尿検査で「白血球が多い」と言われたら?膀胱炎・腎炎のサインと再検査の基準をくりた内科・内視鏡クリニックが解説
- くりた内科・内視鏡クリニック
- 8月19日
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更新日:9月1日

尿検査でわかる体のサイン
尿検査は、体の状態を簡便かつ非侵襲的に把握できる非常に有用な検査です。特に、尿中に含まれる成分の変化は、腎臓や尿路系の健康状態を示す重要な手がかりとなります。もし尿検査で「白血球が多い」と指摘された場合、それはどのような意味を持つのでしょうか。この項目では、尿中白血球の基本的な知識から、その異常が示唆する可能性について解説します。
尿中白血球(膿尿)とは何か
尿中白血球、専門的には「膿尿(のうにょう)」とは、尿中に白血球が混入している状態を指します。白血球は、体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物を排除する役割を持つ免疫細胞であり、体が炎症を起こしている場所に集まる性質があります。
したがって、尿中に白血球が多数出現するということは、腎臓から尿路系(尿管、膀胱、尿道)、あるいは男性の場合は前立腺などに炎症や感染症が存在する可能性を示唆する重要なサインとなります。多くの場合、尿中に細菌と白血球が共に出現し、これは典型的な尿路感染症を示唆しますが、白血球のみで細菌を認めない「無菌性膿尿」のケースも存在します。
正常な状態でも少量は含まれる?
健康な人の尿でも、ごく少量の白血球が含まれることは生理的に正常です。尿沈渣検査において白血球が1~4/HPF(高倍視野)であれば正常範囲とされています。しかし、尿中の白血球数は採尿の方法や利尿の状態(尿比重、つまり尿の濃さ)によって容易に変動する特性があります。このため、膿尿の存在だけで直ちに尿路・性器感染症と診断することは、時に慎重な判断が求められます。
尿中白血球の存在は炎症のサインではありますが、その数値だけで安易に診断を下すことは危険です。採尿時の状況や尿の濃さといった病気以外の要因が結果に影響を与える可能性があるためです。このことは、検査結果の解釈に複雑さをもたらします。例えば、尿が濃縮されていると相対的に白血球数が多く見えたり、採尿時に外部からの細胞が混入したりすることで、実際には問題がないにもかかわらず「白血球が多い」と判定されることがあります。このような背景から、単一の検査結果だけで判断せず、複数の要因を総合的に考慮する必要があることがわかります。これは、患者さんに過度な不安を与えないようにしつつ、正確な診断のためには専門医の診察が不可欠であることを示す重要な点です。
尿中白血球の「正常値」と検査の基準
尿中白血球の検査には主に「試験紙法」と「顕微鏡検査(尿沈渣)」の二つの方法があります。それぞれの検査で白血球の「正常値」や判定基準が異なり、これらを理解することは検査結果を正しく解釈するために重要です。
白血球の正常値はどのくらい?
試験紙法での判定基準(±・1+〜)
試験紙法は、尿中に含まれる白血球の酵素(エステラーゼ)を間接的に検出する方法です。この方法は簡便であり、試験紙の色調変化によって、白血球の有無やおおよその量を確認できます。試験紙法での検出感度は10~25個/μLとされており、これは後述する尿沈渣検査の「有意な白血球尿」の基準値(5/HPF以上)と概ね一致するとされています。結果は「±(微量)」「1+(少量)」「2+(中等量)」「3+(多量)」といった形で報告されることが一般的です。
顕微鏡検査でのカウント値(1視野あたり)
より詳細な評価には、尿を遠心分離して細胞成分を沈殿させ、それを顕微鏡で直接観察する「尿沈渣検査」が用いられます。この方法では、白血球の数だけでなく、その形態や他の細胞成分の有無も確認できます。正常な尿沈渣では白血球は1~4/HPF(高倍視野)とされており、5未満/HPFが正常範囲とされています。白血球が5-9/HPFで「+」、10-/HPF以上で「++」と評価されることが示されており、これらの数値が異常の目安となります。尿沈渣で白血球などの成分が増加している場合は、腎炎、腎臓や尿路の感染、腫瘍、結石などを疑い、さらに詳しい検査が必要となります。
尿中白血球の検査には複数の方法があり、それぞれに特性と限界があるため、結果の解釈にはその検査法の特性を理解することが不可欠です。試験紙法は手軽なスクリーニングには有用ですが、その結果だけで確定診断を下すことはできません。特に、試験紙法では偽陽性や偽陰性の可能性もあるため、より正確な診断には、専門的な知識と設備を要する顕微鏡検査が不可欠です。患者さんが自宅で簡易検査を行った場合と医療機関での検査結果が異なる可能性があるため、専門的な検査の重要性を理解することは、患者さんが安心して医療機関を受診する動機付けとなります。
検査結果の「偽陽性・偽陰性」に注意!
