下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ検査)は「何歳から・何歳まで」受けるべき? 大腸がん検診の最適なタイミングと受診の目安
- くりた内科・内視鏡クリニック

- 9月3日
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はじめに:大腸カメラ検査はなぜ重要?
大腸がんは、日本において罹患率が高いがんの一つであり、食生活の欧米化や高齢化の進展と密接に関連していると考えられています。しかし、この病気には重要な特性があります。それは、比較的ゆっくりと進行することが多いという点です。例えば、1cm程度の小さな大腸がんでは、他の臓器への転移は稀であることが知られています。この緩やかな進行という性質こそが、早期発見の大きな機会を生み出します。症状がないごく初期の段階で発見できれば、その後の治癒の可能性は非常に高まります。
大腸がんの治療成績は、発見時の進行度によって大きく異なります。早期の段階であるステージ1で発見された場合の5年生存率は、92.3%から93%と非常に高い数値を示しています。この高い生存率は、早期に病変を発見し、適切な治療を行うことで、患者さんの生活の質を維持しながら、より侵襲の少ない治療で済む可能性が高まることを意味します。一方で、がんが進行し、他の臓器に転移しているステージ4の場合、5年生存率は18.3%と著しく低下してしまいます。この数値の差は、症状が出てから発見される進行がんの予後が厳しいことと対照的であり、症状がない段階での積極的な検査がいかに患者さんの命と健康に直結するかを明確に示しています。
一般的に行われる便潜血検査は、大腸がんのスクリーニング(ふるい分け)として非常に有効です。これは、症状がない方から大腸がんの可能性のある方を拾い上げる集団検診として広く実施されています。しかし、便潜血検査で陽性反応が出た場合、その原因を特定し、病気の有無を正確に診断するためには、大腸内視鏡検査(大腸カメラ検査)が不可欠な精密検査となります。大腸カメラ検査は、肛門から細い内視鏡を挿入し、大腸の内部を医師が直接目で見て詳細に観察できる唯一の検査です。これにより、病変の有無、その範囲や深さまでを正確に把握することができます。さらに、この検査の大きな利点は、検査中に良性のポリープやごく早期のがんが発見された場合、その場で同時に切除できる可能性があることです。これにより、将来がんへと進行する可能性のある病変を未然に取り除き、治療と予防を兼ねる画期的な医療行為となります。
大腸がん検診:何歳から始めるべき?
日本における便潜血検査による大腸がん検診の対象年齢は、国立がん研究センターや厚生労働省のガイドラインで「40歳から74歳」が推奨されています。これは、公的な検診として最も推奨される年齢層を示しています。ただし、個人の状況や地域によっては、45歳または50歳からの開始も許容されています。
40歳からの開始が推奨される背景には、大腸がんの罹患率が40代から徐々に増加し始めるという疫学的な事実があります。この年代から検査を始めることで、がんが進行する前の段階で発見できる可能性が高まります。一方で、45歳や50歳からの開始が許容されるのは、医療体制のキャパシティや、個々のリスク因子、受診者の選択肢などを考慮した柔軟な対応が可能であることを示唆しています。便潜血検査(免疫法)は、大腸がんの死亡率減少効果を示す十分な科学的証拠があり、推奨グレードAとされています。これは、その有効性が高く評価されていることを意味します。
便潜血検査は、症状がない方から大腸がんの可能性のある方を拾い上げる集団検診(対策型検診)として広く実施されています。手軽に受けられる一次スクリーニングとして非常に重要ですが、その限界として、がんがあっても出血がないために見逃される「偽陰性」や、検査の間にがんが進行する「中間期がん」のリスクも指摘されています。そのため、便潜血検査で陽性反応が出た場合、その後の精密検査として大腸内視鏡検査が強く推奨されます。これは、便潜血検査だけではがんの有無を確定できないため、直接的な観察と組織採取が可能な内視鏡検査が必要となるからです。大腸内視鏡検査自体も、人間ドックなどの任意型検診として実施されており、死亡率減少効果の根拠はありますが、検査に伴う苦痛や合併症のリスクも考慮されるため、便潜血検査とは異なる位置づけとなります。
大腸がん検診:何歳まで受けるべき?
