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「膀胱炎」:たかが膀胱炎と軽視できない、最新エビデンスに基づく診断と治療戦略

  • 執筆者の写真: くりた内科・内視鏡クリニック
    くりた内科・内視鏡クリニック
  • 11月8日
  • 読了時間: 17分

更新日:11月13日


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はじめに:なぜ「たかが膀胱炎」と放置してはいけないのか


膀胱炎は、特に性活動期にある 20 代から 40 代の女性にとって非常に身近な疾患であり、その多くは突如として発症する排尿時の痛みや頻尿によって生活の質(QOL)を大きく低下させます。多くの患者様が「水やお茶をたくさん飲んで我慢すれば治る」「以前処方された薬があるから大丈夫」といった自己判断に頼りがちです。


しかし、現代の膀胱炎診療において、こうした自己判断は極めて危険です。不適切な抗菌薬の使用は、治療の失敗や症状の難治化、さらには将来的な治療を困難にする薬剤耐性菌の発生を助長する重大な要因となります。


くりた内科・内視鏡クリニックでは、単に目の前の症状を抑えるだけではなく、最新のエビデンスとガイドラインに基づき、正確な原因特定、適切な抗菌薬の選択、そして慢性症状の精密な鑑別診断を通じて、患者様の健康を根本から守ることを目指しています。



膀胱炎の定義と現代における課題


急性膀胱炎は、尿道から逆行性に細菌が膀胱に侵入し、急性の炎症を引き起こす単純性尿路感染症の代表例です。尿路の解剖学的・機能的異常や全身性の免疫低下を伴わないものを「単純性膀胱炎」と呼びます。


現代の膀胱炎診療における最大の課題は、抗菌薬が効きにくい薬剤耐性菌(AMR)の増加です。従来の治療戦略が通用しなくなりつつある今、治療開始前に原因菌の薬剤感受性を正確に把握し、個々の病態に合わせた精密な治療を選択する専門的なアプローチが不可欠となっています。




急性単純性膀胱炎の正確な診断と「発熱」のサイン


膀胱炎の診断は、患者様の自覚症状と、迅速かつ正確な尿検査の結果に基づいて行われます。



単純性膀胱炎の典型的症状と診断のポイント


急性単純性膀胱炎の典型的な症状は、主に以下の四徴候が特徴です。


  •  終末時排尿痛(排尿の最後に感じる、キリキリとした強い痛み)

  •  残尿感

  •  頻尿

  •  尿混濁(膿尿)


これらの症状に加え、時に血尿を伴うこともあります。診断を確定するためには、検尿によって尿中に白血球が増加している状態である膿尿、および細菌尿を確認することが必須です。


くりた内科・内視鏡クリニックでは、尿検査(尿沈渣の鏡検や、フローサイトメトリーなど)を迅速に行い、原因菌の形態を初期段階で推定します。これにより、患者様が抱える感染症の性質をいち早く見極め、経験的初期治療の成功率を高めることができます。



重要事項:発熱は通常伴わない


急性単純性膀胱炎は、膀胱(下部尿路)のみの感染症であり、全身的な影響を及ぼすことはまれです。したがって、通常、発熱(38℃以上)を伴うことはありません。


この「発熱の有無」は、症状の重症度や感染の広がりを判断する上で、医師にとって最も重要な分岐点の一つとなります。もし排尿時痛や頻尿といった膀胱炎症状に加えて高熱を伴う場合は、感染が腎盂(腎臓の上部尿路実質)にまで波及した腎盂腎炎、あるいは尿路以外の実質臓器における感染を疑う必要があります。腎盂腎炎は敗血症に進行するリスクを伴う重篤な疾患であり、迅速な治療介入(しばしば点滴静注による抗菌薬投与)が必要です。発熱を伴う場合は、決して自己判断せず、速やかに専門医を受診することが、患者様の安全を確保するために極めて重要です。