尿検査の結果は、様々な要因によって、実際の体の状態とは異なる「偽陽性(異常がないのに陽性)」や「偽陰性(異常があるのに陰性)」を示すことがあります。特に尿中白血球の検査では、これらの誤差に注意が必要です。
採尿方法によるコンタミネーション
尿検査で最も注意すべきは、外部からの物質の混入、すなわち「コンタミネーション」です。採尿時に尿の出口部周囲が十分に洗浄されていない場合や、排尿の途中でない「出始め」や「終わり」の尿(中間尿ではない尿)を採取すると、皮膚の常在菌や細胞、女性の場合は膣からの分泌物などが混入し、白血球が検出されて偽陽性となることがあります。正確な結果を得るためには、検尿前夜の入浴時に尿の出口部周囲を十分に洗い、検査当日は排尿中の中程の尿(中間尿)をコップに受けて採尿することが非常に重要です。
セルフ検査と医療機関での誤差
近年、市販のセルフ検査キットも増えていますが、その精度には限界があることを理解しておく必要があります。糖尿病のセルフチェックに関する情報では、「自分で調べるのには限界があり精度は決して高くない」と述べられており、これは尿検査全般に当てはまる原則です。がん検査キットについても、「病院の精密検査のように医療的な診断はできない」「100%信頼性があるものではない」と明確に述べられており、セルフ検査はあくまでスクリーニング目的であり、医学的な診断には医療機関での精密検査が不可欠であることが強調されています。
医療機関では、専門的な知識を持つ医療スタッフが適切な採尿指導を行い、より精度の高い顕微鏡検査や、必要に応じて追加の検査を実施します。試験紙法における偽陰性・偽陽性の具体的な要因として、試験紙の劣化、尿の比重が高い(濃い)ことによる浸透低下、抗生物質や高濃度のブドウ糖、シュウ酸、タンパク質、あるいはビタミンCの存在などが偽陰性を引き起こす可能性があります。逆に、尿が薄い(低張尿)場合やアルカリ性の尿では偽陽性になりやすい傾向があります。採尿容器に残留した洗浄剤なども偽陽性の原因となりえます。
これらの情報は、患者さんが自宅で簡易検査を行った場合、誤った結果を信じて不必要な不安を感じたり、逆に重要な疾患を見逃したりするリスクがあることを明確に示唆しています。特に、尿中白血球の検査は採尿方法や尿の状態に左右されやすいため、正確な診断のためには、適切な採尿指導と、専門的な検査設備、そして結果を正しく解釈できる医師の存在が不可欠です。これにより、患者さんは安心して医療機関を受診する重要性を認識できます。
項目 | セルフ検査(簡易キット) | 医療機関での検査 |
検査場所 | 自宅 | クリニック・病院 |
検査方法 | 主に試験紙法 | 試験紙法、顕微鏡検査(尿沈渣)、尿培養、血液検査、画像検査など |
検出感度 | 比較的低め(簡易的なスクリーニング向け) | 高感度・高精度(専門的な診断向け) |
偽陽性/偽陰性の要因 | 採尿ミス、薬剤、尿の濃さ、試験紙の劣化、容器の不備など影響大 | 専門家による採尿指導、厳格な品質管理、複数検査で補完 |
診断の信頼性 | あくまでスクリーニング目的、医学的診断は不可 | 確定診断が可能、医師による専門的な判断 |
専門家による解釈 | なし(自己判断) | 医師による詳細な結果説明と治療方針の提案 |
精密検査の可能性 | なし | 必要に応じて追加の精密検査(尿培養、画像検査など)が可能 |

尿中白血球が増える主な原因となる疾患
尿中白血球の増加は、体内のどこかで炎症や感染が起きているサインであり、その原因は多岐にわたります。ここでは、白血球増加の代表的な原因となる疾患について、それぞれの特徴を詳しく解説します。
急性膀胱炎
