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お知らせ・院長ブログ

発熱外来で行う治療

  • 執筆者の写真: くりた内科・内視鏡クリニック
    くりた内科・内視鏡クリニック
  • 9月18日
  • 読了時間: 11分
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熱を下げる「解熱鎮痛薬」:2つのタイプと使い分け

発熱時の不快な症状を和らげるために、主に2種類の解熱鎮痛薬が用いられます。それぞれの薬は作用の仕組みが異なり、患者様の状態や年齢に応じて慎重に使い分けられます。


1.アセトアミノフェン:作用の仕組みと特徴

アセトアミノフェンは、主に脳の中にある体温調節中枢に直接作用し、血管や汗腺を広げることで体外へ熱を逃がし、体温を下げる働きをします。この作用機序は「中枢」に限定的であるため、末梢での炎症を抑える作用は少ないとされています。その結果、胃や腸への直接的な影響や、腎機能への負担といった副作用のリスクが低いという大きな利点があります。

医療現場では100年以上にわたり広く使用されており、その安全性から、0歳児から使用できるほか、妊婦や授乳中の女性に対しても医師の判断のもとで用いられることがあります。多くの患者が解熱剤に「熱を平熱まで下げる」という効果を期待しますが、アセトアミノフェンの本来の目的は、高くなった熱を一時的に抑え、発熱に伴う頭痛や倦怠感などの不快な症状を軽減することにあります。この薬の特性は、発熱という生体防御反応を尊重しつつ、患者様の苦痛を和らげるという治療の根本的な思想に合致しています。


2. NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬):作用の仕組みと注意点

NSAIDsは、炎症や痛みの原因物質であるプロスタグランジンの生成を抑制することで、解熱・鎮痛・抗炎症という幅広い作用を発揮します。この作用機序は強力な効果をもたらす一方で、プロスタグランジンが持つ胃粘膜保護や腎臓の血流維持といった生理的な役割も同時に阻害してしまうため、胃潰瘍や腎機能障害、喘息発作などを引き起こすリスクがあります。

特に重要なのは、小児のインフルエンザ感染症において、NSAIDsの使用がインフルエンザ脳症を助長する可能性が指摘されている点です。このため、小児へのインフルエンザ治療においては、NSAIDsの使用を避けるべきとされています。こうした重篤なリスクは、単なる注意書きではなく、医師が患者様の安全を最優先に考え、薬を選択する際の根拠となります。同じ解熱剤でも、アセトアミノフェンとNSAIDsとでは、作用機序の違いが副作用の現れ方に繋がり、それが患者様個々の状態に合わせた処方選択の理由となります。当院では、症状の緩和と安全性の確保を天秤にかけ、総合的な判断に基づいて最適な薬を処方します。


解熱剤の種類と特徴比較表

項目

アセトアミノフェン

NSAIDs(ロキソプロフェンなど)

作用機序

脳の体温調節中枢に作用

炎症の原因物質プロスタグランジンの生成を抑制

効果

解熱・鎮痛作用

解熱・鎮痛・抗炎症作用

主な副作用

肝機能障害(過剰摂取時)、悪心・嘔吐

胃腸障害、腎機能障害、喘息発作誘発

使用上の注意

肝機能障害のある方は慎重に

胃潰瘍、腎機能障害、喘息既往のある方は禁忌

小児・妊婦への適応

比較的安全に使用可能

小児、妊婦、授乳婦には使用が慎重または避ける


その他上気道症状で使用する薬剤

咳と痰を鎮める薬:乾いた咳と湿った咳で薬は違う

咳は、気道内の異物を排出するための生体防御反応です。咳を伴う症状は、その性質(乾いた咳か、痰が絡む湿った咳か)によって、適切な薬が異なります。


咳を抑える「鎮咳薬」:中枢性と末梢性の違い

咳止め薬は、その作用する部位によって大きく2つに分けられます。一つは、脳幹の延髄にある「咳中枢」に作用して咳反射を抑制する「中枢性鎮咳薬」です。もう一つは、気道や肺の末梢部分に作用する「末梢性鎮咳薬」です 。

特に痰が少ない空咳(乾いた咳)には、中枢性鎮咳薬が効果的とされています。一方、痰が絡む湿った咳の場合、強い咳止め薬を使用すると、痰の排出が困難になり、かえって症状が悪化する可能性があります。これは、咳が痰を外に出すために必要な身体の自然な反応であるためです。したがって、咳のタイプを正確に医師に伝えることが、適切な薬を処方する上で非常に重要となります。


痰を出しやすくする「去痰薬」:粘液を調整し、気道を修復する

痰が絡む咳の場合、治療の中心となるのは去痰薬です。去痰薬には、痰の粘りを減らす作用(粘液溶解薬)や、気道分泌を促進する作用など、複数の作用機序を持つものがあります。