男性の場合:なぜ男性の膀胱炎は「複雑性」として扱われるのか


単純性膀胱炎は、解剖学的な構造から、ほぼ女性特有の疾患です。もし男性が膀胱炎様の症状を呈した場合、それは通常、「複雑性尿路感染症」として扱われます。


男性の尿路感染症は、前立腺肥大症、前立腺癌、膀胱結石、神経因性膀胱など、何らかの尿路系の基礎疾患や機能的異常が背景にある可能性が非常に高いためです。これらの基礎疾患が存在する場合、原因菌も多岐にわたり、薬剤耐性の頻度も高くなるため、単純性膀胱炎とは全く異なる治療戦略が必要となります。



診断から治療への迅速な連携


くりた内科・内視鏡クリニックでは、患者様が発熱の有無に関わらず、膀胱炎症状を訴えて来院された場合、迅速な尿検査と問診により、病態を正確に分類します。特に初期治療が不首尾に終わるケースに備え、当院では投薬前に必ず尿培養および薬剤感受性試験を実施することを徹底しています。この初期対応の厳密さが、難治化を防ぎ、二次治療へのスムーズな移行を可能にする鍵となります。


患者様が抱える症状がどの病態に該当するのかを視覚的に理解していただくため、急性膀胱炎の症状と鑑別すべき重要な疾患を以下にまとめます。


急性単純性膀胱炎の症状と鑑別すべき疾患

症状

急性単純性膀胱炎

急性単純性腎盂腎炎

間質性膀胱炎/膀胱痛症候群 (IC/BPS)

頻尿・排尿時痛

特徴的

あり(先行することが多い)

あり(慢性、疼痛回避による頻尿も)

膿尿・細菌尿

あり(診断のポイント)

あり

なし(原則非細菌性)

発熱(38℃以上)

なし

あり(腰背部痛を伴う)

なし

疼痛の質

排尿終末時痛、下腹部不快感

腰背部痛、叩打痛

慢性の膀胱充満時痛、骨盤痛




最新エビデンスに基づく膀胱炎治療の原則(JAID/JSC 2023 対応)


膀胱炎の治療は、いかに適切な抗菌薬を選択するかにかかっています。近年、世界的に進行する抗菌薬耐性の問題を受け、日本の感染症治療ガイドラインも大きく見直されています。当院では、最新の「JAID/JSC 感染症治療ガイド 2023 年度版」を遵守し、最適な治療を提供します。



深刻化する抗菌薬耐性の問題:キノロン系薬を常に第一選択としない理由


従来、膀胱炎治療において、1 日 1 回投与で利便性が高いキノロン系(ニューキノロン)薬、特にレボフロキサシン(クラビット)やシプロフロキサシン(シプロキサン)が広く使用されてきました。しかし、この安易な使用の背景から、近年、主要な原因菌である大腸菌の間に耐性が広がっています。


2018 年の日本のサーベイランス結果では、単純性膀胱炎の原因菌の約 70%を占める大腸菌(E. coli)のうち、フルオロキノロン耐性大腸菌(QREC)が 15.6%、さらに高度な耐性を持つESBL(Extended-Spectrum β-Lactamase)産生大腸菌が 9.5%を占めていました。


この耐性菌の増加傾向は、もはやキノロン系薬を安易に第一選択とすることを許容しません。キノロン系薬は、耐性菌感染や難治例において、貴重な二次治療薬としての役割を果たすべきであり、常に第一選択とすることは控えなければならないというのが、現在の専門家の共通認識です。



最新の第一選択薬の変遷:CVA/AMPC の採用


こうした耐性菌の増加傾向を踏まえ、「JAID/JSC 感染症治療ガイド 2023 年度版」では、原因菌が不明である場合の急性単純性膀胱炎に対する第一選択薬として、β-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬、具体的にはアモキシシリン・クラブラン酸(CVA/AMPC、商品名:オーグメンチンなど)が推奨されるようになりました。


CVA/AMPC は、広範な細菌をカバーするだけでなく、特に閉経前の女性で有意に検出率が高い Staphylococcus saprophyticus(グラム陽性球菌)に対しても有効性が期待されるというメリットがあります。



