ニキビ(尋常性ざ瘡)の真実:放置すると跡になる?
- くりた内科・内視鏡クリニック
- 9月5日
- 読了時間: 10分

ニキビは単なる肌の悩みではありません
ニキビは、医学的には「尋常性ざ瘡」と呼ばれる、思春期以降に顔や胸、背中に発症する毛包脂腺系の慢性炎症性疾患です。日本では90%以上の人が経験する非常に身近な皮膚のトラブルですが、「青春のシンボル」として軽視されがちであり、実際に医療機関を受診する患者はわずか10%に過ぎません。このような認識のずれが、ニキビを安易なセルフケアで済ませてしまう大きな要因となっています。しかし、この軽視こそが、ニキビ治療において最も避けるべき落とし穴です。
軽症に見えるニキビであっても、その内部では炎症が進行しており、放置すると永久的なニキビ跡(瘢痕)を残すリスクがあります。一度クレーター状の凹凸や赤み、色素沈着になってしまったニキビ跡は、自力での回復が難しく、専門的な治療を必要とする場合がほとんどです。この不可逆的な変化を防ぐためには、早期の段階から専門家による適切な診断と治療を開始することが何よりも重要となります。自己判断に頼ったケアや市販薬での対処には限界があり、かえって症状を悪化させたり、治癒を遅らせたりする可能性も指摘されています。
ニキビの真実:その根本原因と進行メカニズム
ニキビは、単一の原因で発生するのではなく、複数の要因が複雑に絡み合って進行する病態です。そのメカニズムを深く理解することで、表面的な対処に終わらない根本的な治療の重要性が見えてきます。ニキビ発生のプロセスは、主に4つの鍵となる段階に分解することができます。
まず、一つ目の鍵は「皮脂分泌の増加」です。思春期に活発になる男性ホルモン(アンドロゲン)は、毛穴の奥にある皮脂腺を刺激し、皮脂の過剰分泌を促します。ストレスもまた、ホルモンバランスを乱すことで皮脂分泌を活性化させる一因となります。この過剰な皮脂は、次の段階へ進むための第一歩となります。
二つ目の鍵は「毛穴のつまり(角化異常)」です。皮膚には一定の周期で細胞が生まれ変わるターンオーバー機能がありますが、このサイクルが乱れると、本来剥がれ落ちるべき古い角質が毛穴の出口に留まり、分厚くなってしまいます。過剰な皮脂と古い角質が混ざり合うことで、毛穴はまるで栓がされたように詰まってしまい、皮脂が外に排出されずに毛穴の中に溜まっていきます。この段階は、「コメド(面皰)」と呼ばれ、白ニキビや黒ニキビとして目に見える状態です。
三つ目の鍵は「アクネ菌の増殖」です。アクネ菌は、誰もが持っている皮膚の常在菌ですが、毛穴が詰まって皮脂が充満した環境は、この菌にとって発育に最適な温床となります。毛穴の奥で過剰に増殖したアクネ菌は、ニキビを炎症させる様々な物質を産生し始めます。
そして四つ目の鍵が「炎症の発生」です。増えすぎたアクネ菌に対抗しようと、体の免疫機能が活発に働きます。この免疫反応が毛穴の内部で激しい炎症を引き起こし、赤く腫れあがった「赤ニキビ」が形成されます。さらに炎症が悪化して化膿すると、てっぺんに黄色い膿(うみ)を持つ「黄ニキビ」へと進行し、毛包の壁を破壊して周囲の組織にまで炎症が広がり、深刻なニキビ跡を残すリスクが極めて高くなります。このように、ニキビは目に見えない初期段階(マイクロコメド)から始まり、徐々に悪化していく連続した病態であり、各ステージに応じた適切な治療が求められます。
科学的根拠に基づくニキビ治療の選択肢
ニキビ治療は、最新の知見と臨床ガイドラインに基づいて、適切な薬を適切なタイミングで用いることが成功の鍵となります。現在のニキビ治療の考え方は、日本皮膚科学会が策定した「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン 2023」に集約されています。このガイドラインが示す治療の原則は、「炎症を抑え、根本を絶つ『維持療法』へ」というものです。従来の治療が、赤ニキビの炎症を一時的に抑えることに主眼を置いていたのに対し、現代の治療は、ニキビの始まりである面皰を根本から治療し、再発を防ぐことに重点を置いています。
塗り薬(外用薬)の進歩