日本における便潜血検査による対策型検診の終了年齢は、現在のガイドラインでは「74歳が望ましい」とされています。この年齢で検診を終了することが妥当と判断された主な理由として、高齢者が検診や精密検査、さらにはその後の治療を受ける際に伴う偶発症や合併症のリスクを考慮する必要があるためと明記されています。
この年齢の区切りは、単に年齢で一律に判断するものではなく、患者さんの安全と健康を最優先する医療的な判断に基づいています。年齢が上がるにつれて、検査前処置(大量の下剤服用)や鎮静剤の使用、そして万が一ポリープ切除などを行った場合の出血や穿孔といった合併症リスクが高まる可能性があります。また、高齢の患者さんは高血圧や糖尿病、心疾患など複数の持病を抱えていることが多く、大腸がんの治療自体がこれらの持病に与える影響も考慮する必要があります。つまり、検査の「便益」(がん発見・治療のメリット)と「不利益」(検査・治療のリスク)のバランスが、高齢になるにつれて変化するという考え方に基づいています。
75歳以降も大腸がんのスクリーニングを続けるかどうかは、一律に判断されるものではありません。個々の患者さんの健康状態、余命の見込み、がん以外の併存疾患の有無、そして何よりも検査の「便益」(がん発見によるメリット)と「不利益」(検査や治療に伴うリスク)を総合的に評価し、医師と十分に話し合った上で決定すべきであるとされています。これは、年齢だけで機械的に判断するのではなく、患者さん一人ひとりの状態に合わせた個別化された医療が重要であることを示唆しています。
最適な受診頻度とは?:あなたの状況に合わせた目安
大腸カメラ検査の推奨頻度は、国や個人の健康状態によって異なります。日本においては、特に異常が見つからなかった場合、5年に1回の頻度で大腸カメラ検査を受けることが望ましいとされています。大腸がんのリスクは40代から高まり始めるため、40代以降の方は、一般的に3〜5年に1回の検査が推奨されます。年代が上がるにつれてリスクはさらに高まるため、50代では3年に1回、60代でも3年に1回の検査が理想とされています。日本の健康診断や人間ドックが毎年行われる習慣があることを踏まえ、大腸内視鏡検査も原則的に1年に1回受けることが推奨される意見もありますが、毎年受診が難しい場合は、2年や3年といった期間で定期的に検査を受けることも良いとされています。
しかし、大腸がんの発生は、年齢だけでなく、遺伝的要因(家族歴)、生活習慣、そして先行病変(腺腫性ポリープ)の有無に強く影響されます。そのため、「一概に『何年に1回』とは言えない」という認識が重要です。患者さん一人ひとりの健康状態、家族歴、既往歴(ポリープの有無や種類、炎症性腸疾患など)を総合的に考慮した「個別化医療」の視点から、最適な検査頻度を決定することが求められます。
以下に、個別のリスク因子を考慮した推奨頻度の目安を示します。
ポリープ切除歴がある場合
以前の検査でポリープが見つかった、特に将来がん化する可能性のある腺腫性ポリープを切除した経験がある方は、より頻繁な検査が必要です。半年から1年、または1〜2年の頻度での再検査が推奨されます。最初の検査後から2〜3年に一度のペースでフォローアップが一般的ですが、異常が見つかった場合は、医師の判断でさらに頻繁な検査が必要になることがあります。大腸腺腫は将来的にがん化する可能性があるため、切除後も定期的な内視鏡による観察が非常に重要です。
大腸がんの家族歴がある場合
血縁者に大腸がんの症例がある場合、ご自身も大腸がんを発症するリスクが高まります。そのため、より早い段階からの検査を検討し、半年から1年、または1〜2年の頻度での検査が推奨されます。特に、遺伝性の大腸がん(例:家族性腺腫性ポリポーシス FAP)と診断された場合は、10歳を過ぎた頃から1〜2年間隔での大腸内視鏡検査が推奨されるなど、非常に厳格なフォローアップが必要です。
炎症性腸疾患(IBD)がある場合
