「静かなる危険因子」脂質異常症を徹底解剖 ―動脈硬化・心臓病、そして脂肪肝を防ぐための最新エビデンスとくりた内科・内視鏡クリニックでの戦略
- くりた内科・内視鏡クリニック

- 10月26日
- 読了時間: 20分

なぜ今、「脂質異常症」に向き合うべきなのか
脂質異常症は自覚症状がないまま進行する「沈黙の病気」
脂質異常症は、血液中の脂質(コレステロールや中性脂肪)の量が基準値から逸脱した状態を指します。かつては「高脂血症」という名称が使われていましたが、現在は数値の多寡だけでなく、動脈硬化を促進するという「異常」な状態を包括的に捉えるため、脂質異常症と呼ばれています。
この疾患の最も危険な点は、初期段階ではほとんど自覚症状がないことです。痛みや倦怠感といった目立った症状がないため、健康診断で異常値を指摘されても、「自分は元気だから大丈夫だろう」と放置されてしまうケースが少なくありません。しかし、その自覚症状の裏側では、血管内部で不可逆的な障害、すなわち動脈硬化が静かに、そして確実に進行しています。数年、あるいは十年単位で進行した動脈硬化は、最終的に心筋梗塞や脳梗塞といった命に関わる重大な疾患を引き起こす、まさしく「沈黙の病気」なのです。
このブログ記事で学べること:エビデンスに基づく予防と治療の最前線
本記事では、単に健診結果の数値が何を意味するかを解説するに留まりません。私たちは、この静かなる危険因子が具体的にどのように血管を蝕むのか、動脈硬化の恐ろしいメカニズムを専門的に解説します。さらに、最新の医療エビデンス、特に薬物療法が心血管イベントを劇的に抑制する効果や、生活習慣改善の具体的なポイントについて深く掘り下げます。
また、内科専門医、特に消化器・内視鏡専門医という当院の視点から、見過ごされがちな肝臓の健康、すなわち**MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)**との複合的な関連性についても詳細に解説します。
くりた内科・内視鏡クリニックの役割:総合的なリスク評価とオーダーメイド治療
脂質異常症の治療は、未来の命を守るための予防医学そのものです。当院は、単に高い数値を下げることだけでなく、患者様一人ひとりの全身のリスクを総合的に評価し、将来の心血管イベント発症を最大限に予防するためのオーダーメイドの治療戦略を提供します。
症状がないからこそ、早期の専門家によるリスク評価が決定的に重要となります。健診で異常値を指摘された方は、「治療」ではなく「未来の命を守るための投資」として、ぜひ当院にご相談ください。
脂質異常症とは何か? 診断と数値の正しい見方
血液中の脂質の三役(LDL、HDL、トリグリセライド)の役割
血液中に存在する主要な脂質には、主に「コレステロール」と「トリグリセライド(中性脂肪)」の二種類があり、これらはリポ蛋白という形で体中を巡っています。特に、診断上で重要となるのは以下の三つの要素です。
LDLコレステロール(悪玉コレステロール)
肝臓で作られたコレステロールを全身の細胞へ運搬する役割を担います。細胞にとっては必須成分ですが、血液中で過剰になると血管壁に侵入しやすくなり、動脈硬化を促進するため「悪玉」と呼ばれます。
HDLコレステロール(善玉コレステロール)
血管壁や末梢組織に溜まった余分なコレステロールを回収し、肝臓に戻す役割を持つ「血管の清掃役」です。数値が低いと、血管内のコレステロール回収能力が低下していることを意味します。
トリグリセライド(TG/中性脂肪)
主にエネルギー源として脂肪組織に貯蔵されます。過剰に摂取された糖質やアルコールが肝臓で変換されて生成されます。高値になると肥満や、後述する脂肪肝の原因となるほか、極めて高値になると急性膵炎のリスクを高めます。
「異常」とされる数値の定義と分類(成人)
日本においては、厚生労働省のe-ヘルスネットなどで示される診断基準に基づいて、脂質異常症が分類されます。これらの基準は、大規模な臨床研究の結果に基づき、心血管疾患のリスクを高める値として設定されています。
項目 | 基準値(mg/dL) | 疾患名 | 解説とリスク |
LDL コレステロール | 140 以上 | 高LDL コレステロール血症 | 動脈硬化を促進する悪玉コレステロール |
HDL コレステロール | 40 未満 | 低HDL コレステロール血症 | 血管内の清掃能力の低下 |
