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くりた内科・内視鏡クリニック

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黒い便が出たら|タール便の原因と、すぐ受診すべきサインを専門医が解説

1 時間前
読了時間: 11分

トイレで便が真っ黒だったとき、まず頭に浮かぶのは「昨日食べたイカ墨だろうか」「飲んでいる鉄剤のせいだろうか」といったところではないでしょうか。実際、その通りのこともあります。ただ黒い便のなかには、食道や胃、十二指腸からの出血によって起こるものが混じっています。これをタール便(黒色便)と呼びます。


やっかいなのは、この2つが見た目だけでは区別しきれないことです。しかも、出血していても痛みがまったく出ないことがあります。この記事では、黒い便を見たときに何を確かめればよいのか、どこからが急ぐべき状態なのか、胃カメラで何がわかるのかを、京都市下京区・四条大宮のくりた内科・内視鏡クリニック院長が順に整理します。



黒い便を見たら、確かめることは3つ

便そのものだけを見て判断しないでください。手がかりは便の見た目、体の状態、そして心当たりの3つに分かれます。


  • 色とツヤ、におい。タール便は墨のような黒さで、光沢があり、水分を含んでねっとりと粘ります。においも普段と違う独特の強さになります。食べ物による黒さは、光沢やねっとりした粘りが出にくいのが特徴です。

  • 一緒に出ている症状。立ちくらみ、動悸、冷や汗、階段での息切れ、みぞおちの痛み、吐き気。特にコーヒーかすのようなものを吐いた場合は、胃の中に血液がたまっているサインです。

  • 心当たり。鉄剤、ビスマスを含む胃腸薬、活性炭、イカ墨、赤ワイン、ブルーベリー。薬の側では痛み止め(NSAIDs)、低用量アスピリン、抗血栓薬、そして過去のピロリ菌感染や潰瘍の指摘。


この3つのうち、緊急度をいちばん左右するのは2番目です。便の色をどれだけ観察しても、体の中でどれだけ血が失われたかはわかりません。ふらつきや冷や汗があるなら、便の色の判断は後回しにしてください。



なぜ上の方からの出血だと便が黒くなるのか

血液には鉄が含まれています。食道や胃、十二指腸で出た血液は、胃酸にさらされ、腸内の細菌の作用も受けながら、長い距離を時間をかけて下りていきます。この過程で鉄を含む色素が変化し、赤かったものが黒く変わります。粘りとにおいも、このときに生まれます。


だからタール便は2つのことを同時に示します。出どころが口に近い側であること、そして出血からある程度の時間が経っていることです。逆に、鮮やかな赤い血が便に付いたり混じったりする場合は、肛門に近い側からの出血であることが多くなります。ただし出血の勢いが強いと、上の方からの出血でも赤いまま出てくることがあります[1]。色だけで出どころを決めきることはできない、と考えてください。



心配のいらない黒い便もある

黒い便のすべてが出血によるものではありません。次のようなものは、便に色が付いているだけです。

  • 薬によるもの。貧血の治療に使う鉄剤、ビスマスを含む胃腸薬、活性炭の製剤。

  • 食べ物によるもの。イカ墨、海苔、ひじき、レバー、赤ワイン、ブルーベリー、黒ごま。


これらによる黒さには特徴があります。粘りや光沢が乏しく、においも普段と変わらず、体調にも変化がありません。食べ物が原因なら、数日で色が戻ります。処方されたお薬は自己判断でやめず、処方した医師にご相談ください。心当たりがはっきりしていて、この条件がそろっているなら、慌てて受診する必要はありません。色が戻らないときは受診してください。


ひとつだけ、鉄剤には注意が必要です。「鉄剤を飲んでいるから黒いのだろう」で説明を止めてしまうと、その鉄剤を飲むことになった貧血そのものの原因を見落とします。この点は後の章でもう一度取り上げます。



「痛くないから軽い」は成り立たない

痛みがないから、と受診を先延ばしにする方がいます。しかし出血している潰瘍が痛みを出すとはかぎりません。痛み止めや低用量アスピリンを飲んでいる方では、自覚症状が乏しいまま、出血で見つかることがあります。


消化性潰瘍を扱った総説によると、主な原因はピロリ菌感染(潰瘍のある方の約42%)と、アスピリンまたはNSAIDsの使用(約36%)で、潰瘍の合併症のうち出血が73%を占めます[2]。潰瘍は「痛みが強くなってから出血する」という順番で進むわけではありません。


同じく消化性潰瘍の総説では、出血した潰瘍の治療は早期の内視鏡と強力な酸分泌抑制が柱になると整理されています[3]。内視鏡で出血源を確かめることが、治療を決める中心になります。



