熱中症から身を守るために知っておくべきこと
- くりた内科・内視鏡クリニック
- 6月30日
- 読了時間: 10分

はじめに:夏の健康を守るために知っておきたい「熱中症」
くりた内科・内視鏡クリニック院長の栗田亮です。今年も暑い季節がやってきました。夏を健康に乗り切るために、特に注意していただきたいのが「熱中症」です。熱中症は、私たちの身近に潜む危険であり、毎年多くの方が体調を崩し、中には命に関わるケースも報告されています。しかし、正しい知識と適切な対策を知っていれば、十分に防ぐことができる病気でもあります。
このブログでは、熱中症の基本的な知識から、ご家庭でできる予防法、もしもの時の応急処置、そして医療機関を受診すべきタイミングまで、エビデンスに基づきながら、分かりやすく解説していきます。皆様とご家族の健康を守る一助となれば幸いです。
熱中症は、屋外での激しい運動時だけでなく、室内で安静にしていても発症する可能性があります。特に高齢者や乳幼児は、暑さを感じにくかったり、体温調節機能が未熟なため、日常生活の中でも熱中症になりやすい傾向が指摘されています。これは、熱中症が特定の活動や場所だけに限定される問題ではなく、誰もが、どのような環境下でも起こりうる身近な健康リスクであることを示しています。体が暑さに慣れていない梅雨明けの急な気温上昇時や、台風後に天気が回復して気温が上がる時などは、特に注意が必要です。このような状況認識は、予防策の対象範囲を広げ、より多くの人々が「自分ごと」として熱中症対策に取り組むきっかけとなります。
熱中症とは?そのメカニズムと症状のサイン
熱中症とは、高温多湿な環境に長時間いることで、体温を平熱に保つための体の機能(汗をかくことなど)がうまく働かなくなり、体内の水分や塩分(ナトリウムなど)のバランスが崩れ、体内に熱がこもってしまう状態の総称です。
体が熱くなると、体は皮膚の血管を拡張させて熱を外に逃がそうとします。この時、皮膚に集まる血液量が増加しますが、その結果として脳や内臓など、生命維持に重要な臓器への血流が減少することがあります。これがめまい、頭痛、吐き気といった全身症状を引き起こす原因となります 1。さらに、大量の汗をかくことで体内の水分量が減少し、血液が濃縮されます。これにより、熱を体外へ運ぶ血液自体の量が減り、効率的な熱放散が妨げられ、体温が急激に上昇する悪循環に陥ります。
熱中症の症状は、その重症度によって異なり、早期の発見と適切な対処が非常に重要です。
症状は急激に悪化する可能性があるため、「少し調子が悪いかな」と感じた時でも注意が必要です。日本救急医学会では、熱中症の症状を重症度によってⅠ度からⅢ度までの3つの区分に分類しています。この段階的な分類を理解することは、自身の状態や周囲の人の状態を正しく認識し、適切な行動を迅速に選択するための指針となります。軽度の症状であっても見過ごさずに対処することが、重症化を防ぐ上で極めて重要です。
以下に、熱中症の重症度と主な症状、そしてそれぞれの対応方法をまとめました。
重症度分類 | 主な症状 | 対応方法 |
Ⅰ度(軽症) | めまい、立ちくらみ、顔のほてり、一時的な意識消失、手足のしびれ、筋肉痛、筋肉のけいれん(こむら返り)、大量の発汗 | 涼しい場所へ移動し、衣服をゆるめて安静にする。スポーツドリンクなどで水分と塩分を補給する。うちわなどで扇ぐのも良いでしょう。症状が改善しない場合は医療機関を受診。 |
Ⅱ度(中等症) | 頭痛、吐き気、嘔吐、体のだるさ(倦怠感)、虚脱感(ぼーっとする)、集中力や判断力の低下、体温が高い(38℃後半以上) | 涼しい場所へ移動し、衣服をゆるめて体を冷やす。自力で水分補給ができない場合や、応急処置をしても症状が改善しない場合は、速やかに医療機関を受診する。 |