トリグリセライド | 150 以上(空腹時) | 高トリグリセライド血症 | 脂肪肝や膵炎のリスクに関与。随時採血値も重要 |
高LDL コレステロール血症は mg/dL 以上とされていますが、特に注意すべきは、境界域高LDLコレステロール血症(120~139 mg/dL)の存在です。単にこの数値範囲にあるからといって安心できるわけではありません。他のリスク因子(高血圧、糖尿病、喫煙など)が複合的に存在する場合、この境界域の数値であっても、積極的な生活改善や治療介入の必要性が高まります。専門医による判断では、これらの数値の組み合わせと患者様の全体像を捉えたリスク評価が不可欠です。
高トリグリセライド血症の診断においては、空腹時採血で mg/dL 以上が基準となりますが、厳密な空腹時採血が難しい場合、随時採血で mg/dL 以上も高トリグリセライド血症として判断の対象となります。
Non-HDL-Cとは何か? なぜ重要視されているのか
近年、脂質管理においてLDL コレステロールと並び、Non-HDLコレステロール (Non-HDL-C) が非常に重要視されています。Non-HDL-C は、以下の計算式で求められます。
Non-HDL-C=総コレステロール−HDL コレステロール
Non-HDL-C の数値は、動脈硬化を促進するすべてのリポ蛋白(LDL-C、VLDL、レムナントなど)に含まれるコレステロールの総和を示しています。LDL-C 単体では評価しきれなかった、特に中性脂肪が高い患者様や糖尿病患者様における真の動脈硬化リスクを包括的に評価できる点が最大の利点です。
さらに、LDL-C 測定には空腹時の採血が必須ですが、Non-HDL-C は食後の採血でも比較的精度が保たれやすいという実用上のメリットもあります。当院では、患者様の真の動脈硬化リスクを詳細に把握するため、このNon-HDL-C の値を重視した評価を実施しています。
境界域の数値でも油断できない理由
健康診断の判定基準において、軽度異常(境界域)と判断された場合でも、その判断を軽く受け止めてはなりません。特に、高血圧、喫煙、糖尿病、肥満といった複数の危険因子が複合的に存在する場合、個々の数値の程度が低くても、動脈硬化性疾患(心筋梗塞や脳梗塞)のリスクは相乗的に高まることが明らかになっています。
このような危険因子の集合体はメタボリックシンドロームと呼ばれ、内臓脂肪から動脈硬化や血栓の原因となる物質が分泌されることで、動脈硬化性疾患のリスクが急激に高まります。当クリニックの専門的な視点では、単にLDL-C の数値が高いか低いかだけでなく、これらの複合的なリスク要因を考慮に入れ、画一的ではない、患者様の全体像を捉えた総合的なリスク評価を行うことが、将来の重大疾患を防ぐ鍵であると考えています。
脂質異常症が引き起こす病態:動脈硬化の恐ろしいメカニズム
脂質異常症の本当の怖さは、血液検査の数字が悪いことではなく、その異常な脂質が血管内で引き起こす一連の病態、すなわち動脈硬化にあります。このメカニズムを理解することは、治療の必要性を深く認識する上で欠かせません。
動脈硬化の出発点:血管内皮の障害と初期病変
動脈硬化は、血管の内皮細胞(血管の一番内側の層)が傷つくことから始まります。高血圧による強い圧力、高血糖による酸化ストレス、そして喫煙による有害物質などにより、内皮細胞が慢性的にダメージを受けると、そのバリア機能が低下し、本来血管壁に入り込むべきではない物質が侵入しやすくなります。
悪玉コレステロール(LDL-C)の「酸化」と血管内への蓄積
血管壁のバリアが破られると、血液中のLDL コレステロールが内膜の裏側へと侵入します。この侵入したLDL-C は、血管壁に存在する活性酸素などと接触し、化学的に変性します。これが酸化LDLです。
単なるLDL-C が高値なだけでは動脈硬化はそれほど急激に進みませんが、酸化というプロセスを経ることで、LDL は免疫系にとって排除すべき「異物」へと変質します。この酸化LDL は、血管壁内で強力な炎症反応の引き金となります。
マクロファージと「泡沫細胞」の形成:プラーク誕生の瞬間
炎症に対処するため、血液中の免疫細胞であるマクロファージが血管壁の異物(酸化LDL)を処理しようと集結します。マクロファージは、この酸化LDL を貪欲に次々と取り込みます 。
