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お知らせ・院長ブログ

肥満は「体質」ではない、「肥満症」という病気です。

  • 執筆者の写真: くりた内科・内視鏡クリニック
    くりた内科・内視鏡クリニック
  • 9月24日
  • 読了時間: 14分
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体重計に表示される数字は、日々の健康を測る一つの指標に過ぎません。しかし、もしその数字が「肥満」を指し示している場合、それは単なる体型の問題を超え、見過ごすことのできない深刻な健康問題につながっている可能性があります。日本における成人の約4人に1人が肥満の傾向にあるといわれながらも、多くの人々が「これは体質だから仕方ない」と諦めてしまいがちです。

本稿では、その漠然とした「肥満」という状態が、なぜ「肥満症」という病気として捉えられ、適切な医療管理が必要なのかを、科学的な根拠に基づいて解説します。また、近年話題となっているGLP-1受容体作動薬の正しい知識とリスク、そしてエビデンスに基づいた「王道」の治療法をご紹介します。さらに、肥満が消化器系にもたらす影響と、当院の専門分野である内科・消化器内視鏡診療が、その予防と治療にいかに貢献できるかについても詳しくご説明します。ご自身の健康と真剣に向き合うための一歩として、ぜひお役立てください。


「肥満」と「肥満症」の違いを明確化

まず、「肥満」とは、単に脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態を指します。日本の医学的な定義では、国際的な基準とは異なり、体格指数(BMI)が25kg/m²以上であることとされています。しかし、この状態だけでは必ずしも病気とは見なされません。

これに対し、「肥満症」は、この「肥満」に加えて、高血圧や糖尿病などの健康障害(合併症)を伴う、あるいは将来的に伴うと予測される状態を指します。つまり、肥満は体質や状態を示す言葉ですが、肥満症は治療が必要な疾患概念なのです。この根本的な違いを認識することが、単なるダイエットではなく、医療機関での治療を検討する第一歩となります。


肥満症の診断基準

肥満症と診断されるためには、BMIの基準を満たした上で、特定の健康障害を一つ以上有していることが必須条件となります。日本肥満学会が定める診断基準では、以下の11項目が「肥満に関連する健康障害」として挙げられています。

  • 耐糖能障害(2型糖尿病・耐糖能異常など)

  • 脂質異常症

  • 高血圧

  • 高尿酸血症・痛風

  • 冠動脈疾患

  • 脳梗塞・一過性脳虚血発作

  • 非アルコール性脂肪性肝疾患

  • 月経異常・女性不妊

  • 閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群

  • 運動器疾患(変形性関節症、変形性脊椎症など)

  • 肥満関連腎臓病

この基準は、以前から用いられていたものに「肥満関連腎臓病」が追加されるなど、常に更新されています。特にBMIが35kg/m²以上は「高度肥満症」と定義され、睡眠時呼吸障害や心不全、精神的な問題など、より深刻な健康リスクを抱えている可能性が高いため、BMI35kg/m²未満の肥満症とは異なる、より厳格な治療と管理が必要とされています。

この診断基準を客観的に理解することは、単に「体重が気になる」という漠然とした不安から、ご自身の健康状態を具体的に把握する上で非常に有益です。以下の表で、ご自身の現在の状態をセルフチェックしてみてください。

分類

BMI(kg/m²)

健康障害(合併症)の有無

診断

標準

18.5未満

なし

痩せ型

標準

18.5〜25未満

なし

標準体重

肥満

25以上

なし

肥満(疾患ではない)

肥満症

25以上

1つ以上

肥満症(疾患)

高度肥満症

35以上

1つ以上

高度肥満症(疾患)

この表から明らかなように、体重が重いだけでは「肥満」ですが、その状態がすでに体のどこかに悪影響を及ぼしている場合は、放置してはならない「肥満症」なのです。もし、ご自身のBMIが25以上であり、上記リストのいずれかの項目に心当たりがある場合は、すでに肥満症である可能性が考えられます。


話題の「GLP-1」は魔法の薬か?:知っておくべき真実とリスク

近年、「GLP-1ダイエット」という言葉を耳にする機会が増え、まるで魔法のように体重を減らせる薬として注目されています。しかし、これは本来、糖尿病治療薬として開発された医薬品であり、その作用機序やリスク、そして何よりも日本国内での使用には厳格なルールが存在します。安易な自己判断で手を出して良いものではなく、正しい知識を持つことが非常に重要です。


