その「みぞおちの圧迫感」、単なる胃の不調で済ませていませんか?
- くりた内科・内視鏡クリニック

- 10月5日
- 読了時間: 9分
更新日:10月6日

多忙な日々の中、ふとみぞおちのあたりに感じる重苦しさや圧迫感、あるいは違和感。多くの人が「少し食べすぎたかな」「最近疲れているからだろう」と、安易な自己判断でやり過ごしてしまう、ごくありふれた症状かもしれません。しかし、そのありふれた症状の裏には、決して見過ごしてはならない身体からの重要なメッセージが隠されている可能性があります。
みぞおちの圧迫感は、単なる一過性の不調だけでなく、時には命に関わるような重大な病気のサインとして現れることがあります。この症状が持つ多様な意味を理解せず、自己判断や市販薬に頼ることは、根本的な原因の発見を遅らせ、病気を進行させてしまうリスクを伴います。本稿では、みぞおちの圧迫感が示す様々な可能性について、エビデンスに基づいた詳細な解説を行い、なぜ専門医による正確な診断が不可欠なのかを深く掘り下げていきます。
第1章:「みぞおちの圧迫感」が語りかける、様々な可能性
みぞおちの圧迫感は、原因が多岐にわたる非特異的な症状です。その正体を突き止めるには、多角的な視点から症状を分析する必要があります。日常的な要因から消化器疾患、そして見逃されがちな深刻な病気まで、考えられる可能性を一つずつ見ていきましょう。
1.1. 日常的な原因と生活習慣
最も身近な原因は、食生活の乱れやストレスといった日常的な要因です。暴飲暴食や脂質の多い食事、コーヒー、香辛料の過剰摂取は、胃に大きな負担をかけ、消化不良を引き起こします。その結果、胃に内容物が長く留まることで、圧迫感や膨満感が生じることがあります。
また、無意識のうちに空気を過剰に飲み込んでしまう「呑気症(空気嚥下症)」も、みぞおちの圧迫感の一般的な原因です。早食いやガムを噛む習慣、そして精神的なストレスなどが原因で、飲み込まれた空気が食道や胃、腸に溜まり、お腹の張りや頻繁なゲップ、おならといった症状を引き起こします。
さらに、ストレスは胃の働きを司る自律神経のバランスを乱すことで、胃の運動機能を低下させ、胃もたれや圧迫感を生じさせる主要な要因となります。こうしたストレスの影響は、後述する機能性ディスペプシアの背景にも深く関わっています。
1.2. 消化器系の疾患
日常的な原因が解消しても症状が続く場合、何らかの消化器疾患が隠れている可能性があります。
機能性ディスペプシア(FD): 胃の痛みや張り感、圧迫感といった症状が慢性的に続くにもかかわらず、内視鏡検査やその他の検査で胃や十二指腸に明らかな異常が見つからない状態を指します。受診者の半数以上がこの疾患と診断されるほど潜在的な患者数が非常に多いことが知られています。胃の運動機能の異常や内臓の知覚過敏、ストレスなどが原因と考えられています。
逆流性食道炎: 胃と食道の境目の筋肉(下部食道括約筋)の機能が低下することで、胃酸や食べたものが食道に逆流し、粘膜に炎症を引き起こす病気です。食後や安静時に症状が出やすいという特徴があり、みぞおちの圧迫感や胸焼け、ゲップといった症状を伴います。
胃炎: ストレスや飲酒、薬の副作用、そしてヘリコバクター・ピロリ菌感染などによって胃の粘膜が炎症を起こす状態です。急性の場合は吐き気や激しい痛みを伴うことがあり、慢性化すると胃もたれや圧迫感などの症状を繰り返すようになります。
腸の疾患: 長期にわたる便秘は、大腸内にガスや便が過剰に溜まることでお腹が張り、みぞおちの圧迫感を引き起こすことがあります。さらに、腸の動きが停止し、内容物が先に進まなくなる腸閉塞(イレウス)は、激しい腹痛や吐き気・嘔吐、腹部膨満感を伴う重篤な状態です。
1.3. 見過ごしてはいけない、命に関わる病気のサイン