過剰な脂肪滴を細胞内に抱え込み、丸々と膨らんだマクロファージは、泡沫細胞へと変化します。この泡沫細胞が血管の内膜の裏側に大量に蓄積することで、動脈硬化病変(アテローム)の核となる脂質コアが形成されます。さらに、この脂質コアを取り囲むように、血管中膜の平滑筋細胞が異常増殖することで、血管壁が厚くなり、プラークと呼ばれる構造体が形成され、血管を狭くしていきます。
プラークの不安定化と血栓形成:心筋梗塞・脳梗塞への直結
プラークが形成されると、血管の狭窄による血流障害が懸念されますが、より深刻な危険は、プラークが不安定化することです。
脂質コアを多く含む不安定なプラークの表層(被膜)が、高血圧やストレスなどの刺激によって破綻したり、亀裂が入ったりすると、内部に溜まっていた脂質コアが血液と接触します。体はこれを大怪我と認識し、急速に血液を凝固させる血栓(かさぶた)形成プロセスを起動します。この血栓がわずか数分で血管内腔を一気に詰まらせてしまうことで、心臓の血管なら心筋梗塞、脳の血管なら脳梗塞といった、急性かつ致命的な心血管イベントが突如として発症するのです。
したがって、脂質異常症の管理目標は、単に数値を基準値内に収めることだけでなく、LDL-C を積極的に低下させ、血管壁の炎症を抑え、プラークを安定化させることにあります。薬物療法、特にスタチン系薬剤が心血管イベントを抑制する強力なエビデンスを持つのは、単なる数値改善だけでなく、このプラーク安定化作用も担っているからに他なりません。
脂質異常症は複合的なリスクである:全身管理と内視鏡専門クリニックの視点
脂質異常症は、体の一部分だけの問題ではなく、全身の健康状態と密接に関わる複合的な病態です。内科専門医、特に消化器・内視鏡専門医の視点からは、血液、血管、腎臓、そして肝臓といった全身の臓器連携を捉えた管理が不可欠となります。
メタボリックシンドロームという概念:危険因子の集合体
動脈硬化をすすめる危険因子として、脂質異常症(高LDL-C、低HDL-C、高TG)、高血圧、糖尿病、肥満、喫煙などが挙げられます。これらの危険因子は、それぞれ単独で動脈硬化を促進しますが、メタボリックシンドロームのように、内臓脂肪の過剰な蓄積を基盤としてこれらの危険因子が複数重なり合った場合、リスクは単純な足し算ではなく、相乗的に高まります。
内臓脂肪は、単なるエネルギーの貯蔵庫ではありません。アディポサイトカインと呼ばれる生理活性物質を分泌し、高血圧、高血糖、そして血栓形成の原因となる炎症性物質を体内に撒き散らします。この連鎖反応こそが、動脈硬化性疾患のリスクを極めて高いレベルに引き上げる原因となります。
腎臓病(CKD)との連鎖:腎機能悪化を防ぐための脂質管理
慢性腎臓病(CKD)は、それ自体が動脈硬化を加速させる強力な因子であり、CKD患者様は一般人口と比較して心血管イベントの発症リスクが非常に高いことが知られています。このため、CKD を合併する患者様における脂質異常症の厳格な管理は、腎臓だけでなく、心臓を守る上でも不可欠です。
大規模な臨床試験のメタ解析の結果からも、CKD を合併する患者様に対してスタチン系薬剤を投与することで、冠動脈疾患の発症を有意に抑制できるという強いエビデンスが示されています。さらに特筆すべきは、スタチンが腎臓の機能保持にも寄与する可能性が示されている点です。例えば、アトルバスタチンの投与試験では、投与群において腎機能(クレアチニンクリアランス:CCr)が有意に保持され、尿蛋白の減少も認められました。これは、脂質管理が、腎臓の長期予後にも良い影響を与えることを示唆しています。
糖尿病やCKD を合併しているハイリスク患者様に対しては、通常よりも遥かに厳格なLDL-C の目標値が設定されます。このような特殊な状況下では、エビデンスに基づく最新の治療ガイドラインに従った、専門的な知識による治療管理が必須となります。
内視鏡専門クリニックとしての視点:肝臓との密接な関係
当クリニックは内科だけでなく、消化器・内視鏡の専門医としての強みを持っています。この専門性から特に注視しているのが、高トリグリセライド血症や肥満と密接に関連する**MASLD/MASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)**のリスクです。
