若い世代に増加する腹痛・下痢:その原因と早期受診の重要性
- くりた内科・内視鏡クリニック
- 5月26日
- 読了時間: 14分
更新日:6月20日

はじめに:若い人の腹痛・下痢、その原因と向き合い方
若い世代、特に10代から30代の方々にとって、腹痛や下痢は非常に身近な症状です。これらの症状は、一時的な体調不良に起因することもあれば、日常生活に大きな影響を及ぼす慢性疾患、さらには早期発見が極めて重要となる重篤な病気の兆候である可能性も秘めています。現代の若い世代が直面する学業、仕事、人間関係といった多岐にわたるストレスや、不規則な食生活、睡眠不足などの生活習慣の乱れは、消化器系の不調を引き起こす大きな要因となり得ます。これらの要因が複合的に作用し、単なる身体症状に留まらず、消化器系の問題として顕在化しやすいという背景が存在します。
「いつものことだから」「そのうち治るだろう」と自己判断で症状を放置することは、時に深刻な病気の発見を遅らせる危険性を伴います。特に、近年若い世代での発症が増加傾向にある炎症性腸疾患や大腸がんといった難病や悪性疾患は、早期に正確な診断を受けることがその後の治療の成否や予後を大きく左右します。専門医による適切な診断と治療は、現在の症状を改善するだけでなく、将来にわたる健康を守る上で不可欠なステップとなります。症状の自己判断がもたらす潜在的な長期リスクを深く理解し、なぜ今、専門医療機関を受診すべきなのかという問いに対する答えを明確にすることが、自身の健康を守るための第一歩となります。
若い人に多い腹痛・下痢の主な原因
腹痛や下痢は多様な原因によって引き起こされますが、若い世代に特に多く見られる主な原因について、以下に詳しく解説します。
感染性胃腸炎:ウイルス性腸炎など
10代や20代の若い世代でも、ウイルス性胃腸炎に罹患する可能性は十分にあります。特に、ノロウイルスやロタウイルスがその主な原因として挙げられます。ロタウイルスは乳幼児に多く発症すると一般的に認識されていますが、成人においても20〜30代、さらには50〜60代で発症しやすいことが知られています。したがって、若いからといって感染症を軽視することはできません。主な症状としては、腹痛、下痢、嘔吐、発熱などが挙げられます。これらの症状が現れた場合、単なる消化不良や食べ過ぎと片付けず、感染症の可能性も考慮し、適切な対応を検討することが重要です。
過敏性腸症候群(IBS):ストレスとの関連、症状タイプ
過敏性腸症候群(IBS)は、消化管に潰瘍や炎症といった目に見える構造的な異常が認められないにもかかわらず、腹痛や腹部の不快感、下痢や便秘などの排便異常を慢性的に繰り返す機能性疾患です。この疾患は、特に10代、20代、そして20〜40代の働き盛りの世代に多く見られる傾向があります。精神的ストレス、不規則な食生活、睡眠不足、自律神経の乱れなどが発症に深く関与すると考えられており、学校や職場での強いストレスが症状を悪化させることも少なくありません。
IBSにはいくつかのタイプが存在し、主な症状によって分類されます。下痢が中心となる「下痢型」、便秘が続く「便秘型」、下痢と便秘を交互に繰り返す「混合型」、そしてお腹の張りやガスが主な特徴となる「ガス型」などがあります。IBSは命に関わる病気ではありませんが、その症状は仕事や学校生活に著しい支障をきたすことがあり、患者の精神的負担も大きいことが指摘されています。検査では異常が見つからないにもかかわらず、日常生活に深刻な影響を与えるこの機能性疾患に対しては、患者の苦痛を深く理解し、丁寧な問診と鑑別診断を通じて、心身両面からの包括的なアプローチが必要となります。
炎症性腸疾患(IBD):潰瘍性大腸炎、クローン病の特徴
炎症性腸疾患(IBD)は、免疫細胞の異常によって腸の粘膜に慢性的な炎症が引き起こされる病気の総称であり、代表的なものとして潰瘍性大腸炎とクローン病が挙げられます。これらの疾患は、特に若い世代(若年層)において患者数が増加傾向にあり、腹痛、下痢、血便が継続して現れることが特徴です。その他、全身倦怠感、体重減少、貧血、発熱といった全身症状を伴うこともあります。