急性膀胱炎は、尿路感染症の中でも最も一般的な疾患の一つで、特に女性に多く見られます。主な原因は細菌感染です。特徴的な症状としては、排尿時の痛み(排尿痛)、頻繁に尿意を感じる(頻尿)、排尿後もすっきりしない感覚(残尿感)、尿が濁る(混濁尿)、急に尿意を催し我慢できない(尿意切迫感)などが挙げられます。尿検査では、尿中の細菌と白血球が多数検出されることで診断されます。顕微鏡でしか見えない程度の血尿(顕微鏡的血尿)が見られることもあります。通常、発熱を伴うことは稀ですが、適切な治療が遅れると、感染が腎臓にまで広がり、より重篤な腎盂腎炎に進行する可能性もあります。
腎盂腎炎
腎盂腎炎は、腎臓の腎盂(じんう)と呼ばれる部分に細菌が感染して炎症を起こす疾患で、急性膀胱炎よりも重篤な状態です。膀胱炎の症状に加え、発熱(高熱となることが多い)、悪寒、腰や背中の痛み(特に腎臓のある部分の叩打痛)などの全身症状を伴うことが特徴です。全身倦怠感もよく見られます。尿検査では、尿中の白血球が著しく増加し、尿中の白血球数が5個以上/HPF(高倍視野)で尿路感染の可能性が高まります。さらに、白血球が尿路内で塊となって排出される「白血球円柱」が見られることもあり、これは腎臓での炎症を示唆する重要な所見です。血液検査では、白血球数が増加したり、CRP(C反応性蛋白)という炎症反応の数値が上昇したりするなど、全身の炎症所見が認められます。
性感染症(クラミジア・淋菌)
尿道炎の原因となる性感染症(STD)も、尿中白血球増加を引き起こすことがあります。
クラミジア性尿道炎
男性では無症候感染が増加していることが知られており、自覚症状がなくても初尿沈渣中に白血球を認めることがあります。クラミジア性尿道炎では尿中に白血球を認めないこともあるものの、遺伝子検査で確認すると述べられており、診断の難しさを示唆しています。
淋菌性尿道炎
淋菌性尿道炎では、排尿初期の痛みや尿道の掻痒感、尿道からの分泌物が見られることが特徴です。外尿道口からの分泌物スミアのグラム染色で、多数の多核白血球(5WBCs/1000倍視野以上)と、その中にグラム陰性双球菌が確認されれば診断されます。白血球細胞内に淋菌が存在することで感染を確認できると述べられています。
性感染症による尿道炎においても、尿検査で白血球を認めることが客観診断の出発点となります。
間質性腎炎や薬剤性の炎症
間質性腎炎
腎臓の尿細管とそれを囲む間質組織に炎症が起こる疾患です。尿細管が障害を受けると、二次的に間質に白血球などの細胞が浸潤して炎症が引き起こされると説明されています。この疾患は、薬剤が原因となる「薬剤性間質性腎炎」が比較的多く、75~85%の高い頻度で、細菌は陰性であるにもかかわらず白血球が陽性の「無菌性膿尿」を認めます。白血球エステラーゼ陽性だが細菌尿が見られない場合に、間質性腎炎等の無菌性膿尿の精査をすべきであると示唆されています。薬剤性間質性腎炎では蛋白尿、血尿、膿尿を伴い、尿沈渣で白血球円柱や好酸球(アレルギー反応に関わる白血球)が出現することがあります。
薬剤性の炎症
特定の薬剤が原因で、膀胱や尿道に直接的な炎症が起こることもあります。化学療法薬(アルキル化剤など)、ペニシリン系抗菌薬、抗アレルギー薬(トラニラスト)、漢方薬(柴苓湯)などが薬剤性出血性膀胱炎の原因となりうると指摘されています。これらの薬剤は腎臓から尿中に排泄される際に膀胱上皮に直接作用し、炎症を引き起こす可能性があります。一般的な膀胱炎の診断基準として、膀胱炎症状と尿中白血球の存在が挙げられており、薬剤性の場合も同様に白血球が増加することを示唆します。シクロスポリン(免疫抑制薬)による腎機能障害や抗リウマチ薬によるネフローゼ症候群など、間質性腎炎以外の薬剤性腎障害も存在します。
これらの多様な原因を個別に見ていくと、尿中白血球が多いという単一の検査結果だけでは、どの疾患であるかを特定することはできません。例えば、発熱の有無で膀胱炎と腎盂腎炎を鑑別し、性行為歴の有無で性感染症を疑い、薬剤使用歴の有無で薬剤性を考慮するなど、患者さんの背景情報と症状、そして必要に応じた追加検査(尿培養、血液検査、画像検査など)を組み合わせることで、初めて正確な診断に至ることができます。これは、画一的な診断ではなく、患者さん一人ひとりの状況に合わせた総合的かつ鑑別的な診断プロセスの重要性を示唆しています。
