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その「発熱」はなぜ危険なのか?~くりた内科・内視鏡クリニックの診断基準

  • 執筆者の写真: くりた内科・内視鏡クリニック
    くりた内科・内視鏡クリニック
  • 10月29日
  • 読了時間: 13分

更新日:10月30日

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専門医が解説。「発熱」はなぜ起こる?


発熱は、私たち人間の体が持つ最も原始的で強力な防御反応の一つです。体温計の数字が上がるのを見ると不安になるのは当然ですが、発熱自体は病気ではなく、「体内で何らかの戦いが起きている」という生体からの重要なSOS 信号だと理解することが大切です。単なる風邪だと自己判断しがちですが、発熱の裏には、早期の診断と治療を要する重篤な病気が隠れていることが少なくありません。


医学的に発熱を定義する場合、体温が脳の視床下部で設定された「セットポイント」が上昇し、体温が正常な日内変動(通常、約0.6°Cから1.0°C程度の変動幅)を超えて高くなった状態を指します。一般的に臨床現場では37.5°C以上が発熱と見なされることが多いですが、特に感染症の評価において、米国集中治療学会などの国際的な診療ガイドラインでは、38.3°Cを超える体温が、感染源を徹底的に検索するための評価が必要な「高熱」の基準とされることがあります。


この臨床的定義と国際的な評価基準の違いは、専門医が発熱患者を診る際の重要な視点を示唆しています。患者様が37.5°Cで不安を感じるのは自然なことですが、医師が本当に警戒し、細菌感染を疑って血液培養などの侵襲的な検査を考慮し始めるのは、38.3°Cという高い閾値を超える場合が多いのです。くりた内科・内視鏡クリニックでは、患者様の不安に寄り添いつつも、エビデンスに基づいた客観的なリスク評価に基づいて診療を進めています。体温は時間帯や計測部位など様々な要因で変化するため、体温計の数字だけで「大丈夫」と判断せず、倦怠感や意識レベルの変化といった全身状態を含めて総合的に判断できる専門医の診察が不可欠です。




発熱の科学:体温はどのように調節されるのか


発熱は、脳の視床下部にある体温調節中枢が、体温の「セットポイント」を通常よりも高いレベルに再設定することで引き起こされます。このセットポイントの変更は、体内に侵入した病原体や炎症細胞から放出される特定の物質、すなわち「発熱物質」(パイロジェン)によって誘発されます。特に、インターロイキン-1(IL-1)を代表とする炎症性サイトカイン(発熱性サイトカイン)が、このセットポイントの上昇に中心的な役割を果たします。


悪寒(寒気)が意味するもの


視床下部が新しい、より高い体温に設定を変更すると、体は現在の体温を新しい設定値まで引き上げる必要があります。この過程で、熱産生を促し、熱放散を抑えるためのメカニズムが働き、患者は「悪寒(寒気、chill)」を感じます。これは、体が積極的に体温を上げようとしている、アクティブな生理現象です。


臨床的に、強い悪寒を伴う発熱は、単なる風邪とは異なる危険なサインである可能性があります。例えば、敗血症やエンドトキシン血症のように、大量の病原体が血流に乗っている状態(菌血症)では、セットポイントを急激に上げるために強い悪寒が伴います。専門的な見地から、この悪寒を感じている期間は、血中の細菌濃度が最も高くなる可能性があるため、血液培養を行うのに適したタイミングであるとされています。強い悪寒を伴う場合は、「体が頑張っているサイン」であると同時に「重篤な感染症が進行しているサイン」でもあるため、直ちに専門医の診察を受け、血液検査(血液培養)の実施を検討することが極めて重要です。



解熱のメカニズムと解熱剤使用の注意点


発熱の原因が取り除かれたり、適切な治療(例:抗菌薬の著効、膠原病に対するステロイド投与)によって発熱物質の産生が抑えられたりすると、視床下部のセットポイントが元の低いレベルに戻ります。この時、体は設定値よりも高い体温を下げるために、血管を拡張させたり、発汗を促したりして熱放散を増やします。体温が急激に下降する現象は「分利性解熱(crisis)」と呼ばれます。


発熱のメカニズムがサイトカインによるセットポイントの上昇である以上、市販の解熱剤の使用はあくまで対症療法に過ぎません。解熱剤によって体温が一時的に下がっても、根本的な原因が解決されたわけではないのです。さらに重要な点として、自己判断で漫然と解熱剤を使い続けることは、診断の鍵となる「発熱パターン」(熱型)を不明瞭にしてしまい、結果的に専門医による適切な原因究明と治療開始を遅らせるリスクがあります。発熱時にはまず専門医の診察を受け、原因を特定した上で、適切なタイミングと用法で解熱剤を使用することが、安全かつ効果的な治療への第一歩となります。