IBDの症状は悪化と改善を繰り返す性質がありますが、完治が難しい難病に指定されており、長期的な治療が必要となります。症状が一時的に落ち着くことがあるため、診断が遅れるケースも少なくありませんが、放置すると腸の狭窄(狭くなること)や穿孔(穴が開くこと)、腸閉塞、大量出血といった重篤な合併症を引き起こすリスクが高まります。このため、早期の正確な診断と継続的な専門的治療が、病状の進行を抑え、患者の生活の質を維持するために極めて重要となります。
機能性ディスペプシア:胃の機能異常による症状
機能性ディスペプシア(FD)は、中学生や高校生といった若い世代にも多く見られる胃の機能性疾患です。この病気は、胃カメラ検査などで胃に器質的な異常がないことを確認した上で診断されます。主な症状としては、食後の膨満感、早期満腹感(食事を始めてすぐに満腹になり、食べられなくなる)、みぞおちの痛みや灼熱感、胃もたれなどが挙げられます。
FDの原因は、胃の動きの異常にあるとされています。具体的には、食べ物を受け入れるはずの胃の上部が緊張してしまい、食べ物を受け付けなくなったり、食べ物を腸へ送り出す胃の下部の動きが低下したりすることで、胃の中に食べ物が長く留まり、胃酸が過剰に分泌されることで症状が現れやすくなります。ストレスや不規則な食生活(例えば、コロナ禍におけるストレスや黙食なども含む)が症状を悪化させる一因となることが指摘されており、IBSと同様に、消化器症状が身体的な問題だけでなく、精神的・生活習慣的な側面からもアプローチする必要があることを示唆しています。
その他、注意すべき消化器疾患
若い世代であっても、腹痛や下痢を引き起こす可能性のある消化器疾患は多岐にわたります。逆流性食道炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、急性膵炎、胆のう炎・胆管炎、腸閉塞、急性虫垂炎、S状結腸軸捻転、胆石症、尿路結石などがその例として挙げられます。これらの疾患の中には、急性膵炎や腸閉塞、急性虫垂炎、胆のう炎・胆管炎、S状結腸軸捻転のように、緊急性の高い病態も含まれており、速やかな診断と治療が求められます。腹痛や下痢の原因が非常に多岐にわたるため、自己判断の限界を認識し、専門医による正確な鑑別診断を受けることが極めて重要です。
表1:若い人に多い腹痛・下痢の主な原因と特徴
病名 | 主な症状 | 特徴/原因 | 検査所見 |
感染性胃腸炎 | 腹痛、下痢、嘔吐、発熱 | ウイルス(ノロ、ロタなど)や細菌感染 | 炎症の有無、病原体の検出 |
過敏性腸症候群(IBS) | 腹痛、下痢、便秘、腹部膨満感、ガス | 消化管に器質的異常なし、ストレス、自律神経の乱れが関与する機能性疾患 | 内視鏡で異常なし |
炎症性腸疾患(IBD) | 腹痛、下痢、血便、体重減少、発熱、全身倦怠感 | 免疫異常による腸粘膜の慢性炎症、難病指定 | 内視鏡で炎症・潰瘍、生検で確定診断 |
機能性ディスペプシア(FD) | 食後膨満感、早期満腹感、みぞおちの痛み・灼熱感、胃もたれ | 胃の機能異常、ストレス、不規則な食生活が関与する機能性疾患 | 胃カメラで異常なし |
その他消化器疾患 | 激しい腹痛、嘔吐、血便、排便異常など多岐にわたる | 逆流性食道炎、胃潰瘍、胆石症、腸閉塞、急性虫垂炎など、緊急性の高いものも | 疾患により様々(潰瘍、炎症、閉塞など) |
「これは危険!」すぐに受診すべき症状と緊急性
腹痛や下痢は日常的によく見られる症状ですが、中には速やかな医療介入が必要となる緊急性の高い危険な兆候も含まれます。以下の症状が見られる場合は、迷わず速やかに医療機関を受診することが強く推奨されます。
緊急性の高い腹痛・下痢の兆候
突然の激しい腹痛、または時間経過と共に痛みが強くなる場合
特に、耐え切れないほどの激しい痛みや、安静にしているにもかかわらず6時間以上継続する腹痛は、重篤な疾患の可能性を示唆するため、最大限の注意が必要です。
発熱、吐き気、嘔吐を伴う場合
これらの症状が複合的に現れると、感染症の重症化や他の急性疾患の可能性が高まります。
血便(便に血液が混じる)、下血、または吐血を伴う場合
便が黒いタール状になる場合も、消化管内での出血を示唆する重要な兆候です。これらの症状は、消化管の炎症、潰瘍、ポリープ、さらには悪性腫瘍など、様々な原因が考えられ、迅速な診断が求められます。
脱水症状がある場合
