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バレット食道について解説


1. バレット食道とは


定義と概要


バレット食道は、正常な食道扁平上皮が円柱細胞に置き換わることを特徴とし、円柱上皮化生(胃上皮化生と腸上皮化生を含む)とも呼ばれます。バレット食道が全周性に3cm以上認められるものをlong-segment Barrett esophagus(LSBE)、それ以下のものはshort-segment Barrett esophagus(SSBE)と定義されます。欧米においてバレット食道を有 する患者は、生涯で食道腺がんを発症するリスクが約3~5%であるといわれています。近年、日本においても逆流性食道炎や胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)症状を有する患者が増加しており、食生活の欧米化や肥満の増加、ヘリコバクター・ピロリ菌感染率の低下などの社会的背景の変遷に伴い、バレット食道および食道腺がんの増加が懸念されております。

健康な食道粘膜との違い(扁平上皮と円柱上皮)

健康な食道粘膜とバレット食道の違いは、食道粘膜が扁平上皮であるのに対し、バレット食道粘膜は円柱上皮と言って胃粘膜と同類の粘膜になります。内視鏡でみると一目瞭然で色味が異なります。バレット食道は食道腺がんの発生母地となります。


 

2. バレット食道の原因


バレット食道の主な原因逆流性食道炎(GERD)と言われております。米国の白人のように腹圧が強い場合に、胆汁を含む胃液の強い逆流が起こり、食道に炎症と慢性的な組織傷害を起こすことで発症します。その他、高齢、白人、喫煙者、肥満があるとバレット食道の有病率が高くなることが報告されています。


 

3. 症状


一般的にGERD症状を有する患者でバレット食道の有病率が高いことが知られていますので、代表的な症状は、胸やけ嚥下障害となります。その一方で2021年の報告によりますと、GERD症状を有する患者のうちバレット食道が認められたのはたった7.2%のみでした。ということは、GERD症状の有無だけではバレット食道の存在を判断することはできないということになります。むしろ無症状の場合にはバレット食道が発見されにくいというリスクがあります。 


 

4. 診断方法


前述のとおり、バレット食道は無症状のことも多く、発見するためには内視鏡検査(胃カメラ)を受けていただくしかありません。内視鏡所見だけでもある程度の診断は可能ですが、確定診断は内視鏡時に生検で組織を採取することによる病理診断で行います。


症状が軽度な場合でも検査を受けるべき理由

バレット腺癌早期発見のため内視鏡検査は、欧米では2~5 年ごとの検査間隔が推奨されています。わが国では内視鏡検査へのアクセスがよいので、逆流性食道炎の経過観察や定期検診での内視鏡を活用して欧米より短い間隔での年に1回程度の定期的な内視鏡サーベイランスが可能です。症例ごとの発がんリスクを念頭に置いた長期的な管理をしっかりと行っていくことが重要と考えております。


 

5. 治療法


バレット食道はその病変の距離が長いほど発がんリスクが高くなることが知られています。このため、治療目標はバレットの進展予防と発がん予防となります。欧米では異型上皮を伴うバレット食道に、内視鏡を用いた焼灼や凍結治療が行われ、バレット食道そのものの消失を目指した治療が行われていますが、わが国ではプロトンポンプ阻害薬(PPI)での逆流性食道炎のコントロールによる進展予防・発がん予防が主軸になります。その他、食事はゆっくり噛んで食べていただく、食後すぐに横にならないなどの胃内容の逆流を防ぐ生活指導も重要です。


 

6. 合併症とリスク


バレット腺癌(食道腺癌)への進展リスク

食道腺癌は胃食道逆流症による下部食道の持続的な炎症に起因するバレット上皮がその発生母地として知られています。大規模な症例対照研究やメタ解析から、胃食道逆流症は、食道腺癌の発生リスクが5~7.7倍高いことが示されています。また、バレット食道を有する症例において、喫煙の併用は腺癌のリスクを2.08倍増加させることも分かっています。ヒトパピローマウイルス感染もバレット異形成のリスクを2.94倍、 食道腺癌のリスクを2.87倍増加させます。一方、日本人に多い食道扁平上皮癌でのリスク因子である飲酒 は、食道腺癌のリスクとは関係がないことが示されております。その他肥満も食道腺癌の発症リスクと関連していますが、肥満の中でも全身性の肥満ではなく、むしろ腹部の脂肪過多による肥満(内臓脂肪の多い方)と関連しており、バレット食道のリスクを 1.98 倍、食道腺癌のリスクを2.51倍増加させると言われています。


炎症や潰瘍の長期的影響

バレット食道に伴う逆流性食道炎が長期的に炎症と治癒を繰り返していると食道狭窄を来たし、食べ物が通過しなくなり、食事が摂取できなくなることがあります。長期間の炎症が将来的な発がんにつながることもありますので、早めに炎症を抑える治療をお勧めします。


 

7. 予防策


胃食道逆流症の管理

慢性的に胃食道逆流が起きると食道粘膜が胃酸に晒されて、炎症が持続します。これがバレット上皮の悪化に結びつきますので、胃食道逆流がないようにすることがとても重要となります。


食生活や生活習慣の見直し

食生活や生活習慣を見直すことで胃食道逆流の改善が可能です。

過食により胃内容増加することで胃内圧が上昇するためより胃食道逆流が起きます。高脂肪食、アルコール摂取、は十二指腸からコレシストキニンというホルモンを分泌し、食道と胃のつなぎ目の筋肉を緩めますので胃食道逆流が起きやすくなります。喫煙習慣も食道と胃のつなぎ目の筋肉を緩めます。食後すぐに臥位になると胃食道逆流が起こりやすくなります。就寝時姿勢に関しても頭部挙上での就寝により胃食道逆流は起こりにくくなります。


定期的な内視鏡検査の推奨

バレット上皮で一番の問題点は発がんです。バレット腺癌も早期発見できれば内視鏡治療で完治します。早期発見には内視鏡検査が不可欠です。年に一度の胃カメラ検査をお勧めします。


 

8. 早期発見の重要性


症状が軽度でも検査を受けるべき理由

症状が軽度でも深刻な病状のこともありますし、全く別の疾患があるかもしれません。自己判断ではなく早めに病院を受診いただき、適切な診断を受けることをお勧めします。

早期診断と治療が予後に与える影響

先ほども述べましたが、何事も早期診断できれば治癒も早いです。逆に診断が遅れると命に係わることもございます。


 

9. おわりに


健康管理における食道疾患への意識向上の重要性

現状、日本において食道がんに占める食道腺がんの割合は低く(扁平上皮がんが多いため)、一般的な認知度は高くありません。しかし、欧米を中心に食道腺がんは増加しており、がんは日本人の死因別死亡率の第1位であることから、今後日本における食道腺がん患者が増加する可能性は大いにあります。

バレット食道および食道腺がんの危険因子についての研究は世界中で進められていますが、バレット食道から食道腺がんへ進行する患者さんの特徴や、食道腺がんの予防などは未だに統一の見解が得られておらず、不明な点も多くあります。その一方で、バレット食道の危険因子として肥満や喫煙などの生活習慣素因が挙げられており、それらを心がけて日常生活を送ることも重要であると考えます。




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