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慢性的な腹痛と便通異常に悩む方へ:過敏性腸症候群(IBS)の最新病態解明と専門医による個別化治療戦略

  • 執筆者の写真: くりた内科・内視鏡クリニック
    くりた内科・内視鏡クリニック
  • 2 日前
  • 読了時間: 16分
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繰り返すお腹の不調 それは「気のせい」ではなく「過敏性腸症候群—(IBS)」かもしれません


長年にわたり、突発的な腹痛、激しい下痢、または頑固な便秘に悩まされ、「ストレスのせいだ」「気の持ちようだ」と諦めてはいませんか。職場での会議中、移動中の電車内、あるいは重要な場面で突然襲いかかるお腹の不調は、患者様の生活の質(QOL)を著しく低下させます。多くの人が、この症状を「体質」や「心の弱さ」として片付けてしまいがちですが、それは大きな誤解です。


私たちが専門とする過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome, IBS)は、最新の医学研究により、単なるストレス反応ではなく、複雑な生物学的メカニズムが関与する「病気」として定義されています。科学の進歩により、その病態は解明されつつあり、正確な診断と個別化された治療戦略によって、症状をコントロールし、QOL を回復させることが十分に可能になっています。


くりた内科・内視鏡クリニックでは、最新のエビデンスに基づき、患者様一人ひとりの症状と病態に合わせた最適な治療を提供しています。本記事では、IBS の最新の定義から、なぜ症状が起こるのかという科学的根拠、そして専門クリニックで受けるべき診断と具体的な治療法を詳しく解説します。




過敏性腸症候群(IBS)とは何か:最新の国際基準に基づく理解


機能性消化管疾患(DGBI)としての IBS の位置づけ


過敏性腸症候群(IBS)は、消化管そのものに潰瘍や炎症、腫瘍といった明らかな器質的異常が見当たらないにもかかわらず、慢性的に腹痛と便通異常を繰り返す疾患です。現在、IBS は、脳と腸が連携して行う相互作用の障害(Disorders of Gut-Brain Interaction, DGBI)の一つとして位置づけられています。これは、脳と腸の間の情報伝達に異常が生じ、わずかな刺激に対しても腸が過敏に反応してしまう状態です。



IBS 診断のゴールドスタンダード:Rome IV 基準の徹底解説


IBS の診断は、世界の消化器病専門医が共通して用いる最新の国際基準である「Rome IV 基準」に基づいて厳密に行われます。この基準は、症状の頻度、持続期間、および特徴を細かく規定することで、IBS と他の疾患とを区別するための客観的な枠組みを提供します。


Rome IV 基準によれば、IBS と診断されるためには、以下の要件を満たす必要があります。まず、腹痛が「最近 3 カ月のうち、1 週間に少なくとも 1 日以上」存在することが主要な診断要件です。さらに、その腹痛が、以下の三つの特徴のうち、二つ以上を示す必要があります。(1) 排便に関連する、(2) 排便頻度の変化に関連する、(3) 便形状(外観)の変化に関連する、の三点です。


重要な注釈として、これらの症状は、診断が下されるより少なくとも 6 カ月以上前に出現しており、かつ直近の 3 カ月間は上記の診断基準を満たしている必要があります。この「期間の要件」は、急性かつ一過性の胃腸炎やストレスによる一時的な不調と、IBS のような慢性疾患とを明確に区別するために非常に重要です。多くの患者様は、一時的な腹痛や下痢を IBS と自己判断しがちですが、専門医は、この慢性性と持続性を詳細な問診を通じて確認し、初めて IBS の正確な診断を下します。自己診断の限界を超え、正確な病態を把握するためにも、専門家による厳密な診断プロセスが不可欠となります。

Rome IV 基準の概要は以下の表にまとめられます。


過敏性腸症候群(IBS)の最新診断基準:Rome IV

症状基準

詳細

腹痛の頻度

最近 3 カ月のうち、少なくとも週に 1 日以上、腹痛があること。

腹痛の特徴 (2項目以上)

 1. 排便に関連する。 2. 排便頻度の変化に関連する。 3. 便形状(外観)の変化に関連する。

症状出現期間

 診断より少なくとも 6 カ月以上前に症状が出現し、直近 3 カ月間は上記の基準を満たしていること。


あなたの IBS はどのタイプ? 便形状に基づく四つの病型分類—


IBS の治療戦略は、便通異常のパターンによって大きく異なります。Rome IV 基準では、便形状の客観的な指標として「Bristol 便形状尺度(Bristol Stool FormScale)」を用い、IBS を以下の四つの病型に分類しています。正確な病型分類は、投薬や食事指導の戦略を立てる上での第一歩となります。


