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便潜血検査が「1回だけ陽性」でも大腸カメラは必要?専門医が解説する検査の落とし穴

  • 4 日前
  • 読了時間: 12分

更新日:2 日前


健康診断や自治体のがん検診で便潜血検査を受け、「2回中1回だけ陽性でした」という結果を受け取った方は少なくありません。「2回のうち1回は陰性だったのだから、たいしたことはないのでは」「痔もあるし、そのせいだろう」と考えて、精密検査(大腸カメラ)を先延ばしにしてしまうケースを、外来ではよく目にします。


しかし消化器内視鏡を専門とする立場から申し上げると、この「1回だけ陽性」という結果は、決して軽く扱ってよいものではありません。今回は、便潜血検査の仕組みと、1回だけの陽性がなぜ精密検査の対象になるのか、その医学的な根拠を具体的なデータとともに解説します。



便潜血検査(FIT)はそもそも何を調べているのか

便潜血検査は、大腸がんそのものを診断する検査ではありません。現在、日本の検診で主に使われているのは免疫学的便潜血検査(FIT:Fecal Immunochemical Test)で、便の中に混じったヒト由来のヘモグロビンを検出する仕組みです。食事制限が不要で、下部消化管、つまり大腸や肛門からの出血を高い精度で拾い上げられる点が特徴です。裏を返せば、この検査は「大腸のどこかで出血が起きている可能性があるかどうか」をふるい分けるスクリーニング検査であり、出血の原因が大腸がんなのか、ポリープなのか、痔なのかまでは、検査結果だけでは区別できません。原因を確定させるには、大腸カメラで直接、粘膜を観察する以外に方法がないのです。



ぜ日本の検診は「2日法」を採用しているのか

日本の大腸がん検診で標準的に用いられているのは、2日分の便を別々に採取して調べる「2日法」です。これは、大腸がんや大腸ポリープからの出血が持続的ではなく、間欠的であることが背景にあります。病変が毎日同じように出血するとは限らず、出血する日としない日があるため、1日分だけの検査では見逃しが生じやすいのです。2回分を調べることで、1回法よりも病変の検出感度を高めようというのが、この方式の狙いです。


オランダで行われた大規模な検討でも、1サンプル法と2サンプル法を複数回にわたって比較した結果、サンプル数を増やすことで進行がんや高リスク病変の見落としを減らせる可能性が示されています[1]。つまり2日法は、そもそも「1回の陽性を軽視しない」という発想の上に成り立っている検査なのです。



「1回だけ陽性」を甘く見てはいけない医学的な理由

では、2回中1回だけ陽性という結果は、実際にはどの程度の重みを持つのでしょうか。日本国内の内視鏡専門クリニックで行われた研究では、2日法のFITを受けた受診者を対象に、2回とも陽性だった群と、1回のみ陽性だった群とで、大腸カメラによって発見される病変の内訳が比較されています。


その結果、1回のみの陽性であっても、進行がんや治療の必要な大きな腺腫を含む病変が一定数見つかっており、「1回だけだから大丈夫」と言い切れる根拠は乏しいことが示されました[2]。臨床の現場感覚としても、これは実感と一致します。当院でも、1回のみ陽性で来院された方の大腸カメラで、切除が必要な腺腫性ポリープが見つかることは珍しくありません。


さらに重要なのは、便潜血陽性後にどれくらいの期間で大腸カメラを受けたかによって、その後の大腸がんのリスクが変わってくるという点です。台湾で行われた大規模な追跡調査では、FIT陽性後に大腸カメラを受けるまでの期間が長くなるほど、大腸がんの発症リスクや進行がんの割合が高くなることが報告されています[3]。


この傾向は、カナダのグループが行ったシステマティックレビューでも同様に確認されており、陽性判定を受けてから精密検査までの時間が長引くほど、大腸がんの診断時点での進行度が悪化する傾向が指摘されています[4]。「1回だけの陽性だから、しばらく様子を見よう」という判断が、結果的に受診の先延ばしにつながり、発見が遅れる一因になり得るということです。



「痔があるから」「症状がないから」は理由にならない

外来でとても多いのが、「痔があるので、便潜血陽性はそのせいだと思います」という申告です。気持ちはよく分かりますが、これは医学的にはリスクの高い思い込みです。便潜血検査は出血の場所を教えてくれません。肛門からの出血なのか、大腸の奥からの出血なのかを区別する手段は、検査結果の中には存在しないのです。しかも、痔を持つ方に大腸がんやポリープが併存することは、決して珍しくありません。痔があるという事実は、大腸の奥に病変がないことを保証してくれないのです。


実際、便潜血検査には一定の割合で偽陽性、つまり大腸に重大な病変がないのに陽性反応が出るケースがあることも分かっています。韓国で行われた研究では、偽陽性に関連する要因として、痔核や憩室症、あるいは検査手技上の問題などが挙げられており、逆に言えば、これらの要因があるからといって「病変がない」と自己判断できるわけではないことが示されています[5]。症状がないことも同様です。早期の大腸がんや小さな腺腫は、自覚症状をほとんど伴わないまま進行することが多く、「お腹の調子は悪くないから平気」という判断もまた、根拠に乏しいものです。



