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「腸がねじれるような痛み」—その正体と、見過ごしてはいけないサイン

  • 執筆者の写真: くりた内科・内視鏡クリニック
    くりた内科・内視鏡クリニック
  • 10月6日
  • 読了時間: 10分

更新日:11月4日

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はじめに:「腸がねじれるような痛み」—その感覚、決して放置しないでください

お腹が「ねじれるような」あるいは「締め付けられるような」強い痛み。それは、経験した方にしかわからない、非常に辛く、そして不安を感じる症状です。差し込むような激しい痛みから、じわじわと続く不快感まで、その感じ方は人によってさまざまです。当院にも、この独特な痛みを訴えて来院される方が多くいらっしゃいます。

この痛みは、単なる腹痛として軽視されがちですが、体の内部で起こっている重要なサインである可能性があります。単なる便秘やストレスによるものから、場合によっては命に関わる緊急性の高い病気が隠れていることもあります。本記事では、この痛みの正体を専門医の視点から分かりやすく解説し、どのような場合に医療機関を受診すべきか、そして当院ではどのようなアプローチで診断・治療を進めていくのかをご説明します。

ご自身の症状を自己判断で済ませてしまう前に、ぜひ一度、この痛みの背後にある可能性について理解を深めていただければと思います。



なぜ「腸がねじれるような痛み」と感じるのか? — 痛みのメカニズムを解説

私たちが感じるお腹の痛みには、主に二つの種類があります。一つは、内臓のトラブルで生じる「内臓痛(Visceral pain)」、もう一つは、腹壁など体の表面に近い部分の炎症で生じる「体性痛(Somatic pain)」です。

「腸がねじれるような痛み」の多くは、この内臓痛に分類されます。内臓には鋭い痛みを正確に感じる神経が少ないため、腸管が引き伸ばされたり、痙攣を起こしたり、血流が悪くなったりといった刺激を、脳は漠然とした不快感や「ねじれる」「締め付けられる」といった感覚として認識します。この内臓痛は、痛みの場所がはっきりせず、お腹全体に広がるように感じられるのが特徴です。

例えば、急性虫垂炎の初期症状がみぞおちやへその周りに漠然とした痛みとして現れるのも、内臓痛のメカニズムによるものです。しかし、病状が進行し、炎症が腹膜(お腹の臓器を覆う膜)に及ぶと、痛みの性質はより鋭く、場所が限定的な体性痛へと変化していきます。

このように、腹痛の感じ方や変化は、単なる感覚の問題ではなく、体内で何が起こっているかを知る重要な手掛かりとなります。専門医が患者さんの訴えを注意深く聞くのは、この痛みの性質を正確に把握し、診断の手がかりとするためなのです。



【要注意】「命に関わる」緊急性の高い病気

「ねじれるような痛み」を感じる場合、緊急性の高い病気が隠れている可能性があります。特に以下のような病気は、迅速な診断と治療を要するため、決して放置してはなりません。


腸閉塞(イレウス)と腸捻転

腸閉塞(イレウス)とは、腸管の内容物が詰まって流れなくなる状態を指します。このうち、腸管自体が物理的にねじれてしまうことによって起こるものを「腸捻転」と呼びます。

腸閉塞は、胆石や過去の腹部手術による腸の癒着が原因となる「閉塞性イレウス」と、腸捻転や腸重積など、ねじれや折れ曲がりによって血流障害を伴う「絞扼性(こうやくせい)イレウス」に分類されます。特に絞扼性イレウスは、腸への血流が途絶えるため腸管の壊死につながり、命に関わる危険性があるため、緊急の処置が必要です。

これらの病気には、ねじれるような激しい腹痛に加え、以下のような特徴的な症状が見られます。

  • 激しい腹痛

  • 繰り返す嘔吐(しばしば胆汁が混じる)

  • 腹部膨満(お腹がパンパンに張る)

  • おならや便が出なくなる


S状結腸軸捻転症

腸捻転の中でも、特に高齢の方や慢性的な便秘の方に多いのが、S状結腸軸捻転症です。これは、大腸の左下にあるS状結腸が、腸間膜を軸にしてねじれてしまう病気です。

多くの人が日常的なものと捉えがちな慢性便秘が、なぜこのような緊急事態を引き起こすのでしょうか。実は、長期にわたる便秘はS状結腸が通常よりも長くなる「S状結腸過長症」の原因となり、これがねじれやすい状態を招くのです。したがって、単なる「いつもの便秘」と放置していると、ある日突然、S状結腸が大きくねじれ、腸閉塞や血流障害を引き起こす危険性があるのです。この事実を理解することは、日頃からご自身の排便習慣に注意を払い、必要であれば専門医に相談するきっかけとなります。