黒い便の背景で見つかる病気

黒い便の背景として見つかる主な病気です。最も多いのは胃潰瘍・十二指腸潰瘍で、2番目以降は頻度の順ではありません。


  • 胃潰瘍・十二指腸潰瘍。ピロリ菌感染と痛み止めが二大要因になります。

  • 急性胃粘膜病変・びらん性胃炎。強いストレス、飲酒、痛み止めの連用をきっかけに、胃の粘膜が広くただれます。

  • 逆流性食道炎による食道のびらん。胸やけが続いている方で、出血に至ることがあります。

  • マロリーワイス症候群。激しい嘔吐を繰り返した後に、食道と胃の境目が裂けて出血します。飲酒の翌日に起こることがあります。

  • 食道・胃静脈瘤。肝臓の病気がある方で、太くなった血管が破れます。大量出血につながる危険があります。

  • 胃がん・食道がん。腫瘍の表面からじわじわ出血し、黒い便と貧血だけが手がかりになることがあります。


診察では、上から順に疑って除外していくのではなく、危険度の高いものから同時に確かめます。



受診の目安を3段階で整理する

黒い便が出たときの動き方を、急ぐ順に3つに分けます。


① 時間を問わず救急へ

  • 血を吐いた、またはコーヒーかすのようなものを吐いた

  • 立ちくらみ、失神、冷や汗、動悸、意識がぼんやりする

  • 黒い便が何度も続く、量が多い

  • ワルファリン、DOAC、抗血小板薬などの抗血栓薬を飲んでいる


この段階では、検査より先に全身の状態を支える処置が必要になります。夜間や休日であっても、救急外来を受診してください。


② 当日〜翌日に受診

  • 心当たりの食べ物や薬がない黒い便が、1回でも出た

  • 黒い便に、みぞおちの痛み、胃もたれ、食欲の低下をともなう

  • 健診で貧血を指摘されている方に、黒い便が出た


診療時間外であれば、救急外来に電話でご相談ください。


③ 経過を見てよい

  • イカ墨などの食べ物に心当たりがはっきりしていて、体調に変化がなく、数日で色が戻る


受診されたあと、当院では血圧、脈拍、ヘモグロビン値、尿素窒素などから出血の危険度を点数にして見積もります。上部消化管出血で受診した3,012人を対象にした国際多施設研究では、グラスゴー・ブラッチフォードスコアが1点以下であれば、輸血・内視鏡治療・手術などを必要とせず、亡くなることもなく経過する方を、98.6%の感度で見分けられました[4]。「危険度が低い」という判断も、採血と診察を受けて初めて成り立ちます。ご自身の目視だけでこの線引きをするのは無理があります。


検査の時期については、米国消化器病学会(ACG)のガイドラインが、入院が必要な上部消化管出血の方に、受診から24時間以内の上部消化管内視鏡を提案しています[5]。危険度の高い方(グラスゴー・ブラッチフォードスコア12点以上)を対象に、6時間以内の緊急内視鏡と6〜24時間の早期内視鏡を比べたランダム化比較試験では、30日後の死亡率に差は認められませんでした[6]。これは、病院で全身状態を支える処置を受けていることが前提の結果です。①に当てはまる方は、時間を問わず救急外来を受診してください。



よくある受診のパターン

以下は実在の記録ではなく、当院に寄せられるご相談で多い型を組み合わせた例です。


ひとつは、痛み止めを長く飲んでいる60代の方です。膝の痛みで整形外科から出た薬を何年も続けており、数日前から便が黒い。おなかは痛くない。ただ、駅の階段で息が切れるようになった。この方の場合、痛み止めによる潰瘍から出血している可能性を考えます。


もうひとつは、健診で貧血を指摘されたまま過ごしていた40代の方です。市販の鉄のサプリメントで数値が戻った気がしたので、そのままにしていた。便の色は「濃いかな」と思う程度で、黒いとまでは思っていなかった。この場合、貧血が結果であって原因ではないところに問題があります。


どちらも、症状の強さと病気の重さが一致していません。黒い便がやっかいなのは、まさにこの点です。



胃カメラで何がわかるか、当院での進め方

胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)は、食道、胃、十二指腸の粘膜を直接見る検査です。出血していれば、多くの場合その場で出どころを確かめられます。出血している場所が見つかった場合は、当院でもその場で止血の処置を行います。潰瘍が治りかけていれば、その痕から出血源を推定できます。ピロリ菌がいるかどうかを調べる検体も、同時に採れます。


当院では午前の枠に加えて、16時からのイブニング枠を用意しています。鎮静剤を使うかどうかは、ご希望でお決めいただけます。ただし、お薬や持病の状況によっては、診察でご相談のうえ判断させていただく場合があります。鎮静剤を使った場合は検査後にリカバリー室で30分ほど休んでいただき、その日は車、バイク、自転車の運転ができません。来院方法をあらかじめお考えのうえご予約ください。