「もう一度便潜血検査をして陰性なら安心」も推奨されない

陽性判定を受けた後、もう一度便潜血検査を受け直して、今度は陰性だったので安心した、という方にもよく出会います。しかし、これも医学的には推奨されない考え方です。便からの出血は間欠的であるため、再検査で陰性が出たとしても、それは「その日にたまたま出血していなかった」というだけの話であり、病変そのものが消えたわけではありません。


この点に関連して、FIT陽性者を対象に、事前の血液検査(貧血の有無)と大腸カメラで発見された病変との関連を調べた研究があります。この研究では、貧血を示す血液データが正常であっても、精密検査で重大な病変が見つかる例が一定数あり、血液検査の結果が正常だからといって大腸カメラを省略してよい根拠にはならないと結論づけられています[6]。


同様に、FITの誤用や過信について整理した総説論文でも、陽性後の安易な再検査や自己判断による経過観察は、診断の遅れにつながる典型的な落とし穴として指摘されています[7]。結局のところ、一度でも陽性が出た時点で、次に取るべき行動は大腸カメラによる直接確認であり、これに代わる手段はないというのが専門医としての立場です。



大腸カメラでしか分からないことがある

CTやバリウムを用いた注腸検査でも、ある程度大きな病変であれば検出は可能です。しかし、平坦な形をした早期の大腸がんや、数ミリ単位の小さなポリープ、粘膜のわずかな色調変化までとなると、これらの検査では見逃されるリスクが高くなります。


大腸カメラであれば、内視鏡で粘膜を直接観察できるため、微細な病変まで確認でき、なおかつ怪しい部分が見つかればその場で組織を採取したり、ポリープを切除したりすることも可能です。検査と治療を同時に行えることは、大腸カメラが精密検査のゴールドスタンダードとされている理由の一つです。


大腸がんの多くは、良性のポリープ(腺腫)が時間をかけてがん化するという経過をたどることが知られています。1回だけの陽性であっても、その背景にこうした前がん病変が隠れている可能性がある以上、検査を受けて「何もなかった」と確認できること自体に、大きな意味があります。


逆に、もし病変が見つかった場合でも、早期の段階であれば内視鏡による治療だけで対応できることが多く、進行してから見つかるケースに比べて、体への負担も治療成績も大きく異なってきます。



外来でよくみられる受診パターン

実際の外来では、便潜血「1回だけ陽性」というきっかけで受診される方に、いくつかの共通したパターンが見られます。一つは、40代から50代で会社の健康診断を受け、結果通知に「要精密検査」と書かれていたものの、忙しさを理由に数ヶ月放置してしまい、症状が出てから慌てて来院されるケースです。この場合、大腸カメラで実際に進行した病変が見つかることもあれば、幸い早期の段階で発見でき、内視鏡治療のみで終えられることもあります。


もう一つは、痔の自覚があるために「自分の場合は痔のせいだろう」と考え、家族に勧められて渋々受診されるケースです。検査の結果、痔以外に病変が見当たらず安心して帰られる方が大半ですが、中にはポリープが同時に見つかり、切除に至る方もいらっしゃいます。いずれのパターンにも共通しているのは、検査を受けるまでは「たぶん大丈夫だろう」という漠然とした感覚しか持てず、検査を終えて初めて、はっきりとした答えを得られたと安堵される方が多いという点です。


こうした傾向は、受診をためらう理由の多くが「症状の重さ」よりも「忙しさ」や「思い込み」に起因していることを示しています。便潜血陽性という結果は、体からの具体的なサインです。漠然とした不安を抱えたまま過ごすよりも、早い段階で答えを出してしまう方が、結果的に負担が少なく済むことがほとんどです。



大腸カメラ検査の当日の流れと負担を減らす工夫

大腸カメラに対する抵抗感の多くは、「痛みそう」「恥ずかしい」「下剤がつらそう」といったイメージに基づいています。実際の検査は、事前に自宅または来院後に腸管洗浄剤を服用して腸内を空にした後、鎮静剤を使用しながら内視鏡を挿入し、大腸の粘膜を観察していく流れになります。


鎮静剤を用いることで検査中の記憶がほとんど残らない状態で終えられる方が多く、検査中に痛みで苦しむといった状況は避けやすくなっています。検査時間も観察のみであれば15分前後で終わることが多く、想像していたよりも短時間で完了したと感じる方が少なくありません。



くりた内科・内視鏡クリニックの大腸カメラ検査について

当院では、便潜血陽性を主訴に来院される方を数多く診療しております。「1回だけの陽性なので大丈夫でしょうか」というご相談には、これまで解説してきた医学的根拠に基づき、原則として大腸カメラでの確認をお勧めしています。


検査に対する不安を少しでも減らせるよう、鎮静剤を用いて眠っている間に検査を終えられる体制や、炭酸ガス(CO₂)を使用することで検査後のお腹の張りを軽減する工夫、経験豊富な内視鏡指導医による丁寧な観察を大切にしています。ご希望に応じて、来院当日や翌日に検査枠をご案内できる体制も整えており、「予約が先すぎて忘れてしまう」ということが起きにくいよう配慮しています。


