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腸内フローラと臨床エビデンス:科学的根拠に基づく「腸活」のススメ

  • 執筆者の写真: くりた内科・内視鏡クリニック
    くりた内科・内視鏡クリニック
  • 9月6日
  • 読了時間: 11分
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近年、「腸活」という言葉を耳にする機会が増え、腸内環境を整えることへの関心がかつてないほど高まっています。ヨーグルトやサプリメント、発酵食品など、さまざまな情報が溢れかえる中で、多くの方が手軽に腸内環境の改善を試みられています。しかし、こうした情報の中には、科学的な裏付けが不十分なものや、表面的な効果のみを強調するものも少なくありません。

真の健康を追求するためには、流行や漠然とした情報に惑わされるのではなく、確固たる臨床エビデンスに基づいた理解と、個々人に合わせた専門的なアプローチが不可欠です。本稿では、消化器内科を専門とする医師の視点から、最新の知見と研究成果を踏まえ、腸内フローラが全身の健康に及ぼす驚くべき影響について解説します。そして、科学的に有効な「腸活」のあり方と、くりた内科・内視鏡クリニックが果たすべき役割についてお伝えします。



腸内フローラの基礎知識:なぜ今、科学者が注目するのか?

腸内フローラとは?お花畑から読み解く複雑な生態系

「腸内フローラ」という言葉は、私たちの腸内に生息する細菌たちが、まるで植物が群生する「お花畑」のように見えることから名付けられました。この比喩は、腸内細菌のコミュニティの様子を分かりやすく表現しており、広く一般に親しまれています。

しかし、その実態は、はるかに複雑で精緻な生態系です。学術的には「腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)」という呼称が用いられます。「叢」という漢字が「草むら」や「群れ」を意味するように、これはより厳密に腸内細菌の集団を指し、医学や生物学の専門分野ではこの用語が定着しつつあります。

私たちの体は約38兆個の細胞で構成されていると言われますが、腸内にはそれをはるかに上回る100兆個以上もの細菌が棲息しており、その総重量は約1.5kgにも及びます。この巨大な微生物コミュニティは、単なる共生者ではなく、今や「もう一つの臓器」とまで呼ばれるほど、私たちの健康に深く関わっているのです。


善玉菌・悪玉菌・日和見菌:バランスこそが鍵

腸内細菌は、その働きから便宜的に「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」の3つに分類されることが一般的です。これはあくまで一般向けの情緒的な表現ですが、健康な腸内環境では、善玉菌が2割、悪玉菌が1割、日和見菌が7割というバランスが理想的とされています。

しかし、単なる比率だけでは、腸内環境の健全性を判断することはできません。より重要なのは、腸内細菌の多様性です。健康な腸内では、ビフィズス菌や乳酸菌に代表される善玉菌だけでなく、多種多様な細菌がバランスを保ちながら共存しています。この多様な生態系こそが、外部からの病原菌の侵入を防ぎ、免疫機能の恒常性を維持し、さまざまな生理作用を生み出す強固な基盤となります。

腸内環境のバランスが乱れ、特定の細菌が異常に増殖したり、多様性が失われたりした状態は、学術的に「ディスバイオシス(dysbiosis)」と呼ばれ、様々な健康問題の引き金となることが明らかになっています。


臨床エビデンスが示す驚くべき関連性:腸は「第二の脳」だけではない

腸内フローラが私たちの健康に与える影響は、便通といった消化器症状だけに留まりません。近年の研究は、腸が全身のさまざまな臓器やシステムと密接に連携していることを次々と明らかにしています。



消化器疾患との深い関係:便秘・下痢から炎症性腸疾患まで

腸内フローラのバランスの乱れは、便秘や下痢、腹部の張りといった日常的な消化器症状の直接的な原因となり得ます。これは、腸内細菌が作る物質や、腸の蠕動運動への影響によるものです。

さらに深刻な問題として、ディスバイオシスは、腸の粘膜を保護するバリア機能の低下を招きます。健康な腸では、粘液層が厚く、細胞が強固に密着しているため、有害な物質や細菌は血液中に入り込むことができません。しかし、悪玉菌が優位な状態が続くと、このバリアが薄くなり、細菌やその成分(リポ多糖類など)が血中に漏れ出す「リーキーガット症候群」を引き起こすと考えられています。その結果、全身に慢性的な炎症が生じ、さまざまな病気の原因となるのです。