  1. 便秘型 (IBS-C)

    硬い便(コロコロ便やソーセージ状の硬便)が全排便の25%以上を占め、軟便・水様便が 25%未満の場合。


  2. 下痢型 (IBS-D)

    軟便または水様便が全排便の 25%以上を占め、硬便・コロコロ便が 25%未満の場合。


  3. 混合型 (IBS-M)

    硬便・コロコロ便と、軟便・水様便がそれぞれ全排便の25%以上を占める場合。便通異常が便秘と下痢の間で変動するのが特徴です。


  4. 分類不能型 (IBS-U)

    上記のいずれにも明確に分類されない場合.


IBS の臨床病型分類(Bristol 便形状尺度に基づく)

病型

 略称

 主な特徴

 便形状(Bristol 尺度)

便秘型

IBS-C

排便の 4 分の 1 以上が硬便またはコロコロ便で、軟便・水様便は 4 分の 1 未満。

タイプ 1,2 が優位

下痢型

IBS-D

排便の 4 分の 1 以上が軟便または水様便で、硬便・コロコロ便は 4 分の 1 未満。

タイプ 6, 7 が優位

混合型

 IBS-M

 硬便・コロコロ便、軟便・水様便がそれぞれ 4 分の 1 以上を占める。

 タイプ 1, 2 と6, 7 が混在

分類不能型

IBS-U

上記のいずれにも分類されない。

 不定




腹部の不調の科学的根拠:IBS の複雑な病態生理と最新の知見


IBS の病態は、かつて考えられていたような単なる心理的ストレスだけではなく、消化管内および消化管の微細な環境変化が複雑に絡み合って生じることが、最新の研究で明らかになっています。これらの科学的根拠を理解することが、根本的な治療につながります。



脳と腸の対話:「脳腸相関」の異常が引き起こす内臓知覚過敏


IBS の根幹をなす病態は、脳と腸が神経系、内分泌系、免疫系を介して相互に影響し合う「脳腸相関(Gut-Brain Axis)」の機能不全にあります。この連携に異常が生じると、腸管内のわずかな刺激 —例えば、ガスの発生や便による軽い伸展— に対して、 脳がそれを異常に強く認識するようになります。これが「内臓知覚過敏」であり、患者様が訴える強い腹痛や不快感の主な原因となります。



腸内環境の崩壊:腸内細菌叢(マイクロバイオーム)と IBS の密接な関係


近年、IBS 患者における腸内細菌叢(マイクロバイオーム)の構成異常、すなわDysbiosis が病態に深く関与していることが示されています。多数の研究が IBS と特定の腸内細菌との関連を検証しており、IBS 患者に多いとされる Lachnospiraceae科や Corinebacterium 属、あるいは下痢型 IBS に多い Bacteroidetes 属など、複数の菌種の増減が報告されています。


特に注目すべきは、短鎖脂肪酸(SCFA)の一種である「酪酸」を産生する細菌の減少です。一部の下痢型 IBS 患者では、この酪酸産生菌が減少していることが報告されています。酪酸は、大腸の粘膜細胞にとって主要なエネルギー源であり、腸管のバリア機能維持や抗炎症作用において極めて重要な役割を果たします。酪酸産生菌が減少すると、結果として腸粘膜の細胞が十分なエネルギーを得られなくなり、腸管のバリア機能が脆弱化します。


このバリア機能の低下は、次の病態、すなわち腸管透過性(リーキーガット)の亢進につながり、本来ブロックされるべき食物由来の抗原や、腸内細菌由来の毒素などが体内に侵入しやすくなります。この連鎖的な病態こそが、IBS が単なる機能性疾患で終わらず、慢性的な不調を引き起こす根本的な要因の一つと考えられます。



炎症という新たな視点:十二指腸の軽度炎症と腸管バリア機能の破綻


従来の IBS の定義では、炎症を伴わない疾患とされてきましたが、最新の研究では、症状が重篤な IBS 患者のサブセットにおいて、「軽度の炎症」が関与している可能性が強く示唆されています。


特に、IBS と機能性ディスペプシア(FD、胃の機能性疾患)の両方の症状を併せ持つ患者群に関する最新の研究では、十二指腸(胃のすぐ下にある小腸の最初の部分)に、好酸球やマスト細胞といった免疫細胞による軽度な炎症が存在するという強いエビデンスが示されました。これらの免疫細胞の活性化は、腸管透過性の増加(バリア機能の破綻)と関連しています。