虚血性大腸炎

虚血性大腸炎は、大腸への血流が一時的に悪くなることで炎症が起こる病気で、特にS状結腸や下行結腸など、お腹の左側でよく発生します。

この病気の典型的な症状は、急な腹痛で、続いて下痢、そして徐々に血便が見られるようになることです。血管の動脈硬化や、便秘に伴う腹圧の上昇などが原因となることが指摘されています。


見過ごせないその他の病気

「ねじれるような痛み」は、上記以外にも、大腸がん、急性虫垂炎、大腸憩室炎といった消化器系の病気から、腹部大動脈瘤や婦人科系の病気(卵巣茎捻転など)まで、様々な原因で起こりえます。

一つの症状が、これほどまでに多岐にわたる病気の兆候であるという事実は、自己判断の危険性を物語っています。痛む場所や痛みの性質だけで安易に判断してしまうと、全く異なる病気を見過ごしてしまうリスクがあるのです。消化器内科の専門医は、腹部全体の痛みだけでなく、全身の状態を総合的に判断することで、痛みの本当の原因を突き止めます。


Table 1: 「腸がねじれるような痛み」を伴う主な病気と特徴

主な病気

特徴的な症状と注意点

腸閉塞(イレウス)

繰り返す嘔吐、強い腹部の張り、おならや便が出ない。

S状結腸軸捻転症

腸閉塞と同様の症状。長期の便秘や高齢者に多い。

虚血性大腸炎

突然の腹痛に続いて下痢、その後血便が見られる。

過敏性腸症候群(IBS)

腹痛と下痢・便秘を繰り返す。ストレスで悪化しやすい。

慢性的な便秘

腹部膨満感やガス溜まり。時に激しい腹痛を伴う。

大腸がん

進行すると便通異常や腸閉塞に似た症状が現れる。

腹部大動脈瘤

命に関わる血管の病気。急な激痛は要注意。

婦人科系疾患

卵巣茎捻転など。突然の強い腹痛を伴うことがある。


「腸がねじれるような痛み」で考えられる、身近な病気

緊急性の高い病気の可能性に加え、より身近な原因によって「ねじれるような痛み」が引き起こされることもあります。


過敏性腸症候群(IBS)

過敏性腸症候群(IBS)は、明らかな器質的な病変がないにもかかわらず、腹痛を伴う下痢や便秘などの便通異常が繰り返し起こる病気です。精神的なストレスが引き金となり、腸の動きが過剰になったり、逆に鈍くなったりすることで、痛みや不快感を引き起こします。

症状を和らげるためには、規則正しい生活や十分な睡眠、ストレスを溜めない工夫が重要です。また、油っぽい食事、アルコール、香辛料、コーヒーなど、刺激の強い食べ物を控える食事療法も有効です。市販薬で一時的に症状を抑えることもできますが、個々の症状や体質に合った専門的な薬物療法を行うことで、より効果的な改善が期待できます。


慢性的な便秘に伴う腹痛

「たかが便秘」と思いがちですが、便秘によって腸内に便やガスが溜まると、腸管が圧迫されたり、不規則な痙攣を起こしたりすることで、ねじれるような痛みに繋がることがあります。

便秘の改善には、水分摂取、適度な運動、そして食生活の見直しが不可欠です。特に食物繊維は、水分を吸収して便の量を増し、排便をスムーズにする重要な役割を果たします。ただし、食物繊維には水溶性(海藻、果物など)と不溶性(穀物、豆類など)の2種類があり、痙攣性の便秘の場合は腸への刺激が強い不溶性食物繊維を控えめにするなど、症状に合わせた工夫が求められます。

このように、便秘やIBSといった日常的な症状であっても、その背後には深刻な病気が隠れている可能性があることを忘れてはなりません。自己判断で市販薬を服用し続けるのではなく、専門医による正確な診断と、一人ひとりに合わせた適切な治療を受けることが、根本的な解決への第一歩となります。



当院での正確な診断プロセス — 痛みの本当の原因を突き止める

くりた内科・内視鏡クリニックでは、患者さんの「ねじれるような痛み」の本当の原因を突き止めるため、以下のような手順で丁寧に診療を進めていきます。


丁寧な問診と身体診察

まずは患者さんの症状について、いつ、どこが、どのような痛み方をするのか、食事や排便との関連性、これまでの病歴(特に腹部手術歴)などを詳しくお伺いします。その後、聴診器を使って腸の動きを聴いたり、お腹に直接触れて硬さや痛みの場所、しこりの有無を確認したりするなど、丁寧な身体診察を行います。腸閉塞が疑われる場合には、「金属音」と呼ばれる特徴的な音が聴取されることがあり、診断の重要な手がかりとなります。


