【10代・20代のおなかの不調】その下痢や腹痛、放置しないで!専門医が教える「過敏性腸症候群(IBS)」と「潰瘍性大腸炎(UC)」の違いと受診の目安
- 6月10日
- 読了時間: 11分

こんにちは。京都市下京区にある「くりた内科・内視鏡クリニック」の院長です。
日々の診療の中で、10代から20代の若年層の患者様から「おなかの調子がずっと悪い」「下痢と便秘を繰り返している」「おなかが痛くて学校や仕事に集中できない」といったご相談を受ける機会が非常に増えています。特に、インターネットやSNSが普及した現代では、「夜だけ 胃痛 対処」「下痢 血 混じる 受診」といったキーワードで検索し、不安を抱えながらも病院へ行くタイミングを逃してしまっている方が少なくありません。
若い世代の多くは、こうした症状を「ただおなかが弱いだけ」「ストレスが溜まっているから」「少し休めば治るだろう」と自己判断し、放置してしまう傾向にあります。しかし、消化器内視鏡専門医の視点から申し上げますと、その「ただのおなかの不調」の背後には、将来的な健康や生活の質(QOL)を大きく左右する重要な疾患が隠れている可能性があります。
本記事では、10代・20代に急増しているおなかの不調について、特に見逃してはならない2つの疾患である「過敏性腸症候群(IBS)」と「潰瘍性大腸炎(UC)」に焦点を当て、その違い、症状の特徴、原因、対処法、そして病院を受診すべき目安について、医学的エビデンスに基づいて詳細に解説いたします。ご自身の症状と照らし合わせ、適切な行動をとるための一助となれば幸いです。
なぜ若年層の「おなかの不調」を自己判断で放置してはいけないのか?
現代社会における若者の腸内環境とストレス
現代の10代・20代は、学業、受験、就職活動、職場での人間関係など、多様なストレスに常に曝されています。脳と腸は「脳腸相関(Gut-Brain Axis)」と呼ばれる密接なネットワークで結ばれており、強いストレスを感じると自律神経のバランスが崩れ、腸の蠕動(ぜんどう)運動に異常をきたします。そのため、「ストレスでおなかが痛くなる」というのは生理学的にも正しい現象です[1]。
しかし、すべての腹痛や下痢が単なるストレスによるものだとは限りません。「夜だけ胃痛がする」「排便してもスッキリしない」といった症状が慢性的に続く場合、それは腸管がSOSのサインを出している状態です。特に、市販の胃腸薬や痛み止めを飲んで一時的にしのいでいる場合、根本的な原因を見逃し、病状を悪化させてしまうリスクが潜んでいます。
「機能の異常」と「器質的異常」を区別することの重要性
私たち消化器専門医は、患者様の「おなかの不調」を診る際、大きく2つの方向に分けて考えます。一つは、腸の働きそのものが乱れている「機能の異常」であり、もう一つは、腸の粘膜に炎症や潰瘍といった目に見えるダメージが生じている「器質的異常」です。これらを正確に区別しない限り、正しい治療法を選択することはできません。そして、この2つを判別するためには、専門的な検査が不可欠なのです。
似ているようで全く異なる!2つの病気の決定的な違い
10代・20代の慢性的な腹痛や便通異常を引き起こす代表的な疾患として、「過敏性腸症候群(IBS)」と「潰瘍性大腸炎(UC)」が挙げられます。初期症状が似ているため混同されがちですが、その病態、進行のリスク、そして治療方針は全く異なります。
過敏性腸症候群(IBS):「機能の異常」によるつらい症状
過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome: IBS)は、大腸の粘膜そのものには炎症や腫瘍といった器質的な異常がないにもかかわらず、腹痛や下痢、便秘などの便通異常が慢性的に続く病気です[1,4]。脳腸相関の異常により、腸がわずかな刺激(ストレスや特定の食事など)に対して過敏に反応してしまう状態と言えます。
主な症状
慢性的な腹痛、下痢、便秘(あるいはその両方を繰り返す)、おなかの張り(膨満感)、ガスがよく出るなど。特徴的なのは、「排便によって腹痛が楽になることが多い」という点です。
腸の状態
内視鏡検査(大腸カメラ)や血液検査を行っても、目に見える炎症や異常は見つかりません。つまり、「見た目は綺麗なのに動きがおかしい」状態です。
リスクと日常生活への影響
命に直接関わる病気ではありませんし、将来的に大腸がんのリスクを高めることもありません。しかし、通学や通勤中の電車内、重要な会議や試験の最中に突然の腹痛や便意に襲われる不安から、外出が怖くなったり、日常生活に著しい制限が生じたりするなど、QOL(生活の質)を極めて大きく低下させます。
当院におけるIBSのより詳細な病態や個別化治療については、以下のブログ記事もご参照ください。
潰瘍性大腸炎(UC):大腸粘膜の「器質的異常」(指定難病)