GLP-1の作用機序の解説

GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)は、元々私たちの体内で作られる「インクレチン」という消化管ホルモンの一種です。食事をして血糖値が上がると、このホルモンが分泌され、いくつかの重要な働きをします。GLP-1受容体作動薬は、このホルモンに似た働きをすることで、主に以下の4つの作用で体重減少を促します。

  1. 食欲抑制: 脳内の視床下部などの食欲を司る中枢に直接作用し、満腹感をもたらすことで、食欲そのものを抑制します。

  2. 胃排出遅延: 胃の動きを穏やかにし、食べたものが小腸へ送られる速度を緩やかにします。これにより、満腹感が長時間持続し、結果として食事量の減少につながります。

  3. 血糖値のコントロール: 血糖値が高い時にのみ、膵臓のβ細胞に作用してインスリンの分泌を促進し、血糖値を下げます。この作用は血糖値が低い時には起こりにくいため、単独で使用する限り、他の糖尿病治療薬に比べて低血糖のリスクが低いとされています。

  4. その他: 膵臓のβ細胞の機能を保護するなど、血糖コントロールや体重減少以外にも、様々な臓器に多岐にわたる作用があることが報告されています。


臨床試験で証明された効果と、実臨床との乖離

GLP-1受容体作動薬は、大規模な臨床試験において顕著な体重減少効果が報告されており、その有効性は科学的に証明されています。しかし、実際の医療現場で得られる効果は、厳密な管理下で行われる治験の成績ほどではないという指摘も存在します。これは、治験と実臨床とで患者の背景や治療環境が異なること、そして何より、薬の効果を最大限に引き出すためには、食事や運動といった生活習慣の改善が不可欠であるという事実を示唆しています。


知っておくべき副作用と安全性

GLP-1受容体作動薬の使用には、副作用のリスクも伴います。一般的に使用の初期段階で起こりやすいのは、吐き気、胃の不快感、下痢、便秘といった消化器症状です。これらの多くは、体が薬に慣れるにつれて数日〜数週間で軽減することがほとんどです。

しかし、注意すべきは、まれではあるものの重篤な副作用のリスクです。具体的には、膵炎、腸閉塞、胃不全麻痺、胆道系疾患などが報告されており、これらの発生リスクは、特に体重減少目的での使用において、対照薬と比較して有意に増加したとする研究結果も発表されています。

このため、医療専門家は、広く使用されている状況を鑑み、体重減少目的でGLP-1受容体作動薬を使用する患者は、その副作用について細心の注意を払いながら慎重に経過を観察する必要があると考察して


保険診療の厳格な条件と現実

日本においては、2024年2月からGLP-1受容体作動薬「ウゴービ」が、そして2025年4月からは「ゼップバウンド」が、一定の条件を満たす「肥満症」に対して保険適用となりました。これは画期的な進歩ですが、誰でもこの恩恵を受けられるわけではありません。保険適用の基準は非常に厳格です。

  • 適用要件

    BMIが35kg/m²以上、またはBMIが27kg/m²以上で、かつ2つ以上の肥満関連健康障害(高血圧、脂質異常症、2型糖尿病など)を有している患者に限定されます。

  • 処方施設要件

    最も重要な点として、厚生労働省の「最適使用推進ガイドライン」に基づき、これらの薬剤は特定の要件を満たす施設でしか処方できません。具体的には、日本糖尿病学会、日本内分泌学会、日本循環器学会の専門医が常勤し、管理栄養士が在籍する「教育研修施設」(主に大学病院や大規模総合病院)に限定されています。

このため、一般のクリニックでは、これらの保険適用薬を肥満症治療として処方することは現実的に非常に困難な状況です。


エビデンスに基づいた肥満治療の「王道」:医師と取り組む生活習慣改善

「GLP-1治療」が万能ではないことが明らかになった今、ご自身の力で取り組むことのできる「王道」の治療法、すなわち生活習慣の改善に目を向けることが重要です。肥満症の治療において、食事療法と運動療法、そして行動療法を組み合わせることが、最も効果的で健康的なアプローチであると科学的に証明されています。


食事療法の基本:「食べる」を味方につける

肥満治療の食事療法の基本は、「摂取カロリーが消費カロリーを上回らないようにする」ことです。しかし、単に食事の量を減らすだけの極端な制限は、健康を損なうだけでなく、リバウンドの原因にもなります。重要なのは、何を、どのように食べるかという「質」と「習慣」の改善です。

  • PFCバランスの重要性: 肥満治療では、三大栄養素であるP(タンパク質)、F(脂質)、C(炭水化物)のバランス「PFCバランス」を意識することが非常に重要です。特に、脂肪を減らしながら筋肉量を維持するためには、タンパク質を十分に摂取することが不可欠です。多くの専門家は、減量中のタンパク質摂取量の目安として、体重1.6g〜2.2g/kgを推奨しています。

