空腹時にみぞおちが痛むのはなぜ?食べると治る胃痛の正体を専門医が解説
- 13 時間前
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「お腹が空く時間になると、みぞおちのあたりがキリキリと痛み出す。何か口にすると、その痛みが嘘のように消えていく」。そんな経験に心当たりがある方は、少なくないはずです。食べると楽になるのだから胃腸は元気なのだろう、そう考えて数ヶ月、数年とやり過ごしている方も多いのではないでしょうか。しかし、空腹時に痛み、食事で和らぐという痛みのパターンには、医学的な理由があります。それは十二指腸潰瘍に典型的なサインの一つで、「お腹の空きすぎ」では片付けられないことがあるのです。
空腹になるとみぞおちが痛む、その体の中で何が起きているのか
胃と十二指腸は、常に胃酸という強い酸にさらされています。食事中や食後は、口にした食べ物が胃酸を薄め、粘液や胃粘膜が酸から胃壁を守る働きをします。ところが空腹の時間帯は、食べ物による緩衝作用がなくなる一方で胃酸の分泌は続くため、酸の刺激が粘膜に直接届きやすくなります[1, 2]。
十二指腸潰瘍と呼ばれる、十二指腸の粘膜がえぐれるように傷ついた状態では、この空腹時の酸の刺激が傷口を直接刺激し、キリキリ、シクシクとした痛みを生みます。食事をとると胃酸が中和され、痛みが和らぐため、「食べれば治る胃痛」という感覚が生まれるわけです。一方、同じ消化性潰瘍でも胃潰瘍の場合は、食後に胃の運動と酸分泌が活発になることで、食後30分から2時間ほどの間に痛みが強まる傾向があり、空腹時痛とは逆のパターンを示すことが知られています[1]。
十二指腸潰瘍・胃潰瘍のいずれも、主な原因はヘリコバクター・ピロリ菌の感染と、痛み止め(NSAIDs)の使用です。大規模なレビューでは、消化性潰瘍の約42%がピロリ菌感染によるもの、約36%がアスピリンを含む痛み止めによるものと報告されています[1]。
なお、空腹時痛だけでなく、体重が理由なく減ってきた、便が黒っぽい、貧血を指摘された、といった症状が重なっている場合は、すでに潰瘍からの出血など何らかの合併症が起きているサインである可能性があります。この場合は様子を見ずに早めの受診が必要です。
「食べれば治るから平気」——その思い込みが危ういわけ
ここで問題になるのは、「食べると楽になるから、大した病気ではないはずだ」という考え方です。実際には、この痛みのパターンが体からの警告であることは少なくありません。
空腹時に胃のあたりが不快になる症状は、ストレスや自律神経の乱れが関わる機能性ディスペプシアでも起こり得ます。そのため「胃が弱いだけ」「ストレス性のものだろう」と自己判断し、粘膜に実際の傷がある潰瘍を見逃してしまうケースも少なくありません。痛みが強くなったり弱くなったりを繰り返す、いわゆる波のある胃痛の背景には、機能性の問題と器質的な潰瘍の両方が隠れている可能性があり、見た目の症状だけで区別することは専門医でも簡単ではありません。
普段から痛み止めを服用している方は、特に注意が必要です。頭痛薬や関節の痛み止め、腰痛用の鎮痛剤などを常用していると、ピロリ菌感染がなくても潰瘍ができるリスクが上がります。ピロリ菌感染と痛み止めの使用が重なると、出血のリスクは相加的に高まることも報告されています。ある症例対照研究では、ピロリ菌感染単独でのリスクが2.6倍、NSAIDsの使用単独で4.0倍だったのに対し、両方が重なると8.0倍にまで上昇していました[3]。
「薬も飲んでいないし、ピロリ菌も持っていないから自分は大丈夫」とも言い切れません。日本国内の多施設共同研究では、ピロリ菌陰性かつ痛み止めも使用していないにもかかわらず潰瘍ができていた患者が、潰瘍患者全体の12%にのぼったと報告されています。この「原因不明の潰瘍」は、高齢であることや複数の持病を抱えていることと関連していました[4]。思い当たる原因がないからといって、潰瘍の可能性を自己判断で除外することはできないのです。
日本では胃カメラ検診の普及とピロリ菌感染率の低下により、消化性潰瘍そのものは以前より少なくなってきています。約21万人分の内視鏡データを分析した研究では、胃潰瘍・十二指腸潰瘍の頻度がこの約20年でそれぞれ10分の1近くまで下がった一方、逆流性食道炎は10倍以上に増えていました[5]。潰瘍が「昔ほど多い病気ではなくなった」のは事実ですが、だからこそ典型的な症状が出たときに「まさか自分が」と見過ごされやすい面もあります。