炎症性腸疾患(IBD)である潰瘍性大腸炎やクローン病の患者においては、ディスバイオシスが病気の原因の一つであることが強く示唆されています。これらの疾患の患者の便からは、特定の病原性細菌が多く検出されたという報告も存在します。



全身の健康と腸内フローラ:最新研究が明らかにする繋がり

腸内フローラは消化器系を超え、全身の健康に深く関わっています。以下に、臨床エビデンスで関連が示唆されている代表的な例を挙げます。

  • 免疫・アレルギー疾患: 腸管は、全身の免疫細胞の約7割が集中している最大の免疫器官です。腸内フローラが乱れると、免疫機能のバランスも崩れ、風邪をひきやすくなるなどの免疫力低下や、アトピー、花粉症といったアレルギー症状の悪化に繋がると考えられています。

  • 生活習慣病: 腸内細菌は肥満や糖尿病のリスク増加と関連があることが指摘されており、心血管疾患においても、腸内フローラのバランスが血圧やコレステロール値に影響を与える可能性が示されています。

  • 精神・神経系疾患: 腸と脳は「脳腸相関」と呼ばれる双方向のネットワークで密接に結びついています。腸内フローラは、セロトニンなどの神経伝達物質の生成にも関与しており、バランスが崩れることで、うつ病や不安といったメンタルヘルスの不調にも影響を及ぼすことが分かっています。


とりわけ注目すべきは、近畿大学医学部の研究グループが世界で初めて、腸内細菌叢の変化が自己免疫性膵炎の発症に深く関わっていることを明らかにしたことです。この研究では、膵炎を発症したマウスの腸内細菌を、本来発症しないマウスに移植すると、膵炎が引き起こされるという、因果関係を示唆する画期的なメカニズムが示されました。この事実は、腸内フローラが単なる補助的な役割ではなく、全身の疾患発症に直接的に関わる「もう一つの臓器」であることを強く裏付けています。

表1:腸内フローラと関連が示唆される疾患(臨床エビデンスに基づく)

カテゴリ

疾患例

関連性(一例)

消化器疾患

便秘、下痢、腹部の張り

ディスバイオシスが腸の蠕動運動や排便リズムを乱す


炎症性腸疾患(IBD)

ディスバイオシスが腸管バリアを低下させ、慢性炎症を誘発


自己免疫性膵炎

腸内細菌叢の変化が、免疫細胞を活性化させ、疾患の発症を促進

免疫・アレルギー

免疫力低下、アレルギー症状

腸内フローラが免疫機能のバランスを調整する役割を担う 

精神・神経系

うつ病、不安症

脳腸相関を通じて、腸内細菌が神経伝達物質に影響を及ぼす

生活習慣病

肥満、糖尿病、心血管疾患

腸内フローラのバランスが代謝やコレステロール値に影響を与える



効果的な「腸活」とは?:実践的なアプローチと落とし穴

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毎日の食事と生活習慣を見直す

腸内環境を根本から改善するために最も重要なのは、日々の食事と生活習慣です。腸内細菌は私たちが食べたものから栄養を得て、さまざまな有益な物質を作り出します。

  • 食物繊維と発酵食品: 腸内細菌の「餌」となる水溶性・不溶性食物繊維をバランスよく摂取し、善玉菌そのものを摂取できるヨーグルト、納豆、味噌、キムチといった発酵食品を積極的に取り入れることが推奨されます。

  • 良質な脂質: オメガ3脂肪酸などを含む良質な油は、腸内フローラの構成を良い方向へ変えることが明らかになっています。

  • 生活習慣: 腸の蠕動運動を促す適度な運動や、腸の機能回復に不可欠な質の良い睡眠、そして腸と脳の連携を考慮したストレス管理も、腸活の重要な要素です。


サプリメントは万能薬ではない:賢い選び方と限界

市販の腸活サプリメントは、手軽に善玉菌を摂取できることから人気を博しています。しかし、これらの製品は「痩せる薬」のように劇的な効果をもたらすものではなく、その効果には明確な限界があることを理解しておく必要があります。

臨床研究に基づくと、サプリメントで摂取した乳酸菌の多くは、腸内に定着することなく、わずか1〜2日で体外に排出されてしまいます。これは、腸内に既に存在する100兆個もの細菌との激しい生存競争に打ち勝つことが難しいことや、腸の部位によって異なる複雑な環境に適応することが困難であるためです。

また、サプリメントの効果は、個々人のもともとの腸内環境や生活習慣に大きく左右されるため、効果の感じ方には大きな個人差があります。腸内環境がすでに悪化している場合や、摂取量が不十分な場合も、期待する効果は得られにくいとされています。