口の異常な渇き、尿量の減少や尿が濃くなる、めまい、冷や汗、頻脈、息苦しさなどが挙げられます。特に子どもや高齢者は脱水が進行しやすいとされますが、若い世代においても重度の脱水は循環器系に大きな負担をかけ、危険な状態に陥る可能性があります。
お腹を押した時、または押して離した際に強く痛む場合
これは腹膜刺激症状と呼ばれ、腹膜炎など緊急性の高い状態を示唆することがあります。
動作や歩行で痛みが響く場合
これも腹膜炎や炎症の広がりを示唆する可能性があります。
同じ食べ物を食べた人も同時に同様の症状を訴えている場合
これは食中毒の可能性が非常に高く、集団発生のリスクも考慮し、速やかな医療機関受診が推奨されます。
下痢が1週間以上継続している、または症状がだんだん悪化している場合
慢性的な症状は、単なる一過性の不調ではなく、炎症性腸疾患やがんなど、より深刻な基礎疾患が隠れている可能性を示唆します。
自己判断せず、速やかな受診が求められるケース
上記の症状は、腸閉塞、急性虫垂炎、急性膵炎、胆のう炎・胆管炎、重度の感染性腸炎、炎症性腸疾患の急性増悪、さらには大腸がんなど、緊急性の高い疾患や生命に関わる重篤な病気が隠れている可能性を強く示唆しています。これらの症状が見過ごされたり、自己判断で市販薬の使用や様子見が続けられたりすることで、病状が悪化し、治療がより困難になるケースが少なくありません。症状の背後に潜む具体的なリスクを認識し、単なる不快感ではなく、健康と生命に関わる問題として捉えることが、速やかな医療機関受診を促す上で不可欠です。
表2:すぐに受診すべき危険な腹痛・下痢の兆候
症状のタイプ | 具体的な兆候 | 考えられるリスク |
痛み | 突然の激しい腹痛、耐え切れないほどの痛み | 腸閉塞、急性膵炎、急性虫垂炎、胆のう炎・胆管炎、S状結腸軸捻転など |
時間経過と共に痛みが強くなる、安静にしていても6時間以上続く腹痛 | 進行性の炎症、腸閉塞など | |
お腹を押す、または押して離した際に強く痛む(反跳痛) | 腹膜炎、急性虫垂炎など | |
動作や歩行で痛みが響く | 腹膜炎、炎症の広がり | |
随伴症状 | 発熱、吐き気、嘔吐を伴う | 重症感染性胃腸炎、急性膵炎、腸閉塞など |
血便(便に血液が混じる)、下血、吐血 | 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、大腸がんなど | |
脱水症状(口の渇き、尿量減少・尿が濃い、めまい、冷や汗、頻脈、息苦しさ) | 重度の脱水、電解質異常、血管虚脱 | |
経過 | 同じ食べ物を食べた人も同時に症状が起こった | 食中毒 |
下痢が1週間以上継続している、または症状がだんだん悪化している | 炎症性腸疾患、大腸がん、慢性感染症など |
自宅でできる対処法と生活習慣の改善
緊急性の高い症状がない場合でも、腹痛や下痢の症状がある際には、自宅でできる対処法や生活習慣の見直しが症状の緩和に役立ちます。これらの対策は、症状の悪化を防ぎ、回復を早める上で重要です。
下痢時の食事の工夫と避けるべき食品
下痢の症状がある場合、体内の水分や電解質(ナトリウム、カリウムなど)が失われやすくなるため、脱水症状を防ぐためのこまめな水分補給が極めて重要です。常温の水、スポーツドリンク、経口補水液などを少量ずつ頻繁に摂取することが推奨されます。特に、牛乳は腸への刺激が強いため、下痢の際には避けるべきです。
症状が落ち着いてきたら、消化の良い食品から徐々に食事を再開することが大切です。おかゆ、おもゆ、うどん、柔らかく煮込んだ野菜スープや味噌汁、すりおろしリンゴなどがおすすめです。これらの食品は胃腸への負担が少なく、栄養補給にも適しています。
一方で、下痢の際に避けるべき食品もあります。脂肪分の多い肉や魚、そば、ラーメン、生野菜、海藻、菓子パン、ケーキなど、消化に時間のかかる食べ物は胃腸にさらなる負担をかけるため控えるべきです。また、コーヒー、炭酸飲料、アルコール類、香辛料といった刺激物は、腸の動きを活発にさせたり、粘膜を刺激したりするため、症状がある間は避けるようにしましょう。具体的な食品例を挙げることで、読者がすぐに実践できる具体的な行動を提示し、脱水が若年層にとってもリスクであることを再確認させます。
ストレス管理、睡眠、適度な運動など生活習慣の見直し