潰瘍性大腸炎などの慢性的な腸の炎症がある患者さんは、大腸がんを発症するリスクが高いことが知られています。そのため、可能であれば毎年大腸カメラを受けることが推奨されます。
特定の症状がある場合の検査の必要性
たとえ便潜血検査で陽性反応が出ただけで症状がなくても、大腸内視鏡検査などの精密検査を受けることが強く推奨されます。以下のような排便の変化や身体の症状がある場合は、大腸がんを疑うサインである可能性があります。速やかに医療機関を受診し、大腸内視鏡検査を検討してください。
血便や下血
下痢と便秘を繰り返す
便が細くなった
便が残る感じがある(残便感)
原因不明の貧血
腹痛
体重減少
お腹にしこりがある(腹部腫瘤)
これらの情報を分かりやすくまとめるため、以下の表をご参照ください。
対象者 | 推奨頻度/目安 |
一般的なリスクの方(異常なし) | 3〜5年に1回(40代以降) |
40歳以上で初回検査を検討する方 | 40歳を目安に一度 |
ポリープ切除歴のある方 | 1〜2年に1回 (または半年〜1年、医師の指示による) |
大腸がんの家族歴がある方 | より早い段階から、1〜2年に1回 (医師と相談) |
潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患がある方 | 可能であれば毎年 (医師の指示による) |
特定の症状がある方 (便潜血陽性、血便、便通異常など) | 速やかに検査を (症状がない場合でも便潜血陽性なら精密検査) |
この表は、患者さん一人ひとりの状況に応じた具体的な目安を提示することで、ご自身の健康状態を客観的に把握し、適切な行動を促す助けとなります。
「症状がないから大丈夫」は危険?:早期発見の重要性
多くのがんと同様に、大腸がんも初期の段階では自覚症状がほとんどないことが一般的です。そのため、「症状がないから大丈夫」と自己判断してしまうのは非常に危険です。残念ながら、血便や便通異常などの症状が出始めた時には、既にがんが進行した状態になっている可能性も少なくありません。
大腸がんは、他のがんと比較しても比較的予後が良好な部類に入ります。全ステージを合わせた5年生存率は70.9%とされています。しかし、その予後はがんの進行度(ステージ)によって大きく異なります。この進行度と生存率の間に明確な関係性があることは、以下の表からも明らかです。
病期(ステージ) | 5年生存率 |
ステージ1 | 92.3%〜93% |
ステージ2 | 85.5% |
ステージ3 | 75.5% |
ステージ4 | 18.3% |
出典:国立がん研究センターがん情報サービス「院内がん登録生存率集計」より
この表が示すように、早期の段階であるステージ1で発見された場合の5年生存率は、驚くべきことに92.3%〜93%と非常に高い数値を示しています。さらに、ステージ1で発見され、適切な治療が行われた場合、再発する確率も低いことがデータで示されています。一方、がんが進行し、他の臓器に転移しているステージ4の場合、5年生存率は18.3%と著しく低下してしまいます。この数値の差は、早期発見がいかに患者さんの命と健康に直結するかを物語っています。
この事実は、症状がない段階でのスクリーニング検査が、患者さんの健康面における「投資」として非常に高いリターンをもたらすことを示唆しています。がんが進行するほど生存率が低下するという明確な関係性を理解することは、検査を「面倒なもの」や「不快なもの」としてではなく、「自分の命と健康を守るための最も効果的で賢明な投資」として認識するきっかけとなるでしょう。
くりた内科・内視鏡クリニックでの大腸カメラ検査:安心・快適な検査のために
大腸内視鏡検査は、患者さんにとって「苦痛を伴うのではないか」「不安だ」と感じられることがある検査です。くりた内科・内視鏡クリニックでは、そうした患者さんの不安や負担を最大限に軽減し、安心・快適に検査を受けていただけるよう、様々な工夫を凝らしています。
