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お知らせ・院長ブログ

気づかないうちに進行する「胃の老化」

  • 執筆者の写真: くりた内科・内視鏡クリニック
    くりた内科・内視鏡クリニック
  • 9月15日
  • 読了時間: 9分

更新日:9月18日

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「最近、胃もたれがひどい」「どうも胃の調子がすっきりしない」といった不調を、年齢のせいだと感じていませんか。多くの方が経験するこうした症状の背景には、自覚症状がほとんどないまま進行する「萎縮性胃炎」という病気が隠れている可能性があります。この病気は、単なる胃の不快感にとどまらず、将来的に深刻な疾患へ進行するリスクを秘めた、いわば「胃からのサイレントな警告」です。

本記事では、この見過ごされがちな萎縮性胃炎の正体から、その背後に潜む胃がんとの密接な関係、そして現代の医療でできる確実な対策までを、エビデンスに基づいて分かりやすく解説いたします。ご自身の胃の健康状態を正しく知り、適切な行動を取るための一助となれば幸いです。


萎縮性胃炎の正体―「痩せた胃」が引き起こす問題

萎縮性胃炎の定義と概念

萎縮性胃炎とは、胃の粘膜が慢性的な炎症を繰り返すことで、徐々に薄く、そして弱くなってしまった状態を指します。胃の内側を内視鏡で直接観察すると、正常な状態の粘膜が鮮やかなピンク色であるのに対し、萎縮した粘膜は白っぽく見え、薄くなった部分からは下の血管が透けて見えることもあります。これは、胃が本来持つ機能、特に消化液を分泌する能力が失われつつあることを示す重要なサインです。


ほとんどの原因は「ピロリ菌」

萎縮性胃炎の最大の要因は、実に8割以上を占めるヘリコバクター・ピロリ菌の長期にわたる感染です。ピロリ菌は、主に2歳から5歳頃の幼少期に口から感染すると言われており、一度感染すると自然に排除されることなく胃に住み着き、慢性的な炎症を引き起こします。その結果、何十年という長い時間をかけて、じわじわと胃の粘膜を「痩せさせていく」のです。


萎縮性胃炎の症状と「無症状」という落とし穴

萎縮性胃炎は、胃もたれ、胃痛、胸やけ、膨満感、食欲不振など、さまざまな症状を引き起こすことがあります。しかし、多くの患者様は、これらの症状をほとんど感じることなく病気が進行しているのが実情です。

これは、「最近、胃もたれがなくなったから治った」と安易に考えるのが危険な理由でもあります。胸やけや胃痛は、多くの場合、胃酸の過剰分泌が原因で起こります。しかし、萎縮が進行すると、胃酸を分泌する細胞(壁細胞)が減少するため、胃酸の分泌量自体が減っていきます。この結果、胸やけなどの症状が自然と治まってしまうことがあるのです。つまり、症状の消失は治癒のサインではなく、むしろ萎縮がさらに進行し、胃の機能が低下したサインである可能性が高いことを意味します。この「症状のパラドックス」こそが、萎縮性胃炎の最も見過ごされやすい、しかし最も危険な側面です。


萎縮から胃がんへ―見過ごしてはいけない密接な関係

胃がんへの「一本道」:腸上皮化生とは?

長期にわたる慢性胃炎が進行して萎縮性胃炎となり、さらに悪化すると「腸上皮化生」という状態に至ることが知られています。これは、胃の粘膜が、その性質を失い、まるで腸の粘膜のように変化してしまう現象です。

この腸上皮化生は「前がん病変」と考えられており、その一部ががん化して胃がんが発生すると言われています。なぜなら、胃炎や萎縮が起こっている粘膜上には、細胞分裂が活発な細胞が多く存在することが明らかになっているからです。細胞が活発に分裂する場所では、遺伝子にコピーエラーが起こるリスクが高まり、それががんの発生につながる土壌を作り出してしまいます。萎縮性胃炎は、単に粘膜が薄くなるだけでなく、胃がんが発生しやすい環境を作り出しているという本質的な危険性を持っているのです。