代表的な去痰薬であるカルボシステイン(商品名:ムコダイン)は、痰の構成成分である粘液のバランスを調整することで、粘り気の強い痰をサラサラにして排出を容易にする働きがあります。さらに、炎症によって障害された気道粘膜を修復する作用も持ち合わせている点が特徴です。この薬は、単に痰を排出するだけでなく、気道そのものの機能を正常化することを目指しており、風邪の症状だけでなく、副鼻腔炎や気管支喘息などにも広く用いられています。複数の異なる作用を持つ去痰薬を組み合わせることで、より効果的な治療が期待できることもあります。これらの処方は、医師の専門的な診断に基づいた緻密な治療戦略の一環です。


新型コロナウイルス感染症:特異的な抗ウイルス薬について

重症化を防ぐための治療薬

新型コロナウイルス感染症の治療薬は、主にウイルスの増殖を抑える「抗ウイルス薬」と、過剰な免疫反応による炎症を抑える「抗炎症薬」に分けられます。これらの薬は、症状の軽快だけでなく、特に高齢者や基礎疾患を持つ方など、重症化リスクが高い患者様において、入院や死亡のリスクを低減することを主な目的としています。


経口抗ウイルス薬(ゾコーバ、ラゲブリオ、パキロビッド)の選択基準

現在、外来で処方される主要な経口抗ウイルス薬には、ゾコーバ、ラゲブリオ、パキロビッドがあります。これらの薬は、それぞれ異なる特性と使用上の注意点があり、医師は患者様の状態や服薬歴を総合的に判断して処方します。

  • ゾコーバ(エンシトレルビル フマル酸):重症化リスクがない患者様にも使用が認められている点が大きな特徴です。他の薬よりも安価で副作用が少ないとされていますが、多くの薬と飲み合わせが悪い「併用禁忌薬」が存在するため、患者様の服薬歴を正確に把握することが極めて重要です。

  • ラゲブリオ(モルヌピラビル):他の薬との飲み合わせの問題が少ないため、併用薬が多い患者様でも比較的使いやすいという利点があります。ただし、重症化リスクが高い患者様に限定して使用され、重症化予防効果はパキロビッドよりも低いとされています。

  • パキロビッド(ニルマトレルビル・リトナビル):経口薬の中で最も高い重症化予防効果が認められており、ガイドラインでも重症化リスクがある人への第一選択薬とされています。妊婦にも投与可能ですが、こちらも多くの薬との飲み合わせに注意が必要です。

これらの薬の使い分けは、単純な効果の強弱だけでなく、患者様の他の疾患や服薬中の薬との相互作用を考慮した専門的な判断に基づいています。これは、新型コロナウイルス治療が、常に最新の研究に基づいた知見と、患者様個々の状況に応じた緻密な戦略を必要とする分野であることを示しています。


主要な新型コロナ経口治療薬の比較

項目

ゾコーバ

ラゲブリオ

パキロビッド

成分名

エンシトレルビル フマル酸

モルヌピラビル

ニルマトレルビル・リトナビル

対象患者

重症化リスクの有無を問わない

重症化リスクが高い患者

重症化リスクが高い患者

重症化予防効果

承認外

パキロビッドより低い

経口薬の中で最も高い

主な注意点

多くの薬と飲み合わせが悪い

飲み合わせに問題が少ない

多くの薬と飲み合わせが悪い

費用例(3割負担)

約15,800円

約28,500円

約30,000円


漢方薬:体質と症状に合わせた選択肢

「証」に基づいた漢方治療の考え方

漢方薬は、化学的に合成された単一成分の西洋薬とは異なり、複数の生薬を組み合わせることで効果を発揮します。これは「生薬のハーモニー」と称されるように、それぞれの生薬が相互に作用し、単体では得られない総合的な効果を生み出します。漢方治療では、患者様の体質や病状を「証」として捉え、その「証」に合わせて薬を処方します。このアプローチは、病気の症状だけでなく、患者様全体のバランスを整えることを目的としています。


風邪の引き始めに使われる代表的な漢方薬

風邪の初期症状には、葛根湯や麻黄湯といった代表的な漢方薬が広く用いられます。

  • 葛根湯:風邪の初期に用いられる漢方薬であり、肩こり、じんま疹など多岐にわたる症状に効果があるとされています。

  • 麻黄湯:葛根湯と同様に風邪の初期に用いられますが、体を温める作用が葛根湯よりも強いのが特徴です。特に、悪寒や筋肉痛、関節痛を伴う風邪に推奨されます。

麻黄湯は、インフルエンザウイルスに感染したマウスの実験において、解熱作用を促し、ウイルス増殖を抑制することが確認されています。また、サイトカイン(炎症性物質)を調節する作用も示唆されており、これは漢方薬が単なる民間療法ではなく、科学的根拠に基づいた治療法であることを示しています。


