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消化性潰瘍の真実:放置できない「みぞおちの痛み」と、専門医による最新の診断・治療法

  • 執筆者の写真: くりた内科・内視鏡クリニック
    くりた内科・内視鏡クリニック
  • 9月26日
  • 読了時間: 12分

更新日:9月30日


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はじめに:ご挨拶とこの記事を読んでいただきたい方へ

くりた内科・内視鏡クリニック院長の栗田 亮です。当院は、大学病院や都市部の大病院で長年にわたり消化器内視鏡診療に携わってきた経験を活かし、地域の皆様が気軽に何でも相談できる「かかりつけ医」を目指して開業いたしました。

「みぞおちが痛い」「食事の後に胃がもたれる」といった胃の不調は、誰もが一度は経験する身近な症状かもしれません。しかし、その痛みが「消化性潰瘍」という病気のサインである可能性は少なくありません。特に、現代社会では多忙な生活やストレスが原因だと自己判断し、放置してしまう方もいらっしゃいます。

この記事では、そのような漠然とした不安を抱える皆様に向けて、消化性潰瘍とはどのような病気なのか、その本当の原因から最新の治療、そして当院が提供する苦痛の少ない内視鏡検査について、専門医の視点から分かりやすく解説します。ご自身の症状を正しく理解し、適切な一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。




消化性潰瘍とは何か? 誤解を解き、本質に迫る

よくある誤解:「ストレスで胃が痛い」は本当か?

「ストレスで胃が痛い」という言葉は、私たちの生活に深く根付いています。確かに、過度なストレスや不規則な生活、暴飲暴食、喫煙といった生活習慣が、胃の不調に複雑に影響を及ぼすことは事実です。しかし、近年の医学の進歩により、胃やみぞおちの痛みの大部分には、より明確で科学的な原因があることが明らかになっています。単なる体調不良やストレスのせいだと安易に片付けてしまう前に、その痛みの裏に隠された真の病態に目を向けることが重要です。



消化性潰瘍の正しい定義

では、消化性潰瘍とは具体的にどのような病気なのでしょうか。消化性潰瘍は、胃や十二指腸の粘膜が、胃酸や消化酵素(ペプシン)によって深く傷つき、粘膜の一部が欠損する病態です。特に、その傷が「粘膜筋板」と呼ばれる深い層まで到達している点が重要です。

多くの患者様は「胃が荒れている」という表現で自身の不調を認識されています。しかし、医学的には、胃の粘膜表面が浅く傷ついた状態は「びらん」と呼ばれ、自然に治ることが多いのに対し、潰瘍はそれよりもはるかに深い傷を意味します。この「傷の深さ」が、単なる胃炎やびらんと潰瘍を区別する最も重要な点です。潰瘍は、表面的な傷とは異なり、出血や穿孔といった命に関わる重篤な合併症を引き起こすリスクを内包しています。この病態を正しく理解することは、適切な医療機関での診断と治療の必要性を認識する上で不可欠です。




消化性潰瘍の二大原因:ピロリ菌と鎮痛薬

ヘリコバクター・ピロリ菌:潰瘍の主要因

現代医学において、消化性潰瘍の最も主要な原因の一つが、ヘリコバクター・ピロリ菌(以下、ピロリ菌)の感染であることは、科学的にも確立されています。ピロリ菌は胃の粘膜に生息するらせん状の細菌であり、その感染は慢性胃炎や胃潰瘍、さらには胃がんの原因にもなります。

ピロリ菌が粘膜に張り付くと、毒素や酵素を放出し、胃の粘膜に慢性的な炎症を引き起こします。これにより、胃の防御機能が徐々に低下し、胃酸の攻撃を受けやすくなります。防御機能が弱まった粘膜は、普段は問題にならない程度の胃酸によっても損傷を受け、やがて深い潰瘍へと進行してしまうのです。飲み薬による除菌治療が確立された現在、ピロリ菌感染が原因の潰瘍は、除菌に成功すれば再発率を大幅に低下させることが可能です。



