1. はじめに
お腹が痛い原因はさまざま
腹痛は内科外来の患者の訴えのなかで発熱に次いで多い主訴となります。その病態は軽症から重症と幅広く軽症の場合も多いですが、急性腹症のように重症で緊急性の高い疾患もあります。また、腹痛を訴える疾患のなかには消化器疾患以外にも婦人科疾患や心疾患、大動脈疾患、代謝性疾患、泌尿器疾患、皮膚疾患などの腹腔外臓器疾患など多岐にわたります。これらのなかには迅速な対応が必要な場合もありますが特有の腹部所見がないことも多く見逃される可能性もあります。
自己判断のリスクと専門的な診断の重要性
まだそれほど痛みが強くないので様子を見ようと自己判断し、その後さらに痛みが増悪することはよくあります。また、消化器が専門ではない一般内科外来や救急外来を受診し軽症と判断され帰宅した患者のなかには、症状が悪化して迅速な処置が必要になるケースもあります。是非当クリニックを含めた消化器の専門施設を受診ください。
2. お腹の痛みの主な原因
代表的な腹痛をきたす疾患と部位を図1に示します。痛みの部位から類推する臓器と疾患を考えます。
2-1. 消化器系の疾患
胃炎や胃・十二指腸潰瘍をはじめとして、逆流性食道炎や腸炎、過敏性腸症候群、腸閉塞、憩室炎、虫垂炎、胆のう炎、膵炎など
2-2. 日常的な要因
ストレスと生活習慣:ストレスが重なるとストレス性胃潰瘍など
食生活の乱れ
2-3. その他の疾患の可能性
卵巣捻転や異所性妊娠、卵巣出血、卵管炎などの婦人科系疾患
尿管結石などの尿路疾患
大動脈解離、大動脈瘤、血栓症などの血管疾患
糖尿病性ケトアシドーシスなど
3. 腹痛の種類
腹痛の緊急性を判断する際には、腹痛の発生メカニズムを理解しておく必要があります。腹痛にはその発生機序から、内臓痛、体性痛、関連痛の3種類に分類されます。
1.内臓痛
内臓痛は胃・腸・胆嚢などの臓器の腹膜の過伸展、拡張、収縮などにより生じる痛みとなり、痛みの局在がはっきりしない鈍痛で周期的(間欠的)な痛みです。内臓痛は歩行や体動により軽快することも多いです。
2.体性痛
腹膜刺激による痛みで、壁側腹膜や腸問膜に炎症が波及することにより生じます。体性痛は突き刺すような激しく鋭い痛みとなり、持続的で場所が限局しているのが特徴です。体動や咳をすることなどで増悪します。
3.関連痛
放散痛とも呼ばれ、病変部位から離れた部位に感じる痛みです。関連痛は内臓痛を伝える知覚神経と皮膚の痛みを伝える知覚神経とが同じ脊髄後角に入り、内臓痛を皮膚の痛みとして感じるものとなります。胆石症でみられる右肩痛と背部痛などがあたります。
痛みの例)
心窩部痛に伴い左肩に放散する痛みがあれば急性心筋梗塞や狭心症を疑います。
激しい腹痛とともに背部痛や冷汗を認めた場合には大動脈解離などを疑います。
不整脈のある患者の激しい腹痛を診察したときは上腸間膜動脈血栓症などを疑います。
患者が女性の場合には子宮外妊娠、卵巣茎捻転、卵巣出血を、男性の場合には精巣捻転などの生殖器疾患も鑑別に挙げます。
これらの疾患は緊急処置が必要となることも少なくないため、疑われた場合には専門医に依頼することが必要です。
4. 痛みを和らげる即効性のある方法
痛みを和らげる即効性のある方法は、原因疾患により対処方法が異なります。
逆流性食道炎では体重を減らすこと、食後にすぐに横にならないこと、背中を丸めないことなどがあります。胃酸分泌抑制薬や消化管運動促進薬で症状が軽くなることも特徴です。
胃・十二指腸潰瘍と急性胃炎では、原因がその時飲んでいる薬剤のことも多く、疑わしい薬剤を減量・中止することで症状が落ち着きます。
機能性胃腸症はストレスに対する対応で落ち着くこともあります。