ピロリ菌除菌でリスクはゼロになる?―安心しきってはいけない理由

ピロリ菌の除菌は、胃がんのリスクを約4分の1から3分の1にまで軽減できる、極めて有効な予防策です。しかし、除菌が成功したからといって、胃がんのリスクが完全にゼロになるわけではありません。

その理由は、一度萎縮してしまった粘膜が完全に元の状態に戻るまでには、10年以上という長い年月を要するためです。つまり、除菌に成功した後も、がんが発生しやすい状態はしばらく続くことになります。この事実を認識することが、長期的な胃の健康管理において非常に重要です。除菌成功後も、定期的な内視鏡検査によるフォローアップを続けることが、胃がんの早期発見・早期治療につながる唯一の道となります。


「胃がんリスクが高い胃」とは?:ABC検診の役割

胃がんになるリスクを評価する検査として、「ABC検診(胃がんリスク層別化検査)」があります。これは、血液検査でピロリ菌の感染有無と、胃粘膜の萎縮度を示すペプシノゲンという酵素の値を測定し、その組み合わせで胃がんの発生リスクを4段階(A〜D群)に分類するものです。

この検査でB群やC群、特に胃粘膜の萎縮が進んでいるD群と判定された場合は、胃がんが発生しやすい状態にあることを意味するため、必ず精密検査として胃カメラ検査を受ける必要があります。


ABC判定区分

ピロリ菌感染の有無

胃粘膜の萎縮度

胃がん発生リスクの評価

推奨される管理・対処法

A群

陰性

なし

胃がんリスク低

5年ごとの胃がん検診

B群

陽性

なし

胃がんリスク低

胃カメラ検査推奨

C群

陽性

あり

胃がんリスク中

毎年胃カメラ検査推奨

D群

陽性

強い

胃がんリスク高

毎年胃カメラ検査推奨

※上記は一般的な目安です。実際の判定結果や対応については、医師にご相談ください。


確実な診断と治療法―あなたの胃を守るための行動

確定診断のゴールドスタンダード:胃カメラ検査

「健康診断でバリウム検査を受けたから大丈夫」と考えている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、バリウム検査では、萎縮性胃炎の進行度を正確に判断することは難しいとされています。実際に、バリウム検査で「異常なし」と診断されながら、後に胃カメラ検査でピロリ菌感染や萎縮性胃炎が判明するケースも報告されています。

これに対し、胃カメラ検査は、細いスコープを口または鼻から挿入し、胃の粘膜を直接、鮮明な画像で観察する検査です。萎縮の程度や腸上皮化生の有無、さらにはごくわずかな粘膜の変化まで詳細に評価することが可能です。疑わしい病変があれば、その場で組織を採取して病理検査を行うこともできるため、確定診断には欠かせない、まさに「ゴールドスタンダード」といえます。


胃カメラ検査(内視鏡検査)

バリウム検査(X線検査)

観察方法

スコープ先端のカメラで粘膜を直接観察

バリウムを飲んでX線で間接的に観察

得られる情報

萎縮度、腸上皮化生、粘膜の色調、微小な病変など詳細な情報

粘膜の凹凸、ポリープ、潰瘍など大まかな形状変化

メリット

粘膜の色調や微小な変化まで詳細に診断できる。その場で組織採取(生検)やポリープ切除が可能。

比較的短時間で検査できる。

デメリット

検査中の不快感や吐き気、恐怖心を感じる場合がある。

萎縮の程度など詳細な診断が難しい。検査中に病変が見つかっても、改めて胃カメラ検査が必要になる。

推奨される状況

萎縮性胃炎の確定診断、胃がんの早期発見、精密検査

胃がん検診のスクリーニング、内視鏡検査が困難な場合


ピロリ菌除菌治療の具体的な流れ

萎縮性胃炎と診断された場合、その原因がピロリ菌であれば、まず第一に除菌治療が行われます。治療は非常にシンプルで、胃酸の分泌を抑える薬と2種類の抗生物質を、1日2回、7日間服用するだけです。