鎮痛薬(NSAIDs):高齢化社会で増加する原因

ピロリ菌と並ぶもう一つの大きな原因が、非ステロイド性抗炎症薬、通称NSAIDs(エヌセイズ)です。これらは、風邪薬、頭痛薬、関節痛の薬など、医療現場でも市販薬としても広く用いられている解熱・鎮痛・抗炎症薬の総称です。脳梗塞や心筋梗塞の予防に用いられるアスピリンも、NSAIDsの一種です。

NSAIDsは、痛みや炎症に関わる「プロスタグランジン(PG)」という物質の合成を抑えることで、その鎮痛作用を発揮します。しかし、このプロスタグランジンには「胃の粘膜を保護する」という重要な別の顔があることをご存知でしょうか。NSAIDsによってプロスタグランジンの合成が抑制されると、胃粘膜の防御力が低下するだけでなく、胃酸分泌を促進する作用も働き、胃は無防備な状態に陥ります。このように、NSAIDsは胃の防御機能を低下させ、胃酸の攻撃を強めるという二重の作用で潰瘍を引き起こしやすくなります。

高齢化社会が進み、慢性的な関節痛や持病で鎮痛薬を長期的に服用する方が増えている現代において、NSAIDsによる消化性潰瘍の比率は年々増加傾向にあります。これは、単なる病気の原因を列挙するだけでなく、個々の患者様の常用薬と健康状態を包括的に捉えることの重要性を示唆しています。普段から痛み止めを服用している方は、胃の不調が薬の副作用かもしれないという視点を持つことが、早期の受診につながる第一歩となります。




症状と見過ごせない危険なサイン

潰瘍の種類で異なる典型的な痛み

消化性潰瘍の最も一般的な症状は、みぞおちの痛みです。しかし、その痛みの特徴は潰瘍の場所によって異なります。


  • 胃潰瘍

    食事中から食後にかけて痛みが現れることが多いとされます。これは、食事をすることで胃酸が分泌され、潰瘍を刺激するためと考えられています。

  • 十二指腸潰瘍

    空腹時、特に深夜から明け方にかけて痛みが起こりやすいのが特徴です。食事や制酸剤を摂ることで、一時的に痛みが和らぐ傾向にあります。


ただし、これはあくまで典型的なパターンであり、全ての患者様に当てはまるわけではありません。中には、全く自覚症状がない方もいらっしゃいます。痛みだけでなく、胸焼け、胃もたれ、吐き気、食欲不振、倦怠感、体重減少といった非典型的な症状にも注意を払うことが大切です。



症状から見る胃潰瘍と十二指腸潰瘍の違い

項目

胃潰瘍

十二指腸潰瘍

痛むタイミング

食事中~食後

空腹時、夜間

食事の影響

痛みが悪化することがある

痛みが軽減される傾向がある

主な症状

みぞおちの痛み、吐き気、胃もたれ、食欲不振

みぞおちの痛み、吐き気、胸焼け




命に関わる合併症のサイン

消化性潰瘍の最も頻度の高い合併症は、軽度から重度の消化管出血です。潰瘍が血管を侵食すると出血が起こり、以下のような危険なサインとして現れます。


  • 吐血

    鮮血、あるいは胃酸によって変化したコーヒーの残りかすのような色をしたものを吐くことがあります。

  • タール便(黒色便)

    出血した血液が腸管内で消化され、コールタールのような黒くドロドロした便となって排出されます。


これらの症状は、体内での出血を示唆する重大な警告信号です。特に注意すべきは、出血性潰瘍の場合、痛みを伴わないこともあるという点です。そのため、動悸や息切れ、めまい、立ちくらみといった貧血症状が唯一の手がかりとなることもあります。

また、潰瘍が胃や十二指腸の壁を貫いて穴があく「穿孔」も、命に関わる重篤な合併症です。穿孔が起こると、突然の激しいみぞおちの痛みが生じ、腹部全体に広がり、腹部の筋肉が硬く板のようになる「板状硬」という状態を呈します。これらの緊急性の高い症状が夜間や休日に現れた場合は、迷わず救急外来を受診することが重要です。

症状の段階的な理解は、患者様が自身の状態を客観的に把握し、適切なタイミングで医療を求めるために非常に重要です。特に、タール便や無痛性の出血といった特定の危険信号は、緊急性の高い受診を促す明確な指標となります。痛みがないから大丈夫、という安易な自己判断は危険であることを心に留めておくべきです。




診断の鍵:当院がこだわる「苦痛の少ない」内視鏡検査

なぜ内視鏡検査が不可欠なのか?