一方、潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis: UC)は、大腸の粘膜に慢性的な炎症が引き起こされ、びらん(ただれ)や潰瘍が形成される病気です[2]。免疫システムの異常が関与していると考えられていますが、明確な原因は未だ解明されておらず、厚生労働省から「指定難病」に認定されています。10代後半から20代の若年層で発症することが非常に多いのが特徴です[3]。
主な症状
下痢や激しい腹痛に加えて、「血便」「下血」「ゼリー状の粘液が混じった便(粘液便)」が見られます。また、症状が進行すると、体重減少、発熱、強い倦怠感、貧血などを伴うこともあります。
腸の状態
大腸の粘膜に明らかな炎症や潰瘍が存在します。直腸(肛門に最も近い部分)から始まり、連続して奥の大腸へと炎症が広がっていく性質があります。
リスクと将来の懸念
放置すると炎症が腸管全体に広がり、大量出血や大腸の穿孔(穴が開くこと)など、命に関わる重篤な合併症を引き起こす危険性があります。さらに、罹患期間が長くなると、将来的な大腸がんの発症リスクが有意に上昇することが知られています[2]。
潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患の詳しい解説については、こちらもご覧ください。
【比較表】潰瘍性大腸炎(UC)と過敏性腸症候群(IBS)の違い
特徴 | 潰瘍性大腸炎(UC) | 過敏性腸症候群(IBS)
|
病気の本質 | 腸の粘膜の「器質的異常」(炎症・潰瘍) | 腸の働きの「機能の異常」 |
主な症状 | 血便、下血、激しい腹痛、粘液便、体重減少、発熱 | 腹痛、下痢、便秘、膨満感(排便で楽になる) |
血便の有無 | よく見られる(重要なサイン) | 原則として見られない |
内視鏡での所見 | 粘膜に炎症、びらん、潰瘍が確認できる | 粘膜に目に見える異常はない |
将来のリスク | 大腸がんの発症リスクが上昇する | 命には関わらないが、QOLが著しく低下する |
疾患の分類 | 指定難病(医療費助成の対象となる場合あり) | 機能性消化管疾患 |
「血便・下血」は重大なサイン。絶対に放置しないで!
下痢に血が混じった場合の受診目安と病院へ行くタイミング
日常診療において、10代・20代の患者様が「便に血が混じった」と訴えて受診されるケースがあります。しかし、多くの方は「若いから大腸がんのはずはない」「たぶん痔が切れただけだろう」と勝手に解釈し、長期間放置してしまっています。
確かに、若い世代における血便の原因として痔は少なくありません。しかし、「腹痛や下痢を伴い、便に血や粘液が混じる」場合は、直ちに消化器内科を受診するべき重大なサインです。 これは、単なる肛門の出血ではなく、大腸の奥深くで組織が破壊され、出血していることを意味しているからです。このような症状が見られる場合、潰瘍性大腸炎やその他の感染性腸炎などが強く疑われます。
インターネットで「下痢 血 混じる 受診」や「下血 病院へ行くタイミング」と検索してこの記事にたどり着いた方は、自己診断を直ちにやめ、できるだけ早く消化器専門医の診察を受けてください。早期に適切な診断と治療を開始することが、大腸の機能を守り、深刻な合併症を防ぐための唯一の道です。
診断の鍵を握る「大腸内視鏡検査(大腸カメラ)」の重要性
なぜ大腸カメラが「唯一の確実な方法」なのか
「自分はおなかが弱いだけ(IBS)なのか、それとも腸に炎症が起きている(UC)のか?」
この疑問に対する答えを出すためには、問診や腹部の触診、便潜血検査だけでは不十分です。確定診断を下すためには、大腸の粘膜を直接カメラで観察し、炎症の有無やその広がりを正確に評価する「大腸内視鏡検査(大腸カメラ)」が必須となります[2,4]。
大腸カメラによって、IBSのように腸内が綺麗な状態であることを確認し、他の重大な疾患を除外することで、初めてIBSという診断を確定できます。また、UCが疑われる場合は、内視鏡で炎症の程度を評価するだけでなく、粘膜の一部を採取(生検)し、病理検査を行うことで確定診断に至ります。
「大腸カメラは痛い・恥ずかしい」という不安への当院のアプローチ
「大腸カメラを受けた方がいいのは分かっているけれど、痛そうだし恥ずかしい…」
特に若い患者様にとって、大腸カメラに対する心理的ハードルは非常に高いことでしょう。しかし、その不安のために検査を先延ばしにし、病気が進行してしまうのは大変悲しいことです。
くりた内科・内視鏡クリニックでは、そうした患者様の不安や苦痛を最小限に抑えるための体制を整えています。適切な鎮静剤(眠り薬)を使用することで、ウトウトとリラックスした状態、あるいはほとんど眠っている間に検査を終えることが可能です。また、最新の内視鏡システム(EVIS X1など)を導入し、微細な病変も見逃さない高精度な検査を提供しています。
当院の大腸カメラに関する取り組みや不安解消のための情報は、こちらの記事をご一読ください。
早期受診と正しい治療で、あなたの未来を守る
潰瘍性大腸炎(UC):寛解期も治療を継続する理由