MASLD は、メタボリックシンドロームの肝臓における病変として捉えられており、肥満、糖尿病、高血圧と並んで、脂質異常症を基盤として発症します。MASLD は、単なる脂肪肝に留まれば進行のリスクは低いと考えられていますが、一部の患者様は、肝炎を経て肝硬変や肝癌へと進行する可能性のある**MASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)**へ移行します。
この病態の進行には、当初「2-hit theory」が提唱されました。これは、まず肝細胞の脂肪化(1st hit: 脂質異常症などが主要因)が起こり、そこに酸化ストレス、ミトコンドリア機能異常、腸内細菌叢の変化に伴う免疫系の不活化といった「何らかのストレス」(2nd hit)が加わることで炎症が起こり、MASH を発症するという考え方です。最近では、これらの事象が並行して、あるいは炎症が脂肪化に先行して起こる「multiple parallel hit」説も提唱されています。いずれにせよ、脂質異常症、特に中性脂肪の管理は、肝臓の健康を守る上で極めて重要です。
当クリニックでは、消化器専門医として、血液検査でMASLD が疑われた患者様に対して、腹部エコー検査を用いた脂肪肝の確実な診断や、肝臓の線維化リスク評価を迅速に行い、全身の脂質異常管理と肝臓の健康管理を並行して実施できる体制を整えています。
特定のハイリスク患者群
脂質異常症のリスクは、性別や遺伝的要因によっても大きく異なります。
女性の閉経後のリスク増大
女性は閉経後、エストロゲンという女性ホルモンの分泌が急激に減少します。エストロゲンは脂質代謝を良好に保つ役割があるため、この減少に伴い基礎代謝が低下し、脂質異常症、特にLDL-C の上昇リスクが急激に高まります。中年以降の女性は、ライフスタイルの変化に合わせて、より積極的に脂質管理を行う必要があります。
家族性高コレステロール血症(FH)
これは、遺伝的な要因でLDL-C の受容体などに異常があり、生まれつきLDL-C 値が極めて高い体質を持つ疾患です。一般の脂質異常症と比較して、非常に若いうちから重度の動脈硬化が進行し、若年での心筋梗塞のリスクが非常に高くなります。健診で極端な高値を指摘された場合や、家族・親族に若くして心臓病を発症した方がいる場合は、この疾患の可能性を疑い、早期に専門医の診断と、通常よりも強力な薬物療法を受けることが必須となります。
エビデンスに基づいた脂質異常症の治療戦略
脂質異常症の治療は、「生活習慣の改善」という土台の上に、「薬物療法」という強力な柱を立てる二本立てが基本です。
第一の柱:生活習慣の徹底改善 —「薬よりも大切な土台」
薬物療法を始めるにしても、生活習慣の改善は治療効果を最大化し、心血管イベントのリスクを複合的に下げるための不可欠な土台です。
食事療法の基本:「何を減らし、何を増やすか」
脂質異常症を改善するための食事療法では、ただカロリーを減らすだけでなく、「脂質の質」と「摂取バランス」に焦点を当てる必要があります。
制限すべきもの
LDL-C の上昇に直結する飽和脂肪酸(肉の脂身、バター、生クリームなどの動物性脂肪)やトランス脂肪酸の摂取を控えるべきです。
推奨するもの
LDL-C や中性脂肪の低下に寄与する不飽和脂肪酸(魚油に含まれるEPA/DHA、オリーブオイルなど)を意識的に摂取することが重要です。また、野菜、海藻、きのこなどに豊富な食物繊維は、腸内でコレステロールの吸収を妨げる働きがあるため、積極的な摂取が推奨されます。
アルコールと中性脂肪
過剰なアルコール摂取は、肝臓での中性脂肪合成を促進し、高トリグリセライド血症を急速に悪化させる主要因です。適正量を守るか、制限することが必須となります。
運動療法の効果的な取り入れ方
脂質異常症の改善には、エネルギー消費を高め、血中の脂質代謝を改善する運動療法が非常に有効です。
運動の種類と目標
血液中の脂質改善効果を得るためには、中強度以上の有酸素運動(早歩き、ジョギング、水泳など)を中心に行うのが最善とされています。目標は、定期的に行い、毎日30 分以上、または週に180 分以上を目安とします。
レジスタンス運動の併用
有酸素運動に加え、自分の体重などで負荷をかける**レジスタンス運動(筋力トレーニング)**を併用することで、基礎代謝の向上を促し、LDL-C と中性脂肪の両方を下げる相乗的な効果が期待できます。
