大腸憩室炎になりやすい人とは?コーヒー・ナッツは本当に危険か、専門医が解説
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「一度、大腸憩室炎になったことがあるけれど、何を食べてはいけないのか分からない」「健診で『大腸に憩室がある』と言われたが、自分は憩室炎になりやすい体質なのだろうか」。そんな疑問をお持ちの方へ、最新の研究データをもとに整理します。憩室炎そのものの症状や治療の流れについては当院の別記事で詳しく解説していますので、今回は「なりやすさ」と「食事の誤解」に絞ってお伝えします。
インターネットで調べると、何年も前の情報と最近の研究結果が入り混じって出てくることが多いのも、このテーマの厄介なところです。どの情報が今の標準的な考え方なのかを、出典とあわせて整理していきます。
大腸憩室炎とは(簡単におさらい)
大腸の壁にできる小さなポケットを「憩室」といい、多くは症状のないまま経過します。この憩室に細菌が入り込んだり便が滞留したりして炎症を起こした状態が「憩室炎」です。急な腹痛や発熱を伴うことが多く、症状や治療の詳しい流れは当院の別記事「大腸憩室症とは」で解説していますので、まだご覧でない方はあわせてお読みください。今回は、その先にある「なぜ人によってなりやすさが違うのか」「食事で本当に気をつけるべきことは何か」を中心にお伝えします。
大腸憩室炎になりやすい人の特徴
2025年に発表された研究では、欧米の4つの大規模追跡調査(合わせて数十万人規模)と電子カルテのデータベースを統合して解析した結果、喫煙・肥満・運動不足・食物繊維の少ない食事・赤身肉の摂取量の多さが、いずれも大腸憩室炎の発症リスクを高める独立した要因として確認されています[1]。加齢や便秘といった基本的な危険因子だけでなく、日々の生活習慣そのものが発症のしやすさに関わっているということです。
具体的な数字も報告されています。スウェーデンで約3万6千人の女性を12年間追跡した研究では、BMI30以上の肥満の方は、適正体重の方と比べて憩室疾患による入院リスクが約33%高く、1日の運動時間が30分以下の方は、活発に体を動かす方と比べてリスクが約42%高いという結果が出ています[2]。運動不足と肥満が重なると、リスクはさらに積み上がっていく可能性があります。
これらはどちらかというと、「憩室そのものができやすい」体質というより、「すでにある憩室が、炎症や出血といった合併症を起こしやすい」体質としての危険因子です。裏を返せば、生活習慣を見直すことで、合併症のリスクを下げられる余地があるということでもあります。
同じ研究では、食物繊維の摂取量が多いグループほど発症リスクが低く、赤身肉の摂取量が多いグループほどリスクが高いという関連も確認されています[1]。加工肉や脂肪の多い食事は腸内の炎症反応に影響しうると考えられており、野菜・海藻・きのこ・全粒穀物といった食物繊維源を普段の食事に増やすことが、遠回りに見えて実は理にかなった対策になります。
憩室そのものは加齢とともに増えていく病変ですが、上記の危険因子は年齢を問わず働くと考えられています。憩室炎という「合併症」を起こすかどうかは肥満・運動不足・喫煙といった生活習慣の影響を強く受けるため、「まだ若いから大丈夫」と決めつけないほうがよいでしょう。
「ストレスも原因になる」というのは本当か
憩室炎とストレスの関連を心配される方もいらっしゃいますが、ストレスそのものが憩室炎を引き起こすことを直接示した質の高い研究は、今のところ見当たりません。ただし、ストレスが強い時期に運動不足になったり、食生活が乱れたりすることを介して、間接的にリスクへつながる可能性は否定できません。「ストレスを完全になくす」ことを目指すより、上記の生活習慣(体重・運動・食物繊維・禁煙)を整えることのほうが、現実的で根拠のある対策といえます。
「ナッツ・種・コーヒーは食べてはいけない」は本当か
長年、大腸憩室炎と診断されると「ナッツ類・種子・とうもろこしは避けるように」と指導されてきました。これらの小さな食物のかけらが憩室の中に詰まり、炎症のきっかけになると考えられていたためです。
しかし、約4万7千人の男性を長期間追跡した米国の研究では、ナッツ・とうもろこし・ポップコーンをよく食べる人ほど、むしろ憩室炎や憩室出血のリスクが低い傾向にあるという結果が報告されています[3]。この研究以降、「ナッツ・種を避けるべき」という指導は医学的根拠に乏しいとされるようになり、現在では積極的に制限する必要はないという考え方が広がっています。