みぞおちの圧迫感は、消化器系の問題に留まらない、より深刻な病気の兆候である可能性も示唆しています。
消化器系の悪性疾患: 胃がんは、初期症状がほとんどないか、あっても胃もたれや圧迫感など、日常的な不調と見分けがつきにくいことが特徴です。症状が進行すると、治療の選択肢が狭まり、治癒が難しくなります。また、逆流性食道炎を長期間放置すると、食道粘膜が変質するバレット食道となり、食道がんのリスクを高めることが指摘されています。
胆のう・膵臓の病気: 胆石症や急性膵炎は、みぞおちを中心に激しい痛みが現れ、背中にまで痛みが放散することがあります。
消化器系以外の重大な病気: 最も注意すべきは、狭心症や心筋梗塞といった心臓の病気です。これらの心臓病は、典型的な胸の痛みの代わりに、みぞおちの圧迫感や痛みとして症状が現れることがあります。特に冷や汗や胸の締め付け感を伴う場合は、緊急性が高い状況です。
このように、みぞおちの圧迫感は、単なる生活習慣の乱れから、早期発見が鍵となる胃がん、さらには緊急性の高い心筋梗塞まで、非常に多岐にわたる病気の兆候となり得ます。この症状の非特異性は、安易な自己判断が命取りになる可能性があることを強く示唆しています。症状だけで原因を特定することは専門家でも困難であり、市販薬で一時的に症状を抑えてしまうことは、その裏に隠された病気の発見を決定的に遅らせてしまいます。
第2章:確実な診断への第一歩:なぜ「胃カメラ検査」が重要なのか
みぞおちの圧迫感の原因を突き止めるには、症状の問診だけでなく、身体の内部を詳細に調べる検査が不可欠です。市販薬を服用することで、胃の炎症や潰瘍、がんなどの兆候が一時的に隠されてしまい、正確な診断が難しくなる恐れがあります。
こうした状況において、胃カメラ検査(上部消化管内視鏡検査)は、最も確実な診断方法とされています。なぜなら、内視鏡検査は食道、胃、十二指腸の粘膜を医師が直接、肉眼で観察できる唯一の検査だからです。これにより、
胃がんや胃・十二指腸潰瘍、胃炎など、粘膜の変化を伴う器質的な病変を確実に発見できます。また、機能性ディスペプシアと診断するためには、これらの器質的な病変がないことを確認する必要があるため、内視鏡検査は診断の第一歩として必須となります。
さらに重要なのは、胃カメラ検査が早期胃がんの発見に決定的な役割を果たすことです。かつては死亡率が高かった胃がんですが、検診による早期発見・早期治療の進歩により、「治る病気」へとその位置づけが変わってきています。特に、胃の粘膜下層に留まるような
早期胃がんであれば、90%以上が根治可能とされています。
早期発見の最大のメリットは、治療の選択肢が広がることです。進行がんのように大掛かりな手術が必要になる前に、病変が小さい段階であれば、内視鏡を使って病変を切除する日帰りでの治療も可能になる場合があります。これは、胃カメラ検査が単なる診断ツールではなく、患者様の命を救い、身体的負担を大幅に軽減する未来へと繋がる、最も価値のある医療行為であることを意味しています。
第3章:「苦しい、つらい」はもう過去のことへ:当院の無痛内視鏡検査
胃カメラ検査の重要性は理解していても、多くの人が検査に踏み出せない最大の理由は「苦痛への恐怖」にあります。「オエッとなる嘔吐反射」「喉を通る時の不快感」「検査中のお腹の張り」といった、過去のつらい経験や不安が、検査を遠ざけてしまう大きな障壁となっています。
当院では、患者様のこのような不安を徹底的に解消し、安心して検査を受けていただくために、複数の工夫を凝らしています。その中核をなすのが、点滴から鎮静剤(静脈麻酔)を投与する「無痛内視鏡検査」です。鎮静剤を使用することで、患者様はほぼ眠っているような、うとうとしたリラックスした状態で検査を受けることができます。「気づいたら検査が終わっていた」と感じる方も多く、身体的な苦痛はもちろん、精神的な不安も大きく軽減されます。