喫煙も見過ごされがちな要因の一つです。喫煙自体が単独で潰瘍を作るわけではないものの、胃や十二指腸の粘膜を守るしくみを弱め、ピロリ菌に感染しやすくする方向に働くことが指摘されています。喫煙者では潰瘍ができやすく、治りにくく、再発率も高くなる一方、ピロリ菌を除菌してしまえば喫煙による上乗せリスクはほぼ消えるとも報告されており、除菌治療と禁煙をあわせて行う意味は小さくありません[6]。
放置するとどうなるのか、データが示すリスク
空腹時痛を市販の胃薬でごまかしながら、検査を受けずに数年過ごしてしまう方は珍しくありません。消化性潰瘍は症状がないまま進行し、ある日突然、出血や穿孔(胃や腸の壁に穴が開くこと)という形で表面化することがあります。
大規模なレビューによれば、消化性潰瘍の合併症のうち出血が全体の73%を占め、穿孔が9%、幽門狭窄(胃の出口が狭くなり食べ物が通りにくくなる状態)が3%を占めるとされています[1]。複数の持病を抱えていたために症状がはっきりせず、潰瘍の穿孔に気づいたときには手遅れだったという症例報告もあります。71歳の女性が意識障害と全身のチアノーゼで救急搬送され、緊急手術に至ったものの救命できなかった経過が記録されており、著者らは消化性潰瘍がしばしば無症状のまま進行し、診断の遅れと重篤な合併症につながると指摘しています[7]。
ここまで重症化するケースはまれです。ただ、痛みが軽くなったり消えたりを繰り返すからといって、潰瘍が治っているとは限りません。粘膜の傷はそのままに、痛みの感じ方だけが変化していることもあります。早期に胃カメラで確認し、必要な治療につなげることが、重い合併症を避ける確実な方法です。
よくある受診パターン
当院にも、空腹時のみぞおちの痛みを主訴に来院される方が多くいらっしゃいます。
40代の会社員男性のケースでは、数ヶ月前から午前中の空腹時にみぞおちがキリキリと痛み、コーヒーと軽食で紛らわせる日々が続いていました。「食べれば治るから胃腸炎か何かだろう」と自己判断していましたが、症状が長引くため受診。胃カメラでピロリ菌陽性の十二指腸潰瘍が見つかり、除菌治療と胃酸を抑える薬で症状は改善しました。
腰痛のために鎮痛剤を長期間服用していた60代女性のケースもあります。空腹時の胃の不快感を「年齢のせい」と考えて様子を見ていましたが、便の色が黒っぽいことに気づいて受診されました。検査の結果、痛み止めが原因の胃潰瘍からの出血が判明し、鎮痛剤の変更と潰瘍の治療が行われました。
痛みのパターンも生活背景もそれぞれですが、共通しているのは「様子を見ているうちに時間が経ってしまった」という経過です。
胃カメラ検査は何をするのか、何が怖いのか
胃カメラと聞くと、「苦しそう」「怖い」というイメージを持つ方が多いのも事実です。みぞおちの痛みの原因を確定するためには、胃や十二指腸の粘膜を直接目で見て確認する胃カメラが最も確実な方法です。血液検査やレントゲンだけでは、潰瘍の有無や深さ、出血の有無を正確に判断することはできません[8]。
検査では、口または鼻からカメラを挿入し、食道・胃・十二指腸の粘膜を観察します。潰瘍が見つかった場合は、その場で組織の一部を採取してピロリ菌感染の有無や、まれに悪性の病変が隠れていないかを調べることもできます。検査時間自体は数分から10分程度で、多くの方が心配するほどの負担にはなりません。
くりた内科・内視鏡クリニックでの検査
当院では、経鼻・経口いずれの胃カメラにも対応し、鎮静剤を使用して眠っている間に検査を終えられる選択肢もご用意しています。以前受けた検査が苦しかったという方にも、負担の少ない方法をご提案できます。
みぞおちの痛みが数週間以上続いている方、市販薬でごまかしながら受診を先延ばしにしている方は、早めのご相談をおすすめします。予約状況によっては、比較的早いタイミングでの検査日程をご案内できる場合もあります。
検査でピロリ菌感染が確認された場合は、1週間の内服薬による除菌治療をご案内します。除菌が成功すれば潰瘍の再発率は大きく下がりますが、除菌後も年に一度は胃カメラで粘膜の状態を確認することをおすすめしています。痛み止めが原因と考えられる場合は、処方している診療科と相談しながら薬の種類や量を見直すお手伝いもいたします。
よくある質問
Q. 空腹時の痛みが、食べるとすぐ治まります。それでも受診したほうがいいですか。
A. はい。食べて楽になること自体が、十二指腸潰瘍でよくみられるパターンです。痛みが繰り返し起きている場合は、一度胃カメラで粘膜の状態を確認することをおすすめします。
Q. 市販の胃薬を飲んで痛みが治まったので、様子を見てもいいでしょうか。
A. 市販薬は一時的に胃酸を抑えて症状を和らげますが、潰瘍そのものが治っているとは限りません。痛みが繰り返す、あるいは薬をやめるとまた痛むという場合は、検査による原因の特定が必要です。