一方、「コーヒーが憩室炎に良くない」という話も耳にしますが、これを直接検証した質の高い研究は今のところ見当たりません。特定の飲食物を名指しで避けることに労力を使うより、次の項目で紹介する食物繊維や体重管理といった、実際にリスクを下げると分かっている要素に注意を向けるほうが理にかなっています。
「昔ながらの指導」がなぜ長く信じられてきたかというと、内視鏡検査で憩室の中に食べかすが詰まっているのが観察されることがあり、そこから「詰まったものが炎症の原因だろう」と推測されていたためです。しかし推測と実際の疫学データは別物であり、大規模な追跡調査によって、この推測は裏付けられなかったというのが現在の理解です。医学の常識は、こうして新しいデータによって更新されていきます。
お酒との付き合い方
お酒については、飲み過ぎが憩室炎のリスクに関わる可能性が指摘されていますが、少量であれば明確にリスクを上げるという強い根拠は今のところ確立されていません。「絶対にやめなければならない」というよりは、量を把握し飲み過ぎないようにする、という一般的な健康管理の範囲で考えていただければ十分です。喫煙のように明確にリスクを上げると分かっている習慣とは、現時点でのエビデンスの強さが異なる点を区別しておくとよいでしょう。
「これは避けるべき」「これは気にしなくてよい」という情報は、今後も研究が進むにつれて少しずつ更新されていく可能性があります。一度聞いた話をそのまま何年も守り続けるより、気になったタイミングで最新の考え方を確認していただくのがよいでしょう。
再発を防ぐためにできること
一度憩室炎を起こすと、再発することがあります(当院の別記事「大腸憩室症とは」では、1年で8%、5年で17%、10年で22%という再発率を紹介しています)。
再発を防ぐ、あるいはそもそも憩室炎を起こしにくくするために生活習慣として取り組めることは、特別なものではありません。食物繊維を意識して摂ること、適正体重を維持すること、日常的に体を動かすこと、禁煙することです[1][2]。「これさえ避ければ大丈夫」という単純な食事制限よりも、こうした基本を積み重ねるほうが、研究データ上は理にかなっています。
すでに何度も憩室炎を繰り返している方や、痛み・発熱が続く方は、生活習慣の見直しだけで様子を見るのではなく、一度きちんと相談していただくことをお勧めします。繰り返す頻度や間隔によって、生活習慣の見直しだけで様子を見てよい段階なのか、それとも治療の方針を見直すべき段階なのかが変わってきます。
食物繊維は、意識していないと不足しがちな栄養素です。目安として、野菜・きのこ・海藻・豆類・全粒穀物を毎食の中で少しずつ増やすことから始めると続けやすくなります。運動についても、いきなり激しい運動を始める必要はなく、日常の中で歩く時間を増やす、階段を使うといった積み重ねで十分に意味があります。禁煙については、憩室炎に限らず消化器全体の健康にとって基本となる対策です。
先に紹介した研究では、これらの因子が一つだけでなく複数重なるほど、リスクがより高くなる傾向も示されています[1]。逆に言えば、一度にすべてを変える必要はなく、食物繊維を少し増やす、歩く時間を延ばすといった一つずつの積み重ねでも、リスクを下げる方向に働くと考えられます。
よくある受診パターン
実際の診療でよく見られる経過を、いくつかの傾向としてまとめてみます。特定の患者さんを指すものではなく、複数のケースを組み合わせた一般的な例です。
健診の大腸カメラで「憩室が複数ある」と指摘されたものの、症状がないためそのままにしていた40代の方が、数年後に急な腹痛で来院し、憩室炎と診断されるケースがあります。振り返ると、指摘を受けた時点で肥満と運動不足があり、生活習慣の見直しについて相談する機会を逃していた、ということも少なくありません。
以前に「ナッツ類は食べないように」と指導された経験のある方が、何年も豆類・ごまなどを避け続けていたものの、最近の考え方を知って「そこまで気にしなくてよかったのか」と驚かれるケースもあります。古い情報のまま生活の制限を続けてしまうこと自体が、一つの負担になっている場合があります。
また、健診でたまたま憩室が多数見つかり、特に症状はないものの心配になって相談に来られる方もいます。憩室の数が多いこと自体は珍しくなく、それだけで即座に治療が必要になるわけではありませんが、上記の危険因子に当てはまる項目が多い方には、生活習慣の見直しを積極的にお勧めしています。
よくある質問
Q. 家族に憩室炎になった人がいます。自分もなりやすいのでしょうか。