  • 食事の質と習慣の改善:

  • 規則正しく食べる: 1日3食を規則正しく摂取することで、血糖値の急激な上昇を抑え、脂肪を溜め込みにくい体になります。

  • 主食・主菜・副菜を揃える: 炭水化物に偏った単品料理ではなく、肉・魚・卵・大豆製品などのタンパク質、野菜・きのこ・海藻類などの食物繊維をバランスよく摂ることが、栄養不足を防ぎ、満腹感を高める上で不可欠です。

  • 「食べるスピード」を意識する: よく噛んでゆっくりと食べることで、満腹中枢が刺激され、食べ過ぎを防ぐことができます。

  • 調理法を工夫する: 油を多く使う揚げ物や炒め物よりも、煮る、蒸す、焼くといった調理法を選ぶことで、カロリー摂取量を抑えることができます。


効果的な運動習慣:有酸素運動と筋力トレーニングの組み合わせ

食事療法と併せて運動習慣を取り入れることは、減量効果を高めるだけでなく、心血管疾患のリスクを総合的に改善する上で非常に有効です。

  • 有酸素運動: ウォーキングやジョギング、水泳といった有酸素運動は、エネルギー消費を増やし、体脂肪を減らす主目的となります。また、心肺機能を向上させ、血圧や脂質異常の改善にもつながります。

  • 筋力トレーニング: 筋力トレーニング単独では心血管リスク改善効果は限定的とされますが、有酸素運動と組み合わせることで、筋肉量が増え、基礎代謝が向上するため、より効率的な減量が可能となります。

最も重要なことは「継続」です。無理のない範囲で、ご自身が楽しめる運動を見つけ、習慣化することが健康な体への第一歩となります。


漢方薬「防風通聖散」はダイエットに有効か?

防風通聖散は、体力があって、特にお腹周りに皮下脂肪が多く便秘がちな人に向けた漢方薬です。医療用漢方薬としても、メディカルダイエットの一環として用いられることがあります。

その作用メカニズムは、複数の生薬の組み合わせによる複合的な効果とされています。主な作用は以下の通りです。

  • 脂肪の分解と燃焼: 防風通聖散に含まれる生薬「マオウ(麻黄)」や「ショウキョウ(生姜)」には、交感神経を刺激し、脂肪の分解とエネルギー消費を促進する作用があるとされています。また、小林製薬の研究では、防風通聖散の継続摂取が安静時のエネルギー代謝における脂質利用率を高め、内臓脂肪の減少に役立つことが確認されています。

  • 便通と水分の改善: 生薬の「ダイオウ(大黄)」や「ボウショウ(芒硝)」には、便通を促す緩下作用があります。また、「カッセキ(滑石)」には利尿作用があり、体内の余分な老廃物や水分を排出するのを助けることで、むくみの解消にもつながると考えられています。

防風通聖散は、あくまで体質改善を目的とした漢方薬であり、これだけで劇的に痩せるというよりは、生活習慣の改善と併用することで効果を発揮しやすくなると理解することが重要です。効果には個人差がありますが、便秘やむくみは比較的早く改善を実感できる一方、体重や体脂肪への変化には数ヶ月の継続服用が必要となることが一般的です。


知っておくべき副作用と注意点

防風通聖散は安全性が高いとされていますが、体質や持病によっては注意が必要です。主な副作用として、下痢、吐き気、発疹、動悸、発汗過多などが報告されています。また、高血圧や心臓病、腎臓病、甲状腺機能障害のある方、胃腸が弱く下痢をしやすい方は、服用前に医師に相談すべきです。さらに、まれではありますが、間質性肺炎や偽アルドステロン症といった重篤な副作用の報告もあります。これらの症状が現れた場合は、すぐに服用を中止し、医療機関を受診してください。


見過ごせない「内臓のSOS」:肥満が引き起こす消化器疾患のリスク

肥満が引き起こす健康障害は、糖尿病や高血圧といった「生活習慣病」だけにとどまりません。当院の専門分野である内科・消化器内科の領域でも、肥満が原因で発症・悪化する疾患が数多く存在します。体重の増加は、知らず知らずのうちに、内臓に大きな負担をかけているのです。


沈黙の病気「脂肪肝」

脂肪肝は、肝臓の細胞に中性脂肪が過剰に蓄積した状態を指します。その主な原因は、肥満、特に内臓脂肪の蓄積と深い関連があります。脂肪肝はほとんど自覚症状がないため、健康診断などで偶然発見されることが多く、「沈黙の病気」とも呼ばれます。