ニキビ治療の主軸となるのは、皮膚に直接作用する外用薬です。近年、この分野の進歩は目覚ましく、より効果的な治療が可能になっています。
アダパレン:毛穴のつまり(角化異常)を正常化し、ニキビの根本原因である面皰の形成を抑える作用があります。炎症を伴うニキビだけでなく、白ニキビや黒ニキビといった初期のニキビにも有効であり、炎症が治まった後の再発予防(維持療法)にも強く推奨されています。
過酸化ベンゾイル(BPO):抗菌作用と角質を剥がす作用を併せ持ち、面皰と炎症性ニキビの両方に効果を発揮します。この薬剤の最大の利点は、アクネ菌に薬剤耐性をもたらさない点にあり、抗菌薬治療の適正化に不可欠な存在です。
これらの薬剤は単独でも有効ですが、両者を組み合わせた配合剤も登場しており、面皰と炎症性皮疹の両方に高い効果が期待でき、治療の継続性も向上します。
飲み薬(内服薬)の役割と注意点
赤く腫れた炎症がひどいニキビに対しては、外用薬と併用して飲み薬(内服薬)を用いることが強く推奨されます。特に抗菌薬は、アクネ菌を殺菌し、炎症を迅速に鎮静化させる目的で用いられます。しかし、内服抗菌薬はあくまで「今ある炎症」を抑えるための対症療法であり、ニキビそのものを根本から治癒させたり、再発を予防したりする効果はありません。また、長期にわたる使用は薬剤耐性菌の増加につながるため、原則として最長でも3か月以内の使用が推奨されています。この点を理解した上で、適切に用いることが重要です。
ニキビの状態 | 推奨される主な治療法 | 治療の目的 | ガイドライン推奨度 |
面皰(白ニキビ・黒ニキビ) | アダパレン、過酸化ベンゾイル | 毛穴のつまりの改善、ニキビの根本治療と予防 | 強く推奨する/推奨する |
軽度~中等度の炎症性皮疹(赤ニキビ) | アダパレンと外用抗菌薬の併用、過酸化ベンゾイル | 炎症の鎮静化と面皰の治療 | 強く推奨する |
重度の炎症性皮疹(黄ニキビ・硬結) | 内服抗菌薬(ドキシサイクリン、ミノサイクリンなど)の併用 | 炎症の迅速な鎮静化 | 強く推奨する |
炎症軽快後(寛解維持期) | アダパレン/過酸化ベンゾイル配合ゲルなど | 再発予防のための維持療法 | 強く推奨する |
専門的な処置
塗り薬や飲み薬の治療に加えて、クリニックでは症状に応じて様々な専門的な処置も行われます。毛穴に詰まった皮脂を針で小さな穴を開けて押し出す「面皰圧出」は、初期のニキビに特に有効です。また、大きく腫れ上がった痛みを伴うニキビ(嚢腫・硬結)には、病変部に直接ステロイドを注射する局所注射が選択肢の一つとして推奨されます。
ニキビ跡の治療は、一度できてしまうと非常に難しく、保険適用外の治療となる場合が多いです。たとえば、萎縮性瘢痕(クレーター)への充填剤注射(コラーゲン、ヒアルロン酸)などは、現時点ではガイドラインでも強く推奨されておらず、保険適用外であるため、費用負担も大きくなります。これらのことから、ニキビ跡を残さないためにも、早期の専門家による治療がいかに重要であるかがわかります。

見過ごされがちなニキビの悪化要因:生活習慣と食事
ニキビは、日々の生活習慣や食事、そして心の状態とも深く関係しています。これらの要因に目を向けることは、薬による治療効果を最大限に引き出す上で不可欠です。
スキンケアの落とし穴:正しい洗顔と保湿の重要性
ニキビ肌はデリケートであり、間違ったスキンケアは症状を悪化させる最大の原因となり得ます。最も避けるべき行為は、指や爪でニキビを潰したり、膿を出したりすることです。この行為は、雑菌の侵入を招いて炎症をさらに強めたり、皮膚組織を破壊して凸凹としたニキビ跡を確実に残してしまったりします。また、ニキビを早く治そうと過剰な洗顔を繰り返すのも逆効果です。皮脂を洗い流しすぎると、肌が乾燥してバリア機能が低下し、かえってニキビができやすい状態を招きます。
正しい洗顔は、1日2回、洗顔料をしっかりと泡立てて、肌に直接手が触れないように優しく洗うことです。ぬるま湯で洗い流し、柔らかいタオルで軽く水分を拭き取ることが推奨されます。
食事とニキビの関係:科学的見地から見る真実