疾患名 | 主な症状 | 尿中白血球以外の特徴的な検査所見 |
急性膀胱炎 | 排尿時痛、頻尿、残尿感、混濁尿、尿意切迫感(発熱は稀) | 細菌尿、顕微鏡的血尿 |
腎盂腎炎 | 発熱、悪寒、腰背部痛、全身倦怠感、膀胱炎症状 | 細菌尿、白血球円柱、血液検査(CRP・白血球増多) |
性感染症(尿道炎) | 尿道分泌物、排尿時痛、尿道掻痒感(無症状の場合も) | 尿道分泌物グラム染色、核酸増幅検査(PCR) |
間質性腎炎・薬剤性炎症 | 発熱、皮疹、関節痛、腎機能低下(無症状の膿尿も)、薬剤使用歴 | 無菌性膿尿(細菌陰性白血球陽性)、好酸球尿、軽度蛋白尿、腎機能低下 |
症状がないのに白血球が多いのはなぜ?「無症候性細菌尿」
尿検査で白血球や細菌が検出されても、自覚症状が全くない場合があります。この状態は「無症候性細菌尿」と呼ばれ、特に特定の患者層でよく見られます。症状がないからといって放置して良い場合と、治療が必要な場合があります。
無症候性細菌尿とは
無症候性細菌尿とは、尿中に細菌が増殖しているにもかかわらず、頻尿、排尿時痛、発熱、腰痛といった尿路感染症を示唆する症状が全くない状態を指します。通常、無症状にもかかわらず尿中の細菌数が10^5/mL(1ミリリットルあたり10万個)以上の状態を無症候性細菌尿と診断します。尿中白血球が検出されることもありますが、症状がないため、見過ごされたり、診断が遅れたりすることがあります。
高齢者や妊婦に多い理由
無症候性細菌尿は、女性、高齢者、妊婦に多く見られ、特に糖尿病を患っている場合はさらにリスクが高まります。
高齢者
高齢女性では、加齢に伴う尿路の変化(膀胱機能の低下、骨盤底筋の弛緩など)や基礎疾患の影響で、無症候性細菌尿が非常に一般的です。65歳以上の女性の約6~16%、80歳以上の女性の20%が無症候性細菌尿であるという報告もあります。高齢者の無症候性細菌尿は通常、治療の対象とはならないとされています。これは、不必要な抗菌薬の投与が、体内の細菌バランスを乱し、より治療が困難な薬剤耐性菌の出現を招くリスクがあるためです。症状がない限り、積極的に治療する必要がないという考え方が一般的です。
妊婦
妊婦の無症候性細菌尿は、高齢者とは異なり、治療が必要な重要な例外です。無治療で経過をみた場合、腎盂腎炎へと進行し、早産や低出生体重児のリスクを高めることが知られています。妊娠初期と後期に尿培養を行い、細菌を同定して薬剤感受性試験を行う必要があると具体的に示されています。無症候性細菌尿を有する妊婦では、急性腎盂腎炎が2~7%にみられ、細菌尿を伴わない妊婦の1%と比較して高率であるため、症状がなくても治療が推奨されます。
尿中に白血球や細菌が検出されたとしても、症状の有無、患者の年齢、妊娠の有無、基礎疾患といった個々の背景要因によって、治療の必要性が大きく異なります。これは、画一的な検査結果の解釈ではなく、患者全体を診る総合的な判断が求められることを示唆しています。特に、高齢者における無症候性細菌尿は、不必要な抗菌薬の使用が薬剤耐性菌の発生を促進するため、適切な判断が公衆衛生上も重要となります。一方で、妊婦の場合は、母体と胎児へのリスクを考慮し、症状がなくても治療が推奨されるという明確な違いがあります。
白血球異常が続く場合に行う精密検査
尿検査で白血球の異常が指摘され、それが一時的なものではなく症状が続く場合や、原因が不明な場合には、より詳細な精密検査が必要となります。これらの検査は、正確な診断を下し、適切な治療方針を決定するために不可欠です。
尿培養