運動時の安全確保
運動療法を開始するにあたっては、必ず事前にメディカルチェックを受け、狭心症や心筋梗塞などの心血管合併症の有無を確認し、個人の体力・健康状態に合わせた適切な運動量を設定することが絶対条件です 。運動は食後2 時間以上空けて開始し、水分補給と準備運動・整理運動を十分に行うことも重要です 。
第二の柱:薬物療法 —エビデンスが示す命を守る効果
生活習慣の改善だけでは目標とする脂質管理値に到達しない場合や、ハイリスク患者様に対しては、薬物療法が第二の、そして最も強力な柱となります。
スタチン系薬剤の圧倒的なエビデンス
脂質異常症治療の主流となるのが、HMG-CoA 還元酵素阻害薬、通称スタチン系薬剤です。スタチンは、肝臓でのコレステロール合成を抑制することで、血中のLDL-C 値を強力に低下させます。
しかし、スタチンの真の価値は、単なる数値改善に留まりません。その最も重要な意義は、心筋梗塞や脳卒中といった生命予後に関わる心血管イベントの発症を直接的に予防するアウトカム改善効果にあります。これは、スタチンがLDL-C を低下させるだけでなく、血管壁の炎症を抑制し、動脈硬化プラークを安定化させる作用を持つためです。
大規模臨床試験が示した驚異的な心血管イベント抑制効果
スタチンの臨床的有効性は、数々の大規模臨床試験によって裏付けられています。特にロスバスタチン(クレストール)を用いたJUPITER 試験は、スタチンの予防効果を示す決定的なエビデンスの一つです。
この試験では、ロスバスタチンを投与された群において、心筋梗塞、脳卒中、心血管死の複合リスクが、プラセボ群と比較して47%(または44%)という驚異的な減少率を示しました 。個別のイベントで見ても、心筋梗塞の発症リスクは54%減少、脳卒中の発症リスクは48%減少という、非常にインパクトのある結果が示されています。
この大規模なエビデンスは、特にハイリスク患者様において、LDL-C を厳格に管理することが、プラークの不安定化を防ぎ、将来の命に関わるイベント発生を劇的に低減させる最も確実な方法であることを示しています。スタチンはまた、LDL-C 低下に加え、HDL-C を上昇させる効果も持つことが確認されています 。
CKD患者におけるスタチンの重要性と腎機能保護
前述の通り、慢性腎臓病(CKD)患者様は心血管リスクが極めて高い集団です。スタチン投与は、CKD 患者様においても冠動脈疾患の発症を有意に抑制し、糖尿病がある場合でも同様に有効であることが確認されています。
さらに、アトルバスタチンのようなスタチンが腎機能(CCr)の保持や尿蛋白の減少に貢献したエビデンスは、脂質管理が心血管イベント予防だけでなく、腎臓の長期的な保護にも繋がることを示唆しています。合併症を持つ患者様に対しては、多方面からの専門的な管理が必須となります。
新たな治療選択肢とオーダーメイド治療
スタチン治療のみで目標値に達しない場合や、家族性高コレステロール血症などの超ハイリスク患者様に対しては、コレステロール吸収阻害薬(エゼチミブ)や、近年登場したエボロクマブ(レバーサ®)やインクリシラン(レクビオ®)といったPCSK9 阻害薬という注射薬、さらに強力な治療選択肢が導入されています。
当院では、大規模な臨床エビデンスに基づき、患者様個々のリスク層(年齢、性別、糖尿病やCKD などの合併症、肝機能)を詳細に分析し、最も効果的かつ安全性の高い、個別化された薬剤選択と目標値を設定したオーダーメイド治療計画を立案・実施しています。
くりた内科・内視鏡クリニックでの専門的なアプローチ
脂質異常症の治療は、単なる薬の処方で終わるものではありません。当クリニックでは、患者様の健康な未来を確保するため、専門性の高い多角的なアプローチを提供します。
当院の徹底した診断体制:血液検査と詳細なリスク評価
私たちは、厚生労働省の診断基準に基づく標準的な血液検査に加え、患者様のリスクをより詳細に評価するための項目を重視します。具体的には、動脈硬化を促進するすべての悪玉コレステロールを含むNon-HDL-C、血糖コントロール指標であるHbA1c、そして肝臓の健康状態を示す肝機能マーカー(AST/ALT/γ-GTP)などを総合的に評価します。
採血結果だけでなく、生活習慣や既往歴、そして家族性高コレステロール血症の可能性を示唆する家族歴の深いヒアリングを通じて、患者様の潜在的なリスクを徹底的に掘り起こします。