過敏性腸症候群(IBS)のように、精神的ストレスや自律神経の乱れが原因となって引き起こされる消化器症状は少なくありません。これらの症状の改善には、食事内容の見直しだけでなく、生活習慣全体の改善が不可欠です。
お腹の不調を改善するためには、十分な睡眠を確保し、ウォーキングなどの適度な運動を習慣にすることが効果的です。これらはストレスの解消に繋がり、腸の働きを整える上で重要な役割を果たします。若い世代は学業や仕事、人間関係などでストレスを抱えやすく、生活習慣も乱れがちであるため、この点は特に重要です。
食事は1日3食を規則的に摂り、栄養バランスの取れた内容を心がけることが基本です。暴飲暴食や夜間の大食は胃腸に大きな負担をかけるため、避けるべき習慣です。腹痛や下痢が単なる身体症状ではなく、ストレスや生活習慣と密接に関わる「心身のサイン」であるという視点を持つことは、症状の根本原因への理解を深め、自己管理の重要性を高めることに繋がります。

早期診断の重要性:なぜ専門医の診察が必要なのか
腹痛や下痢は、一時的な軽微な症状から、放置すると深刻な結果を招く可能性のあるものまで多岐にわたります。特に若い世代においても、早期に正確な診断を受けることが極めて重要な病気が隠れていることがあります。
隠れた重篤な病気の早期発見
軽度に見える下痢であっても、1週間以上続く場合や、便秘と下痢を繰り返すなど慢性的な症状がある場合、がんや国が指定する難病(炎症性腸疾患など)が隠れている可能性があります。例えば、炎症性腸疾患(IBD)は、症状が一時的に落ち着くことがあるため、診断が遅れがちですが、早期の診断と治療がその後の病状の進行を大きく左右します。
大腸がんは、日本で非常に多く発症している悪性疾患の一つであり、特に40歳以上で増加傾向にありますが、若い世代でも発症リスクが指摘されています。大腸がんは早期の段階では自覚症状がほとんどないことが多く、症状が現れた時には病状が進行しているケースも少なくありません。この「症状がないから大丈夫」という若い世代の誤解を解き、無症状でも進行しうるという深刻な事実を認識することが、予防的・早期発見のための受診の必要性を強く訴えることになります。定期的な検査は、大腸がんの早期発見を可能にし、治療成功の確率を大幅に高める上で極めて重要です。
症状の慢性化や合併症を防ぐために
適切な診断と治療が遅れると、症状が慢性化し、日常生活の質(QOL)が著しく低下するだけでなく、腸の狭窄や穿孔、腸閉塞、大量出血など、重篤な合併症を引き起こすリスクが高まります。早期診断のメリットは、単に病気の発見に留まらず、これらの重篤な合併症を予防し、患者の生活の質を維持することにあります。
結論と受診の推奨
若い世代における腹痛や下痢は、その原因が多岐にわたり、一時的な体調不良から、過敏性腸症候群のような機能性疾患、さらには炎症性腸疾患や大腸がんといった重篤な疾患まで、様々な可能性を秘めています。特に、現代社会特有のストレスや不規則な生活習慣が、これらの消化器症状の発症や悪化に深く関与していることが明らかになっています。
自己判断による症状の放置は、時に病気の発見を遅らせ、治療を困難にするリスクを伴います。特に、若い世代でも増加傾向にある難病やがんの早期発見には、専門医による正確な診断と適切な検査が不可欠です。例えば、大腸内視鏡検査は、大腸がんの予防と早期発見において極めて重要な役割を果たし、ポリープの段階で切除することで、将来的ながんの発症リスクを大幅に低減できることが示されています。
くりた内科・内視鏡クリニックでは、消化器内科の専門医が、若い世代の方々の腹痛や下痢の症状に対し、丁寧な問診と最新の医療機器を用いた精密な検査を通じて、適切な診断と治療を提供しています。特に、内視鏡検査においては、患者様の苦痛を最小限に抑える配慮がなされており、安心して検査を受けていただける環境が整っています。
「いつものこと」と諦めず、また「自分には関係ない」と過信せず、少しでも気になる症状がある場合は、早期に専門医の診察を受けることを強くお勧めします。それは、現在の不調を改善するだけでなく、将来の健康を守るための大切な投資となります。
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