腸管透過性が亢進することで、異物に対する免疫応答が起こりやすくなります。研究者らは、この現象が、食物成分と腸内細菌の相互作用によって小腸の免疫が活性化され、粘膜への抗原提示につながるというメカニプトを提唱しています。この局所的な炎症とバリア機能の破綻という視点は、IBS の病態をより上部消化管(結腸よりも上)から捉え直す必要性を示しており、特に食後に症状が悪化しやすい患者様の原因解明に役立つ知見です。



食事が症状を悪化させるメカニズム:FODMAPs と食物抗原の役割


日常の食事が IBS の症状と密接に関連していることは患者様の多くが実感していますが、そのメカニズムも科学的に解明されています。


FODMAPs の作用と影響

FODMAP(Fermentable Oligosaccharides, Disaccharides,Monosaccharides, and Polyols:発酵性のオリゴ糖、二糖類、単糖類、ポリオール)は、小麦、牛乳、特定の野菜や果物などに多く含まれる糖質群です。これらの成分は小腸で十分に消化・吸収されにくいため、そのまま大腸に到達します。大腸に到達した FODMAP は、腸内細菌によって活発に発酵代謝され、大量のガスが産生されます。同時に、FODMAP が腸管内の浸透圧を高めることで水分吸収が阻害され、腸管内の水分量が増加します。

この水分量の増加と、ガス産生による腸管の伸展刺激が、内臓知覚過敏の状態にあるIBS 患者の腸管を強く刺激し、下痢、腹痛、腹部膨満感といった症状の悪化につながるとされています。


食物抗原と免疫活性化

低 FODMAP 食が IBS と機能性ディスペプシアの症状緩和に有効であることが確認されていますが、興味深いことに、この食事は FODMAP を減らすだけでなく、小麦、牛乳、大豆などの一般的な食物タンパク抗原も同時に減少させることが指摘されています。また、低 FODMAP 食によって、アレルギー反応の指標の一つである尿中ヒスタミンレベルが低下することも観察されています。

これらの事実は、IBS 症状が、食物成分そのもの(FODMAPs)による物理的な刺激だけでなく、食物に含まれる抗原が小腸の粘膜免疫を活性化させることによって引き起こされているという「食物抗原仮説」を裏付けています。この複合的な病態を理解することで、IBS の治療が単なる対症療法ではなく、食生活の見直しと腸内環境の根本的な改善に向けられるべき理由が明確になります。


IBS 最新病態生理の主要因と相互作用

主要な病態要因

メカニズム

 IBS 症状への影響

脳腸相関の異常

 内臓知覚過敏の亢進

腹痛、不快感、ガスや便意の過剰認識

腸内細菌叢の異常

(Dysbiosis)

酪酸産生菌の減少、有害菌の増加

腸管バリア機能低下、免疫系への影響

FODMAPs の摂取

 浸透圧作用と細菌による発酵

水分増加(下痢)、ガス産生(膨満感、腹痛)

軽度炎症と透過性亢進

十二指腸でのマスト細胞/好酸球活性化

食後の症状悪化、食物抗原に対する反応性向上




診断の壁を乗り越える:なぜ「くりた内科・内視鏡クリニック」での精密検査が必要なのか


IBS の診断プロセスにおいて、最も重要であり、かつ患者様の安心に直結するステップは、「器質的疾患の確実な除外」です。腹痛や便通異常は IBS の典型的な症状ですが、これらはより重篤な疾患、特に大腸がんや炎症性腸疾患(IBD)の初期サインである可能性も秘めています。



見過ごしてはいけないサイン:「警告症状・徴候」のチェックリスト


IBS の診断は「除外診断」であり、症状が類似する他の深刻な病気を確実に否定することが大前提となります。もし以下の「警告症状・徴候」(Red flags)が一つでも確認された場合、それは単なる IBS ではなく、緊急性の高い器質的疾患の存在を示唆しています。この場合は、速やかに大腸内視鏡検査を含む精密検査が必要です。

くりた内科・内視鏡クリニックでは、問診を通じてこれらの警告症状・徴候や危険因子の有無を徹底的に確認し、IBS 診断アルゴリズムに基づき、内視鏡検査の必要性を判断します。


IBS ではない可能性を示す「警告症状・徴候」

警告症状・徴候 (Red Flags)

なぜ危険か

必要な対応

血便(肉眼的または潜血陽性)

