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下痢とお腹の張りについて

 

1. はじめに:下痢とお腹の張りの関係

下痢とは?

下痢は消化器系の代表的な疾患で、腸管における水と電解質の分泌が吸収を上回り、便の水分量が増加した状態のことです。下痢は臨床現場のほか、公衆衛生が整備されていない地域や小児でも頻繁に観察されます。下痢の発生機序には、腸管における水や電解質の分泌亢進、水や脂肪の吸収不良、蠕動運動の亢進などがあります。

 

お腹の張り(膨満感)とは?

お腹の張りは胃や腸に食物や空気がたまった状態を指します。胃が重苦しい、おならが増える、下腹部がぽっこりするなどの症状が現れます。食べ過ぎや飲み過ぎで消化が追い付かないために生じます。

 

下痢とお腹の張りが同時に起こる原因

基本的に下痢をしているときは腸に炎症が生じているため、お腹が張ったように感じることが多いです。


 

2. 下痢とお腹の張りを引き起こす主な原因

下痢の主な原因を表1に示します。急性下痢のもっともよくある原因は腸管感染症です。非感染性の急性下痢の原因としては、薬剤によるものが多いです。下痢を惹起する薬剤は700 種類以上とされており、下痢は薬剤の副作用全体の約7%を占めます。Clostridioides difficile などの抗菌薬関連下痢症や虚血性腸炎も急性下痢のよくある原因となります。

 

下痢の主な原因

  • 薬剤性(下剤,抗がん薬,抗菌薬,プロトンポンプ阻害薬,コリン作動薬,非ステロイド性抗炎症薬〔NSAIDs〕,アンジオテンシンII 受容体阻害薬,α - グルコシダーゼ阻害薬,腸管蠕動促進薬,多剤内服など)

  • 食物起因性(食物アレルギー,カフェイン,ソルビトール,アルコール,乳糖など)

  • 症候性(副腎不全,慢性膵炎,虚血性腸炎,吸収不良症候群,小腸内細菌異常増殖症など)

  • 感染性(ウイルス感染,食中毒,Clostridioides difficile ,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌〔MRSA〕感染症,免疫不全など)

  • 器質性(クローン病,潰瘍性大腸炎,短腸症候群,顕微鏡的大腸炎,大腸がん,神経内分泌腫瘍,胆管閉塞,腸管浮腫など)

  • 機能性(下痢型過敏性腸症候群〔下痢型IBS〕など)

  • 心因性(抑うつ,不安症,心理的ストレスなど)

  • 経腸栄養(投与速度過剰,重症患者における消化管不耐症など)

 

一方、慢性下痢の原因は多岐にわたり、現症や病態によって複数のカテゴリーに分類されます。その他、心因性要素も下痢の原因になり得ます。過去の研究では、抑うつや不安症などの心因性要素が過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)の新規発症に関連しており、両者の関係は双方向的であることが報告されています。経腸栄養が施行される患者では、約30%に下痢が認められるとの報告があります。

 

 

3. 症状の確認と進行の兆候

下痢の診断において、急性か慢性かを鑑別することは検査や治療法の適応を決定する際に重要となります。急性下痢は慢性下痢よりも頻繁に観察されます。急性下痢の軽症例は短期間で自然治癒しますが、重症例では持続する発熱や腹痛、血便、重度の脱水、血液検査で急激な炎症反応の上昇、電解質異常などを伴います。一方、慢性下痢の臨床経過は比較的緩やかで、継続する体重減少や栄養障害を合併する点が特徴的です。

 

症状が急に悪化した場合

発熱、血便、体重減少の有無

下痢とお腹の張りにはさまざまな原因がありますが、特に発熱、血便、体重減少の有無を確認することが重要です。急性の下痢は、体が有害物質を排出しようとする防衛反応として働くことがあります。しかし、発熱や血便が伴う場合、細菌性の腸の感染や他の重い感染症が考えられます。このような症状が見られる場合は、早めに病院を受診することが勧められます。

 

一方で、慢性的な下痢では、長期間にわたって体重が減少することがあり、栄養摂取に問題を引き起こす可能性があります。特に腸の炎症や過敏性腸症候群が原因となっている場合があります。このような症状を確認することは、診断において重要な手がかりとなります。


長期的な症状の管理方法

長期間続く下痢やお腹の張りの管理には、まず生活習慣や食事内容の見直しが必要です。例えば、脂肪の多い食事や刺激の強い食べ物の摂取を控えることで腸の状態を改善することが考えられます。また、症状が続くようであれば、腸内細菌のバランスを整えるために善玉菌を含む食品を摂取することも有効な方法です。

病院での定期的な診察も重要です。特に、症状が続き、他の病気が疑われる場合には、早期の診断と適切な治療が望ましいです。消化器の病気が疑われる場合には、内視鏡検査が役立ち、さらなる情報を得ることで最適な治療法を選ぶことができます。

症状が安定し、問題がない状態を目指すためには、普段から自分の体調をよく観察し、異常を感じたらすぐに専門の医師に相談することが大切です。こうした予防的な対策は、将来の健康問題を防ぐうえでとても有効です。

 

4. 診断方法

お腹の張りと下痢はよくある疾患ですが、医療者側の問題点としては、下痢の質にこだわらずに病歴をしっかりとらずに安易に「胃腸炎」とゴミ箱診断してしまうケースが多いです。