診察の結果、輸血や入院が必要と判断した場合には、対応できる医療機関へご紹介します。


胃カメラと大腸カメラで出どころが見つからない場合に、次に疑うのが小腸です。原因のはっきりしない消化管出血でカプセル内視鏡を受けた288人の後ろ向き研究では、黒い便がある方は小腸の口側3分の2に出血源が見つかるオッズがおよそ2倍でした[7]。黒い便という所見は、どこを次に調べるかの道しるべとしても働きます。


便の色より先に貧血のほうで見つかることもあります。英国消化器病学会のガイドラインでは、鉄欠乏性貧血で受診した男性と閉経後の女性のおよそ3分の1に、消化管を中心とした基礎疾患が見つかると整理されており、上部と下部の両方の内視鏡が標準的な進め方とされています[8]。当院では胃カメラと大腸カメラの両方を院長が担当しています。



よくあるご質問

Q. 黒い便が1回だけで、その後はふつうの色に戻りました。受診しなくてもよいですか。

A. 食べ物の心当たりがはっきりしていて、体調にも変化がないのであれば、様子を見ていただいて構いません。心当たりがない場合は話が別です。潰瘍からの出血は、出たり止まったりすることがあります。色が戻ったのは出血が終わったからではなく、いまは出ていないだけ、ということがあります。1回でも心当たりがなければ、消化器内科でご相談ください。


Q. 鉄剤を飲んでいます。黒い便は薬のせいと考えてよいですか。

A. 鉄剤で便が黒くなること自体はよく知られています。ただ、その鉄剤を飲むきっかけになった鉄欠乏性貧血が、消化管からの出血で起きていることがあります[8]。「薬のせい」で説明を止めると、出血源にたどり着けません。貧血の原因を調べる検査をまだ受けていない方は、便の色にかかわらず一度ご相談ください。


Q. 便が黒いだけで、痛みも吐き気もありません。急ぐ必要はありますか。

A. 痛みの強さと出血の量は一致しません。痛み止めやアスピリンを飲んでいる方では、自覚症状が乏しいまま出血で見つかることがあります。症状がなくても、心当たりのない黒い便であれば、当日〜翌日にご相談ください。


Q. 便潜血検査が陰性なら、黒い便は気にしなくてよいですか。

A. 大腸がん検診で使われる便潜血検査は、大腸からの出血をとらえるようにつくられています。上の方から出た血液は変化してしまっているため、この検査では拾いにくくなります。黒い便が出たときは、便潜血の結果とは別に受診をご検討ください。



症状別に詳しく知りたい方へ



まとめ

黒い便を前にして確かめることは2つです。体調に変化がないか、そして心当たりがあるか。イカ墨のように説明のつく理由があり、粘りもにおいの変化もなく、体調も変わらないのであれば、数日で色は戻ります。

説明のつく理由がないとき、あるいは立ちくらみや息切れをともなうときは、便の色を見比べて答えを出そうとせず、受診してください。出血の危険度は、診察と採血で初めて数字になります。

心当たりのない黒い便を、色が戻ったからと様子見にしていませんか。一度、消化器内科でご相談ください。


1. Kamboj AK, Hoversten P, Leggett CL. Upper Gastrointestinal Bleeding: Etiologies and Management. Mayo Clin Proc. 2019;94(4):697-703.

2. Vakil N. Peptic Ulcer Disease: A Review. JAMA. 2024;332(21):1832-1842.

3. Almadi MA, Lu Y, Alali AA, Barkun AN. Peptic ulcer disease. Lancet. 2024;404(10447):68-81.

4. Stanley AJ, Laine L, Dalton HR, et al. Comparison of risk scoring systems for patients presenting with upper gastrointestinal bleeding: international multicentre prospective study. BMJ. 2017;356:i6432.

5. Laine L, Barkun AN, Saltzman JR, Martel M, Leontiadis GI. ACG Clinical Guideline: Upper Gastrointestinal and Ulcer Bleeding. Am J Gastroenterol. 2021;116(5):899-917.

6. Lau JYW, Yu Y, Tang RSY, et al. Timing of Endoscopy for Acute Upper Gastrointestinal Bleeding. N Engl J Med. 2020;382(14):1299-1308.

7. Zhu CN, Friedland J, Yan B, et al. Presence of Melena in Obscure Gastrointestinal Bleeding Predicts Bleeding in the Proximal Small Intestine. Dig Dis Sci. 2018;63(5):1280-1285.

8. Snook J, Bhala N, Beales ILP, et al. British Society of Gastroenterology guidelines for the management of iron deficiency anaemia in adults. Gut. 2021;70(11):2030-2051.


 
 

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