Ⅲ度(重症) | 意識がない、呼びかけに反応しない、応答が鈍い、言動がおかしい、体がひきつる(けいれん)、手足がうまく動かない、体温が40℃以上 | 命に関わる緊急事態です。直ちに救急車を要請し、到着を待つ間も、涼しい場所へ移動させ、衣服をゆるめて全身を積極的に冷却する。意識がない場合は、無理に水分を飲ませてはいけません。 |
この表は、熱中症の症状が出た際に、自身や周囲の人がどの程度の状態にあるのかを客観的に判断し、適切な行動を迅速に決定するための重要な情報源となります。特に、救急車を呼ぶべき重症なサインを明確にすることで、緊急時の判断ミスを防ぎ、命を救う可能性が高まります。
日常生活でできる熱中症の予防と対策
熱中症は、適切な予防法を知っていれば防ぐことができる病気です。日頃からの心がけが最も重要となります。
効果的な水分・塩分補給のポイント
喉が渇いたと感じる前に、こまめに水分を補給することが基本です。屋外・室内を問わず、定期的に少量ずつ摂取しましょう。
汗を大量にかく場合は、水分だけでなく塩分も失われます。この時、水分だけを補給すると血液中の塩分濃度が薄まり、めまいや吐き気などの不調が現れることがあります。そのため、スポーツドリンクなどを利用して、0.1〜0.2%程度の塩分も補給すると良いでしょう。塩分を含む飴やタブレットなどを携帯するのも効果的です。
経口補水液の適切な使用
経口補水液は、下痢や嘔吐、あるいは多量の発汗による「脱水状態」の回復を目的とした飲料であり、一般的なスポーツドリンクよりもナトリウムやカリウムの量が多く調整されています。そのため、脱水状態でない方が普段の水分補給として常飲することは推奨されません。ナトリウムの過剰摂取につながり、血圧上昇や腎臓への負荷も考えられるため、適切な使用が重要です。スポーツドリンクは運動中の水分・エネルギー補給に適していますが、経口補水液は脱水症状がある場合に限定して使用すべきです。
暑さを避ける工夫と環境整備
屋外での対策
外出時は日傘や帽子を着用し、日陰を利用して直射日光を避けましょう。通気性がよく、吸湿性・速乾性のある服装を選ぶことも大切です。特に、激しい運動や長時間の屋外作業は、体温が上昇しやすいため、暑い時間帯を避け、10〜30分おきに休憩をとり、水分・塩分を補給することが推奨されます。
室内での対策
室内でも熱中症は発生します。扇風機やエアコンを積極的に活用し、室温を27〜28℃程度に保つことが理想的です。湿度も50〜60%程度に保つよう心がけましょう。こまめな換気で熱がこもるのを防ぐことも重要です。特に高齢者は冷房機器を使用していない場合が多いという調査結果もあり、注意が必要です。
夜間の対策
寝室や就寝中も熱中症のリスクがあるため、夜間であっても冷房や扇風機で温度調節を行い、快適な睡眠環境を整えることが大切です。
体調管理と生活習慣の改善
質の良い睡眠
体調不良時は体温調節機能が低下し、熱中症になりやすくなります。ぐっすり眠ることで体調を整え、翌日の熱中症を予防できます。寝る前にコップ一杯程度の水を飲むことや、ぬるめのお風呂にゆっくり浸かる、軽い運動をするなども心地よい睡眠につながります。
バランスの取れた食事
規則正しい生活とバランスの取れた食事は、熱中症予防の基本です。特に朝食をしっかり摂ることは、寝ている間に失われた水分と栄養を補給する上で重要です。夏野菜にはカリウムと水分が多く含まれ、汗で失われがちなカリウム補給に役立ちます。また、豚肉やウナギに含まれるビタミンB1、梅干しやレモン、お酢に含まれるクエン酸などは疲労回復に役立つため、積極的に取り入れると良いでしょう。

熱中症が疑われる場合の応急処置と医療機関受診のタイミング
熱中症は、放置すれば命に関わる緊急事態となる可能性があります。迅速かつ適切な応急処置を行うことで重症化を防ぐことができます。
応急処置のポイント(「涼しい場所へ」「体を冷やす」「水分・塩分補給」)