尿培養検査は、尿中の細菌や真菌を特定し、尿路感染症の原因菌を突き止めるための最も重要な検査の一つです。採取した少量の尿サンプルを専用の培地で培養し、増殖した微生物の種類を特定することで、尿路感染症(UTI)の診断を確定します。さらに、特定された菌に対してどの抗菌薬が効果的かを調べる「薬剤感受性試験」も同時に行われ、最適な治療薬の選択に役立ちます。尿培養検査は、正確な診断、個々の患者に合わせた治療(カスタマイズされた治療)、再発防止、耐性感染症の特定、慢性疾患のモニタリングに重要な役割を果たすと強調されています。一般的に、細菌数が10,000 CFU/mL未満であれば正常、100,000 CFU/mLを超えると感染を示唆するとされています。特に乳幼児の尿路感染症において、採尿バッグで採取した尿の培養結果は診断的価値が低く、導尿カテーテルでの採取が推奨されると述べられており、適切な採尿方法が検査結果の信頼性を大きく左右することを示唆しています。
腹部超音波検査
腹部超音波検査(エコー検査)は、腎臓、膀胱、尿管といった尿路系の臓器の構造的な異常を調べるために行われる画像検査です。この検査では、尿路結石、腫瘍、水腎症(尿の流れが滞り腎臓が腫れる状態)、膀胱内の残尿量などを確認することができます。尿路感染症が繰り返される場合や、治療に反応しにくい場合に、感染症の原因となる基礎疾患(例えば、尿路の閉塞や奇形など)の有無を調べる上で非常に重要です。採血や尿検査だけでは診断がつかない場合や、症状が強い場合に、細菌が体内のどこで増殖しているのか、現在どのような変化が起こっているのかを確認するために、CTや超音波検査などの画像検査が用いられると説明されています。
血液検査(炎症反応・腎機能)
炎症反応
体内の炎症の程度を客観的に評価するために、血液中の白血球数(WBC)やCRP(C反応性蛋白)などの項目を測定します。血液中の白血球が一定数以上ある場合、尿路感染症である可能性が高まります。腎盂腎炎のような重篤な尿路感染症では、発熱や全身倦怠感に加え、血液中の白血球増多やCRP上昇などの全身性の炎症所見が認められることで確定診断されると説明されており、これらの数値が感染の重症度を把握する上で重要です。
腎機能
腎臓が正常に機能しているかを確認するために、血液中のクレアチニン(Cr)などの項目を測定します。腎臓で細菌が繁殖し、炎症が広がると、腎機能が低下し、クレアチニンの数値が上昇することがあると指摘されており、これにより腎臓への影響の有無や程度を評価できます。
尿中白血球の異常が続く場合、単一の検査だけでは原因を特定しきれないことが多くあります。尿培養、画像検査、血液検査といった複数の検査を組み合わせることで、感染の原因菌特定、尿路系の構造的異常の有無、全身の炎症反応や腎機能への影響を総合的に評価し、病態の全貌を深く把握することが可能となります。これは、表面的な症状だけでなく、根本的な原因と体の状態全体を理解するための、現代医療における標準的なアプローチです。例えば、尿培養で原因菌が特定されても、尿路に結石や奇形があれば感染が再発しやすいため、画像検査で構造的異常を確認する必要があります。また、血液検査で炎症反応や腎機能の悪化が見られれば、感染が全身に及んでいる可能性や腎臓へのダメージを評価し、より積極的な治療が必要と判断できます。このように、複数の検査を組み合わせることで、単なる尿中白血球の増加という現象の裏にある、具体的な病態(原因菌、感染部位、全身への影響)を深く理解し、適切な治療へと繋げることができます。

治療が必要になるケースと抗菌薬の判断基準
尿検査で白血球の増加が認められたとしても、必ずしも抗菌薬による治療が必要となるわけではありません。特に抗菌薬の投与は、その必要性を慎重に判断し、適切な薬剤を適切な期間使用することが、効果的な治療と薬剤耐性菌の発生抑制のために極めて重要です。
抗菌薬が必要かどうかの判断基準
症状の有無