炎症性腸疾患(IBD)や大腸がんの可能性

即座の内視鏡検査

意図しない体重の減少

重大な吸収不良や悪性疾患の可能性

精密検査

発熱や原因不明の貧血

炎症や消耗性疾患の可能性

血液検査および炎症部位の特定

50 歳以上での新規発症

大腸がんリスクの増加

 大腸内視鏡検査

夜間の腹痛や下痢

機能性疾患では稀な症状

器質的疾患の高度な疑い

炎症性腸疾患の家族歴

遺伝的リスクの考慮

定期的なスクリーニング



鑑別診断の重要性:IBS と似ている他の重篤な疾患の除外


腹痛や便通異常を引き起こす代表的な重篤疾患として、大腸がんや炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)が挙げられます。特に高齢で IBS と似た症状が新規に発症した場合、その便通異常は進行したがんの初期症状である可能性を否定できません。


炎症性腸疾患は、腸管に慢性の炎症や潰瘍を伴う自己免疫疾患であり、IBS とは根本的に病態が異なりますが、症状は酷似しています。これらの疾患を早期に発見し、適切な治療を開始するためには、内視鏡による腸管粘膜の直接的な確認が不可欠です。鑑別診断を確実に行うことが、患者様の生命予後を守る上で最も重要な医療行為となります。



当院の内視鏡検査の専門性:苦痛を抑えた検査体制と確実な鑑別診断


IBS の診断においては、消化管運動機能検査や内臓知覚検査、さらには MRI による脳の活性化部位の検討など、高度な機能検査が研究されています。しかし、現時点では、これらの先進的な機能検査をもってしても、IBS の「確実な診断指標」にまでには至っていないのが現状です。


この臨床的事実が意味するのは、IBS の診断の確実性を担保する基盤として、古典的ではあるが確実な手段である「器質的疾患の除外」、すなわち内視鏡検査が依然として最も重要であるということです。最新の科学が発展しても、安全と安心を確保するためには、内視鏡による直接的な確認が必要不可欠なのです。


くりた内科・内視鏡クリニックでは、患者様に安心して検査を受けていただくため、以下の体制を整えています。


  1. 消化器病専門医による診断

    経験豊富な専門医が、最新の知見と長年の経験に基づき、症状が IBS によるものなのか、それとも他の重篤な疾患によるものなのかを正確に見極めます。


  2. 苦痛の軽減への配慮

    多くの患者様が内視鏡検査に対して抱く不安や苦痛を最小限に抑えるため、ご希望に応じて鎮静剤を使用した検査を提供しています。これにより、リラックスした状態で安全かつ迅速に検査を完了できます。


  3. 詳細な観察力

    軽度の炎症や粘膜の微細な変化(例:微視的腸炎など)も見逃さない高度な観察技術により、他の疾患を徹底的に除外します。当院での内視鏡検査は、患者様の IBS 治療の最も安全かつ確実なスタートラインとなります。




IBS 克服のための多角的・個別化治療戦略


IBS の病態は複雑で多岐にわたるため、単一の薬剤やアプローチだけで完治を目指すのは困難です。治療は、患者様の IBS の病型(C, D, M)や、病態生理(知覚過敏、腸内環境、軽度炎症)に基づいた多角的かつ個別化されたアプローチが求められます。



治療の土台:生活習慣の改善と食事療法


薬物療法を始める前に、症状を悪化させる生活習慣や食事を見直し、根本的な改善を目指すことが IBS 治療の土台となります。


ストレス管理と自律神経調整

IBS の根幹が脳腸相関の異常にある以上、規則正しい生活、十分な睡眠、適度な運動による自律神経の調整は不可欠です。これらの改善は、内臓知覚過敏を和らげる効果も期待できます。


低 FODMAP 食導入の専門的指導

低 FODMAP 食は、IBS 症状の緩和に高い効果を持つことが複数のエビデンスで確認されている食事療法です。FODMAPs によるガス産生と浸透圧効果を防ぐことで、腹部膨満感や下痢、腹痛を大幅に軽減できる可能性があります。

しかし、この食事法は厳密な除去期と、栄養バランスや腸内細菌叢の維持に配慮した再導入期があり、自己流で実施すると栄養不足を招いたり、逆に症状を悪化させたりするリスクがあります。特に FODMAPs は、一部の酪酸産生菌のエサとなるプレバイオティクスとしての役割も持っているため、長期的な極端な制限は、有用な菌種の減少につながるリスクも考慮しなければなりません。そのため、専門的な知識を持つ医師や管理栄養士の指導の下で、除去と再導入のプロセスを段階的に進めることが極めて重要です。