咳や喉の痛みに使われる漢方薬

症状が特定の部位に強く現れている場合にも、漢方薬は有用な選択肢となります。

  • 麻杏甘石湯:体力がある人で、粘り気のある痰を伴う激しい咳や喘鳴、呼吸困難を訴える場合に用いられます。この薬は、気管支喘息や小児の風邪にも適応があり、気道の熱を冷まして潤すことで、症状を改善すると考えられています。

  • 小柴胡湯加桔梗石膏:扁桃炎や扁桃周囲炎による喉の腫れや痛みに特化した漢方薬です。

これらの漢方薬も、西洋薬と同様に、患者様の症状や体質を細かく鑑別した上で処方される専門性の高い治療法です。また、これらにも副作用(例:偽アルドステロン症、肝機能障害など)のリスクがあるため、安易な自己判断での服用は避け、医師の処方に基づいて使用することが重要です。


細菌感染症への備え:抗生剤の正しい知識

ウイルスと細菌の違いを理解する

発熱の原因となる病原体は、大きくウイルスと細菌に分けられます。一般的な「かぜ」の原因の80〜90%はウイルスであり、ウイルスに抗生剤は効果がありません。抗生剤は、細菌に対してのみ作用する薬です。

細菌感染症による発熱は、ウイルス感染症に比べて、突然の高熱(39℃以上)で発症し、症状が長期間続く傾向があります。また、高熱が数日間続き、症状が悪化していく場合には細菌感染症が疑われることがあります。その他、強い倦怠感、食欲不振、特定の局所症状(例:咽頭の白苔、耳の痛み、呼吸困難など)も重要な兆候です。

当院では、問診や診察に加えて、必要に応じて血液検査を実施します。CRP(C-リアクティブプロテイン)や白血球数といった炎症マーカーを測定することで、症状だけでは判別が難しいウイルス感染と細菌感染を鑑別する重要な手がかりを得ることができます。これは、当院の診断が精密であり、不必要な抗生剤の処方を避けるための重要なプロセスです。


抗生剤の正しい使い方:AMR(薬剤耐性)を防ぐために

不適切な抗生剤の使用は、公衆衛生上の深刻な脅威であるAMR(薬剤耐性)の増加につながります。薬剤耐性菌は、抗生剤が効きにくくなった、あるいは全く効かなくなった細菌です。この問題が進行すれば、2050年には世界で年間1000万人が薬剤耐性菌が原因で死亡するという予測もあり、私たち一人ひとりの服薬行動が社会全体に影響を及ぼすことを意味します。

抗生剤を不適切に使用すると、生き残った細菌が抗生剤から逃れるために構造を変化させ、耐性菌となる可能性があります。さらに、抗生剤は体内の善玉菌である常在菌も攻撃するため、中途半端な服用は、かえって耐性菌を増殖させる環境を作り出してしまうリスクがあります。

この世界的脅威を防ぐためには、抗生剤の正しい使い方が不可欠です。処方された抗生剤は、症状が治まっても、医師の指示通りに最後まで飲み切ることが極めて重要です。これは、体内に残った病原菌を完全に排除し、耐性菌の発生を防ぐためです。また、残った薬を自己判断で再服用したり、他の人に分け与えたりすることは絶対に避けるべきです。当院は、このような背景から、抗生剤の必要性を厳格に判断し、患者様への丁寧な説明を通じて、AMR対策に貢献しています。


当院で処方する代表的な抗生剤

細菌感染症と診断された場合、当院では患者様の病状や感染部位に応じて、最適な抗生剤を選択します。抗生剤は、その種類や作用機序によって、効果を発揮する細菌の種類が異なります。

  • ペニシリン系抗生剤:ブドウ球菌、レンサ球菌、肺炎球菌など、多くのグラム陽性菌に強い抗菌作用を示します。咽頭炎、扁桃炎、気管支炎など、一般的な呼吸器感染症に広く適応があります。

  • セフェム系抗生剤:ペニシリン系と並ぶ代表的な抗生剤で、化学構造が改良されるにつれて、抗菌スペクトルが広がるのが特徴です。第1世代は主にグラム陽性菌に有効ですが、第2世代ではインフルエンザ菌などのグラム陰性菌への効果が強化され、さらに第3世代では髄液への移行性も持つようになります。

  • マクロライド系抗生剤:マイコプラズマやクラミジアといった、他の抗生剤が効きにくい「非定型病原体」による感染症に効果を発揮します。ペニシリン系にアレルギーがある患者様にもしばしば選択される重要な薬です。

これらの抗生剤は、細菌の種類や感染部位、患者様のアレルギー歴などを考慮した上で、医師が最も適切と判断したものが処方されます。

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