自己判断は危険!発熱時に見逃してはいけない「レッドフラグ」


発熱患者を診察する際、専門医が最も重視するのは、単なる一過性の感染症では片づけられない、緊急性の高い重篤な疾患を見逃さないことです。発熱に加えて特定の症状が伴う場合、それは「レッドフラグ(危険な兆候)」として即座に詳細な精査が必要となります。


重篤な中枢神経感染症の警戒


発熱を伴う頭痛は、髄膜炎(脳と脊髄を覆う膜の炎症)や脳炎といった中枢神経感染症を常に念頭に置くべきサインです。これらの疾患は進行が速く、診断と治療の遅延が不可逆的な神経障害や生命の危機に直結するため、初期対応が極めて重要です。


髄膜炎の典型的なサインとしては、「髄膜刺激徴候」(項部硬直、すなわち首の後ろが硬くなり前屈しにくくなること)が知られています。しかし、専門的な臨床現場では、この典型的なサインがはっきり現れない髄膜炎も珍しくないという点に最大の注意を払います。特に、免疫機能が低下している患者様や高齢者では、症状が非定型化する傾向にあり、首の硬さなどの分かりやすいサインがなくても、髄膜炎は進行している可能性があります。この事実を知らない一般の方が自己判断で「首が硬くないから大丈夫」と判断することは、非常に危険な誤りにつながりかねません。


くりた内科・内視鏡クリニックでは、発熱と頭痛の訴えがあった場合、症状の裏に隠された重篤な病態を見抜く高い臨床判断力を持って対応しています。髄膜炎が強く疑われる場合は、医師は速やかに**腰椎穿刺(髄液検査)**を実施して診断を確定しますが、この前に、頭蓋内占拠性病変(脳腫瘍、脳出血など)による脳ヘルニアのリスクを排除するため、頭部CTまたは頭部MRI検査を優先して行います。発熱と頭痛の患者様に対する診断プロセスは、問診や触診だけでなく、専門的な画像診断や血液検査に基づく多角的なアプローチが必要なのです。



その他の危険度の高い徴候


髄膜炎以外にも、発熱と同時に以下の症状が出た場合は、直ちに専門的な医療機関を受診すべきです。


  • 意識の変化:意識が朦朧とする、周囲の状況を認識できない。

  • 神経脱落症状:ろれつが回らない、急に体のどこかが麻痺したり、感覚がなくなったりする。

  • 新発の強い頭痛:50 歳以降で初めて経験する強い頭痛。

  • 局所の激しい痛み:四肢の急速な腫れ、皮膚の変色や水疱を伴う激しい痛み(壊死性軟部組織感染症など)。

  • 循環動態の異常:呼吸困難、胸痛、血圧の低下(ぐったりしている)、尿量の減少。


くりた内科・内視鏡クリニックは、これらの危険なサインを見逃さない初期評価を行うことで、重篤な状態の迅速な把握と、適切な専門施設への連携を行います。


発熱時に特に注意が必要な「危険なサイン」と受診判断基準

症状・状態

具体的な所見

考えられる緊急性の高いリスク

行動(受診の緊急性)

神経症状・意識の変化

これまで経験したことのない強い頭痛、意識の混濁、ろれつが回らない、体の麻痺や感覚喪失

髄膜炎、脳炎、脳出血、頭蓋内占拠性病変

最緊急:ただちに専門病院の救急外来へ

特定の治療背景

抗がん剤治療中、免疫抑制剤を服用中、臓器移植後、脾臓摘出後など

発熱性好中球減少症、重症菌血症

最緊急:直ちに治療開始が必要。当院へ緊急連絡を

循環器・呼吸器症状

呼吸困難、胸の痛み、血圧低下(ぐったり、脈が速い)、尿量の減少

重症肺炎、敗血症性ショック、心筋炎

最緊急:ただちに専門病院の救急外来へ

局所の重度な痛み・変色

四肢の激しい痛みや急速な腫れ、皮膚の変色や水疱

壊死性軟部組織感染症(NSTI)