この「無痛」という快適さは、患者様にとってのメリットだけでなく、診断の精度を飛躍的に向上させるという、医学的にも大きな利点をもたらします。
メリットの観点 | 患者様にとってのメリット | 医師・診断にとってのメリット |
検査中の苦痛 | ほぼ眠っている状態で、のどの不快感や吐き気を大幅に軽減 | 嘔吐反射が起きず、安定した状態で隅々まで丁寧な観察が可能に |
検査の精度 | 高性能な内視鏡で、微細な病変も発見しやすくなる | 胃のヒダをしっかり伸ばして観察でき、隠れた早期がんも見つけやすい |
検査後の負担 | 鎮静剤の効果が短時間で切れ、回復がスムーズ。 | 当院では二酸化炭素送気も用いるため、検査後のお腹の張りが速やかに解消されます。 診断精度が高まるため、不要な再検査や精密検査のリスクが減少 |
安心感 | 経験豊富な専門医が、一人ひとりに合わせた鎮静剤量を調整 | 患者様の状態が安定するため、医師が診断に集中できる |
患者様が苦痛なく静止した状態でいられることは、医師がより丁寧に時間をかけて観察することを可能にします。これにより、胃のヒダの間に隠れた微細な病変や早期胃がんの見落としを防ぐことができます。また、鎮静剤を使用することで、不快感の少ない細径の内視鏡だけでなく、より高画質で精密な観察が可能な内視鏡を選択できるようになります。
当院では、内視鏡専門医である院長が、患者様一人ひとりの年齢や体型、健康状態を考慮した上で、鎮静剤の量を適切に調整し、安全かつ高精度な検査を提供することに努めています。これにより、患者様の「苦しい、つらい」といった不安を払拭するだけでなく、病変の早期発見という、内視鏡検査本来の最大の価値を追求しています。
第4章:いますぐ専門医に相談すべき危険なサイン
みぞおちの圧迫感が続く場合でも、特に以下に示す症状が見られる場合は、迷うことなく専門医に相談してください。症状の緊急性を客観的に判断できるよう、チェックリスト形式でまとめました。
症状の目安 | 危険度 | 考えられる病気(例) | 行動の目安 |
これまで経験したことのない、冷や汗を伴うほどの激しい痛み | 緊急 | 胃・十二指腸潰瘍(穿孔)、急性膵炎、急性胆のう炎、心筋梗塞など | 今すぐ受診(救急車も検討) |
吐血(鮮血・コーヒーかすのような黒い嘔吐物)、真っ黒な便(タール便) | 緊急 | 胃・十二指腸潰瘍、胃がん、食道静脈瘤破裂など | 今すぐ受診(救急車も検討) |
痛みが長期的に続く、一時的に治まっても繰り返す | 要早期受診 | 胃炎、胃・十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、機能性ディスペプシア、胆石症など | 翌日〜近日中受診 |
吐き気、胃もたれ、胸焼け、ゲップが頻繁に出る | 要早期受診 | 逆流性食道炎、機能性ディスペプシア、呑気症、胃炎など | 翌日〜近日中受診 |
さいごに:不安を抱えずに、まずはお気軽にご相談ください
みぞおちの圧迫感という一つの症状が示す可能性は、多種多様です。大切なのは、安易に「大したことはない」と自己判断せず、その症状が語りかける身体からのメッセージに耳を傾けることです。
当院は消化器内科および内視鏡専門医として、皆様の不安に真摯に向き合い、正確な診断と適切な治療を提供することを目指しています。
胃がんをはじめとする消化器疾患の早期発見・早期治療は、患者様の未来を守る上で何よりも重要です。
「検査が怖い」「以前受けた検査が苦痛だった」という方も、当院の鎮静剤を用いた無痛内視鏡検査であれば、リラックスして安心して検査を受けていただけます。ご自身の健康を守るために、不安を抱えずに、まずはお気軽にご相談ください。