患者属性に基づいた精密な薬剤選択


適切な抗菌薬の選択は、原因菌の推定だけでなく、患者様の状態(年齢、閉経の有無、妊娠の有無)によっても細かく調整されます。


  •  閉経前女性

    グラム陽性球菌(GPC)の分離率が高い傾向がある一方で、前述の通りキノロン耐性大腸菌の頻度も上昇しています。CVA/AMPC を基本とし、尿培養の結果に基づき、必要であればセフェム系やキノロン系を考慮します。


  •  閉経後女性

    グラム陰性桿菌(GNR)の分離率が高い傾向があります。セフェム系薬が基本的な選択肢となりますが、ESBL 産生株の分離率上昇にも留意し、初期治療が不首尾の場合は迅速に二次治療に移行します。


  •  妊婦

    キノロン系薬は妊婦への使用が禁忌とされているため、安全性が確認されているセフェム系薬を選択します。



難治性耐性菌への対処法:ピンポイントの短期治療


尿培養と薬剤感受性試験の結果、ESBL 産生の E. coli など、特定の耐性菌が判明した場合、従来の抗菌薬では効果が期待できません。このようなケースでは、ESBL 産生菌に対して高い有効性を持つ特定の薬剤による集中的な治療(Definitive Therapy)が推奨されます。


具体的には、ホスホマイシン(FOM)やファロペネム(FRPM)が推奨されます。特に FOM は、わずか 2 日間の短期投与(1 回 1g、1 日 3 回、2 日間)で高い効果が期待できる点が大きな特徴であり、難治性耐性菌治療における当院の重要な選択肢の一つです。


以下に、最新ガイドラインに基づく急性単純性膀胱炎の主要な経口抗菌薬選択肢をま

とめます。


最新ガイドラインに基づく急性単純性膀胱炎の主要経口抗菌薬選択(JAID/JSC 2023準拠)

薬剤分類

代表的な薬剤(成分名)

推奨投与期間(目安)

重要事項

β-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系

CVA/AMPC(アモキシシリン・クラブラン酸)

7 日間

現在第一選択。キノロン耐性増加に対応。S.saprophyticus に有効。

セフェム系(経口)

セファクロル、セフポドキシムなど

3〜7 日間

ESBL 非産生グラム陰性桿菌が疑われる場合に推奨。妊婦への選択肢。

ホスホマイシン系

FOM(ホスホマイシン)

2 日間

ESBL 産生菌に対するDefinitive Therapy として推奨。短期で完了。

キノロン系(ニューキノロン)

LVFX(レボフロキサシン)など

3 日間

耐性菌増加により第一選択から除外傾向。特定のグラム陽性球菌に考慮。




難治化・複雑化する膀胱炎への対応


複雑性膀胱炎とは何か:基礎疾患の存在


単純性膀胱炎が尿路や全身に基礎疾患のない健康な方の感染症であるのに対し、複雑性膀胱炎は、膀胱炎を招きやすい尿路や全身の基礎疾患(併存症)を有する状態を指します。


複雑性膀胱炎の本質は、感染そのものよりも、体内の環境(土壌)が悪化していることにあります。例えば、尿路の通過障害(前立腺肥大症や尿路結石)によって尿が停滞しやすい、あるいは全身の免疫力が低下している(糖尿病、ステロイド・抗癌剤投与中)といった要因が、細菌感染の難治化や再発を引き起こします。


複雑性の場合は、原因菌が多岐にわたり(グラム陽性菌、緑膿菌など)、薬剤耐性の頻度も非常に高くなります。実際、複雑性尿路感染症におけるキノロン耐性大腸菌の分離頻度は、2020 年時点で 44.5%に達しており、単純性膀胱炎よりも深刻です。