過敏性腸症候群の場合は不安症状の合併も多く、不安の軽減が腹痛改善につながることも多いです。
4-1. 温める(お腹を温める方法とその効果)
お腹が冷えると交感神経が活発になるため腸の血流や動きが悪くなり、便秘がちになります。また、お腹の冷えは免疫細胞の活動も低下します。免疫細胞の大半は腸に存在します。これら免疫細胞の活動が低下すると抵抗力も弱くなるため感染症にかかりやすくなります。
お腹を温める方法は、1.外から温める、2.温めるものを食べる、3.冷たい食事・飲み物を控える、が重要です。
4-2. おすすめの飲み物・食べ物
胃腸にやさしいもの(生姜湯、スープなど)
生姜や山椒などは体を温める効果があります。温かいスープなどもカラダの内側から熱を与えて内臓の血流を良くしますのでスープに根菜類や生姜などの温める食材を入れると、さらに効果的です。
避けるべき食品
腹痛がある時は揚げ物、ナッツ類、チーズ、アルコールなどは避けた方がよいでしょう。
腸が膨らむ繊維質の多い野菜も腹痛が悪化する危険がありますので控えてください。
4-3. 正しい姿勢と休息の取り方
腹痛の時は一般的に前傾姿勢をとると腹部の筋肉の緊張が取れてましになります。膝を抱えて腰を丸めた姿勢がお勧めです。お腹にカイロを貼るのも有効です。
5. 症状別の対処法
5-1. 急な下痢の場合
腹痛とともに急な下痢を起こした場合は脱水の危険があります。水分を多めに摂取するように心がけてください。その際には冷たい飲み物はお腹によくないので、ぬるめの水分を摂りましょう。電解質も補給できる経口補水液がお勧めです。
5-2. 便秘による痛みの場合
便秘による腹痛では水分摂取や食物繊維摂取が有用とされます。食物繊維には水溶性と不溶性があり、不溶性食物繊維は便秘のタイプでは摂取により便秘が悪化することもありますので適切な指導が必要です。便秘全般にはキウイフルーツやプルーン、リンゴやキャベツ、海藻などの水溶性食物繊維が有用とされます。
5-3. 突発的な強い痛みの場合
突発的な強い痛みの場合は急性腹症の可能性があります。手術などの迅速な対応が必要な場合もありますので、速やかに医療機関を受診してください。
6. 根本的な予防策
6-1. 健康的な食生活のポイント
早寝早起きの習慣、睡眠を十分とる、食事は3食きちんと摂る、といった規則正しい生活が基本中の基本です。暴飲暴食は避け、日頃から刺激物を避けた野菜中心のバランスの良い食事を心がけていただくとお腹にもよいです。
6-2. ストレス管理の方法
ストレスは腹痛を悪化させる原因になることがありますので、メンタルケアやリラクゼーションなどでストレスを軽減させましょう。
6-3. 姿勢改善の重要性
1日30分程度ウオーキングやストレッチ、ヨガなど軽い運動を定期的に行うことでお腹の動きもよくなります。猫背や前かがみの姿勢が習慣になっていると腹痛の原因となり得ます。おなかを締め付けるきついベルトやガードルやコルセットは避けましょう。
7. 受診が必要なケース
腹痛はありふれた症状ですが、原因となる病気は種類が非常に多く、診断が難しい場合も少なくありません。繰り返す痛みや悪化する症状の場合は胃潰瘍や胃がんなどの深刻な病気の可能性があります。また、熱や嘔吐、激しい下痢を伴う場合は細菌感染による腸炎の可能性があります。
突然発症したものや、今まで経験のないような痛みの場合、手術が必要など緊急性の高い病気や命を脅かす病気である可能性があります。早めに専門家への相談いただくことで適切な治療ができます。
8. おわりに
体を健康に保つには日頃からの健康管理が重要です。
腹痛が長引いているなど少しでもおかしいと感じた際は、当クリニックへお気軽にご相談下さい。