下痢の原因にはいろいろありますので、きちんと鑑別しなくてはなりません。

 

医療機関での診察内容

下痢の鑑別には、原因となる食物や薬物の摂取歴がないか等病歴聴取をした上で腹部の診察を行います。そして必要に応じて血液検査、便検査、腹部超音波検査などを行い、さらに踏み込んだ検査として大腸内視鏡検査を行うこともあります。

 

 

5. 治療法と管理

下痢一般的な治療

下痢による脱水が認められる場合、経口補水療法や輸液療法による水・電解質補充を行います。重度の脱水やショック状態で、経口補水療法により改善が得られない場合は、循環血漿量の補充目的で細胞外液や生理食塩液などの等張性輸液を投与します。食事摂取が可能な場合は、1 回当たりの食事量や脂肪・不溶性食物繊維含有量など、消化・吸収に配慮した食事内容への調整を行います。食事摂取量不足が継続する場合、必要に応じて補完的静脈栄養の施行を考慮します。ロペラミドなどの止痢薬は下痢の改善に有効ですが、感染性腸炎では病状を悪化させる危険がありますので、下痢の原因を評価して止痢薬が必要かどうかを検討したほうが良いです。


下痢各論(原因別の治療法)

  • 薬剤性下痢が疑われる場合は、原因薬剤の中止または作用機序が異なる薬剤への変更することで改善します。抗菌薬関連の下痢に対しては、プロバイオティクスが有効な可能性があります。

  • 食物起因性下痢が疑われる場合は、食事摂取歴を詳細に確認したうえで、原因食物の除去を行います。

  • 乳糖不耐症が疑われる場合は、乳製品の摂取を控えることで下痢は治まります。ヨーグルトには乳酸桿菌が生産するラクターゼが含まれているため、乳製品のなかでもヨーグルトは摂取できる場合が多いです。

  • 症候性下痢が疑われる場合は、原疾患の治療を行います。虚血性腸炎や疾患による重度下痢を呈するケースでは、絶食により腸管の使用を控えることを考慮します。

  • 感染性下痢が疑われる場合は特別な治療は不要で数日以内に自然治癒するケースが多いです。したがって、治療の中心は経口補水液や輸液を用いた対症療法となります。腹部症状が重度で食事摂取が行えない場合は、一時的な絶食を考慮することもあります。ウイルスや細菌感染症による分泌性下痢や粘血便をともなう炎症性下痢を認める場合は、原則的に止痢薬は使用しません。プロバイオティクスは、感染性下痢患者の有症期間短縮や便形状改善に有効な可能性が示されています。

  • 器質性下痢が疑われる場合は、原因に基づく外科的治療の適応が考慮されます。消化管術後の患者では、1 回当たりの食事量や栄養素組成に配慮した献立調整を行い、病態や術式に応じた栄養食事指導を行います。

  • 短腸症候群の患者では、吸収障害による難治性下痢を呈することが多いので、病態に応じて中心静脈栄養や成分栄養剤を用いた経腸栄養、止痢薬の使用を考慮します。

  • 心不全や輸液過剰による腸管浮腫を認めるケースでは、水分出納バランスを考慮した水分管理を行います。

  • 下痢型IBS を含む機能性下痢が疑われる場合、プロバイオティクスが有効な可能性があります。また、「機能性消化管疾患診療ガイドライン2020―過敏性腸症候群(IBS)改訂第2 版」では、一部の非吸収性抗菌薬(リファキシミン)は腸内細菌叢の改善を介してIBS の治療法として有用とされます。

  • 心因性下痢が疑われる場合、心理療法が有効な可能性があります。IBS 患者に対しては、心理療法の施行が推奨されており、三環系抗うつ薬を使用した薬物療法が有用な可能性があります。しかしながら、心理療法の有効性は、下痢型IBS 患者に限定したものではなく、便秘型・混合型・分類不能を含む全IBS 患者への検証結果を反映している点には注意が必要です。

  • 経腸栄養関連の下痢が認められる場合、経腸栄養開始前後の臨床経過や排便状況をよく確認し、栄養投与速度や栄養剤組成などの適正化を行います。


 

6. 予防と生活習慣

手洗いの徹底や衛生管理

ウイルスや細菌感染症による感染性下痢が疑われる場合は、手洗いの徹底など衛生管理が重要です。感染者の手洗いが不十分で、その手でドアノブやスイッチ、食品などに触れると周囲の人へうつす危険もあります。

適切な食生活と水分補給

下痢をしている間はどうしても水分が失われやすく、脱水傾向となります。こまめな水分摂取をしましょう。食事は消化し易いお粥やうどん等がお勧めです。

 

ストレス軽減と規則正しい生活

心因性下痢が疑われる場合はストレスを軽減し、規則正しい生活を心がけてみてください。

 

 

7. よくある質問(FAQ)

Q.下痢とお腹の張りの違いを感じる場合は?

下痢があってもかならずお腹の張りがあるわけではありません。短時間で治まる下痢の場合はお腹の張りは感じないことも多く、下痢が治まれば心配いりません。逆に1週間以上おなかの張りと下痢が続く場合は医師の相談してください。

Q.自宅でできる対処法は?

トイレに行った際は下痢の状態の確認が重要です。下痢の色はどんな色か、血液が混じっていないか、目視で確認してください。

お腹を温めると症状緩和につながります。

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