しかし、脂肪肝を放置すると、肝臓に炎症が起こる「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)」へと進行し、やがては肝臓の線維化、さらには肝硬変や肝臓がんへと至るリスクが高まります。現在、脂肪肝そのものに特化した有効な薬は、日本国内ではまだ保険承認されていません。そのため、体重の減量こそが、脂肪肝の進行を食い止める最も有効な治療法となるのです。


意外な原因「逆流性食道炎」

胸焼けや酸っぱいものが上がってくる感覚、ゲップなどを感じることがある場合、それは逆流性食道炎かもしれません。この疾患は、胃酸が食道に逆流することで、食道粘膜に炎症を引き起こすものです。一見、肥満とは無関係に思えますが、実は深い関連があります。

肥満による内臓脂肪の増加は、腹圧を上昇させます。この高まった腹圧が、胃と食道をつなぐ噴門と呼ばれる筋肉を常に緩んだ状態にさせ、胃酸の逆流を助長するのです。


大腸の健康も要注意:大腸ポリープと大腸がんのリスク

肥満は、大腸の健康にも影響を及ぼします。過度の肥満や高カロリー食、飲酒は、大腸ポリープや大腸がんの罹患リスクを高めることが確実視されています。大腸がんの多くは、まず良性のポリープが発生し、それが時間をかけてがん化することで生じます。

このことから、ポリープの段階で内視鏡検査によって発見・切除することが、大腸がんの予防につながることが分かっています。肥満というリスク因子を抱える方は、特に定期的な内視鏡検査を受けることの重要性が高まります。

以下の表は、肥満と関連する消化器・内臓疾患と、当院が提供できるサポートをまとめたものです。

病名

肥満との関連性

当院が提供できること

脂肪肝

内臓脂肪の蓄積が原因。肝硬変や肝臓がんへ進行するリスクがある。

内科専門医による診断、生活習慣の改善指導。必要に応じて、連携医療機関と協力した検査・治療。

逆流性食道炎

肥満による腹圧上昇が原因。胸焼けやげっぷなどの症状を引き起こす。

症状の診断と内科的治療。食道・胃の炎症状態を正確に把握するための胃カメラ検査。

大腸ポリープ・大腸がん

高度の肥満や高カロリー食がリスク因子となる。ポリープの段階での早期発見が重要。

専門医による質の高い大腸カメラ検査。ポリープが見つかった場合のその場での切除。

当院が提供できる包括的なサポート

  • 肥満関連の健康障害を包括的に管理

    高血圧や脂質異常症、糖尿病予備群など、肥満に伴う健康障害の診断と治療を、内科専門医の立場から責任を持って行います。体重を減らすことだけでなく、その先の健康な状態を維持するための継続的な管理を提供します。

  • 消化器・内臓疾患の早期発見と治療

    第4章で解説したように、肥満は脂肪肝や逆流性食道炎、大腸ポリープといった消化器疾患と密接に関わっています。当院は、これらの病気の早期発見と治療に貢献できる質の高い内視鏡検査を専門としています。

  • 苦痛を最小限に抑えた検査

    「眠っている間に受けられる胃カメラや大腸カメラ」など、大規模施設では提供されにくい、苦痛を最小限に抑えた検査を専門医が実施します。

  • 検査中のポリープ切除

    検査中にポリープが見つかった場合、その場で切除することも可能です。これにより、大腸がんの予防にもつながります。


もし、ご自身の体重や健康状態について少しでも不安を感じたら、一人で悩まず、まずは当院にご相談ください。漠然とした不安を解消し、医学的な根拠に基づいた、あなたに合った治療計画を一緒に立てていきましょう。


くりた内科・内視鏡クリニック

住所:〒600-8383 京都府京都市下京区大宮通綾小路下る綾大宮町62 シェルブリュー四条大宮1階

電話番号:075-334-6007 37

アクセス:阪急「大宮」駅から徒歩2分


さあ、健康な未来へ向かう旅を始めましょう

肥満症の治療は、決して「つらい減量」だけではありません。それは、ご自身の体と心を見つめ直し、健康な未来を築くための「投資」です。この旅に、一人で立ち向かう必要はありません。

くりた内科・内視鏡クリニックは、内科、消化器内科の専門家として、あなたの健康な体と明るい未来を、全力でサポートさせていただきます。まずはご自身の状態を知るための一歩として、どうぞお気軽にご相談ください。

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