意識の確認と涼しい場所への移動
熱中症の疑いのある人を見かけたら、まず意識があるかどうかを確認します。意識がある場合も意識がない場合も、まずは風通しの良い日陰やエアコンの効いた室内など、涼しい場所へ移動させることが最優先です。
衣服をゆるめ、体を冷やす
衣服をゆるめて体を楽にし、体からの熱放散を促します。氷のうや保冷剤があれば、首筋、脇の下、足の付け根(鼠径部)など、太い血管が通っている場所を冷やすと効果的です。これらがなければ、霧吹きで体に水をかけたり、濡れタオルで体を拭いたりした上で、うちわや扇風機で風を当て、気化熱を利用して体温を下げることも有効です。救急車を要請する場合でも、到着前から冷却を開始することが重要です。
水分・塩分の補給
意識がある場合は、スポーツドリンクや経口補水液などで水分と塩分を補給させます。ただし、吐き気がある、嘔吐している、意識がはっきりしないなどの場合は、誤って水分が気道に流れ込む可能性があるため、無理に飲ませてはいけません。
救急車を呼ぶべき重症化サインと医療機関受診のタイミング
「いつもと様子がおかしい」と感じたら
熱中症の初期症状は多岐にわたるため、「いつもと様子がおかしい」と感じた際には、熱中症の初期症状と判断し、迅速な行動を取ることが大切です。
救急搬送を要請すべき具体的な状況
意識がない、応答が鈍い、言動がおかしいなど、意識障害がみられる場合
脳機能に異常が出ている可能性があり、命に関わります。
体温が40℃以上ある場合
体温が42℃を超えると命の危険があるとされており、40℃以上の高熱が続く場合は、全身の臓器にかなりの負担がかかっている状態であり、死亡率も高くなります。
けいれんや手足がうまく動かないなどの症状がある場合
自力で水分を摂取できない場合
自身で手に飲料水を保持して飲水できない、吐き気や嘔吐で飲めないなど。この場合、病院での点滴が必要です。
応急処置をしても症状が改善しない場合
目安として、5分程度で全ての症状がなくなるかが回復の目安ですが、自覚症状がなくても全身の体熱感が残っている場合は医療機関への搬送を検討すべきです。
体温が39℃以上ある場合
脱水状態が進行している危険な状態であり、ただちに救急車を呼ぶべきです。38℃後半の場合も、自力での対処では回復が難しい可能性が高いため、医療機関を受診することが推奨されます。
医療機関での治療と回復後の注意点
医療機関では、全身の冷却と水分・電解質(ナトリウムやカリウムなど)の補給が中心に行われます。重症度に応じて、点滴治療や、より専門的な冷却処置(体外冷却、あるいは冷やした生理食塩水を体内に注入するなど)が施されます。
応急処置で一時的に体調が回復したとしても、熱中症の再発の可能性は極めて高いため、すぐに炎天下での活動に戻らず、涼しい場所で経過を観察することが重要です。自分では大丈夫だと思っても、体へのダメージが残っていることがあるため、不安な場合は症状が重くなくても一度医療機関を受診することをお勧めします。
重症化した場合は、治療を行っても後遺症が残る可能性もあるため、初期段階での適切な対処が極めて重要です。
最後に:熱中症に負けない夏を過ごすために
熱中症は、予防可能な疾患であり、正しい知識と日頃からの心がけでそのリスクを大きく減らすことができます。しかし、万が一症状が現れた際には、その重症度を正しく判断し、迅速かつ適切な応急処置を行うことが、命を守り、重症化を防ぐ鍵となります。
くりた内科・内視鏡クリニックでは、皆様の健康をサポートするため、熱中症に関するご相談も承っております。もし、ご自身やご家族の体調に不安を感じた場合、あるいは応急処置をしても症状が改善しない場合は、ためらわずに当クリニックにご相談ください。早期の診断と適切な治療が、回復への近道です。
皆様がこの夏を健康で快適に過ごせるよう、心より願っております。