便潜血陽性という結果は、決して不吉な知らせではありません。むしろ、今なら対処できるかもしれない病変を、体が教えてくれているサインだと捉えることができます。1回だけの陽性であっても、その先延ばしにした時間が、半年、1年と延びてしまうケースを、これまで何度も見てきました。ご自身の判断で様子を見るのではなく、まずは一度、専門医にご相談いただくことをお勧めします。



よくある質問

Q. 1回目は陰性、2回目だけ陽性でした。様子見でよいですか。

A. 様子見は推奨されません。大腸の病変からの出血は間欠的であるため、1回でも陽性であれば、出血源が存在する可能性を否定できません。2回とも陽性だった場合と同様に、大腸カメラでの確認が基本的な対応となります。


Q. 痔があるので、陽性はそのせいだと思います。それでも検査は必要ですか。

A. 必要です。便潜血検査は出血源が痔なのか大腸の奥なのかを区別できません。痔があることと大腸に病変がないことは、まったく別の話です。


Q. 症状は特にありません。それでも受診すべきですか。

A. はい。早期の大腸がんや小さなポリープは、自覚症状をほとんど伴わないことが多く、無症状であることは病変がないことの証明にはなりません。


Q. もう一度便潜血検査を受けて、陰性なら安心してよいですか。

A. 推奨されません。再検査での陰性は、その日にたまたま出血がなかったことを示すに過ぎず、病変の有無を否定する材料にはならないとされています。



症状別に詳しく知りたい方へ

便潜血陽性の背景は人によって異なります。気になる症状がある方は、以下の記事も参考にしてください。



まとめ

便潜血検査で2回中1回だけ陽性という結果は、決して「軽い異常」ではありません。大腸の病変からの出血は間欠的に起こるため、1回のみの陽性であっても、進行がんや治療が必要なポリープが見つかる例は実際に報告されています。


痔があること、症状がないこと、再検査で陰性だったことのいずれも、大腸カメラを省略してよい理由にはなりません。1回だけの陽性を放置した結果、発見が遅れてしまうケースを臨床の現場では繰り返し目にしてきました。


気になる結果を受け取った方は、先延ばしにせず、まずは一度、消化器内視鏡を専門とする医療機関にご相談ください。



引用文献

1. Schreuders EH, Grobbee EJ, Nieuwenburg SAV, Kapidzic A, van Roon AHC, van Vuuren AJ, Lansdorp-Vogelaar I, Spijker WWJ, Izelaar K, Bruno MJ, Kuipers EJ, Spaander MCW. Multiple rounds of one sample versus two sample faecal immunochemical test-based colorectal cancer screening: a population-based study. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2019;4(8):622-631.

2. Toyoshima O, Yamaji Y, Nishizawa T, Yoshida S, Yamada T, Kurokawa K, Obata M, Kondo R, Toba M, Koike K. Priority stratification for colonoscopy based on two-sample faecal immunochemical test screening: results from a cross-sectional study at an endoscopy clinic in Japan. BMJ Open. 2021;11(5):e046055.

3. Lee YC, Fann JC, Chiang TH, Chuang SL, Chen SL, Chiu HM, Yen AM, Chiu SY, Hsu CY, Hsu WF, Wu MS, Chen HH. Time to Colonoscopy and Risk of Colorectal Cancer in Patients With Positive Results From Fecal Immunochemical Tests. Clin Gastroenterol Hepatol. 2019;17(7):1332-1340.e3.

4. Forbes N, Hilsden RJ, Martel M, Ruan Y, Dube C, Rostom A, Shorr R, Menard C, Brenner DR, Barkun AN, Heitman SJ. Association Between Time to Colonoscopy After Positive Fecal Testing and Colorectal Cancer Outcomes: A Systematic Review. Clin Gastroenterol Hepatol. 2021;19(7):1344-1354.e8.

5. Kim NH, Park JH, Park DI, Sohn CI, Choi K, Jung YS. Risk Factors for False Fecal Immunochemical Test Results in Colorectal Cancer Screening. J Clin Gastroenterol. 2017;51(2):151-159.

6. Almasoud A, Almalaq AA, Aldiebany B, AlMeghaiseeb E, Alamro R, Albishi A, Mohammad F, Al Mutairi M, Alshowair R, Alharbi M, Ammar S, Al Mdani A, Al Masri N, Abdelmahmoud M, Al Sudais M, Alanazi J, Almaghrabi M, Alrobayan A. Correlation of Pre-colonoscopy Blood Hemoglobin Levels With Significant Colorectal Pathology Among Fecal Immunochemical Test-Positive Patients. Cureus. 2025;17(11):e96710.

7. Méndez G, Rivera-Matos L, Shuja A. Faecal occult blood testing: a review of its use and common misutilisation. BMJ Open Gastroenterol. 2025;12(1):e001876.


 
 

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