最緊急:ただちに専門病院の救急外来へ

高熱の持続

38.3°C以上の熱が3 日以上続く、原因が不明なまま持続

不明熱(FUO)、特定のがん(リンパ腫など)、非感染性疾患

緊急:早急な精密検査(当院での初期評価)が必要




特殊な高リスク発熱:免疫が低下している場合の注意点


特定のがん治療中や免疫抑制剤を使用している患者様にとって、発熱は一般の患者様とは比較にならないほど危険な状態を示します。その代表例が「発熱性好中球減少症(FN:febrile neutropenia)」です。


発熱性好中球減少症(FN)の緊急性


FN は、がん化学療法などで免疫の主役である好中球(細菌と戦う白血球)が極度に減少した状態(好中球数が500/μL 未満、または1,000/μL 未満で48 時間以内に500/μL 未満に減少が予測される状態)で、かつ発熱(腋窩温37.5°C以上または口腔内温38°C以上)を生じた場合に定義されます。好中球が少ない状態では、通常なら体が簡単に処理できる細菌感染であっても、急速に重症化し、致死的な敗血症に陥るリスクが高まります。


FN の最も危険な特徴は、炎症反応や感染徴候が軽度、あるいは全く認められない場合が多いという点です。免疫反応自体が抑制されているため、体は細菌に侵されていても、通常の患者様のように強い発赤、腫脹、膿瘍形成といった「警報」を出すことができません。そのため、FN 患者様にとって、「熱が出た」という事実、それ自体が最高のレッドフラグとなります。専門医は、症状が乏しい感染症の軽微なサイン(例:歯周組織、咽頭、肺、肛門周囲のわずかな疼痛)も見逃さず、迅速な対応が求められます。



迅速な初期診断の重要性


FN が疑われる場合、直ちに経験的治療(広域抗菌薬の投与)を開始すると同時に、以下の初期診断を行う必要があります。


  1. 血球数算定(血算)

    好中球数を確認し、FN の診断を確定します。

  2. 血清生化学検査

    血清Cr(クレアチニン)、BUN(尿素窒素)、トランスアミナーゼ、T-Bil(総ビリルビン)、ALP(アルカリホスファターゼ)など、腎機能および肝機能を評価します。

  3. 血液培養

    抗菌薬投与前に、必ず異なる部位から2 セット以上の静脈血培養を採取します。


これらの検査のうち、腎機能や肝機能の評価(Cr, BUN,  肝酵素)は、単に感染源を特定するためだけでなく、重症感染がすでに多臓器不全を引き起こしていないか、また、今後使用する強力な抗菌薬や支持療法が体に与える影響をモニタリングするために不可欠です。くりた内科・内視鏡クリニックでは、このようなハイリスクな患者様の状態を、臓器レベルの管理まで視野に入れた高度な初期評価をもって迅速に対応します。




くりた内科・内視鏡クリニックの「発熱」診断フロー:原因を特定する力


発熱の原因を特定することは、単に問診だけで終わるものではありません。当クリニックでは、重篤な疾患を見逃さず、原因が感染性か非感染性かを早期に鑑別するため、エビデンスに基づいた体系的な初期検査を迅速に実施します。


血液検査が語る真実


発熱患者様の初期検査において、末梢血検査(血算)や生化学検査は、プライマリーケアの段階で非常に有用な情報を提供します。一般的な炎症反応を見るCRP や白血球数の増減だけでなく、専門医はより深層的な異常値に着目します。


例えば、白血球数がむしろ減少している(白血球減少)場合、これは特定のウイルス感染症、薬剤による骨髄抑制、あるいはリンパ腫や特殊な血液疾患など、より複雑で難治性の疾患が隠れている可能性を示唆します。また、血清フェリチンが極端に高値を示す場合、単なる感染症ではなく、膠原病(リウマチ性疾患)や血球貪食症候群などの自己免疫系の重篤な疾患が関与している可能性を疑う必要があります。


当クリニックの専門的な診断プロセスでは、これらの「非典型的な」検査値異常を見逃しません。白血球減少など、一見軽視されがちなサインから、特殊なウイルス感染、血液疾患、あるいは膠原病といった難治性の疾患まで疑い、迅速な鑑別診断に移行します。



非感染性発熱(不明熱)へのアプローチ


発熱の原因がすべて感染症とは限りません。悪性腫瘍(特にリンパ腫)、膠原病(全身性エリテマトーデス、成人スティル病など)、内分泌疾患など、多岐にわたる非感染性の疾患も発熱を引き起こすことが知られています。これらの疾患による発熱は、原因が不明なまま高熱(38.3°C以上)が数週間以上持続する「不明熱(FUO:Feverof Unknown Origin)」として現れることがあり、診断には専門的な知識と継続的な精査が必要です。