消化性潰瘍の診断には、胃内視鏡検査(いわゆる胃カメラ)が最も確実な方法です。内視鏡検査は、バリウムによるX線検査と異なり、食道、胃、十二指腸の粘膜の状態を直接、鮮明な映像で観察できます。

さらに、内視鏡検査は診断と治療の二つの重要な役割を果たします。


  • 診断

    潰瘍の大きさ、深さ、活動性を正確に評価できます。また、同時に組織の一部を採取することで、ピロリ菌感染の有無を調べたり、潰瘍が悪性(がん)ではないことを確定したりすることができます。

  • 治療

    もし潰瘍から出血している場合、内視鏡の先端から器具を挿入し、その場で止血処置を施すことが可能です。当院では、年間50例近くの出血性潰瘍に対する止血術を実施しており、その豊富な経験から、ほとんどのケースで止血に成功しています。



患者さまにやさしい検査へのこだわり

内視鏡検査が重要である一方で、多くの方が検査に対して「苦しい」「怖い」といった不安を抱えていることを我々はよく理解しています。当院では、その不安を可能な限り取り除くため、以下の3つの工夫を凝らしています。


  • 鎮静剤の使用

    ご希望の患者様には、鎮静剤(眠たくなるお薬)を使用して検査を行います。これにより、ウトウトと眠っている間に検査が終了するため、ほとんどの方が検査中の苦痛や記憶がなく、快適に検査を受けていただけます。鎮静剤は全身麻酔とは異なり、呼吸が止まるような深い眠りではないため、安全性が高い手法です。

  • 二酸化炭素(CO2)送気の活用

    内視鏡検査では、胃のひだを広げて細部まで観察するために、空気を送気する必要があります。通常は空気が用いられますが、当院では体内に速やかに吸収される二酸化炭素(CO2)ガスを使用しています。これにより、検査後にお腹が張る、ゲップが出る、といった不快感が大幅に軽減されます。

  • 経験豊富な内視鏡専門医

    検査の快適さは、使用する機器だけでなく、検査を担当する医師の技術や熟練度によって大きく左右されます。当院の院長は消化器内視鏡学会の専門医であり、患者様の負担を最小限に抑えるよう、細心の注意を払って検査にあたっています。


当院が「苦痛の少ない内視鏡検査」にこだわるのは、単に楽に検査を受けていただくためだけではありません。検査への心理的なハードルを下げ、患者様が症状を放置せず、早期に正確な診断を受けていただくことを第一に考えているからです。鎮静剤やCO2送気といった細部にわたる配慮は、患者様の心身の快適さを第一に考える当院の姿勢を体現しています。




消化性潰瘍の最新治療と再発予防

薬物療法とピロリ菌除菌

消化性潰瘍の治療の基本は、胃酸の分泌を強力に抑制する薬物療法です。以前はH2ブロッカーが主流でしたが、現在ではより効果の高い「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」や「カリウムイオン競合型酸阻害薬(P-CAB)」が主に用いられます。これらの薬剤によって胃酸の攻撃から粘膜を守り、潰瘍が自然に治癒するのを助けます。

また、ピロリ菌感染が陽性の場合、潰瘍の再発を防ぐために除菌治療が必須となります。ピロリ菌の除菌が成功すれば、潰瘍の3年再発率は10%未満にまで低下することが報告されています。除菌治療は、通常、胃酸分泌抑制薬と2種類の抗菌薬を併用して7日間服用する三剤併用療法が標準的です。



再発を防ぐための長期的な視点

消化性潰瘍の治療は、症状が改善したからといって自己判断で薬の服用を中断してはなりません。潰瘍が完全に治癒するまでには通常4〜8週間程度の治療期間が必要であり、自己判断による中断は潰瘍の再発や悪化につながります。

また、治療の成功は、医師の技術だけでなく、患者様ご自身の生活習慣の改善にかかっている部分も大きいことを理解しておく必要があります。ピロリ菌除菌後も、喫煙、飲酒、暴飲暴食は潰瘍再発のリスクを高めます。