この治療の成功率は1回目の「一次除菌」で約90%と非常に高いことが知られています。万が一、一次除菌が失敗した場合でも、使用する抗生物質を変えて2回目の「二次除菌」を行うことができ、これについても保険が適用されます。


くりた内科・内視鏡クリニックだからできること

胃カメラ検査が大切だと分かっていても、「苦しくて辛い」「昔受けた検査がトラウマだ」と感じている方も少なくありません。当院では、そのような患者様の不安を解消し、より質の高い医療を提供するため、さまざまな工夫を凝らしています。


苦痛を「最小限」にするための取り組み

当院の最大の特徴は、「苦痛を最小限にした内視鏡検査」を提供することです。内視鏡検査の快適さは、担当する医師の技術や熟練度によって大きく左右されます。当院では、数万件に及ぶ内視鏡検査経験を持つ熟練の内視鏡専門医が、患者様一人ひとりの状態に合わせた丁寧な検査を行います。

さらに、ご希望の方には、鎮静剤を使用し、眠っている間に検査を終えることも可能です。鎮静剤は、患者様の「おえっ」となる嘔吐反射や、お腹が張る不快感を和らげるだけでなく、検査自体の精度向上にも大きく貢献します。患者様がリラックスすることで、医師は胃のひだを隅々まで丁寧に広げて観察でき、そこに隠れた微小な早期胃がんや病変を見逃しにくくなります。患者様の快適性と、検査の精度の両方を追求する、それが当院の医療哲学です。


最新技術が実現する「見逃さない」精密検査

当院では、大学病院レベルの検査・処置を可能にするために、オリンパス社の最新式内視鏡システム『EVIS X1』と4Kモニターを導入しています。このシステムは、従来の機器では見落とされていたかもしれないごくわずかな粘膜変化も見逃さない、高精細な画像を映し出します。最大125倍の光学ズーム機能を備えた最新の経口内視鏡も採用しており、病変をより高倍率で拡大観察することで、質の高い診断を可能にしています。


検査後も快適な配慮

内視鏡検査後、胃に注入された空気でお腹が張る不快感を覚える方がいらっしゃいます。当院では、その不快感を軽減するため、体内に速やかに吸収される炭酸ガス(CO2)を全例に使用しています。これにより、検査後の回復がよりスムーズになり、快適な状態でお帰りいただけます。


忙しい方でも安心の利便性

当院は阪急大宮駅から徒歩2分という、通いやすい好立地にあります。お忙しい方でも安心して受診できるよう、ウェブ予約にも対応しており、24時間いつでも予約が可能です。また、事前の準備や通院の負担を一度に済ませたい方には、胃カメラと大腸カメラを同日に受けていただくことも可能です。


あなたの胃を守る第一歩―「放置」から「行動」へ

萎縮性胃炎は、多くの場合、自覚症状がないまま進行し、その背後で胃がんという深刻な病気へとつながる可能性があります。胃もたれを「歳のせい」と決めつけたり、健康診断のバリウム検査で「異常なし」と言われたからと安心しきったりすることは、かえって病気の発見を遅らせる危険性があるのです。

ご自身の胃の健康を確かめる最も確実な方法は、ご自身の目で胃の粘膜を直接確認することです。当院では、胃カメラ検査を怖いと感じる方にも安心して受けていただけるよう、痛みや苦痛を最小限に抑えるための万全の体制を整え、微小な病変も見逃さない最新の技術を駆使しています。

「放置」から「行動」へ。それが、あなたの胃の健康を守る第一歩です。まずは一度、お気軽にご相談ください。あなたの胃の健康を守るパートナーとして、私たちが寄り添います。

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