潰瘍性大腸炎と診断された場合、適切な薬物治療(5-ASA製剤、ステロイド、免疫調節薬、生物学的製剤など)を用いて、まずは腸の炎症を鎮め、症状を抑える「寛解(かんかい)導入治療」を行います。医学の進歩により、現在では多くの患者様が、発症前とほとんど変わらない日常生活を送ることができるようになっています。
ここで最も重要なポイントは、「症状が落ち着いている時期(寛解期)であっても、絶対に自己判断で薬をやめないこと」です。UCは再燃と寛解を繰り返す疾患であり、薬を中断すると高い確率で炎症が再発します。さらに、炎症が持続または再燃を繰り返す状態を放置すると、将来的に大腸がんを発症するリスクが跳ね上がります[2]。専門医の指導のもと、「寛解維持療法」を根気よく続けることが、あなた自身の未来を守ることに直結します。
過敏性腸症候群(IBS):QOLを取り戻すための個別化治療
IBSと診断された場合、治療の目標は「症状をコントロールし、日常生活の質(QOL)を向上させること」です。患者様一人ひとりの症状(下痢型、便秘型、混合型)やライフスタイルに合わせて、消化管運動機能改善薬、整腸剤、下痢止め、あるいは漢方薬などを組み合わせた治療を行います[1,4]。
日常でできるセルフケアと生活習慣の見直し
薬物治療に加えて、日常生活の中でのセルフケアも非常に重要です。ただし、疾患によって適切なアプローチが異なるため、自己流ではなく専門医のアドバイスに基づき実践してください。
IBSの方におすすめのセルフケア
低FODMAP食(フォドマップしょく)の導入
腸内で発酵しやすく、ガスを発生させやすい特定の糖質(FODMAP)を控える食事療法が、IBSの症状改善に有効であることが多くの研究で示されています[1]。具体的には、小麦、乳製品、玉ねぎ、豆類などの摂取量を見直します。
適度な運動
ウォーキングや軽いストレッチなどの有酸素運動は、自律神経のバランスを整え、腸の正常な動きを促す効果があります。
ストレスマネジメント
十分な睡眠時間を確保し、リラックスできる時間を持つことが重要です。
UCの方の日常生活の注意点
専門医の指導の遵守
食事制限については、病気の活動期(炎症が強い時期)と寛解期で異なります。活動期は腸に負担をかけない低残渣・低脂肪食が基本ですが、自己判断での過度な食事制限は栄養不良を招きます。主治医や管理栄養士と相談しながら進めることが大切です。
定期的な受診と検査
症状がなくても定期的に通院し、定期的な大腸内視鏡検査によって粘膜の状態を確認し、大腸がんの早期発見・予防に努めます。
まとめ:おなかの悩みは一人で抱え込まず、専門クリニックへご相談を
10代・20代という大切な時期に、おなかの不調によって学業や仕事、プライベートの時間を犠牲にする必要はありません。
「ただのおなかの弱さだろう」「ストレスのせいだから仕方ない」と諦めたり、「血便が出たけれど恥ずかしくて言えない」と放置したりすることは、将来の健康リスクを増大させる危険な行為です。過敏性腸症候群(IBS)も潰瘍性大腸炎(UC)も、専門医による正しい診断と適切な治療介入があれば、十分にコントロールが可能な時代となっています。
もしあなたが、「腹痛が何週間も続いている」「下痢と便秘を繰り返す」「便に血や粘液が混じっている」といった症状でお悩みなら、迷わず消化器内科、特に内視鏡専門医のいるクリニックを受診してください。くりた内科・内視鏡クリニックでは、皆様の不安に寄り添い、苦痛の少ない検査と最新のエビデンスに基づいた最適な治療を提供し、健康な毎日を取り戻すお手伝いをさせていただきます。どうぞ一人で抱え込まず、お気軽にご相談ください。
引用文献
Ford AC, Sperber AD, Corsetti M, Camilleri M. Irritable bowel syndrome. Lancet. 2020;396(10263):1675-1688.
Rubin DT, Ananthakrishnan AN, Siegel CA, Sauer BG, Long MD. ACG Clinical Guideline: Ulcerative Colitis in Adults. Am J Gastroenterol. 2019;114(3):384-413.
Ng SC, Shi HY, Hamidi N, Underwood FE, Tang W, Benchimol EI, et al. Worldwide incidence and prevalence of inflammatory bowel disease in the 21st century: a systematic review of population-based studies. Lancet. 2017;390(10114):2769-2778.
Enck P, Aziz Q, Barbara G, Farmer AD, Fukudo S, Mayer EA, et al. Irritable bowel syndrome. Nat Rev Dis Primers. 2016;2:16014.
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