動脈硬化の早期発見:血管年齢チェックと頸動脈エコーの重要性
血液中の数値を改善する一方で、すでに血管にどれほどのダメージが蓄積されているかを把握することが極めて重要です。当クリニックでは、**頸動脈エコー(超音波検査)**を積極的に活用し、動脈硬化の進行度を非侵襲的に評価します。
頸動脈エコー検査では、脳に血液を送る重要な血管である頸動脈の壁の厚さ(内膜中膜複合体厚:IMT)や、プラーク(動脈硬化の塊)の有無、その性状を詳細に調べることができます 。この検査結果は、患者様の「血管年齢」を客観的に示し、将来の脳梗塞や心筋梗塞といった急性イベントの発症リスクを予測するための、血液検査に匹敵する重要な指標となります。また、(*当院で実施可能であれば*)血液検査による動脈硬化予測マーカーであるLOX-index(ロックスインデックス)などのオプション検査にも対応し、動脈硬化の進行リスクをさらに詳細に数値化します 。
生活習慣病全体の総合管理(高血圧、糖尿病、脂肪肝を含む)
脂質異常症は、高血圧、糖尿病、内臓脂肪型肥満と連動するメタボリックシンドロームの一部です。これらの複合的な危険因子を個別に管理するのではなく、専門医が一貫して総合的に管理することで、治療効果を最大限に高めることができます。
特に当院は消化器・内視鏡専門医として、高トリグリセライド血症や肥満を伴う患者様に対し、MASLD/MASH のリスクを常に念頭に置いた管理を実施します。必要であれば速やかに腹部超音波検査や肝線維化マーカーなどの精査を実施し、単なる脂肪肝ではなく、炎症を伴うMASH への進行リスクがないかを評価します。血液の異常だけでなく、それが引き起こす肝臓の病態まで並行して診ることができるのが、当院の大きな強みです。
内科専門医としてのオーダーメイド治療計画の立案
すべての患者様に一律の治療目標や薬剤を適用することは、現代の予防医学においては適切ではありません。当院では、患者様の年齢、基礎疾患(CKD や糖尿病の有無)、喫煙歴、家族歴、そして生活背景を深く考慮し、エビデンスに基づきながらも、患者様が継続可能な、現実的かつ個別化された治療計画を提示します。
生活習慣の改善についても、単なる抽象的な指導ではなく、管理栄養士と連携した具体的な食事指導、個人の体力レベルと心血管リスクを考慮した安全な運動療法の導入支援を行います。
院長からのメッセージ:予防医学への貢献と安心の医療体制
「静かなる危険因子」である脂質異常症は、早期に手を打つことで、その進行を止め、深刻な心血管イベントのリスクを劇的に下げることが可能です。大規模臨床試験の結果が示すように、適切な医療介入のベネフィットは非常に大きく、治療をためらう必要はありません。薬物療法は、将来の心筋梗塞や脳卒中を防ぐための、最も積極的な「リスク低減の投資」であると捉えていただきたいと思います。
当クリニックは、患者様の健康な未来を共に築く、信頼できるパートナーとして、高度な専門知識と、きめ細やかなサポートを提供し続けることをお約束します。
まとめと受診の推奨
脂質異常症の治療は、ただ血液検査の数値を整えることではなく、動脈硬化という目に見えない、しかし致命的な病態の進行を阻止し、心筋梗塞や脳卒中から患者様の命を守るための予防医学そのものです。
動脈硬化のメカニズム や、スタチン系薬剤がイベントリスクを劇的に下げるエビデンスを理解していただければ、健診結果を放置することがいかに危険であるか、ご納得いただけたかと思います。特に、脂質異常症は高血圧や糖尿病、そして脂肪肝といった他の危険因子と複合することで、リスクが相乗的に高まります。
健診で「要経過観察」や「軽度異常」と判定された方、特にLDL-C が mg/dL 以上の境界域の方、中性脂肪が高い方、あるいはすでに高血圧や糖尿病を指摘されている方は、症状がないからこそ、一刻も早く専門医にご相談ください。
くりた内科・内視鏡クリニックでは、血液検査の結果に基づいたリスク評価だけでなく、頸動脈エコーによる血管の直接評価、そして消化器専門医の視点からの肝臓を含めた全身管理をワンストップで提供します。ぜひ、健診結果のコピーをお持ちになって、当院へご相談ください。私たちは、患者様が安心して健康的な生活を送れるよう、全力でサポートいたします。