非感染性発熱の診断には、特有の発熱パターンや臨床的特徴、そして特殊な免疫学的・病理学的検査の総合的な評価が求められます。初診時の検査で原因が特定できなくても、当クリニックでは継続的なフォローアップと、専門的な内科的視点に基づく鑑別診断を粘り強く継続する体制を整えています。


当院で迅速に実施する初期検査と所見が示唆するリスク

検査項目

異常所見

臨床的な意義(示唆される可能性)

当院の対応

血算(CBC)

好中球数500/μL未満

発熱性好中球減少症(FN)— 致死的な感染症リスク

直ちに抗菌薬投与、専門施設への連携準備

血算(CBC)

白血球数/リンパ球数の著しい減少

重度のウイルス感染症、骨髄抑制、血液疾患

迅速な原因検索、入院精査の検討

血清生化学

Cr, BUN の高値

腎機能障害、脱水、敗血症による臓器障害

輸液や支持療法の即時導入、重症度評価

血清生化学

フェリチン高値

膠原病、組織の重度な炎症、血球貪食症候群

非感染性発熱の精査開始、専門医連携

培養検査

血液培養陽性(悪寒時採取)

菌血症、敗血症

原因菌特定と最適な抗菌薬治療への迅速な移行





発熱で迷ったら:専門医への相談が最も重要な理由


発熱は単独で発生することは少なく、多くの場合は咽頭痛、咳嗽(咳)、皮疹、下痢などの随伴症状を伴います。これらの症状の「組み合わせ」を正確に読み解くことこそが、経験豊富な専門医による迅速な鑑別診断の出発点となります。


症状の組み合わせを読み解く専門性


例えば、発熱と咽頭痛があれば溶連菌感染症や伝染性単核球症を疑いますし、発熱と皮疹があればウイルス性発疹、薬疹、あるいは膠原病(例:血管炎)の可能性も視野に入ります。発熱と下痢の組み合わせでは、感染性腸炎だけでなく、炎症性腸疾患(IBD)の急性増悪も考慮に入れる必要があります。


専門医の価値は、これらの症状を単発的に捉えるのではなく、全ての随伴症状、既往歴、現在の治療背景(特に免疫抑制状態)を統合し、最も危険な疾患から順に、論理的かつエビデンスに基づいて鑑別診断を進める点にあります。迅速診断法(例:インフルエンザ、溶連菌)や血液検査の結果を正確に解釈する能力が、診断の精度を大きく左右します。



内視鏡クリニックとしての総合的な強み


くりた内科・内視鏡クリニックは、一般内科診療に加えて内視鏡検査に特化した専門性を持っています。この専門性が、発熱患者様の診断において大きな強みとなります。


発熱の原因が不明な場合、消化器系の炎症(例:胆道系感染症、重症の感染性腸炎、クローン病や潰瘍性大腸炎といった炎症性腸疾患)が原因である可能性も十分に考慮しなければなりません。当クリニックでは、一般的な内科的アプローチに加え、必要に応じて消化器系の専門的なアプローチ(例:内視鏡検査による消化管炎症の直接確認や組織検査)まで一貫して行える体制が整っています。これにより、発熱の原因が「お腹」にある場合でも、迅速かつスムーズな診断が可能となり、患者様をたらい回しにすることなく、最適な治療へと誘導することができます。




発熱時の不安を解消し、適切な医療を受けるために


発熱は、体が闘っている証拠であると同時に、髄膜炎、発熱性好中球減少症、あるいは悪性腫瘍や膠原病といった複雑な非感染性疾患の初期サインである可能性を常に秘めています。特に、強い頭痛や意識の変化、特定の治療背景を持つ方々においては、自己判断はせずに直ちに専門医に相談することが、ご自身の命を守る上で最も重要な行動となります。


くりた内科・内視鏡クリニックは、迅速な血液検査体制と、感染性・非感染性発熱を問わず深く原因を追求する専門的な臨床判断力をもって、患者様の不安に寄り添います。私たちは、単に熱を下げる対症療法に留まらず、発熱の真の原因を特定し、エビデンスに基づいた適切な診断と治療を速やかに提供することをお約束します。


発熱でどの病院に行くべきか迷われたら、まずはくりた内科・内視鏡クリニックにご相談ください。皆様のその発熱に隠された危険なサインを、私たちは見逃しません。


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