サプリメントはあくまで、食事や生活習慣を補完する「ツール」の一つとして捉えるべきです。ご自身の体の状態や目的に合った成分を選ぶためにも、専門的なアドバイスを求めることが、無駄な出費や時間を避けるための賢明な選択と言えます。



専門家による「腸内環境の見える化」と「改善の機会」

腸内フローラ検査:自分だけの腸内環境を知る第一歩

ご自身の腸内環境が今どのような状態にあるかを知るには、「腸内フローラ検査」が有効な手段です。これは自宅で少量の便を採取し郵送するだけで、腸内細菌の全体像を遺伝子レベルで詳細に解析できる検査です。

この検査を通じて、以下の様な貴重な情報が得られます。


表2:腸内フローラ検査でわかること

検査項目

内容

腸内フローラ総合判定

腸内環境のバランスをA~Eの5段階で評価し、全体的な状態を把握

腸内細菌の多様性

腸内に棲息する細菌の種類がどれくらい多いかを評価

疾患別リスク判定

炎症性腸疾患(IBD)、糖尿病、高血圧、大腸がんなど、特定の疾患リスクを評価

有用菌・要注意菌の割合

酪酸産生菌などの善玉菌や、特定の要注意菌の割合とバランスを提示

食事・生活習慣の改善ポイント

検査結果に基づいて、あなたに合った具体的な食事や生活習慣をアドバイス

腸内フローラ検査は、漠然とした「腸活」から、科学的根拠に基づいた「パーソナライズされた腸活」へと移行するための羅針盤となります。しかし、その結果を最大限に活かすためには、専門医があなたの症状や既往歴と照らし合わせながら、総合的に評価・解釈することが最も重要です。



大腸内視鏡検査:精密診断と腸内環境改善の絶好のチャンス

便秘や下痢、腹部の張りといった消化器症状は、腸内フローラの乱れが原因であることも多い一方で、ポリープ、炎症性腸疾患、そして大腸がんといった、より深刻な病気が隠れている可能性も否定できません。


くりた内科・内視鏡クリニックでは、これらの症状の根本原因を正確に診断するために、大腸内視鏡検査を推奨しています。当院では、内視鏡専門医・指導医である院長が、鎮静剤や二酸化炭素送気を用いることで、患者様が感じる苦痛を最小限に抑えた検査を提供しています。

ここで特にお伝えしたいのは、大腸内視鏡検査後の腸内環境についてです。検査前の腸管洗浄によって、腸内の宿便は完全に取り除かれ、まるで「リセット」されたような状態になります。一部では腸内細菌叢が大幅に変動するという懸念もありましたが、国立がん研究センターの報告では、腸管洗浄後も個々人の腸内細菌叢のコアな構成は維持されることが明らかになっています。

この事実は、洗浄によって腸内がニュートラルな状態に戻るため、まさに新しい腸内環境を積極的にデザインできる絶好の機会であることを意味します。検査後のクリアな腸は、善玉菌を取り入れるのに最適な「土壌」であり、食事や整腸剤、良質な油などを意識的に摂取することで、より良い腸内フローラの形成を促すことが期待できます。



専門家と共に、あなたの腸内環境をデザインする:くりた内科・内視鏡クリニックの役割


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くりた内科・内視鏡クリニックの院長は、京都大学で医学博士を取得し、日本消化器病学会、日本消化器内視鏡学会の専門医・指導医として長年にわたり消化器疾患の診療と研究に携わってきました。

「腸活」は、ただ漠然と健康に良いことをするのではなく、ご自身の腸内環境を「知る」ことから始まります。当院は、最新の内視鏡検査による精密な診断と、科学的根拠に基づいた腸内フローラ検査の結果を組み合わせることで、患者様一人ひとりに最適な「腸内環境改善プラン」を提案することができます。

もしあなたが、便秘や下痢、腹部の張りといった繰り返す不調にお悩みであれば、その症状の背景に隠された真の原因を究明することが何よりも重要です。腸内フローラの乱れなのか、あるいは内視鏡でしか診断できない病気が隠れているのか。闇雲にサプリメントを試すのではなく、まずは専門医による確かな診断から始めてみませんか。

ご自身の体調不良の原因を解き明かし、根本から健康をデザインするための第一歩を、ぜひ当院で踏み出してください。苦痛の少ない内視鏡検査と、専門家によるきめ細やかなサポートを通じて、あなたの健やかな未来を共に築いていくことを心より願っております。


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