迅速な画像検査と血液検査

問診と身体診察から考えられる病気を絞り込み、確定診断のために必要な検査を行います。

  • 腹部X線検査: 腸閉塞の有無を、腸管内のガスの状態から迅速に判断できる、非常に有用な検査です。

  • 腹部CT検査: 腸の閉塞箇所や、血流障害、炎症の程度などをより詳細に調べることができます。

  • 血液検査: 炎症の程度や貧血の有無、他の臓器の状態などを総合的に確認します。


痛みの原因を「見て、確かめる」精密内視鏡検査

当院の最も重要な診断プロセスは、痛みの原因を直接目で見て確認できる大腸内視鏡検査です。これは、腹痛の根本原因を特定する上で、最も確実な方法の一つです。

内視鏡検査では、S状結腸軸捻転症のねじれの様子、虚血性大腸炎による腸管粘膜の炎症や潰瘍、憩室炎、さらには便秘やIBSに似た症状を引き起こす大腸がんなど、多くの病変を直接観察し、確定診断に繋げることができます。

「内視鏡検査は苦しい」というイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、当院では患者さんの不安や負担を最小限に抑えるため、ご希望に応じて鎮静剤を使用し、ウトウトと眠った状態で検査を受けていただくことができます。この患者さんへの深い配慮こそが、的確な診断と円滑な治療への第一歩となると考えています。


Table 2: くりた内科・内視鏡クリニックでの診療・検査プロセス

ステップ

実施内容

得られる情報

① 問診・身体診察

症状の詳細、既往歴、生活習慣の聴取、触診・聴診

診断の方向性を定める手がかり

② 画像・血液検査

腹部X線、CT、血液検査

腸閉塞の有無、炎症の程度、他の臓器の異常

③ 精密内視鏡検査

大腸カメラによる腸管の直接観察

炎症、潰瘍、憩室、ねじれ、がんなどの確定診断

④ 診断・治療方針の決定

全ての情報を総合的に判断し、最適な治療を提案

緊急手術、内視鏡的治療、薬物療法など


正しい診断から始まる、あなたに合った治療法

検査結果に基づいて、痛みの原因に応じた最適な治療法を提案します。


緊急性の高い病気の場合

S状結腸軸捻転症の場合、腸管の壊死が起こっていない初期の段階であれば、大腸内視鏡を使ってねじれを解消できる可能性があります。これは「内視鏡的整復術」と呼ばれる治療法で、外科手術を回避できる可能性を秘めています。当院のような内視鏡専門クリニックだからこそ提供できる、患者さんにとって負担の少ない治療選択肢です。

しかし、内視鏡が通過できない場合や、腸管の壊死が疑われる場合には、速やかに高次医療機関と連携し、緊急手術が必要であると判断します。当院では的確な初期診断と判断を下し、迅速に高次医療機関へ紹介する体制を整えています。


日常生活の改善が必要な病気の場合

過敏性腸症候群や慢性便秘による腹痛の場合、単に痛みを止めるだけでなく、根本原因にアプローチする治療を行います。腸の機能を整える薬や整腸剤、あるいは漢方薬などを症状に合わせて処方するとともに、患者さん一人ひとりの食生活や生活習慣を丁寧にヒアリングし、改善のための具体的なアドバイスを提供します。

市販薬による自己判断での治療は、時に症状を悪化させたり、本当に必要な治療のタイミングを逃したりする可能性があります。専門医による正しい診断と、包括的な治療計画こそが、つらい症状からの解放、そして再発予防への最も確実な道です。


もし「腸がねじれるような痛み」を感じたら—くりた内科・内視鏡クリニックへご相談ください

「腸がねじれるような痛み」は、体からの重要な警告信号です。

  • 激しい痛みが続く

  • 繰り返す吐き気や嘔吐がある

  • 便やおならが全く出ない

  • 血便が見られる

このような症状が一つでも当てはまる場合は、ためらわずに専門医を受診してください。

日本消化器病学会専門医・医学博士の資格を持つ院長が、長年の経験と専門知識に基づき、患者さんの症状と真摯に向き合います。正確な診断と、患者さん一人ひとりに合わせた最適な治療を提供することで、皆様の健康な生活をサポートいたします。

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