A. 憩室そのものは体質・加齢の影響も受けるため、血縁者に経験者がいると心配になるお気持ちはよく分かります。ただ、今回ご紹介した研究で明確にリスクを高めると分かっているのは、体重・運動習慣・喫煙・食生活といった、ご自身で見直せる生活習慣の部分です。家族歴を心配し続けるより、変えられる部分に目を向けていただくほうが建設的です。
Q. ナッツやポップコーンはもう気にしなくてよいのですか。
A. 現時点の研究では、ナッツ・種子・とうもろこし類の摂取が憩室炎のリスクを高めるという根拠はなく、むしろリスクが低い傾向も報告されています[3]。ただし、個々の体調によって消化しにくいと感じる場合に、無理に食べる必要はありません。
Q. 一度、憩室炎で入院しました。今後どんなことに気をつければよいですか。
A. 肥満・運動不足・喫煙が発症・再発に関わる危険因子として報告されています[1][2]。体重管理・適度な運動・禁煙、食物繊維を意識した食事が基本になります。痛みや発熱を繰り返す場合は自己判断せず、大腸カメラでの経過確認も含めてご相談ください。
Q. 憩室炎になりやすいかどうかは、大腸カメラで分かりますか。
A. 大腸カメラで憩室の数や場所を確認することはできますが、「なりやすさ」そのものは、生活習慣の危険因子の有無で判断します。憩室が多いと分かった方は、上記の生活習慣に特に注意していただくとよいでしょう。
Q. 憩室炎は繰り返すものなのでしょうか。
A. 一定の割合で再発することが分かっています。当院の別記事で紹介している再発率(1年で8%、5年で17%、10年で22%)もあわせてご参照ください。生活習慣を整えることで、このリスクに働きかけられる可能性があります。
Q. 憩室が見つかったら、食物繊維は多く摂ったほうがよいのでしょうか、それとも控えたほうがよいのでしょうか。
A. 症状が落ち着いている時期は、食物繊維を積極的に摂ることがリスクを下げる方向に働くと報告されています[1]。ただし炎症を起こして痛みが強い急性期は、医師の指示に従って一時的に消化の良い食事へ切り替える必要があります。時期によって考え方が変わる点にご注意ください。
症状別に詳しく知りたい方へ
まとめ
大腸憩室炎の「なりやすさ」には、肥満・運動不足・喫煙といった、日々の生活習慣が関わっています[1][2]。一方で「ナッツや種を避ける」という昔ながらの指導は、現在では見直されています[3]。何を避けるかよりも、食物繊維・体重管理・運動という基本に立ち返ることが、再発予防への近道です。
「昔ながらの食事制限を続けるべきか」「新しい情報のほうを信じてよいのか」と迷ったときは、ご自身の判断だけで続けたりやめたりせず、一度ご相談ください。過去に憩室が見つかった経緯や、繰り返しの有無によって、お伝えする内容も変わってきます。気になる症状が続く場合は、自己判断で様子を見るのではなく、大腸カメラでの確認もあわせてご検討ください。
引用文献リスト
1. Ma W, Ha J, Neylan CJ, Munro H, Skerrett D, Downie JM, Sevilla-González M, Steinwandel M, Mumma M, Zheng W, Maguire LH, Giovannucci EL, Strate LL, Chan AT. Lifestyle factors, genetic susceptibility and risk of incident diverticulitis: an integrated analysis of four prospective cohort studies and electronic health records-linked biobank. Gut. 2025;74(12):2004-2011.
2. Hjern F, Wolk A, Håkansson N. Obesity, physical inactivity, and colonic diverticular disease requiring hospitalization in women: a prospective cohort study. Am J Gastroenterol. 2012;107(2):296-302.
3. Strate LL, Liu YL, Syngal S, Aldoori WH, Giovannucci EL. Nut, corn, and popcorn consumption and the incidence of diverticular disease. JAMA. 2008;300(8):907-914.