治療の鉄則:「de-escalation(デ・エスカレーション)」戦略と基礎疾患管理


複雑性膀胱炎の治療では、感染制御と同時に、基礎疾患の正確な把握と適切な尿路管理が必須となります。基礎疾患の改善なくして、複雑性膀胱炎の根治はあり得ません。


抗菌薬治療における鉄則は、まずは広域スペクトル抗菌薬で開始し(Empiric Therapy)、尿培養の結果が判明した後、効果が確認できている中でより狭域スペクトルの薬剤に変更する(de-escalation)ことです。この戦略は、治療効果を確保しつつ、不必要に広範囲の抗菌薬を使用し続けることによる耐性菌出現のリスクを抑制するための、高度な感染制御戦略です。


くりた内科・内視鏡クリニックでは、糖尿病などの全身疾患を背景に持つ患者様に対しても、基礎疾患の包括的な管理を踏まえた上で、最適な抗菌薬治療戦略を提供します。



反復性膀胱炎の定義と生活習慣の見直し


膀胱炎が治癒したにもかかわらず、短期間で再発を繰り返す状態を反復性膀胱炎と呼びます。これは、12 ヵ月間に 3 回、または 6 ヵ月間に 2 回以上膀胱炎を繰り返す状態と定義されます。


再発の原因は多岐にわたり、閉経前後のホルモン環境の変化、性行為の頻度、そして日々の生活習慣が大きく関与しています。再発予防のための行動習慣の指導が不可欠であり、具体的な予防策は以下の章で詳しく解説します。反復性の症状が続いているにもかかわらず、むやみに抗菌薬の追加投与を繰り返すのではなく、原因検索(残尿、結石、腫瘍などの併存疾患の有無)を行うことが重要です。




科学的に検証する膀胱炎予防法


反復性膀胱炎を予防するためには、生活習慣の見直しと、科学的根拠に基づいたサプリメントや補助療法の検討が重要です。



【焦点】クランベリージュースは本当に有効か?:最新エビデンスの検証


クランベリージュースは、古くから膀胱炎の民間療法として知られていますが、果たして科学的な有効性はあるのでしょうか。


最新のエビデンスは、クランベリー製品の摂取が反復性膀胱炎の予防に役立つ可能性が高いことを示唆しています。2023 年に更新された最新のコクランレビュー(最も信頼性の高いシステマティックレビュー)では、クランベリー製品の摂取が、反復性膀胱炎を有する女性において、膀胱炎の再発リスクを約 30%低下させるという中等度の信頼性のエビデンスが得られたと結論付けられています。


作用機序としては、クランベリーに含まれるプロアントシアニジン(PACs)などの成分が、膀胱炎の主要な原因菌である大腸菌(E. coli)の線毛が尿路上皮細胞へ付着するのを物理的に阻害する抗接着効果を発揮すると考えられています。これにより、付着できなかった細菌は尿と一緒に体外へ洗い流されやすくなります。


ただし、ここで強調すべきは、クランベリー製品は治療薬ではなく、あくまで再発予防を目的とした補助的な手段であるということです。急性膀胱炎の症状が出た場合は、クランベリー製品の摂取を続けても炎症は治まらないため、速やかに医師の診断を受け、適切な抗菌薬治療を開始しなければなりません。



その他の予防アプローチ:D-マンノースやホルモン補充療法


  •  D-マンノース

    クランベリーと同様に、大腸菌の尿路上皮への付着を競合的に抑制する作用が期待されています。しかし、尿路感染症の予防・治療に対するD-マンノースの有効性については、現時点では十分なエビデンスがないと、コクランレビューによって結論付けられています。


  •  エストロゲン膣錠

    閉経後の女性はエストロゲン低下に伴い、膣内環境(フローラ)が悪化し、大腸菌が増殖しやすい状態になります。エストロゲン膣錠による局所的なホルモン補充療法は、膣内環境を改善し、反復性膀胱炎の再発予防効果が示唆されています。