薬物療法:IBS の病型と病態に合わせた最新治療薬の選択


IBS に対する薬物治療は、単なる腹痛止めや下痢止めといった対症療法から進化し、腸の運動機能、内臓知覚、水分分泌異常など、具体的な病態生理にターゲットを合わせた治療薬が開発されています。


下痢型 IBS(IBS-D)へのアプローチ

下痢型 IBS の治療では、主に亢進した腸の運動を抑え、内臓知覚過敏を改善する薬剤が用いられます。


  • セロトニン 5-HT3 受容体拮抗薬

    腸の運動を司るセロトニンの働きを調整し、腸の過剰な動きと内臓知覚過敏の両方を改善します。


  • 止瀉薬/整腸薬

    急性の症状に対して対症的に用いられるほか、腸内細菌叢のバランスを整える目的で整腸薬が継続的に使用されます。


  • 抗菌薬(リファキシミン)

    小腸内細菌異常増殖症(SIBO)が IBS 症状の一因となっている疑いがある場合など、腸内細菌叢全体に働きかけることで症状を改善するアプローチも選択肢として検討されます。


便秘型 IBS(IBS-C)へのアプローチ

便秘型 IBS の治療は、単なる便を出すだけでなく、腹痛の緩和も目的とします。


  • 上皮機能変容薬(例:ルビプロストン、リナクロチド)

    これらの新しいタイプの薬剤は、腸管内の水分分泌を促進し、便を柔らかくすることで排便を促します。便がスムーズに排出されることにより、腹部膨満感や腹痛の改善も期待されます。


  • グアニル酸シクラーゼ C アゴニスト

    腸管上皮の機能を改善し、腸管分泌を促進することで、蠕動運動を改善します。



補助的な治療アプローチと未来への視点


IBS の複雑な病態に対応するため、薬物治療や食事療法に加え、さらなる補助的な治療アプローチが組み合わされます。


プロバイオティクス/プレバイオティクス

腸内細菌叢の異常(Dysbiosis)が IBS の重要な病態要因であることが確認されているため、患者様の症状や腸内環境の状態に応じて、特定の有用な菌株を含むプロバイオティクスや、そのエサとなるプレバイオティクスが選択されます。特に、第 2 章で述べたように、腸管バリア機能を回復させる上で重要な酪酸産生菌を増加させる戦略は、根本治療を目指す上で重要な要素となります。


漢方薬

日本においては、IBS が自律神経や体質に深く関わる疾患であることから、個々の体質や症状(冷え、気の巡り、水分の偏在など)に合わせた漢方薬が、腹痛や便通異常の改善に有効性が報告されており、西洋医学的治療に抵抗性を示す患者様への有効な選択肢となります。


心身医学的アプローチ

脳腸相関の異常をターゲットとした治療として、自律神経の乱れや不安を軽減するための認知行動療法(CBT)や自律訓練法などが、特に難治性の IBS 患者様や心理的因子が強い患者様に有効な選択肢として推奨されています。




QOL の回復を目指して 専門医とともに進む— IBS 治療の道


過敏性腸症候群(IBS)は、長期間にわたり患者様の生活の質(QOL)を大きく損なう慢性疾患です。しかし、その病態は脳腸相関、腸内細菌叢、そして微細な炎症といった多角的な視点から解明されつつあり、適切な診断と個別化された治療戦略によって、症状を効果的にコントロールすることが可能になっています。


重要なのは、腹痛や便通異常を「気のせい」と放置せず、それが IBS の症状であると同時に、放置してはならない重篤な疾患のサインである可能性も秘めているという事実を正しく理解することです。自己判断で市販薬を使い続けることは、真の原因の特定を遅らせ、診断の機会を失う危険性があります。

症状に心当たりのある方、特に長期間にわたり症状が続き、まだ内視鏡検査による器質的疾患の除外を受けていない方は、まず「くりた内科・内視鏡クリニック」にご相談ください。


当院では、最新の国際基準(Rome IV 基準)に基づいた正確な IBS 診断と、経験豊富な消化器専門医による安全かつ苦痛の少ない内視鏡検査を通じて、あなたの症状の真の原因を確実に突き止めます。診断後は、脳腸相関の異常や腸内環境の崩壊といった最新の知見に基づき、食事指導、生活習慣の改善、そして病態に合わせた最新の薬物療法を含む多角的な治療計画を立案・実施します。専門医とともに、諦めていた快適な日常と QOL の回復を目指しましょう。


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