当院は、短期的な症状改善だけでなく、患者様の長期的な健康維持をサポートする「パートナー」でありたいと考えています。そのために、症状の有無にかかわらず、治療効果の確認と再発予防のために、定期的な内視鏡検査を継続していただくことをお勧めしています。これにより、潰瘍の完治を確認し、再発の兆候を早期に発見することが可能となります。




重要な質問にお答えします:費用と胃がん予防

消化性潰瘍の検査・治療にかかる費用

病気のことで最も気になる点の一つが費用ではないでしょうか。ここでは、保険適用(3割負担)の場合の費用目安について、透明性をもってご説明します。


  • 薬物療法:1ヶ月あたり約5,000円〜15,000円が目安です。

  • 内視鏡検査:潰瘍の診断に必要な内視鏡検査の費用は、検査内容によって異なります。

   胃カメラのみ約6,000円。

   胃カメラ+組織検査約9,000円〜12,000円。

   胃カメラ+ピロリ菌検査約10,000円。



消化性潰瘍の検査・治療にかかる費用の目安(3割負担の場合)

項目

費用の目安

胃カメラのみ

約6,000円

胃カメラ+組織検査

約9,000円〜12,000円

胃カメラ+ピロリ菌検査

約10,000円

ピロリ菌除菌療法

約5,000円

高額療養費制度の利用

自己負担限度額を超える医療費が払い戻される(月収によって上限額が異なる)

※上記は概算であり、具体的な費用は診察内容や検査の状況によって変動します。


また、出血や穿孔などの重篤な合併症で入院や手術が必要となった場合、医療費は数十万円に上る可能性があります。しかし、日本の公的医療保険には「高額療養費制度」という仕組みがあり、1ヶ月の医療費の自己負担額が一定の上限を超えた場合、その超えた分が払い戻される制度です。この制度があることで、万が一、重症化して高額な医療費がかかる事態になっても、金銭的な不安が軽減されるようになっています。重症化する前に早めに受診して治療を開始することが、心身だけでなく、経済的な負担を減らす上でも非常に重要です。



消化性潰瘍は胃がんにつながるのか?

消化性潰瘍そのものが直接胃がんに変化するわけではありませんが、その原因がピロリ菌である場合、将来の胃がんリスクが大幅に高まることが明らかになっています。ピロリ菌に感染している方は、胃がんの発症リスクが3〜6倍高いとされています。

この重要な事実から、日本では平成25年(2013年)から、ピロリ菌が原因で発症した慢性胃炎の患者様に対しても、除菌療法が保険適用されるようになりました。これは、単に胃炎を治すだけでなく、将来の胃がんを予防することを目的としています。

つまり、消化性潰瘍の治療は、単なる胃の痛みの治療にとどまらず、将来の胃がんを予防するための極めて重要な第一歩なのです。ご自身の胃の不調がピロリ菌によるものかどうかを検査し、もし陽性であれば除菌治療を行うこと、そしてその後も定期的な内視鏡検査で胃の状態を確認することが、ご自身の健康を守るための最善の選択肢と言えます。




最後に:安心・納得の医療を求めて、まずはご相談ください

消化性潰瘍は、適切な診断と治療を行えば十分にコントロールできる病気です。しかし、放置すれば、命に関わるような重篤な合併症を引き起こす可能性も否定できません。

「みぞおちの痛み」や「胃の不調」に心当たりがある方は、決して自己判断で済ませず、まずは専門医にご相談ください。

当院は、大学病院レベルの専門性と、地域の皆様に寄り添う丁寧な診療を両立することを理念としています。


  • 経験豊富な内視鏡専門医による正確な診断

  • 鎮静剤や二酸化炭素送気を用いた苦痛の少ない内視鏡検査

  • 出血性潰瘍にも対応できる緊急対応力と、高次病院との円滑な連携


これらの強みを活かし、皆様の心身の不安を和らげながら、質の高い医療を提供することをお約束いたします。

ご自身の症状について少しでも気になることがございましたら、どうぞお気軽にご来院ください。当院は完全予約制ではありませんが、Web予約もご利用いただけますので、ご活用ください。

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