  •  乳酸菌製品

    膣内フローラの正常化を目的とした乳酸菌製品の摂取も、再発予防効果について研究が進められています。



日常でできる予防法:行動習慣の重要性


再発予防の基本は、以下の行動習慣を徹底することです。


  1. 飲水と排尿

    飲水を多めにして、膀胱内に細菌がとどまる時間を短くするため、尿意を我慢せずにこまめに排尿することが最も重要です。


  2. 体温管理

    冷房などで体が冷える環境に留意し、下腹部を温かく保つことが推奨されます。


  3. 衛生管理

    排便後、陰部を拭く際は前から後ろへ拭く操作を心がけ、大腸菌が尿道へ侵入するのを防ぎます。


  4. 排便機能の改善

    慢性便秘は骨盤内の圧力を高め、細菌の移動を助長する可能性があるため、排便機能を良好に保つことが重要です。




抗菌薬が効かない!慢性的な症状の裏に潜む「間質性膀胱炎・膀胱痛症候群(IC/BPS)」


「何ヶ月も頻尿と残尿感が続く」「抗菌薬を飲んでも一向に改善しない」「再発を繰り返す」といった難治性の症状に悩まされている場合、単純な細菌性膀胱炎とは全く異なる、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群(IC/BPS)という慢性疾患が潜んでいる可能性を疑う必要があります。



細菌性膀胱炎との決定的な違い:IC/BPS は「免疫性炎症疾患」である


間質性膀胱炎は、通常の細菌感染による急性炎症ではなく、膀胱壁の間質(粘膜上皮と筋肉の間)に慢性的な炎症が起こり、膀胱が硬くなり容量が小さくなる病気です。


最近の研究では、尿路上皮の機能不全や、膀胱局所における免疫応答の異常亢進が病因として強く関与していると考えられています。


この病態の根本的な違いこそが、一般的な抗菌薬が IC/BPS に対して無効である理由です。IC/BPS の診断は、尿路感染症などの混同しうる他の疾患をすべて除外した上で確定されます。



症状の特色:尿が溜まると痛い、慢性的な骨盤痛


IC/BPS の症状は多岐にわたりますが、最も特徴的で重要なのは、膀胱痛、特に尿が膀胱に充満すると痛みや不快感が増し、排尿すると一時的に軽減するという「尿充満時疼痛」です。


また、頻尿や尿意切迫感も伴いますが、これは膀胱容量の減少だけでなく、疼痛を回避するために無意識に頻繁に排尿してしまうという行動パターン(疼痛回避行動)による可能性も指摘されています。この症状の困窮度は非常に高く、重症のハンナ型間質性膀胱炎(HIC)は、その難治性から 2015 年に一部が厚生労働省の指定難病に認定されています。



診断の道筋:ハンナ病変の有無による分類と専門治療の必要性


IC/BPS が疑われた場合、その後の治療方針を決定するために、症状評価と他疾患の除外を行った後、膀胱鏡検査によって正確な病型分類を行うことが極めて重要です。近年の分子生物学的研究により、IC/BPS は以下の二つの病型に分類され、それぞれ病態と治療法が大きく異なることが判明しています。


  1. 間質性膀胱炎(ハンナ型)(HIC)

    膀胱鏡検査で、特徴的なハンナ病変(発赤やびらんを伴う炎症性病変)が認められるもの。これは膀胱の慢性免疫性炎症疾患であり、症状が強く、高齢者に多いとされています。


  2. 膀胱痛症候群(BPS)

    ハンナ病変を認めないもの。こちらは非炎症性の慢性疼痛症候群であると考えられており、神経系の変調や骨盤底筋の過緊張などが関与していると考えられています。



HIC/BPS に対する専門治療:DMSO 膀胱内注入療法


IC/BPS に対する治療は、病型によって大きく異なります。


HIC(ハンナ型)への治療

HIC は免疫性炎症が本態であるため、炎症を抑える治療が中心となります。


  • DMSO 膀胱内注入療法

    2021 年 4 月に本邦で保険承認された、HIC に対する唯一の適用治療薬です。ジメチルスルホキシド(DMSO)の炎症抑制、鎮痛、筋弛緩などの作用により、膀胱痛と頻尿の改善が期待できます。この治療は 2週間おきに計 6 回、外来通院で実施可能であり、HIC 治療の中心として位置づけられています。