尿路感染症の症状(排尿時痛、頻尿、発熱、腰痛など)がある場合は、抗菌薬治療の対象となることが一般的です。特に、発熱や腰背部痛を伴う腎盂腎炎では、速やかな抗菌薬治療が必須となります。ショック状態でない、SIRS(全身性炎症反応症候群)の診断基準を満たしていない、嘔気や嘔吐がない、脱水症の徴候がない、免疫機能低下疾患がない、重篤な感染症の徴候がない、といった基準が外来治療で治癒が期待できる目安となると示唆されています。
原因菌の特定と感受性
尿培養検査で原因菌が特定され、その菌が抗菌薬に感受性がある(効く)と判断された場合に、適切な抗菌薬が選択されます。経験的治療(培養結果が出る前に症状から推測して治療を開始すること)の効果を3日程度で判定し、培養結果判明後には感受性に基づいた治療に切り替えることが推奨されます。
重症度
血液検査で白血球増多やCRP上昇など、全身の炎症反応が著しい場合や、腎機能の低下が見られる場合は、重症度が高いと判断され、入院や点滴による抗菌薬治療が必要となることがあります。
特定の患者群
妊婦の無症候性細菌尿:症状がなくても、腎盂腎炎への進行や早産のリスクがあるため、治療の対象となります。
泌尿器科術前の患者:術後の感染リスクを考慮し、治療対象となる例外です。
無症候性細菌尿の原則:高齢者や非妊婦の無症候性細菌尿は、通常抗菌薬治療の対象とはなりません。これは、不必要な抗菌薬の使用が薬剤耐性菌の出現を招き、将来的に本当に治療が必要になった際に薬が効かなくなるリスクがあるためです。カテーテル留置中の無症候性細菌尿消失のための抗菌薬投与は無意味であると述べられています。
効果判定:抗菌薬治療の効果判定は、投薬終了後5~9日後、および投薬開始21~28日後に行うことが原則とされています。これは、抗菌薬が体内から排出された後に残存菌が再増殖する期間を考慮したものであり、治療が完全に奏効したかを確認するために重要です。
抗菌薬治療は、単に細菌が存在するから行うのではなく、患者の症状の有無、背景(年齢、妊娠の有無)、原因菌の種類とその感受性、感染の重症度、そして薬剤耐性菌の発生リスクを総合的に考慮した上で、個々の患者に最適な判断を下す必要があります。これは、過剰な抗菌薬使用を避け、効果的な治療と公衆衛生上の課題(耐性菌問題)の両立を目指す医療の現代的なアプローチであり、専門医の深い知識と経験が求められる領域です。特に、無症状の細菌尿に対する不必要な抗菌薬投与は、患者自身の常在菌叢を乱し、将来的な耐性菌感染のリスクを高める可能性があります。これは、エビデンスに基づいた個別化医療の実践であり、専門医が患者さんの状態を総合的に評価し、最適な治療方針を決定する役割が極めて重要であることを示唆しています。
尿検査の異常はくりた内科・内視鏡クリニックへご相談ください
尿検査で「白血球が多い」と指摘された場合、その原因は膀胱炎や腎盂腎炎といった一般的な感染症から、性感染症、さらには薬剤性や自己免疫性の炎症まで、多岐にわたることがお分かりいただけたでしょうか。症状の有無や患者さんの背景によって、治療の必要性やその方法は大きく異なります。
検査結果に不安を感じたまま自己判断したり、放置したりすることは、症状の悪化や病気の進行につながる可能性があります。正確な診断と、患者さん一人ひとりに合わせた最適な治療のためには、専門医による詳細な検査と診察が不可欠です。
くりた内科・内視鏡クリニックでは、尿検査の異常に対する丁寧な問診、精密な尿培養や血液検査、必要に応じた画像検査などを通じて、白血球増加の根本原因を特定します。そして、最新のエビデンスに基づき、不必要な抗菌薬の使用を避けつつ、患者さんにとって最も効果的で安全な治療方針をご提案いたします。
内科専門医として、尿路系の問題だけでなく、全身の状態を総合的に診ることで、患者さんの健康をトータルでサポートいたします。
気になる症状がある方、あるいは健康診断などで尿検査の異常を指摘された方は、どうぞお気軽にくりた内科・内視鏡クリニックまでご相談ください。