当院では、消化器内視鏡の専門医が検査を担当します。豊富な経験と高い技術力を持つ医師が、患者さん一人ひとりの状態に合わせた丁寧な検査を行います。また、高解像度で病変を鮮明に映し出す最新の内視鏡システムを導入しています。これにより、ごく小さな病変も見逃しにくく、より正確な診断に繋がります。
検査中の苦痛を和らげることは、患者さんが検査を受ける上での大きな障壁を取り除くことに繋がります。当院では、痛みに弱い方や検査に対する不安が強い方のために、ご希望に応じて鎮静剤を使用することが可能です。鎮静剤を用いることで、検査中はリラックスした状態で、ほとんど苦痛を感じることなく過ごしていただけます。鎮静剤の量は、患者さんの体調や体重、既往歴などを考慮し、専門医が一人ひとりに合わせて慎重に調整します。これにより、効果を最大限に引き出しつつ、眠気やふらつき、血圧低下、アレルギーといった副作用を最小限に抑えるよう努めています。検査中に大腸を膨らませるために空気を入れることでお腹の張りを感じることがありますが、鎮静剤を使用することでこの不快感も和らげられます。患者さんが「ここなら安心して検査を受けられる」と感じることで、受診への心理的ハードルが大幅に下がると考えられます。
検査前後のサポートも患者さんの安心に繋がる重要な要素です。大腸カメラ検査では、検査前に大腸の中をきれいにするための下剤服用が不可欠です。当院では、検査予約時に詳細な説明書をお渡しし、下剤の服用方法や検査前日の食事制限(軽食、検査食)について丁寧に説明します。ご自宅での準備がスムーズに進むよう、きめ細やかなサポートを心がけています。検査当日の朝食は絶食となります。
鎮静剤を使用された場合、検査後には一時的に眠気やふらつきを感じることがあります。これは薬が体内から抜けるまでの自然な反応であり、通常は30分から1時間ほどで徐々に落ち着いてきます。当院では、検査後にリカバリー室でゆっくりとお休みいただき、看護師が患者さんの回復具合をしっかりと確認します。鎮静剤を使用した場合は、検査当日の車、バイク、自転車の運転は控えていただくようお願いしています。安全に帰宅できるよう、公共交通機関の利用や送迎の手配をお願いいたします。
検査後、お腹の張りがガスを出すことで徐々に楽になります。水分や食事は、気分が悪くならなければ少量から摂取して構いません。ポリープを切除した方には、医師の指示により一定期間、消化の良い食事を心がけ、刺激物や脂っこいもの、アルコール類を避けていただきます。また、激しい運動や長風呂も控え、シャワー程度が無難です。検査後に便に少量の血が混じることはありますが、出血量が多くなかなか止まらない場合や、痛みが続く場合には、すぐに当院の担当部署(外来または検査室)へご連絡いただくようご案内しています。最終的な検査結果は後日となります。次回の外来診察日に、医師から詳細な説明をさせていただきますので、ご不明な点があれば何でもご質問ください。
まとめ:あなたの健康を守るために、今できること
大腸がんは、早期に発見し、適切な治療を行えば非常に高い確率で治癒が期待できる病気です。しかし、初期段階では自覚症状がほとんどないため、「症状がないから大丈夫」という自己判断は危険です。ご自身の健康を守るためには、症状の有無にかかわらず、定期的な大腸カメラ検査が非常に重要となります。特に、大腸がんのリスクが高まり始める40歳を過ぎたら、一度は検査を受けることを強くお勧めします。
くりた内科・内視鏡クリニックでは、患者様一人ひとりの年齢、健康状態、家族歴、既往歴などを丁寧に伺い、最適な検査プランをご提案いたします。経験豊富な専門医が、最新の内視鏡機器と、患者さんの負担を最小限に抑えるための鎮静剤の使用など、きめ細やかな配慮を持って安心・快適な検査を提供いたします。大腸カメラ検査に対する不安や疑問、ご自身の最適な受診時期についてなど、どんなことでもお気軽にご相談ください。あなたの健康と安心のために、くりた内科・内視鏡クリニックがお手伝いさせていただきます。ぜひ一度、当院にご相談ください。