  •  外科的治療

    経尿道的ハンナ病変切除・焼灼術も有効性が高いですが、繰り返し行うと膀胱容量の低下(委縮)を招くリスクが指摘されています。くりた内科・内視鏡クリニックでは、外科的治療の頻度を抑えるために、DMSO 注入療法や薬物療法を組み合わせた、膀胱を温存する治療戦略を推奨しています。


BPS(非ハンナ型)への治療

BPS は非炎症性の疼痛症候群として扱われ、神経変調への対応や保存的治療が中心となります。


  •  薬物療法

    アミトリプチリンなどの三環系抗うつ薬は、中枢神経の痛み刺激の伝達を抑える作用があるため、BPS の疼痛軽減に有効性が期待できます。


  •  保存的治療

    ストレスの緩和、理学療法(骨盤内外筋膜マッサージ)などが有効です。


  •  食事療法

    IC/BPS の症状は、柑橘系の果物やジュース、香辛料、カフェイン、チョコレート、アルコールなどの摂取によって増悪することが多いため、これらの食品の制限指導が重要になります。


以下に、細菌性膀胱炎と IC/BPS の決定的な違いをまとめます。


細菌性膀胱炎と IC/BPS の決定的な違い

項目

急性細菌性膀胱炎

間質性膀胱炎(HIC)

膀胱痛症候群(BPS)

原因

細菌感染(主に大腸菌)

慢性免疫性炎症、上皮剥離

非炎症性(神経変調、骨盤筋など)

症状の核心

排尿時の痛み、残尿感

慢性の膀胱充満時痛(尿が溜まると痛い)

慢性の骨盤・膀胱関連疼痛

膿尿・細菌尿

あり(顕著)

なし(原則)

なし(原則)

診断の鍵

尿培養、薬剤感受性試験

膀胱鏡によるハンナ病変の確認

他疾患の除外、疼痛評価

治療の中心

抗菌薬(短期間)

DMSO 注入、ハンナ病変焼灼、免疫療法

神経調節療法、理学療法、食事療法




総括:くりた内科・内視鏡クリニックでの包括的な膀胱炎ケアと受診のすすめ


膀胱炎は女性にとって身近な病気であるからこそ、「市販薬や自己判断で済ませてしまおう」という油断が、薬剤耐性の問題、腎盂腎炎への重症化、あるいは真の原因(間質性膀胱炎などの慢性疾患)の見逃しに繋がります。


くりた内科・内視鏡クリニックでは、急性単純性膀胱炎に対しては、最新の JAID/JSC ガイドライン(2023 年版)に基づき、従来のキノロン系薬への依存から脱却し、尿培養と薬剤感受性試験の結果に基づいた精密な抗菌薬選択(CVA/AMPC やセフェム系)を基本としています。特に ESBL 産生菌などの難治性耐性菌に対しても、ホスホマイシン(FOM)による 2 日間の短期集中治療など、高度な専門知識を活かした最先端の治療を提供します。


さらに、抗菌薬治療で改善しない慢性的な頻尿や排尿時痛、特に尿が溜まると痛みが増すという症状でお悩みの方は、間質性膀胱炎/膀胱痛症候群(IC/BPS)が強く疑われます。IC/BPS の鑑別診断と治療(DMSO 膀胱内注入療法など)は、泌尿器科領域の高度な専門知識が必要とされる分野です。


当院は、急性感染症から難治性の慢性疼痛症候群に至るまで、患者様一人ひとりの病態を正確に把握し、その後の健康な生活を取り戻すための最適な治療戦略を責任をもって立案します。繰り返す膀胱炎や、治らない慢性症状に諦めることなく、ぜひ一度、くりた内科・内視鏡クリニックにご相談ください。


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