階で迅速にトリアージすることが可能となります。FIB-4 Index が高い数値を示す場合、線維化が進行している危険性が高いことを意味し、より詳細な画像診断や専門医療機関への連携が必要となります 。


当クリニックでは、この FIB-4 Index を活用し、リスクに応じた適切な経過観察や次のアクションを判断します。


Table 2: FIB-4 Index による肝線維化リスク評価(目安)

FIB-4 Index スコア

リスクカテゴリ

臨床的意義と推奨行動


1.3 未満

低リスク

肝臓が硬くなっている可能性は低い。生活習慣指導を継続 。

1.3~2.66

中リスク

肝線維化が進行しつつある可能性。かかりつけ医による経過観察と詳細検査が必要 。

2.67 以上

高リスク

高度線維化または肝硬変の危険性が高い。速やかに肝臓専門医療機関への受診を推奨 。




腹部超音波検査(腹部エコー):形態評価と線維化の確認


血液検査が肝臓の「機能」や「活動性」を数値で捉えるのに対し、腹部超音波検査(エコー)は、肝臓の「形態」や「構造」の変化を直接観察する、非侵襲的で重要な画像検査です。


超音波検査では、放射線被曝の心配がなく、繰り返し安全に施行できます。この検査により、以下の重要な情報を得ることができます。


  • 脂肪沈着の程度:肝臓にどの程度脂肪が蓄積しているかを確認します。

  • 構造的変化:肝臓の大きさや形、表面が滑らかであるか(正常)あるいは凹凸しているか(肝硬変の特徴的な所見)を確認します 。

  • 線維化のサイン:肝硬変の診断や進行度を評価する上で、再生結節の有無や肝臓の硬さの程度を間接的に評価します 。

  • 血流の状態:門脈や肝静脈などの血流状態を確認し、門脈圧亢進症(肝硬変の合併症)の兆候を捉えます 。


血液検査で高リスク(特に FIB-4 が高値)と判断された患者様に対し、腹部超音波検査を組み合わせることで、肝線維化や肝硬変への進行度を、生検(バイオプシー)のような侵襲的な手段を取ることなく、高い精度で診断することが可能となります。




肝機能に異常がある・肝臓の数値が高いと言われたら…


肝臓病は、初期段階で症状が現れにくいため、自己判断で検査結果を放置することが最も危険な行為です。沈黙の臓器が発する血液検査の異常値は、病気が不可逆的な段階に至る前に治療を開始するための、唯一無二の早期警告サインなのです 。


くりた内科・内視鏡クリニックでは、この早期警告に迅速かつ正確に対応するため、最新のエビデンスに基づいたスクリーニング体制を確立しています。


当クリニックへご相談いただきたい方々

  •  健康診断で ALT 30 U/L 以上の異常値を指摘された方 。

  •  AST、ALT、γ-GTP のいずれかの数値が高いと言われた方 。

  •  脂肪肝(MASLD/MASH を含む)と診断されたが、その後、特に治療や経過観察を行っていない方。

  •  日常的に飲酒量が多く、肝臓の状態に不安を感じている方。


当クリニックでは、非侵襲的な血液検査に加え、FIB-4 Index を用いた肝線維化リスクの迅速な評価 、そして肝臓の形態を詳細に把握する腹部超音波検査を組み合わせて、高精度な診断を提供いたします。これにより、MASLD/MASH(脂肪肝)から肝硬変への進行リスクを早期に特定し、生活指導や薬物治療など、最適な医療介入を行います。


肝機能に異常があると言われたにもかかわらず受診を迷われている方は、進行する前にぜひ健康診断の結果をお持ちの上、くりた内科・内視鏡クリニックにご来院ください。専門的な診断と継続的なフォローアップを通じて、あなたの肝臓の健康を全力で守り、高リスクと判断された場合には、地域の専門医療機関との連携により、迅速かつ適切な次のステップへご案内いたします 。


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