Q. 痛み止めを毎日飲んでいますが、胃の症状はありません。検査は不要ですか。
A. 痛み止めによる潰瘍は、自覚症状が乏しいまま進行することがあります。特に長期間服用している方や、以前に潰瘍や出血を指摘されたことがある方は、症状がなくても一度検査を受けることをおすすめします。
Q. 便が黒っぽい場合、何を意味しますか。
A. 胃や十二指腸からの出血がある場合、便が黒っぽくなることがあります。潰瘍からの出血のサインである可能性があり、様子見をせず速やかに受診してください。
Q. お酒やタバコは、空腹時の胃痛と関係がありますか。
A. 喫煙はピロリ菌感染や粘膜の防御力の低下を通じて、潰瘍をできやすく、治りにくくする方向に働きます。アルコールも胃粘膜を刺激するため、症状がある間は控えめにすることをおすすめします。
症状別に詳しく知りたい方へ
みぞおちの痛みや胃の不調について、以下の記事でもより詳しく解説しています。
まとめ
空腹時にみぞおちが痛み、食べると和らぐという痛みのパターンは、十二指腸潰瘍に典型的なサインの一つです。食べて楽になるからといって安心してよいわけではなく、胃酸と粘膜の傷が関わる具体的な体のサインだと捉える必要があります。ピロリ菌感染や痛み止めの使用に心当たりがある方はもちろん、思い当たる原因がない方でも、痛みが繰り返し起きているのであれば、胃カメラによる確認を先延ばしにしない判断が、重い合併症を避ける一番の近道です。
引用文献
1. Vakil N. Peptic Ulcer Disease: A Review. JAMA. 2024;332(21):1832-1842.
2. Lanas A, Chan FKL. Peptic ulcer disease. Lancet. 2017;390(10094):613-624.
3. Sostres C, Carrera-Lasfuentes P, Benito R, et al. Peptic ulcer bleeding risk: the role of Helicobacter pylori infection in NSAID/low-dose aspirin users. Am J Gastroenterol. 2015;110(5):684-689.
4. Kanno T, Iijima K, Abe Y, Yagi M, Asonuma S, Ohyauchi M, Ito H, Koike T, Shimosegawa T. A multicenter prospective study on the prevalence of Helicobacter pylori-negative and nonsteroidal anti-inflammatory drugs-negative idiopathic peptic ulcers in Japan. J Gastroenterol Hepatol. 2015;30(5):842-848.
5. Yamamichi N, Yamaji Y, Shimamoto T, Takahashi Y, Majima K, Wada R, Mitsushima T, Koike K. Inverse time trends of peptic ulcer and reflux esophagitis show significant association with reduced prevalence of Helicobacter pylori infection. Ann Med. 2020;52(8):506-514.
6. Parasher G, Eastwood GL. Smoking and peptic ulcer in the Helicobacter pylori era. Eur J Gastroenterol Hepatol. 2000;12(8):843-853.
7. Van Ligten MJ, Adler C, Hodgson N, Martini WA. Perforated Peptic Ulcer: A Case Report of a Dreaded Complication of an Insidious Disease. Cureus. 2024;16(5):e60620.
8. くりた内科・内視鏡クリニック.消化性潰瘍の真実:放置できない「みぞおちの痛み」と、専門医による最新の診断・治療法.2025.https://www.kurita-naika.jp/information/20250926