「チョコレートや脂っこいものを食べるとニキビが悪化する」という話は広く知られていますが、現在のところ、特定の食べ物を一律に制限しても改善するという明確な科学的根拠は不足しています。しかし、近年の研究では、ニキビと食事の関連性について、より詳細なメカニズムが明らかになってきています。
いくつかの研究では、高GI(グリセミック・インデックス)食品、つまり食後の血糖値を急激に上げる炭水化物(白米、パン、ポテトチップスなど)がニキビの悪化要因になり得ることが示唆されています。血糖値の急上昇は、インスリンレベルを上げ、これが男性ホルモンを活性化させることで、皮脂分泌を促すと考えられています。また、乳製品の中でも、特にホエイプロテインの摂取がニキビの増悪につながったとする報告も存在します。一方で、魚やえごま油などに含まれるオメガ3脂肪酸は、抗炎症作用や面皰の改善作用が報告されており、ニキビを減らす可能性が示唆されています。このように、食事とニキビの関係は単純ではなく、個々の体質や食事内容を総合的に見ることが大切です。
ストレスと睡眠の深い関係:肌の健康は体調から
ニキビは、肌の表面だけの問題ではなく、体の内側、特に自律神経やホルモンバランスとも深く結びついています。ストレスは、コルチゾールというストレスホルモンを増加させ、これが皮脂腺を刺激して過剰な皮脂分泌を促すことがわかっています。また、ストレスは自律神経のバランスを乱し、肌のターンオーバーを遅らせることで毛穴のつまりを助長します。
睡眠不足も同様に、ホルモンバランスを崩すことでニキビの悪化につながる可能性があります。睡眠中には肌細胞の修復や再生が活発に行われますが、睡眠が不足するとこの重要なプロセスが妨げられ、肌の防御力や回復力が低下します。
くりた内科・内視鏡クリニックだからできるニキビ治療
一般的な皮膚科クリニックでは、ニキビをあくまで皮膚の症状として捉え、外用薬や内服薬、専門的な処置に終始することが少なくありません。しかし、くりた内科・内視鏡クリニックでは、ニキビを単なる皮膚の悩みとしてではなく、体全体の健康状態の表れと捉え、内科的な視点からアプローチする独自の強みを持っています。
皮膚は「内臓の鏡」とも言われるように、内科的な疾患が皮膚症状として現れることは珍しくありません。たとえば、糖尿病のような内科系の疾患が隠れている場合、皮膚の症状が治りにくくなることが指摘されています。また、成人女性のニキビの場合、月経不順や多毛を伴う際は婦人科や内分泌内科での診察が推奨されることもあります。さらに、近年の研究では、腸内環境と皮膚の健康に密接な関連がある、いわゆる「腸-皮膚相関(Gut-Skin Axis)」が注目されており、腸内環境の乱れが全身の炎症を引き起こし、ニキビを悪化させる可能性も示唆されています。
このような複雑な背景を持つニキビに対し、皮膚科と内科の両方を標榜する当院では、単なる皮膚症状の治療に留まらず、必要に応じて体の内側から根本的な原因を探ることができます。もしニキビが治りにくく、他の体調不良(便秘、消化不良、ホルモンバランスの乱れなど)を伴っている場合でも、当院であれば複数の科をまたいで診察を受ける必要がなく、スムーズに連携した診断と治療を行うことが可能です。
院長である栗田亮は、大学病院や都市部の大病院で長年の臨床経験を積んでおり、その専門知識と経験を活かしながら、地域の皆様が気軽に相談できる「かかりつけ医」を目指しています。この専門性と親しみやすさを両立させた診療体制こそが、皆様に安心してご来院いただける理由です。

おわりに:ニキビ跡を残さないために、まずはご相談を
ニキビは放置すると、精神的な苦痛だけでなく、一生消えないニレーターや色素沈着といったニキビ跡を残すリスクがある慢性的な病気です。この事実を認識することが、美しく健やかな肌を取り戻すための第一歩となります。
くりた内科・内視鏡クリニックでは、最新のガイドラインに基づいたニキビ治療はもちろんのこと、食事や生活習慣、さらには体の内側の状態まで総合的に評価し、患者様一人ひとりに合わせたオーダーメイドの治療プランを提案します。単にニキビを治すだけでなく、再発を防ぎ、根本的な肌の健康を目指します。
「治らない」と諦めてしまう前に、まずは一度専門家にご相談ください。Web予約やお電話にて、皆様のご来院をお待ちしております。
